007 エレナとヴィネラス
「君が……エレナ?」
ソウマの視界に同年代の女性が映る。
髪は長いブロンドで、目がくりっとして可愛らしい。
金色の装飾が施された重厚な白いローブを羽織っている。
中はノースリーブのシャツにミニスカートという組み合わせだ。
白のロングブーツを履いていて、長い杖を両手で持っている。
地球ではお目にかかれない、絵に描いたようなプリーストだ。
「はい、ソウマ・カミシロさんですよね?」
「ああ、そうだ」
と言いつつ、ソウマは思った。
(この世界では「ソウマ・カミシロ」って名前なのか)
地球での名前は神代ソウマだ。
読み方が変わるわけではないため気にならなかった。
「私のPTに参加してくださってありがとうございます。よろしくお願いします!」
エレナが深々と頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとう。初めてのPTだし、初心者だからお手柔らかに」
エレナは「はい!」と微笑んだ。
◇
さっそく、ソウマとエレナは目的地に移動した。
やってきたのは、〈イヴの森〉という低レベルの魔物がいる森だ。
グランデルから徒歩10分程度の距離にある。
(何か話したほうがいいのかな?)
無言で森を進みながら、ソウマはちらりとエレナの横顔を見る。
彼女は楽しそうに鼻歌を口ずさんでいた。
魔物の棲息地にいるとは思えない余裕ぶりである。
(でも、何を話せばいいんだ……)
ソウマが悩んでいると、エレナが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、リーダーなのにだんまりで……。私、PTで活動した経験はあるのですが、リーダーを務めるのは初めてで慣れていなくて……」
「いやいや、俺のほうこそごめん。何か話題を振ってあげたらよかったんだけど、何も閃かなくて……」
「初めてのPTなのに気を遣わせてすみません。でも、ソウマさんって、優しい方なんですね」
「そ、そうかな?」
ソウマは「普通だよ」と言いつつニヤけた。
エレナの容姿は彼にとってど真ん中のストライクだったのだ。
「ソウマさんは、どうして剣士のジョブを選んだのですか?」
「それは……」
ソウマは素直に答えようとしたが、直前になって悩んだ。
地球だと定番の理由だが、異世界だと不思議がられる恐れがあった。
「あ、言いにくいなら無理に言わなくても平気ですよ?」
「言いにくいわけじゃないんだけど、おかしく聞こえるかもしれないと思ってさ」
そう前置きしてから、ソウマは本当のことを話した。
「剣士になったのは一番安く済むからなんだ。必要なのは剣だけだから」
プリーストやウィザードなど、魔法を使うジョブはお金がかかる。
一つの魔法を覚えるのに高い魔導書が一冊必要になるし、魔法使い用の武器は剣よりも遥かに高い。
文字通り桁違い、もっと言えば二桁レベルで違ってくる。
「その気持ち、分かります。全然おかしくありませんよ」
エレナはあっさり受け入れた。
(この世界でも剣士は安上がりのジョブなんだな)
そんなことを思うソウマに対し、エレナが微笑みかける。
「ソウマさんの話を伺ったので、次は私の番ですよね!」
「プリーストになった理由を教えてくれるの?」
「ソウマさんが質問してくだされば!」
エレナは分かりやすく「質問しろ」とアピールしていた。
「じゃあ、エレナはどうして――」
「グシャアアアアアアア!」
ソウマが質問しようとしたとき、魔物が現れた。
全身に葉状の鱗を持つ人型モンスター・リーフマンだ。
「こいつがリーフマンか!」
「はい!」
エレナは両手で杖を持って構える。
「支援を頼む!」
そう言うと、ソウマはリーフマンに突っ込んだ。
「グシャー!」
リーフマンは全身の鱗を飛ばして迎撃する。
葉状の鱗は回避できない速度でソウマを襲った。
「ぐっ……!」
ソウマのHPゲージが一撃で半分に減った。
また、全身に鈍器で殴られたような痛みが走る。
(スライムの攻撃を食らった時は何も感じなかったが、大ダメージだとそれなりに痛いものなんだな)
とはいえ、のたうち回るほどではない。
「気にせず突っ込んでください! リーフマンは鱗が復活するまで何もできませんから!」
エレナが後方から回復魔法を発動する。
失われたソウマのHPゲージがぐんぐん回復していく。
「オッケー! 助かるぜ、エレナ!」
ソウマは距離を詰めると、リーフマンに斬りかかった。
「グシャア……」
リーフマンは抵抗することなく真っ二つにされた。
一撃だ。
『リーフマンを倒しました』
『経験値を 291 獲得しました』
『お金を 480ゴールド 獲得しました』
視界の隅にログが流れる。
(さすがにレベル5の魔物というだけあって経験値がすごいな。スライムの30倍近くあるぞ。ここにクエスト報酬も加わるわけだし、このクエストが終わる頃には数レベルは上がっていそうだ)
ソウマはエレナに背を向けた状態でニヤリと笑う。
「ナイスでした! ソウマさん!」
エレナが駆け寄ってくる。
「すごく機敏な動きでびっくりしましたよ! ソウマさん、強いですね!」
「敵の攻撃をモロに受けたし全然だよ。エレナの回復魔法のおかげさ」
「じゃあ、私たち二人とも活躍したってことで!」
エレナが杖を掲げる。
ソウマは剣の側面で杖の先端にタッチした。
「そうだな! 俺たち二人の連携による勝利だ!」
◇
その後も、二人はリーフマンを狩っていった。
戦闘は危なげなく進み、1体ずつ的確に倒していく。
しかし、蔓植物に満ちた場所を歩いているときに問題が起きた。
「きゃあ!」
ソウマの背後からエレナの悲鳴が聞こえてきたのだ。
彼女は蔓植物に擬態した触手モンスター・ヴィネラスの奇襲を受けていた。
二人の足場にある蔓の全てがヴィネラスだったのだ。
敵の数は20体を超える。
レベル1の臆病なザコだが、少人数のPTには厄介な存在だ。
というのも――。
「エレナ!」
振り返ったソウマは、とんでもないものを目の当たりにした。
「助けてください! ソウマさん!」
エレナは磔にされていたのだ。
複数のヴィネラスが彼女に絡みつき、付近の大木に固定されていた。
「これは……!」
ソウマはごくりと唾を飲んだ。
大量のヴィネラスがエレナの全身にまとわりついている。
擬態を解いているため、その姿は紫の気持ち悪い触手だ。
しかし、ソウマには情欲をそそるものだった。
ヘビのように蠢くヴィネラスが、エレナの服をはだけさせている。
スカートはめくり上がり、純白の下着が見えていた。
さらには、その下着の中にもぐにょぐにょと入り込んでいる。
「ソウマさん! 何をしているんですか! 早く敵を斬ってください!」
「斬っていいのか? 本当にいいのか? 逆に問題にならないか?」
ソウマは鼻息を荒くしながらエレナを眺める。
一匹のヴィネラスが彼女の服の中を通り、衿から頭を覗かせている。
「逆にって何ですか! 問題になんかなりませんから! 早くして!」
エレナが怒る。
(クソッ! ここらが限界か!)
ソウマは観念してヴィネラスを皆殺しにした。
スライムと大差ないカスみたいな経験値を大量に獲得する。
「もう! 危うく死ぬところでしたよ!」
エレナがソウマを睨む。
その頬は、餌を溜め込んだシマリスのように膨らんでいる。
「仕方ないだろ、俺だって男なんだから」
「意味が分かりません!」
それから数分間、ソウマは口をきいてもらえなかった。
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