019 トップ通過
「まだ1時間30分以上残っているんですが、どうすればいいですか?」
ソウマが尋ねると、ミレイは顔を引きつらせながら答えた。
「君たちの得点は5万5000点。仮想ダンジョンの仕様上、これを抜くのは絶対に無理だから、1位は君たちで確定したわ。だからもう戦わなくていいわよ」
女性陣が「おお!」と歓声を上げる。
「ソウちゃんのおかげで楽ができたわね」
「他の人たちに申し訳ないよぉ」
「大丈夫だって、シオン! 入学したら私らにも出番が回ってくるから!」
三人のやり取りを眺めたあと、ミレイが言った。
「本当は終了時間になってからの予定だったんだけど、君たちだけ先に案内するわね」
「分かりました」
「でも、神代くん、その前に教えてもらえる? どうやってこんなにも早く敵を殲滅することができたの?」
「特別なことはしていませんよ。ただ〈ファイヤーレイン〉を連発していただけです」
「へぇ、なるほど、それなら……って、は? 20分も連発していたの!?」
「正確には15分くらいです」
「それでもおかしいんだけど!? そんなに連発できないでしょ、魔力切れを起こすから!」
「でもできたので……」と、苦笑いのソウマ。
「ミレイ先生、ソウマは何か異常なんですよ。魔法をひたすら連発できるのもそうなんですが、威力もおかしくて。〈ファイヤーレイン〉って範囲は広いけど威力は低いはずなのに、一撃で敵が死ぬんですよ」
「えぇぇ……」
ミレイは絶句した。
(普通に私より強いじゃん! よかった、一次試験で絡んできたのがザコのモンクで……! 神代くんが相手だったら終わっていたわ)
◇
ミレイの案内を受けて、ソウマたち四人は学校内を見て回った。
(さすがは帝栄だ。設備の充実度もさることながら、知らないマシンも充実している)
校舎は一次試験で使ったフロアを除くと、大半が練習用のフロアだった。
「先生、よろしいかしら?」
校舎を見終えて他の施設に移ろうとしたとき、レイカが口を開いた。
「どうしたの?」
ミレイが立ち止まる。
「この学校って、上級生はいないのですか?」
その質問によって、ソウマとシオンもハッとした。
「言われてみれば上級生の姿が見当たらないな」
「どこに行ったんだろ……?」
マイは答えを知っているので何も言わなかった。
「帝栄に上級生はいないわ。今年度の末……つまり、来年の三月末で君たちは卒業して冒険者になるの」
「だから、帝栄の出身者だけは19歳で冒険者になれるの」
マイがドヤ顔で補足した。
「それはありがたいな。できれば、冒険者として活動したいくらいだ」
ソウマが嬉しそうに笑う。
「君はそうでしょうね……」
ミレイは苦笑いを浮かべる。
他の女性陣も同じ表情をしていた。
◇
ミレイが最後に案内したのは学生寮だった。
学校に隣接している30階建てのマンションだ。
共用施設が充実しており、8階まで共用フロアになっていた。
「一次試験で去っていったモンクの子が言っていたように、帝栄は実力主義なの。それを反映するのがランク制ね」
「ランク制って?」と、ソウマ。
「帝栄の授業は週に一回しかなくて、毎週月曜日の10時に行われるのだけど、その際の成績によってポイントが付与されるの」
「ポイントの高い順にランク付けされるわけですか」
「そうね。正確には順位ごとにランク付けされるわ。最上位のSランクは1位限定なんだけど、その次のAランクは2位から10位までが該当する」
具体的な順位ごとのランク分けは以下の通りだ。
1位:Sランク
2位~10位:Aランク
11位~20位:Bランク
21位~30位:Cランク
31位~40位:Dランク
41位~50位:Eランク
51位~60位:Fランク
「帝栄ではランクの高い者が優先されるし、恩恵も得られる。このマンションなんかは特に分かりやすいわね。上の階層になるほどランクが上がっていく。他にも、6階から8階までの共用施設はAランク以上限定ね」
ミレイは5階の食堂を案内し終えると、エレベーターに乗った。
Aランク限定の共用施設は飛ばして、30階を指定する。
「先生、私たちって今は1位ですよね? 試験を1位で通過したんだから!」
エレベーターの中で、マイが嬉しそうに尋ねる。
「そうね。二次試験の順位によって付与されるポイントが異なるからね。ただ、Sランクの部屋は30階の一部屋しかないの。他の3人はAランクの部屋を使ってもらうことになるわ」
「30階はソウちゃんで決まりでしょ」
真っ先にレイカが言った。
マイとシオンも頷いて同意している。
「いいのか?」
「むしろ『いいのか?』は私たちのセリフよ。ソウちゃんのおこぼれで1位になったんだから」
エレベーターが30階に到着した。
扉が開くと、数メートルの廊下が真っ直ぐに続いていた。
当然のように床はふかふかの絨毯だ。
その先に扉が一つある。
「神代くんはここでお別れね。私たちは29階に行きましょう。29階は3部屋あるから、誰がどの部屋を使うか決めてもらうわ」
ミレイが言った。
「一つ質問していいですか?」と、ソウマ。
「どうしたの?」
「ポイントの変動って週1回の授業だけですか?」
「いいえ、それはどちらかというとオマケね」
「オマケ?」
「帝栄ではポイントを賭けて戦う決闘システムがあるの。決闘といっても、必ずしも個人で戦うのではなくて集団戦も可能よ」
「ほう」
「あと、順位が確定するのは月末なの。極端な話、最下位の子が活躍しまくって月の半ばに1位まで浮上したとしても、月末までは最下位……今だったらFランクとして扱われるってこと。逆も然りね」
「なるほど」
「その辺の詳細は部屋にある冊子で確認して、不明な点があればアプリから連絡してちょうだい」
「分かりました」
ソウマはエレベーターから降りると、ミレイに一礼した。
「じゃーね、ソウマ!」
「次は二人きりで遊ぼうね、ソウちゃん」
「ソウマくん、今日はありがとう」
マイたちが笑顔で言った。
「おう、またな」
エレベーターの扉が閉まると、ソウマは自室に向かった。
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