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005 元プロボクサー

 不良は5人組で、全員が20代半ばだ。

 SNSで謎の金持ちアピールをしていそうな怪しい雰囲気が漂っている。


「行こ、ソウマくん」


 ユキは前かがみになって、顔を合わせずに逃げようとする。

 そんな彼女の手を不良の一人・安川が掴んだ。


「そう逃げるなって。別にいいじゃん? 飢えてるんだろ?」


「放してください」


 ユキが嫌がるものの、安川は嬉しそうに笑うだけだった。

 他の連中もニヤニヤしている。


「嫌がっているだろ。やめるんだ」


 ソウマは強い口調で言った。


「あ? お前には用はねーよ。さっさと失せな、童貞くん」


 安川の言葉に、彼の仲間たちが声を上げて笑う。


「これを見て分からないのか? 俺は冒険者学校の生徒だ。やめたほうがいい」


 ソウマは装備している剣を手で叩いた。

 剣の携帯が許されているのは、冒険者と冒険者学校の生徒だけだ。

 一般人なら法律に違反する。


「だから何だ? 人間相手に剣を振り回せば違法だろ。そんなもん怖くもなんともねぇよ」


 安川は怯まなかった。


「どうやらステータスの仕様について詳しくないようだな。冒険者学校の生徒だから普通の人間より強いと言っているんだ。俺のレベルは5だ。お前じゃ俺に傷一つつけられない」


 ソウマは穏便に済ませようと丁寧に説明した。

 しかし、思惑通りには進まなかった。


「ステータスだか何だか知らないが、ヒョロガリの分際で俺様になめた口をきいてんじゃねぇよ!」


 安川がソウマに殴り掛かった。


(かなり綺麗なフォームだ。コイツ、格闘技の経験者だな)


 ソウマは迫り来る安川の攻撃を冷静に分析した。

 そして、避けることなく顔面で受け止める。

 安川の華麗なフックがソウマの左頬を捉えた。


 ゴキッ!


 鈍い音が響いた。


「うがあああああああああああああ! 俺の手がああああああああああ!」


 安川が悲鳴を上げた。

 彼の手首が絶望的な角度にぐにゃりと曲がっている。

 他の4人は「安川さん!?」と驚いていた。


「だから言ったのに。ステータスに差がありすぎるから、一般人の攻撃じゃ俺にダメージを与えることなんて不可能だ。なんにせよ、これで正当防衛ができるな」


 ソウマは安川の額に拳を近づける。


「や、やめろ、やめてくれ」


「断る」


 ソウマは全力でデコピンをお見舞いした。


「ぐへあっ!」


 安川は盛大に吹き飛び、大の字で失神した。


「嘘だろ!?」


「安川さんがやられただと!?」


「素行の悪さで強制的に引退させられていなかったら今でもプロボクサーだった人だぞ!?」


「ヘビー級で15勝13敗のすごい人なのに!」


 この展開に、安川の仲間たちは衝撃を受けていた。


「何だ! 何を騒いでいる!?」


 騒ぎを聞きつけて、近くの交番から複数の警察官がやってきた。


「こんなことに時間を取られたくない。ユキ先輩、行きましょう!」


 ソウマはユキの手を取って走り出す。

 ユキは「う、うん!」と頷いて従った。


(ソウマくん、こんなに強かったんだ)


 ユキの心はときめいていた。


 ◇


 駅前まで逃げると、ソウマたちは足を止めた。


「ここなら安全ですね」


「だね!」


「ユキ先輩、今度から気をつけてくださいよ」


 落ち着いたところで、ソウマは呆れ笑いを浮かべた。


「え? 私、何かした?」


「先輩があんなところでからかってくるから、不良連中に目を付けられたんですよ。あいつらだって普通に歩いていたら絡んできてなかったと思います」


「あー、そのことね」


 ユキは理解した。


「それなら安心して、もうあんな誘い方をしないから!」


「いや、それは、その、何と言うか、誘われること自体は嬉しいので別にいいというか……」


 ソウマは後頭部を掻いた。


「私ね、ソウマくんのことを前から『ちょっといいな』って思っていたんだよね」


「本当ですか」


「だから『つまみ食いしてやろう』って考えていたんだけど、さっきの不良から守ってくれたのを見て考えが変わっちゃった」


「もしかして、嫌われちゃった?」


 悲しそうにするソウマ。

 一方、ユキは「ううん」と首を振った。


「その逆! ガチで惚れた!」


「え?」


「遊び相手なんかじゃもったいない! いつか本気で落とすから!」


「ユキ先輩、それって告白じゃ……」


 ソウマの言葉を無視して、ユキは駅に向かう。

 何歩か進んだところで、「あ、そうそう」と振り返った。


「今日のお礼も絶対にするから! 何がいいか考えておいて!」


「だったら今度ご飯を奢ってください」


「それだけじゃ済まさないよん!」


 ユキは「またね」とウインクして走り去っていく。


(あんな可愛い先輩が俺のことを……? いや、もしかしたらさっきのも冗談か……? でもそんな風には見えなかったが……!)


 しばらくの間、ソウマは動けなかった。


 ◇


 夜遅くに帰宅したソウマは、食事と入浴を済ませて布団に入った。


(別に行けなくてもかまわないが、できればミストリアに行きたい……!)


 ソウマは布団の中で強く祈る。


(……眠れねぇ)


 昨日に比べて疲れていない上に、気が立って眠くならない。

 そのうえ、油断するとユキのことを考えてムラムラしてしまう。

 高校を卒業して間もない年頃なので、性欲がもたらす衝動に苦労している。


(自分の部屋があればスッキリできるのに……!)


 すぐ隣では母・ナミエが眠っている。

 そんな中で自慰行為に耽ることなどできない。


(ミストリア……! ユキ先輩……! ミストリア……! ユキ先輩……!)


 三時間ほど、ソウマは悶々とし続けた。

 だが、最終的には眠りについた。

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