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異世界でレベルを上げられるようになった俺、現実世界で最強になる  作者: 絢乃


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041 アストラル・ミラー

 昼食を済ませると、ソウマたち4人は測定室にやってきた。


「測定室って名前だから身長や体重を測定する機械があると思ったが――」


 ソウマは室内を見回しながら言った。


「――なんだ? この鏡は」


 測定室にあったのは、150センチ程の分厚い姿見鏡だった。

 鏡の上にはドーム状のクリスタルが備わっている。


「これは〈アストラル・ミラー〉といって、レベルと総合力を測定する機械よ」


 ミレイは説明しながら壁面のパネルを操作する。

 照明が消えて、カーテンが自動で閉まった。


「この鏡に手を当てれば、レベルと能力を測定できるわ」


「こんな機械があったんだ! 面白そう!」


「魔石を流用するとこういう物も作れるのねぇ」


 マイとレイカは高い関心を示していた。

 シオンも興味深そうにしている。

 一方、ソウマだけは違っていた。


「ミレイ先生、自己申告じゃダメなんですか?」


 自分自身のステータスは念じることで確認可能だ。

 ソウマに限らず、冒険者や冒険者学校の生徒なら誰でもできる。


「残念ながらね。自己申告だとその時点での情報しか分からないけれど、〈アストラル・ミラー〉で一度測定すれば、その後はリアルタイムでステータスの変動を追えるようになるから」


「なるほど、自己申告だと今の状況しか分からないわけですね」


「そういうこと。この方法を使って、日本では冒険者のステータスをデータベースで管理しているの。もちろん冒険者庁の管轄組織である我が校でも、生徒のデータは閲覧・参考にしているわ」


 冒険者庁とは、防衛省の外局にあたる冒険者用の組織だ。


「別に何だっていいじゃん! それより先生、早く測定させてくださいよ!」


 マイは右手を挙げて姿見鏡の前に立った。


「そうね。では逢坂さん、クリスタルに手を当ててもらえる?」


「はーい!」


 マイはドーム状のクリスタルに手を置いた。

 彼女の手に呼応して、クリスタルが青白く光っている。


「なんか温かい!」


 マイが喜んでいると、〈アストラル・ミラー〉の鏡面に星が現れた。

 一つ、また一つ、星の数がゆっくりと増えていく。

 最終的に、星の数は7個になった。


「星の数はレベルを表しているの。つまり、逢坂さんはレベル7ということね」


「おー! 大正解! 総合力はどうやって判断するのですか?」


「詳しい数値はデータベースに自動で登録されるのだけど、ざっくりとしたことなら鏡面に映っている星の大きさで分かるわ。大きいほど総合力は高いということね」


 マイは星の大きさに注目した。

 星ごとにサイズがバラバラで、今ひとつピンとこない。


「大きい星と小さい星があるのでよく分からないのですが……」


「それは各能力の強さを個別に表しているからよ。総合力というのは、腕力、脚力、動体視力、反射神経、その他……色々な能力を合計して数値化したものでしょ? この星は、合計する前の個々の能力値を反映しているの。ただ、どの星がどの能力を示しているのかは、冒険者庁のデータベースを見ないと分からないわ」


「データベースを見ればそこまで分かるんだ!? すごっ! 私より私のことを知っている感じがする!」


 こうしてマイの測定が終わると、レイカとシオンも続けて測定した。


「葉月さん、この一週間でずいぶんと強くなったわね。入学初日に尋ねた時は総合力300ちょっとだったはずだけど、〈アストラル・ミラー〉の星を見る限り、今の総合力は400近くあるんじゃない?」


「は、はい!」


「このままだと私たち、シオンに抜かされちゃうかもね」


 レイカが「ふふ」と笑う。


「そ、そんな、私には無理だよぅ」


 シオンは顔の前で両手を振って必死に否定した。


「それじゃ、最後はリーダーに格の違いを見せてもらうとしましょうか!」


 マイがソウマに手を向ける。


「ソウちゃんの強さは文字通り別格だから、どうなるか楽しみねぇ」


「自分で言うのもなんだけど、たぶん驚くと思うぜ」


「それでは神代くん、測定を」


 ソウマは「はい」と頷き、ゆっくりと手を伸ばす。

 彼の手がクリスタルに置かれたことで、〈アストラル・ミラー〉が起動した。

 女性陣のときと同じように測定が行われる。


「お、星が出てきたぞ」


「1つ、2つ、3つ……って、めっちゃ増えていくんだけど!?」


 ソウマのレベルは25。

 したがって、星の数も25個になる。

 それだけでも異常なことだが、問題は他にもあった。

 総合力だ。


「ちょ! ソウマの星、25個全部が膨らんでいっているんだけど!」


 鏡面に映る星が凄まじい速度で拡大していく。

 あっという間に鏡面全てが星に埋め尽くされて、星かどうかも分からなくなった。

 そして次の瞬間――


 パリィン!


 鏡面が割れて、粉々に砕け散った。


「わお! ソウちゃんが強すぎて鏡が割れちゃった!」


「すごいよ! ソウマくん!」


「え、俺のせいなの!?」


 ソウマの脳裏に「弁償」の二文字がよぎる。


(この鏡、特殊な物だしどう考えても超高級品だぞ……)


 ソウマは顔面を蒼白にしながら、恐る恐るミレイを見る。

 すると、ミレイは――


「これは……」


 信じられないといった様子で固まっていた。


「先生、あの、俺は言われた通りに手を置いただけで、誓って何も悪いことはしていません! なので、何卒、何卒ぉ……!」


 ソウマが必死に弁明していると――


「分かっているわ。鏡が壊れたことは気にしなくていいわよ」


 冷静さを取り戻したミレイが淡々と答える

 心中では未だに衝撃を受けているが、表向きは平静を装っていた。


「それで先生、ソウマのステータスはいくらか分かりましたか!?」


 マイが尋ねると、ミレイはタブレット端末を取り出した。


「測定結果を確認するわね」


 ミレイは慣れた手つきで操作したあと、首を振った。


「エラーになっているわ。レベルも総合力も不明よ」


「レベルは25だと思いますよ! だってソウマの星の数、25個あったから!」


 マイの言葉に、ソウマたち3人が頷いた。


「私もそう思うけど、測定結果を手入力で編集することはできないから、公式には『エラー』として処理されるわ」


「じゃあ、俺はどうすれば……?」


「上に相談して対応を検討するわ。こういうケースは初めてだし、私の一存でどうこうできるものではないから。でも安心して、鏡が割れたことの責任を取る必要はないから。むしろ怪我がなくてよかったわ」


「そうですか」


 ソウマは「よかった……!」と胸をなで下ろした。


「お疲れ様、測定はこれで終了よ」


「「「「ありがとうございました!」」」」


 ソウマたちはミレイに頭を下げると、測定室を後にする。

 4人が部屋を出たあと、ミレイはスマホを取り出した。


「もう少し様子を見るつもりだったけど、その必要はないわね」


 独り言を呟きながら、ミレイは電話をかけた。


「校長先生、月野です。今年の入学者に神代ソウマという生徒がいるのですが、彼について重大なご報告がありまして――」

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