020 親孝行
ランクシステムの都合上、月に一度は部屋の変更が生じる。
そのため、部屋には最初から必要なものが揃っていた。
(すげー部屋だ。テレビで観た一流ホテルのスイートより豪華だぞ!)
ソウマはSランクの部屋に感動した。
とにかく広くて、何でもある。
シアタールームは当然として、なぜかボウリングルームまであった。
「こんな部屋で暮らせるなんて夢みたいだ」
ソウマは寝室に移動した。
キングサイズの特大ベッドがあったので、迷うことなくダイブした。
「二次試験の終了時間までもう少しあるし、決闘の情報を確認しておくか」
ソウマは仰向けに寝ながら、ミレイの言っていた冊子を確認した。
それによると、決闘には以下のルールがあった。
・一度に賭けられるポイントの上限は1人につき100ポイント
・同じ相手とは週に1度しか戦えない
・自分より順位の低い者から申し込まれた決闘は拒否できない
順位には、個人順位とPT順位が存在する。
個人順位とは、ランク付けにも影響する個人単位の順位だ。
PT順位は、PTメンバーのポイントを合計して順位付けしたもの。
ソウマの場合、個人順位とPT順位の両方で1位だった。
「決闘システムはどうでもいいが……」
ソウマは「強制退学について」という項目を読んだ。
『月末の順位決定の際に、PT順位が最下位のPTは退学となります』
この点に、ソウマは些か不安を覚えた。
(他の3人が決闘でカモられた場合、俺がどれだけ頑張ってもPT順位が最下位になるかもしれない。それで退学処分になったら困るな。まぁ、その時は決闘システムで集団戦を申し込みまくればいいか)
そんなとき、スマホが「ピロロン♪」と鳴った。
確認すると、二つのアプリから同時に通知が出ていた。
一つ目は帝栄のアプリだ。
『1,000ポイントを獲得しました』
二次試験の1位報酬だ。
順位表を開くと、マイ、レイカ、シオンの3人も1位だった。
「ようやく試験が終わったのか」
そう呟くと、ソウマはもう一つの通知を確認した。
銀行のアプリだ。
帝栄冒険者学校からの振り込みを知らせていた。
『口座残高:20,513,500 円』
ソウマの口座残高が、一瞬にして5桁から8桁に増えた。
「うお! マジで2000万が振り込まれた! いや、初月分の支給も含めたら2050万か。すげぇ!」
見たこともない金額を前にして、ソウマの手が震える。
「そうだ! 早く母さんに渡さないと!」
ソウマはアプリを操作して、母・ナミエの口座に送金した。
学校から入金された2050万円のうち、なんと2000万円を送る。
ナミエの抱える借金よりも遥かに多い金額だ。
当然ながら、送金後まもなくして、ナミエから電話がかかってきた。
『ちょっとソウマ! なんなのよこの大金は!』
ナミエの驚いた声が、ソウマの耳に響く。
「前に言っていたお祝い金だよ」
『それは分かっているわよ! 問題は金額よ! お父さんの借金は残り850万円なのよ! なのに2000万円だなんて……!』
「分かっているよ。余った分は生活費と引っ越し代に使ってほしいんだ」
『えっ?』
ソウマは笑みを浮かべた。
「それだけお金があったら引っ越しできるでしょ? もうボロ家に住む必要なんかないんだよ、母さん。それに無理して働かなくても大丈夫だからね。今後も学校からお金が支給されるたびに、いくらか仕送りをするからさ」
『ソウマ……!』
ナミエの声が震える。
彼女は嬉しさのあまり涙を流していた。
「母さん、今まで頑張ってくれてありがとう。これからは俺が頑張るから任せてくれよ」
『ありがとう……。なら、このお金は大切に使わせてもらうね』
「そうしてくれ」
『ソウマも無理しないでね』
「分かっているさ」
ソウマはナミエとの電話を終えた。
「ちょっとは親孝行できたかな」
ソウマは誇らしい気持ちになっていた。
◇
昼過ぎ――。
ソウマは、マイ、シオン、レイカの三人と合流した。
5階の食堂に行って遅めの昼食をとった。
食堂はランクに関係なく無料で食べ放題だ。
ただし、テーブルオーダーができるのはAランク以上に限られる。
Bランク以下の生徒はランク順に料理を受け取っていた。
「うんめぇ! どの料理も最高だな!」
6人掛けのテーブルには、所狭しと料理が並んでいた。
和食から洋食、中華に地中海料理まで何でもある。
その大半がソウマの注文したものだ。
「あんた無料だからって食べ過ぎでしょ!」
ソウマの隣に座っているマイが、呆れたように言った。
「無料なんだから食べないと損だろ!」
ソウマの思考は、貧乏人そのものだった。
有料の食べ放題に行けば元を取ることにこだわる。
「残さずに食べているのだからいいじゃない」
レイカは上品な手つきでパスタを食べた。
彼女はソウマの対面に座っており、一見すると普通に食事している。
しかし……。
「うおっ!? ゴホッ! ゴホッ!」
「ちょっとソウマ! なにむせてるのよ! 汚いなぁもう!」
「慌てて食べるからだよぉ」
マイとシオンが眉間に皺を寄せる。
二人は気づいていなかった。
(そんなこと言われたって……!)
ソウマは手で口を押さえながら、自身の股間に目を向ける。
レイカが足で悪戯していた。
太ももを撫でたり、さらに奥に進んだり……。
まるで地を這う蛇のようだ。
「うっ……!」
ソウマは恐る恐るレイカを見た。
「どうしたの? ソウちゃん」
レイカはニコッと微笑んでいる。
「な、なんでもない……!」
ソウマは思った。
(この女……! 危険だ……!)
◇
ソウマたちは、食事が終わっても食堂にいた。
帝栄での生活や部屋の内装など、学校生活に関わることを話していた。
「え! 部屋にボウリングのレーンがあるの!? Aランクの部屋もすごかったけど、やっぱりSランクは格が違うねー!」
「今度、ソウちゃんの部屋でボウリング大会をしたいわね」
「レイカ、それ賛成! 何か賭けようよ!」
「賭けかぁ。マイさん、早くも帝栄に染まりつつあるね」
「シオン、それ私も思ったわ。あと、マイって自信家だよね」
「えー、そうかな?」
女性陣が楽しそうに話している。
ソウマは口を挟むタイミングが分からず、基本的に聞く一方だった。
何か話すとしたら、それは女性陣が気を利かせて話を振ったときだ。
もちろん、こうして雑談している間も、レイカは悪戯を続けていた。
「あれが1位のPTか」
「見た目は俺たちと変わらないな」
「まぁヤバそうな見た目って武藤くらいだったしな」
「でも、レベル10の仮想モンスターを全滅させたんだろ? あいつら」
「凄まじい強さだよな」
周囲の生徒たちが、ソウマらのことを噂している。
「俺たち、目立ってるみたいだな」
ソウマが周囲の反応について触れた。
「そりゃそうでしょ! でも、別にどうだっていいじゃん! 何かあれば決闘を挑んでくるでしょ!」
マイは全く気にしていない。
レイカも「だねー」と同意見だった。
「それもそうか」
ソウマは納得した。
そんな彼らについて、周囲の生徒たちは話を続ける。
「思ったんだけどさ、一次試験って即席のPT作りだったろ? あの条件でメンバー全員を最強クラスで揃えられるとは思わないんだ」
Cランクの男子・村上が言った。
「だろうな」
相槌を打ったのは、村上と同じPTの男子・池内だ。
「それに、武藤クラスのメンバー4人でも、1PTでレベル10の魔物5500体を時間内に全滅させるのは無理だ。ということは、異常に強い奴が1人いて、そいつが他の3人を引っ張った可能性が高い」
村上の読みは的確だった。
「つまり、他の3人はザコってことか?」と、池内。
「ザコとは言わないが、俺たちと大差ないんじゃないか」
村上はソウマたちの顔を見る。
(あの中で弱そうなのは……アイツだ!)
村上はシオンに目をつけると、すぐさま席を立った。
「おい、村上、何をするつもりだ?」
「自分の勘と腕を試すのさ」
他の生徒が注目する中、村上はソウマたちの席に向かった。
「決闘を申し込む。そっちは1位だから俺の申し出を断れないはずだ」
村上が言った。
「いいぜ、俺も試したいと思っていたんだ」
ソウマがにやりと笑う。
「いや! 私が戦う! 私だって決闘したかったんだから!」
すかさずマイが手を挙げる。
しかし、村上は「いや」と首を振った。
「俺が戦いたいのはあんたらじゃない」
ソウマたちが「え」と驚く中、村上はシオンを指した。
「俺の相手は君だ。100ポイントを賭けて勝負しよう」
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