004 アルバイト
『シミュレーション終了!』
斉藤の声が演習場に響き、全てのロボットが機能を停止した。
シミュレーションに参加していた生徒たちが上空のモニターを眺める。
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1位:神代ソウマ 45,192pt
2位:逢坂マイ 3,150pt
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「4万5000!?」
「何かの間違いじゃねぇのか!」
「入学以来ずっと1位だった逢坂の10倍以上のスコアだぞ!」
そこら中から驚きの声が上がる。
一方、ソウマは――。
(全種類の敵を倒すのにこだわらなければ10万ポイントはいけたな)
――4万5000というスコアが決して高い数値とは思っていなかった。
(ま、別に何ポイントでもいいか。高得点だからといって褒美が貰えるわけでもないし。それよりも実力を把握できたのがよかったな)
ソウマは確信した。
自分はもう落ちこぼれではない、と。
◇
ソウマは演習場を出ると、エレベーター前に向かった。
最大100人まで同時に運べる大型のエレベーターだ。
それだけに待機スペースも広々としていた。
「神代、お前すげーな!」
「4万ポイントって、どんなテクを使ったんだよ!」
「もしかして今まで実力を隠していたのか!?」
エレベーターを待つ間、多くの生徒がソウマに話しかけた。
教師の斉藤も興味深そうにソウマを見ている。
「まぁ色々とな」
ソウマは適当に濁した。
(夢の中でレベルを上げたら現実でも強くなった……なんて言えねぇ!)
そんなソウマの気など知らず、多くの女子がソウマに詰め寄る。
「神代くん、結成式では同じPTに入ろうよ!」
「私のほうがいいよ、神代くん!」
「何言ってるのよ。あんたらより私のほうがいいから!」
もちろん、女子だけではなく男子もソウマを誘う。
(まさか結成式のお誘いを受ける日が来るとはな……)
結成式とは、正式なPTを組む一大イベントのことだ。
このときに作ったPTで、生徒たちは卒業までを過ごす。
そして、卒業後はそのまま冒険者としてPTで活動する。
現在は結成式に向けて様々な生徒とPTを組むお試し期間だ。
チンッと音が鳴ってエレベーターが到着した。
扉が開くと、斉藤が手を払うジェスチャーをしながら言う。
「ほら、エレベーターが着いたぞ。乗った乗った」
生徒たちがエレベーターに乗り込んでいく。
その中にはソウマも含まれていたが――。
「あ、そうだ、斉藤先生」
ソウマは直前で足を止めた。
「ん?」
「やっぱり俺、冒険者学校で頑張ります」
「お、おう……! そうしてくれ……! これからも期待しているからな……!」
斉藤は顔を引きつらせた。
(これほどの逸材に退学を促していたなんて知られたら俺の首が飛ぶ。危なかった……!)
「なぁ神代ー」
「これからはソウマくんって呼んでもいい?」
エレベーターの中でもソウマは話題の中心だった。
しかし、中にはその様子を不快そうに眺める女子もいた。
シミュレーションで2位だった逢坂マイだ。
(今日は最高の出来だったのに……! その私より10倍以上も高いスコアなんてあり得ない……!)
マイは自分の両手を見つめた。
マジックグローブと呼ばれる魔法に特化した手袋を装着している。
(週明けのPT訓練で私と神代ソウマは同じPTになる。どんな手品を使ったのか知らないけど、そこで化けの皮を剥いでやるわ)
◇
学校を出たソウマは、その足でバイト先に向かった。
都内の繁華街にあるコンビニだ。
レジに立つソウマの顔は、学校にいたときと比べて冴えなかった。
(しばらくは安泰だけど、ミストリアに行けなかったらいずれボロが出るよなぁ)
ソウマは、ミストリアでの活動がただの夢ではないと確信している。
夢というより第二の現実みたいなもの、と認識していた。
問題は、今後もミストリアに行けるかどうかだ。
(ま、いざとなったらPTを抜けてソロでやっていけばいいか。今のステータスでも卒業までなら無双できるだろうし)
そんなことを考えていると、隣から一つ上の女が顔を覗き込んできた。
「ありゃ? どうしたのソウマくん、いつになく不安そうな顔じゃん!」
ピンクのミディアムヘアが特徴的な彼女の名は、宮野ユキ。
「まぁ……不安と言えば不安ですね」
「またお金のことで悩んでいるの?」
ユキはソウマの家庭事情を知っていた。
「今回は少し違います」
「ほんとにー? お金が必要ならいつでも言いなよ! 私がママ活相手になってあげるから!」
「ママ活って、俺たち1歳しか差がありませんよ」
「細かいことはいいの!」
「それにユキ先輩だって大してお金ないでしょ? コンビニでバイトするくらいなんだから」
「それがあるんだなー! ウチは大富豪だから! もうお金がありすぎて困っちゃうくらいだよ!」
「いつもそう言っていますけど、そのわりに滅茶苦茶シフトを入れていますし絶対に嘘ですよね」
ユキは「あはは」と笑って流した。
「でも、たくさん働いているからその分のお金はあるよ?」
ユキはソウマに体を密着させると、淫らな手つきで彼の太ももを撫で、耳元で囁く。
「いつでも相手になってあげるから誘ってね?」
「ほ、本気にするからやめてください!」
ソウマは恥ずかしそうにユキとの距離を取った。
「別に本気にしてくれていいのに!」
ユキは「ちぇ」とそっぽを向く。
彼女はソウマを気に入っており、「つまみ食いしたい」と思っていた。
◇
バイトが終わり、ソウマはユキと二人で駅に向かっていた。
夜の繁華街はいかがわしい空気が漂っていて、怪しげな男女のコンビが目立つ。
「見てソウマくん、あの二人!」
ユキが通りの向こう側を歩くカップルを指した。
スーツを着た中年の男と地雷系と呼ばれる服装の若い女の組み合わせだ。
「あれ、どう見ても立ちんぼかパパ活だよ! これからラブホに行くつもりだよ!」
「ただの親子かもしれませんよ」
「賭ける?」と、ニヤニヤするユキ。
「賭けませんよ」と、ソウマは苦笑い。
「もー、ノリが悪いぞー! こんないい女が一緒なのに!」
ユキがソウマに腕を絡める。
「ちょ、ユキ先輩、くっつきすぎ……!」
ソウマはちらりとユキを見た。
彼女はかなり露出度の高い格好をしていた。
シャツからは豊満な胸の谷間が見えており、ショートパンツからは健康的な太ももが剥き出しになっている。
「え、なに? 興奮してきた? そうなんでしょ?」
ニヤニヤと笑うユキ。
ちょうどそのとき、二人はラブホテルの前を通りがかった。
「ソウマくん、私なんか疲れちゃったなー?」
露骨なお誘いだ。
「もー、からかうのはやめてくださいよ先輩」
「本気だってー。ちょっと休んでいこうよ。マッサージしてくれたら報酬を支払うよ? なんと1時間で1万円!」
「1時間で1万円……!」
バイトの数倍に匹敵する報酬を提示されて、ソウマの心が揺らぐ。
(いや、でも、ラブホになんか入ったら我慢できなくなる……! 今ですらわりと厳しいのに……!)
ソウマは目をきゅっと瞑り、首を振った。
「ダ、ダメです! そういうことは!」
「えー? こんないい女に誘われることなんてもう二度とないかもしれないよ?」
「それでも……!」
必死に性欲を抑えるソウマ。
そんなとき、近くにいたガラの悪い不良連中が近づいてきた。
「だったら俺たちを雇ってよー!」
「俺たちならもっと上手にマッサージしてやるぜ? ヒヒヒ」
一気に場の空気が変わった。
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