023 入学祝い
夜になり、ソウマは自分の部屋で過ごしていた。
入浴も終えて、あとは眠るだけだ。
「部屋が広くても、1人だとやることがないな」
ソウマはキングサイズのベッドに寝転んだ。
(実家の煎餅布団とは寝心地が違う。それにパジャマも明らかに高級品だ)
ソウマは自身の着ている紺色のパジャマに目を向けた。
寝室のクローゼットにあったもので、安物とは肌触りが違っていた。
ピンポーン♪
ソウマがウトウトし始めたとき、部屋のインターホンが鳴った。
普通なら室内から応答するところだが――。
ガチャッ。
――ソウマは扉を開けた。
彼はインターホンに馴染みがなかった。
実家にあるのは通話機能のないただのチャイムだ。
「夜分遅くに申し訳ございません。帝栄冒険者学校の制服をお持ちしました」
扉の外にはフォーマルな制服を着た女性が立っていた。
大きな黒のスーツケースを両手で抱えており、それをソウマに渡した。
「ありがとうございます」
ソウマが受け取ったのを確認すると、女性は一礼して去っていった。
(制服のこと、すっかり忘れていたな)
ソウマは寝室までケースを押していくと、中を確認した。
ブレザーとスラックス、そしてインナーのシャツとソックスが入っていた。
それぞれ4セットずつあり、ケースの中には隙間がなかった。
「こんなにたくさんいらないだろ……。まぁ、無料だから何でもいいか」
ソウマは寝室のクローゼットに制服を吊していく。
ブレザーは白を基調としたもので、金色の装飾が施されている。
冒険者用の高価な特殊繊維が使われているため、非常に軽くて丈夫だ。
その他も見た目こそ一般的だが、生地には特殊繊維が使われている。
「白い衣装といえばエレナを思い出すが、こっちの世界だと目立って見えるな」
ソウマが呟くと、まるで返事をするかのようにスマホが鳴った。
確認すると、帝栄のアプリに通知が出ていた。
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【決闘システム仕様変更に関する通達】
明日より、決闘システムの運用規定に以下の項目を追加する。
・決闘の申し込みを拒否した場合、不戦敗と見なす。
・不戦敗となった場合、勝者に100ポイントを付与する。
・その際、敗者のポイントは変動しないものとする。
本措置は、特定の生徒が決闘システムを利用できない状況に対処したものである。
なお、状況に応じて今後も規則を随時調整する可能性があるため、各自十分に留意すること。
以上。
月野ミレイ
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「特定の生徒って……明らかに俺のことじゃねぇか」
その通りである。
「この変更のおかげで、楽に1位を維持できそうだな。でも、決闘を受けてもらえない現状は変わらないだろうな。決闘を受けて負けたらポイントを失うが、断って不戦敗になってもポイントは減らないわけだし」
これも正解だ。
もちろん、追加ルールを考案したミレイもそのことを理解している。
彼女の狙いは、決闘ができなくても1位を維持できるようにすることだ。
決して、強引に決闘をさせようとしているわけではなかった。
「こんなことなら二次試験でもう少し手を抜くべきだったなぁ。俺も決闘を満喫したかったぜ」
ソウマは寝ることにした。
しかし、布団に倒れ込もうとしたところで、再びスマホが鳴った。
今度はメッセージアプリだ。
『夜遅くにごめんね。今からお邪魔してもいい? 相談したいことがあるの』
送り主はレイカだ。
「相談? なんだろ。制服のことかな?」
ソウマは、とりあえず『いいよ』と返した。
『ありがとう。すぐ行くね』
レイカの返事が届く。
その数秒後に、インターホンが鳴った。
「早っ! さてはメッセージを送る前から待機していやがったな」
ソウマは小走りで玄関まで移動して、扉を開けた。
「こんばんは、ソウちゃん」
「おお……! こんばんは……!」
ソウマは、レイカの服装を見て思わず息を呑んだ。
帝栄の制服を着ているのだが、早くも着こなしていたのだ。
「入っていいかな?」
「あ、ああ、いいよ」
「ふふ、ありがと、お邪魔しまーす」
レイカは部屋に入ると、少し進んだところでくるりと振り返った。
「帝栄の制服が届いたからさっそく着てみたけど、どうかな?」
「どうって……そりゃあ……」
ソウマはまじまじとレイカを見る。
彼女はブレザーのボタンを外した状態で着ていた。
白のシャツも胸元のボタンを外しており、胸の谷間が見えている。
さらにスカートの丈が非常に短くて、めくるまでもなく尻が見えそうだ。
極めつけは、艶めかしい網タイツと繋がった黒いガーターベルトだ。
「気に入ってもらえてよかったわ。それにしても、ソウちゃんの部屋って広いねー。聞いていた以上だわ」
レイカが部屋の中を歩き回る。
ソウマはその後ろに続きながら尋ねた。
「な、なぁ、相談したいことって?」
レイカの色香に魅了されて、言葉が詰まってしまう。
そんなソウマの反応に満足しつつ、レイカは寝室へ向かっていく。
「相談というか悩みごとなんだけど――」
レイカは話しながら寝室の扉を開けた。
中にベッドがあることを確認すると、振り返ってソウマに抱きついた。
「――ソウちゃんにムラムラしちゃったんだよね」
「えっ」
次の瞬間、レイカはソウマをベッドに押し倒した。
「最初はマイが欲しがっているから奪うつもりだったんだけど、仮想ダンジョンで無双するソウちゃんを見ていたら、そんなこと抜きにして欲しくなったんだよね」
レイカがゆっくりと服を脱ぎ始めた。
シャツを脱ぐと真紅のキャミソールが姿を現した。
下着はエロティックな黒の紐パンだ。
ガーターベルトと相まって性的な魅力が限界を突破していた。
「レ、レイカ……!?」
ソウマは、ごくりと唾を呑み込んだ。
「だから、私、この胸の疼きを抑えるために……」
レイカが四つん這いでベッドに近づいていく。
まるで女豹だ。
「ソウちゃんのこと……」
いよいよ、レイカの手がベッドに届く。
――その時だった。
「へ? おわっ!?」
レイカの体がふわりと浮いた。
突如として現れた2人の黒服が彼女を持ち上げたのだ。
「ちょっと! 何なのよあんたたち!」
困惑するレイカ。
「まさか……!」
ソウマは察した。
「入学おめでとう、ソウマくん! お祝いに来たよん!」
寝室にユキが入ってきた。
今日も今日とてセクシーな格好をしていた。
「やっぱり!」
「ソウちゃん、やっぱりって!? その女、誰!? 私と同じくらい色気たっぷりじゃないの!」
「そこのうるさい娼婦を連れ出して」
「「はっ!」」
黒服がレイカを抱えて出ていく。
「娼婦って何よ! 私は自分より弱い男にはなびか……」
レイカの声が途絶えた。
「ソウマくん、ああいう尻の軽そうな女が好みなの?」
ユキはベッドに入ると、ソウマの隣に寝転んだ。
「いや、レイカはただのPTメンバーで……その……」
「別に誤魔化さなくていいんだよ? 私たち、付き合っているわけじゃないんだから。ソウマくんが他の女とどう接しようと、私に文句を言う資格はないからね」
「ユキ先輩……」
「でもね、ソウマくん。私は誰かのおさがりなんて嫌なんだよね」
「え?」
次の瞬間、ユキはソウマにキスした。
彼の後頭部を手で押さえて、意表を突く形で唇を重ねたのだ。
「しちゃったね、キス。他の女としたことある?」
「ないです……」
「よかった。だったら、キス以外のことも経験がないよね?」
にやりと笑うユキ。
「キス以外のことって?」
「それは……」
「え!? ちょ、先輩! あ、そこは……! おほほぉ……!」
「これが私の入学祝いだよ、ソウマくん♪」
ソウマは、めくるめく夜を過ごした。
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