055 ユーシィ・ジャイロガット
「お相手の方が見つかりました。こちらの申請が承諾されましたので、もうすぐ来られると思います。少々お待ちください」
マリーダが言うと、ソウマは首を傾げた。
「申請って? 俺のPTリストにはエレナしかいないが」
「今回のような場合、ギルドが仲介役としてPTと冒険者を引き合わせます。その後、ギルドで顔合わせを行っていただき、双方が合意すればPTに加入していただく形になります」
「さっきの『申請』っていうのは、顔合わせの招待を指しているわけか」
「さようでございます」
話していると、マリーダの選んだ冒険者がやってきた。
「お待たせっす!」
そう言って現れたのは、ブラウンのショートボブをした女性だった。
年齢はソウマと同じで、犬の耳と尻尾を生やした、小柄な犬の獣人だ。
半袖のシャツにミニスカートという動きやすい格好で、腰の両サイドに短剣を装備している。
右の太ももに装着しているレッグホルダーからは、クナイが垣間見えていた。
「ソウマ様、エレナ様、彼女が二人に相応しい冒険者です!」
「はじめまして、ワンワン族のローグことユーシィっす!」
「わーっ! 可愛いー! もふもふだー!」
エレナはパッと顔を明るくしてユーシィに抱きついた。
ユーシィの耳と尻尾をベタベタ触り、頬ずりまでしている。
「くすぐったいっすよー、エレナ!」
ユーシィは恥ずかしそうに笑った。
「こちらの名前は既に知っているようだが……ソウマだ、よろしく」
「よろしくっす!」
ソウマとユーシィが握手を交わす。
「どうやら問題ないようですので、PTの手続きはこちらでしておきますね!」
マリーダは冒険者ギルドの権限を使って、ユーシィをソウマのPTに入れた。
それにより、ソウマの視界にユーシィの情報が表示される。
『ユーシィ・ジャイロガット Lv.24』
ジョブは載っていない。
「ユーシィのジョブって、ローグなんだよな?」
ソウマが念のために確認すると、ユーシィは「そっす!」と頷いた。
「マリーダ、俺はジョブに疎いから教えてほしいのだが、どうしてユーシィが俺たちのPTに最適だと思ったんだ?」
「ローグの特徴は何と言っても自動発動系の探知スキルです。これによって敵や罠、宝箱が近くにあると気づくことができますので、戦いの安全度が大きく高まるわけです」
「なるほど」
「ローグという時点で候補は数名に絞られていて、そこから年齢や性別、種族などを総合的に考えた結果、ユーシィ様が最適だと判断しました!」
「ちなみに私の基礎能力は202っす! なので今の総合力は4848!」
「よく分かった。あとはどのクエストでレベルを上げるかだな」
「どのクエストって……レベルを上げるなら戦争クエストっすよ!」
ユーシィが声を弾ませた。
「戦争クエスト?」
「ソウマ、知らないんすか?」
「ああ、この世界のことに疎くてな」
「この世界?」
「それについてはあとで話すよ」
ソウマは「で、戦争クエストって?」と、マリーダに尋ねた。
「戦争クエストとは、魔物との戦争に参加するクエストのことです。都市の奪還か防衛が目的となっていますが、冒険者のすることは基本的には通常のクエストと変わりありません。指定されたエリアの敵を倒すことが求められます」
「じゃあ、普通のクエストとの違いは?」
「敵の数が非常に多いことと、周囲に他のPTもいることです。あと、クエスト報酬が即時発生することも通常のクエストとは異なります」
「即時発生って? 敵を倒した瞬間にクエスト報酬が入るの?」
「はい。ギルドに報告していただく必要はなく、敵を倒すたびに討伐報酬とは別にクエスト報酬が発生します。また、討伐数に制限がございません。数をこなせるのであれば、効率よく経験値を稼げます」
「レベルを上げたい俺にはうってつけだな」
話が落ち着くと、ソウマの視界にクエストウィンドウが表示された。
マリーダの説明に従い、〈特別クエスト〉という項目から〈戦争〉を選択する。
「いくつかあるけど、どれがいいんだ?」
「グリーンウッドっすよ! 魔物から取り返すっす!」
ユーシィが強く希望したため、ソウマは〈グリーンウッドの攻略〉と書かれたクエストを受注した。
「言い忘れていましたが、ユーシィ様は先日までグリーンウッドに在住していました」
マリーダが補足した。
「それは……大変だったな」
「大丈夫っす! ワンワン族はハートが強いっすから!」
「それに可愛い!」と、エレナはユーシィに抱きついて放さない。
「今回の戦争クエストは都市の攻略が目的なので、まずは野営地へ行く必要があります。こちらの依頼書をテレポーターにお見せすれば、無料で野営地まで送ってくれます。どうぞご利用くださいませ!」
マリーダが戦争クエストの依頼書をソウマに渡した。
「ありがとう、マリーダ。今日も助かったよ」
「いえ! これが仕事ですので! 戦争クエストは効率よく経験値を稼げますが、敵のレベルも幅広いため、どうかご注意ください!」
「分かった。アイテムを買い込んでから現地に行こう」
「賛成です!」「了解っす!」
ソウマは、かつてない大規模なクエストに身を投じるのだった。
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