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異世界でレベルを上げられるようになった俺、現実世界で最強になる  作者: 絢乃


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051 応接室にて

「呼び出しらしい」


 ソウマが言うと、当然の質問をマイが投げかけた。


「誰から?」


「分からん」


 ソウマは皆にスマホを見せながら「書いていないんだ」と説明した。


「ま、普通に考えたらミレイ先生でしょうね。私ら、他の教師とは話したことないし!」


「そもそもこの学校、ミレイ先生以外の教師っているの? ミレイ先生以外に見かける大人って、清掃員の方々くらいよ」


 レイカが言った。


「職員室? 事務局? 正しい名前はちょっと分からないけど、そういうところには他の職員さんもいるみたいだよ」


 シオンが言うと、他の三人は「へぇ」と口を揃えた。


「とにかく呼び出しがかかったから行ってくるよ。悪いがあとは三人で頼む」


 ソウマは上級訓練室を出て、指定された応接室へ向かった。


 ◇


 応接室の扉は重厚で、部屋の防音環境も万全だ。

 ノックをしても音が届かないため、インターホンが備わっていた。


(思えば学内のことを何も知らないな、俺……)


 そんなことを考えながら、ソウマは恐る恐るインターホンを鳴らす。


『神代くんね、入りなさい』


 ミレイの声で応答があった。


(やっぱりミレイ先生だったんだ!)


 ソウマは「失礼します」と扉を開ける。


 応接室は、ソウマのイメージとは少し違っていた。

 ローテーブルを挟んで向かい合う形に革張りのソファがある点はイメージ通りだが、その奥に大企業の社長が使っていそうな大きい執務机があるとは思わなかった。

 また、壁に巨大なモニターが掛けられている点も想定外だった。


 モニターには、上級訓練室の様子が映っていた。

 マイ、レイカ、シオンの三人がマラソン対決をしている。


「訓練中なのに呼び出して悪かったわね」


 ミレイはソファから立ち上がった。


「それはかまいませんが……」


 ソウマの目は、素早くミレイを見たあと執務机に向いた。

 リクライニングチェアではなく、机そのものに座っている人物がいたのだ。

 金髪のセミロングの女性で、低めのリボンで留めてポニーテールにしている。

 帝栄の制服と似たデザインの白い軍用ジャケットを羽織り、下は膝丈のスリットの入ったタイトスカートで、黒タイツにロングブーツという格好だ。

 年齢は30歳だが、見た目はもう少し若く見える。


「そちらの方は?」


「彼女は柳瀬(やなせ)リサ――我が校の校長よ」


 ミレイが紹介すると、リサは机から降りてソウマに近づいた。

 手を前に出し、「よろしく」と握手を促す。

 切れ長の目が鋭い眼光を放っていて、常人には出せない威圧感が漂っていた。


「よろしくお願いします……!」


 ソウマは緊張した様子で握手を交わした。


「通常なら『かけたまえ』とソファに手を向けるところだが、その前にお願いしたいことがある」


 リサは握手を終えると、真剣な表情でソウマを見つめた。


「月野の報告によると、君は〈エイトファントム〉を使えるそうだな?」


「は、はい!」


「実際に見せてもらえないか? 今ここで」


「分かりました」


 ソウマは言われたとおりにスキルを発動した。

 彼にとっては造作もないことだが、リサは驚いた。


「本当にスキルを……! しかも、いとも容易く……! 信じられん……!」


「あ、普段は使わないようにしています! ミレイ先生にご指導をいただきまして!」


 ソウマは必死な顔で慣れない敬語を使った。

 なんだか怒られそうな気がしたのだ。


「いかがでしょうか? 校長先生」


 ミレイが尋ねた。


「まるで奇跡だな」


 リサはそう呟くと、再びソウマに尋ねた。


「他にもスキルを使えるのか?」


「一応、〈挑発〉だけですが……使いましょうか?」


「いや、結構だ。使われると、我々は君から目をそらせなくなってしまう」


「たしかに」


「それでは、座って話すとしよう」


 リサはソファに手を向けた。

 ソウマは「失礼します」とお辞儀をしてから座る。

 リサとミレイは、ソウマの向かいに腰を下ろした。


「改めて自己紹介させてもらおう。私は柳瀬リサ。帝栄冒険者学校の校長――つまり、冒険者庁の特別担当官だ」


 ソウマは「……?」と、首を傾げた。


「今の説明のどこに分からない要素があった?」


 リサは尋ねたあと、ミレイの顔を見た。

 ミレイも「分かりません」と目で答えていた。


「帝栄の校長と冒険者庁の特別担当官という役職がどうして『つまり』で繋がるのかなって……」


 ソウマはペコリと頭を下げた。


「なるほど、そこが気になったのか。冒険者庁は知っているな?」


「はい。冒険者に関する省庁ですよね! 防衛省の自衛隊とは違う部門の!」


「その通り、冒険者庁は防衛省の外局に当たる。そして、帝栄冒険者学校は冒険者庁が管轄しており、校長を務めるのは冒険者庁の特別担当官と決まっている」


「ちなみに、私は冒険者庁の人間ではなく、この学校に雇われた契約社員みたいなものよ」


 と、ミレイが補足した。


「なるほど。理解しました。すみません、俺、そういうことに疎いもので……」


「気にするな」


「それで、俺に何か……?」


 ソウマはリサとミレイの顔を交互に見た。

 それから、視線を二人の股に向けた。


 どちらもスカートが短くて、大人の色気が凄まじい。

 見えそうで見えないパンティーがこれまた素晴らしい。

 ソウマは必死に「見えてくれ! 頼む!」と祈った。


 結果――


「話す時は顔を見るように」


 リサに注意された。

 ミレイも彼の視線に気づいており、呆れてため息をついていた。


「すみません!」


「規格外の怪物ながら、そういうところはそこらの男と変わらないものなんだな」


 リサは笑いながら言うと、「まぁいい」と話を進めた。


「神代ソウマ、君のことは調べさせてもらった」


「調べた?」


「一人っ子で、父親は他界しており、親戚もいない。血の繋がりがあるのは母のナミエだけ」


「はい」


「また、少し前に交通事故を起こしたな」


「交通事故……?」


 ソウマには記憶がなかった。


「大型トラックに衝突された件だ」


「あー」


 まだ東京第四冒険者学校に通っていた頃のことだ。

 日本とミストリアを往来するソウマの感覚だと「少し前」ではなかった。

 既に「かなり前」の出来事だったのだ。


「女の子を庇ってトラックを大破させた、と報告書にある」


「大破させたなんて、そんな大袈裟な。ちょっと凹んだ程度ですよ」


「実際に監視カメラとドライブレコーダーの映像も確認している」


「すみません、大破させてしまいました。でも、あれは……」


「気にするな。責めるつもりはない。そのあと、警察の事情聴取があり、強さの理由を尋ねられたはずだ」


「覚えています!」


 ソウマにとっては嫌な記憶の一つだ。

 ミストリアについて懇切丁寧に説明したが、「ふざけるな」と怒られた。

 そのうえ信じてもらえなかったため、何度も同じ質問を繰り返された。

 まるで自分が罪を犯したかのような気分になった出来事だ。


「聴取を担当した警察官の記録には、君が錯乱状態で意味不明な回答しかしなかった、と書いてある。何度も質問したが、訳の分からないことを繰り返すばかりで話が成立しなかったと」


「え? 俺はちゃんと答えましたよ! たしか聴取の時に録音もしていたはずです! 事前にそう説明されました!」


「残念ながら担当の警察官は録音をし忘れていてな。当時の情報は、出来の悪い聴取記録しか残っていない」


「そんな……」


「そこで、だ」


 リサは脚を組んだ。

 左脚が大きく上がって、右脚と交差する。

 もちろん、ソウマの視線はリサの顔からスッと下にスライドした。


「よければ、当時と同じ説明をしてもらえないか? 君がどういう方法で強くなったのか、それをどうしても知りたいのだ」


「それはかまわないのですが……絶対に信じないと思いますよ。警察官だけじゃなく、他の人に話しても信じてもらえなかったし」


 ソウマの能力について、地球で信じている者は誰もいない。


「それでも話してほしい。国益に繋がる話だ」


「分かりました。でも、『ふざけるな!』って怒鳴るのだけはやめてくださいよ」


 丁寧に怒鳴られるためのフラグを立ててから、ソウマは事情を説明した。

 リサとミレイは真剣な顔で耳を傾け、時には「それで?」などの相槌を打った。

 そして、ソウマが話し終えると、リサはこう言った。

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