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002 ミストリア

 日本ではお目にかかれない大草原と城郭都市。

 それを見渡したあと、ソウマは呟いた。


「夢か……それにしては感覚がリアルだな」


 空気の匂いがする。

 そよ風が頬を撫でるのが分かる。

 まるで本当の現実みたいだ、とソウマは思った。


「これで制服を着ていたら夢とは思わなかっただろうな」


 今のソウマは、無地のシャツを着ていた。

 下は革のズボンで、茶色のブーツを履いている。

 どれも彼の持っていない物だ。

 ただし、腰に装備している剣だけは現実と同じ物だった。


「ぷにー!」


 そこにスライムが現れた。

 森でソウマに液体をかけたものと同じ見た目だ。


「夢の中でもスライムかよ」


 ソウマは剣を抜いた。


「ぷにーっ!」


 スライムが小刻みに全身を震わせる。

 これは攻撃の前に行う特有の動作だ。

 しかし、ソウマにはそれが分からなかった。


「うわっ!」


 故に、ソウマからすると突然の攻撃に感じた。

 正面から攻撃されたのに、あっさりと液体が全身にかかる。


(ヒーラーがいないのに攻撃を受けてしまった! やばい! 皮膚が溶ける!)


 焦るソウマだが、実際にはそんなことにならなかった。

 頭上にHPゲージが表示され、それが少し減っただけで済んだのだ。


(ゲームみたいな仕様になっているのか)


 ソウマはホッと胸を撫で下ろすと、スライムに反撃の刃を食らわせた。


「この世界ならお前の攻撃なんざ怖くねぇ!」


 ソウマの一太刀で、スライムは真っ二つになり絶命した。


『スライムを倒しました』

『経験値を 10 獲得しました』

『お金を 55ゴールド 獲得しました』

『レベルが 2 に上がりました』


 視界の隅にログが流れる。


「ますますゲームっぽいな。リアルだと敵を倒してもこんなログは出ないし、お金だって手には入らない」


 呟いたところで、ソウマはハッとした。


「レベルってことは、ステータスもあるのか?」


 試しに「ステータス」と念じる。


-----------------------

【ジョブ】剣士

【レベル】2

【総合力】596

-----------------------


 視界に半透明のステータス画面が表示された。


「ステータスはリアルと同じでレベルと総合力だけか。つーか、総合力たけー! レベル2で総合力596なら学校でも上位に入るぞ!」


 ソウマは「ふっ」と笑った。


「夢の中くらいは優等生でいたいし、能力は高いほうがいいな」


 周囲には、他にも様々な魔物の姿が目につく。

 スライムだけでなく、角の生えたウサギなど、可愛らしいザコばかりだ。


「ここなら攻撃を受けても人体に直接的な影響はないし、戦いまくって経験を積んでやるぜ! 遠くに見える街なんざ興味ねぇ!」


 ソウマは草原を駆け回り、手当たり次第に魔物を狩ることにした。


 ◇


 その後、ソウマは休憩を挟みながら何時間も戦い続けた。

 敵はレベル1の魔物ばかりだが、それでも数をこなせばレベルが上がる。


-----------------------

【ジョブ】剣士

【レベル】5

【総合力】1092

-----------------------


 日が暮れたとき、ソウマのレベルは5に達していた。

 総合力は4桁の大台に到達している。

 成長していることが体感的に分かるほどだった。


「あー、疲れたー!」


 ソウマは草原に寝転んだ。

 戦いすぎてヘトヘトだ。


「ぷにー!」


 スライムが怒った様子で近づいてくるが問題ない。


「もうお前なんか怖くねーんだよ」


 寝たまま剣を振るってスライムを倒す。

 レベルと総合力が上がったことで、攻撃速度が凄まじいことになっていた。


「この世界じゃレベルが上がると総合力も爆発的に伸びる……現実もこの仕様なら苦労しないのにな」


 ソウマは寝る直前のことを思い出した。

 必死に腕立て伏せをしても、総合力は1しか増えなかった。

 こことは大違いだ。


「どれだけ狩っても夢から覚めないし、あそこの街に行くか」


 体を起こして街に向かうソウマ。

 大きな門の前には、門番を務める衛兵が立っていた。


「ようこそ! グランデルへ!」


 衛兵はソウマに気づくと声を張り上げた。


(日本語だ! さすがは夢だ!)


 ソウマは「どうも」と頷いて門をくぐる。


「おお……! これは壮観だな」


 ソウマの視界には、異国情緒の溢れる街並みが広がっていた。

 華やかな装飾の施された石造りの建物が軒を連ねている。

 地面には石畳が敷かれていて、多くの馬車や通行人が往来している。


「ゲームの中に入り込んだみたいだ……!」


 ソウマは感動しながら適当に通りを進んだ。

 どこを見渡しても活気にあふれていて、歩いているだけで心が躍る。

 どう見ても日本ではないのに日本語が飛び交っているのも素晴らしい。


(せっかくだし、俺もゲームのキャラっぽく振る舞ってみるか)


 そう考えたソウマは、適当な人と話すことにした。

 ゲームでは村人などのモブに話しかけまくるのが基本だ。


 ◇


 多くの人と話した結果、ソウマはこの世界の情報を知った。

 ここはミストリアという異世界で、通貨は日本円ではなくゴールド。

 文明の水準は地球より遅れているが、代わりに魔法が発達している。

 その他に目立った違いと言えば、外に魔物がいることくらいか。


(この世界だったら、母さんに楽させてやれるのにな)


 ソウマは適当な酒場で空腹を満たした。

 漫画やアニメでしか見たことのない骨付き肉を頬張る。

 口の中に肉汁が広がって幸せだ。


(ずっとこの世界にいたいが……そろそろ限界だな)


 会計を済ませて酒場を出ると、ソウマは宿屋に向かった。

 道中では疲労による眠気で、何度もあくびをしていた。


「あー、疲れたぁ!」


 適当な宿屋で部屋を借りると、すぐさまベッドにダイブする。

 浴室が備わっているものの、使う気にはならなかった。


(夢の中だし、体を綺麗にする必要はないよな。疲れているし寝よっと)


 家では味わえないベッドの感触を堪能しながら、ソウマは眠りについた。


 ◇


「ソウマ、朝だよ」


 母・ナミエの声によって、ソウマは目を覚ました。


「あー、よく寝た! おはよう、母さん」


 ソウマは体を起こすと、寝ぼけ眼をこすりながらナミエに挨拶する。


「今日はずいぶんとすっきりした顔だね」


「そうかな? 面白い夢を見たから、そのせいかも」


「それはよかったわね」


 ナミエは微笑むと、朝ご飯の準備をするため台所に向かった。


(あの楽しい時間も終わりか……)


 ソウマは部屋の中を見回すと、心の中で落胆した。


(また落ちこぼれの日々が始まる)


 ミストリアでは草原で無双したが、地球では学校の落ちこぼれだ。

 夢の中が楽しかった分、いつも以上に憂鬱な気持ちが込み上げてくる。


(ステータスでも見て過酷な現実に打ちひしがれるとするか)


 ソウマはため息をつくと、「ステータス」と念じた。


-----------------------

【ジョブ】剣士

【レベル】5

【総合力】1092

-----------------------


「なんじゃこりゃあ!」


 思わず叫ぶソウマ。

 なんと、ミストリアでのステータスが反映されていたのだ。


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