021 シオン対村上
「わ、私……!?」
シオンはビクビクとした様子で自分を指す。
村上は頷くと、スマホを取り出した。
「決闘をするにはアプリから申し込む必要がある。名前を教えてほしい。逢坂マイか、百瀬レイカか、葉月シオンのどれかだと思うが」
「彼女の名前は逢坂マイよ」
レイカがしれっと嘘をつく。
「分かった。逢坂マイだな」
「ちょっとレイカ! その嘘はまずいよ!」
マイが慌てて止めた。
「あら、そうなの?」
「当たり前でしょ! えっと、逢坂マイは私なの。あなたが決闘を申し込みたがっているのは葉月シオンよ」
「分かった。俺は村上、21位だ」
「真ん中よりやや上の順位ね! ちょうどいいじゃん! シオン、ぶちかましてやりな!」
マイが楽しそうに笑った。
レイカも、「応援しているわね」と続く。
「が、頑張る……!」
シオンは不安そうだ。
「すみませーん! Tボーンステーキおかわりで!」
ソウマは小腹が空いたので、追加注文をしていた。
◇
一口に決闘といっても、バトルルールは様々だ。
大別すると「対人戦」と「競争」の二つに分けられる。
対人戦は、一次試験で武藤とミレイが行ったものとほとんど同じだ。
相手に負けを認めさせるか、失神させれば勝利となる。
殺すと敗北扱いになる点だけが違っていた。
競争は、もっと穏やかなものだ。
複数あるプログラムの中から一つを選び、そのスコアを争うもの。
プログラムの中には、二次試験と同じルールのものもある。
ただし、仮想ダンジョンを使えるのは4人同士のPT戦のみだ。
今回は1対1の戦いなので、このプログラムは選べない。
とはいえ、他のプログラムなら選べるのだが――。
「俺は対人戦を希望する」
村上は対人戦を選んだ。
どのバトルシステムを採用するかは、挑戦者側に選択権がある。
そして、挑戦者側の順位のほうが低い場合、挑まれた方は拒めない。
「アイツ、1位のメンバーに対人戦を挑んだぞ!」
「俺だったら競争を選んで手堅いプログラムにしていたぜ」
「同感だ。相手は女だからな。運動神経が問われるものなら男に分がある」
野次馬たちが好き勝手に話している。
(俺が知りたいのは1位との実力差だ。おそらく神代は突然変異的な強さをしているが、あとは平凡なはずだ。それが確認できれば、今後の自信に繋がる)
村上はスマホの操作を終えた。
「決闘成立だ。開始時刻は10分後。場所は第五演習場だ」
「うん、分かった」
「では、またあとで」
村上はソウマたちに背を向けると、そのまま食堂を立ち去った。
◇
第五演習場は、学校の敷地内にある巨大な体育館のような施設だ。
フィールド部分はサッカー場と同程度の広さで、一面に鮮やかな緑の人工芝が敷き詰められている。
障害物はなく、真っ向勝負の力比べに適している。
フィールドを囲むコンクリートの壁が、堅牢な雰囲気を醸し出していた。
見物席は100席ほどの小規模なもので、高い位置に設けられている。
大部分がフィールドに割かれているため、まるで宙に浮いたバルコニーのようだ。
そこに、シオンと村上を除く、全ての生徒が集まっていた。
「まさか入学式が終わってすぐに決闘を始める生徒がいるとはね」
見物席にはミレイの姿もあった。
興味津々といった様子で腕と脚を組んでいる。
スカートの丈が短いので、ストッキング越しに下着が見えそうだ。
男子生徒の何人かは、フィールドよりもそちらに釘付けである。
その「何人か」には、ソウマも含まれていた。
『それでは、カウントダウンを始めます。開始10秒前、9、8……』
場内に機械音声が響く。
見物席の反対側にある巨大なスクリーンにカウントが表示される。
「みんな、出てきて!」
戦闘が始まる前にシオンが動いた。
召喚魔法を発動する。
彼女の前に、三体の召喚獣が現れた。
「グオー!」
「ウシャー!」
「キュイイ!」
ゴーレム、サラマンダー、そしてガルーダだ。
「戦闘開始前に召喚獣を出すのってアリなのかよ!」
見物席にいる男子が不満そうに言った。
村上と同じPTの池内だ。
「アリよ。相手に危害を加えなければ何をしてもいい」
ミレイはフィールドを見つめたまま答えた。
(そういえば、シオンはサマナーだったな。前の学校では見かけなかったジョブだ。どういう戦い方をするんだろう)
ソウマは静かに眺めていた。
(私が負けたら、ソウマくんたちに迷惑がかかっちゃう。負けたくない……! 私だって前の学校じゃ一番の成績だったんだから!)
シオンは杖を握る手に力を込めた。
「サマナーか。魔法系の中でも金の掛かるジョブだ。よほど裕福な家庭に恵まれたようだな」
村上は右手で槍を回す。
彼のジョブは見た目通りのランサーだ。
『3、2、1……戦闘開始!』
カウントダウンが終わると同時に、シオンは杖を村上に向けた。
「ダーくん! ガルちゃん! お願いっ!」
「ウシャー!」
「キュイーン!」
サラマンダーとガルーダが村上に突っ込む。
ダーくんがサラマンダーで、ガルちゃんがガルーダだ。
「あら、可愛らしい名前ね」
「でも、ちょっと安直すぎない?」
レイカとマイが話す。
2人はソウマを挟むように座っていた。
「シオンらしくていいじゃない。たぶんゴーレムはゴーくんよ。ソウちゃんもそう思うでしょ?」
レイカは話を振ると同時に、ソウマの太ももを撫でる。
「あ、ああ……! 俺もそう思うよ……!」
ソウマは視線をできる限り下へ向けて、レイカの手を見た。
太ももからゆっくりと奥に向かって進んでいる。
しかし、あと少しというところで太ももに戻ってしまった。
「ふふ、ソウちゃん、分かりやすいわね」
3人が話している間にも、シオンの戦いは進んでいた。
「召喚獣同士の連携が全く取れていないな。思った通り、1位のPTといっても全員が強いわけではないようだ!」
村上はサラマンダーを槍で貫いた。
頭から胴体に向かって真っ直ぐに突き刺され、即死だった。
「ウシャ……」
「ダーくん!」
「もういっちょ!」
「キュイイイイイイイイイイイ……」
あっという間にガルーダも死亡する。
「ゴ、ゴーくん! 助けて!」
シオンが慌てて命令を出す。
「グォオオ!」
全長2メートルのゴーレムが村上の前に立ちはだかる。
「遅い遅い遅い!」
村上はゴーレムの攻撃を軽々と避けると同時に、その脇をすり抜けた。
そして、シオンの喉に槍の穂先を向ける。
「まだやるかい?」
「いえ……負けました……」
シオンは悔しそうに俯いた。
「ふぅ」
村上が息を吐く。
次の瞬間、スクリーンに「勝者:村上」と表示された。
「マジかよ、村上の奴、本当に勝ちやがった……」
見物席で、池内が呟いた。
「二次試験のスコアがヤバかったから警戒していたけど、普通に勝てるじゃん!」
「あのサマナーの子、動きが鈍かったし俺でも勝てる気がするぜ!」
「葉月さんだっけ? 私も対戦させてもらわないと!」
見物席が騒然とする。
皆が我先にとシオンへ決闘を申し込んだ。
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