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異世界でレベルを上げられるようになった俺、現実世界で最強になる  作者: 絢乃


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017 仮想転移室

 目と鼻の先まで詰めてきた武藤を見て、女教師は笑った。


「ルールの欠点に気づいたのは賢いわね。でも――」


 コインが地面に当たった。

 次の瞬間、巨大な氷柱が武藤を貫いた。

 背後から斜めに向かって伸び、右肩に大きな穴を作る。


「――同じことを相手が考えるとは思わなかったようね」


「ガハッ……! なんだとォ!?」


 誰もが驚いていた。


「あれって〈アイスピラー〉でしょ!? 普通なら攻撃が発動するまでもう少し時間がかかるはず!」


 マイの疑問に対し、ソウマが答えた。


「あの先生も戦闘が始まる前から動いていたんだよ」


「え?」


「コインが当たる前から魔法を発動していたんだよ。コインが当たった瞬間に攻撃が命中するようにタイミングを調整したわけだ」


「すご! そんなの神業じゃん! というか、どうして魔法を使えるの!? ソウマもそうだけど、剣士は魔法を使えないものでしょ!?」


「あの先生は剣を持っているだけで剣士じゃないんだろ。レイカが薙刀を持ったプリーストであるように」


「そこの君、正解よ」


 女教師は頷くと、武藤を睨んだ。


「せっかくの素質なのに、ここで死ぬなんて可哀想ね」


 女教師は剣を振り上げた。


「待て! 負けだ! 俺の負け――ぎゃああああ!」


 武藤は降参したが、それでも女教師は剣を振り下ろした。


「ごめんね。降参するのが遅いから攻撃を止められなかったわ。でも、この程度なら回復魔法で簡単に治せるから問題ないわね」


「うがぁぁぁぁぁ!」


 武藤は胴体から派手に血を撒き散ら、のたうち回った。


「プリーストの生徒は彼を治療してあげなさい」


 レイカが「私がやりまーす!」と手を挙げ、武藤に〈ヒール〉を発動した。

 武藤の傷が、あっという間に治った。


「これで納得したでしょ。あなたは不合格なの」


「…………クソッ!」


 武藤は反論することなく、静かにその場を後にした。


 ◇


 二次試験を始めるにあたり、生徒たちは移動することになった。

 女教師を先頭に、ぞろぞろと校舎の中を進んでいく。


「今さらだけど、自己紹介をするわね。私の名前は月野(つきの)ミレイ。あなたたちが二次試験を突破した場合、私が担当の教師になるわ。年齢はあなたたちと大差ないけど、だからといって気安く『ミレイちゃん』なんて呼んだら殺すからね」


 ミレイの言葉に、生徒たちはゴクリと唾を呑み込んだ。

 武藤が惨敗したのを見て、完全に怖じ気づいている。

 ソウマだけは、ぬぼーっとした顔をしていた。


「次の試験はここで行うわ」


 ミレイは『仮想転移室』と書かれた扉の前で止まった。


「仮想転移室? ただの転移室とは違うのか?」


 ソウマはマイに尋ねた。


「私も知らないわ」


 マイは小さな声で答え、首を振った。

 他の生徒も「仮想って何だ?」とざわついている。


「基本的には普通の『転移室』と同じ認識で問題ないわ」


 ミレイが扉を開いた。

 かなり大きなフロアで、巨大な転移装置が設置されている。

 奥には三つのゲートが横並びに生成されていた。


「たしかに普通の転移室っぽいな」と、ソウマ。


「違いは転移先がダンジョンじゃなくて仮想ダンジョンということよ」


「仮想ダンジョン?」


 生徒たちが首を傾げた。


「ダンジョンが異世界にあるのは知っているわよね。仮想ダンジョンはそれを再現した仮想の場所ってこと。平たく言えば人工の異世界ね」


「人工の異世界……」


「詳しいことは訊かないでね。私も知らないから。で、普通のダンジョンとどう違うかというと、棲息している魔物が人工という点ね」


「人工の魔物!?」


 皆が衝撃を受ける。


「そこは別に驚くことじゃないでしょ? あなたたちの学校に演習場ってなかった? 魔物を模したロボットと戦える施設。あれと似たようなものよ。ただ、仮想ダンジョンの魔物はロボットじゃなくて本物だけどね」


「人工の魔物と普通の魔物の間には違いがあるのですか?」


 ソウマが尋ねた。


「基本的には同じよ。クローン技術だか何だかで作られているから。ただ、ここから管理が可能になっている点が異なるわね。あと、ダンジョンに棲息する魔物の数なども調整できるわ」


「倒したら魔石が手に入りますか?」


 これは別の生徒がした質問だ。


「魔石って何だ……?」


 ソウマは頭上に疑問符を浮かべていた。


「え、ソウマ、魔石を知らないの?」と、マイが驚く。


「ああ、知らない。マイは知っているのか?」


「当たり前でしょ。魔石は魔物を倒すと手に入る石のことよ。それにすごいエネルギーが込められていて、色々な技術に転用されているのよ。冒険者が重宝されているのだって魔石を手に入れてくるからだし」


「そうだったのか」


「ソウマくん……」


 シオンは「嘘でしょ」と言いたげな顔でソウマを見た。


「ソウちゃんって面白いわね。ますます食べたくなっちゃった」


 レイカは「ふふふ」と笑った。


(ミストリアだと敵を倒せば勝手に金が手に入っていたけど、地球じゃそうもいかないんだな。それもそうか……って、ん?)


 ソウマはふと気になった。


「今まで倒した魔物って魔石を落としていなかったんじゃないか? 前に湖で乱獲した魔物とか」


「魔石を落とすのは、レベル7以上の魔物だからね。学校で倒したのはせいぜいレベル5だったでしょ?」


「なるほど」


 ミレイが手を叩いて、生徒たちの雑談を止める。


「二次試験は仮想ダンジョンで魔物を狩ってもらうわ。多くの学校で『PT訓練』と呼ばれているものね。基本的にはよりたくさんの魔物を倒して点を競ってもらうのだけど、ちょっとしたルールがあるからちゃんと聞くように」


 そう言うと、ミレイは奥のゲートに手を向けた。


「ダンジョンの難易度は三段階あって、左のゲートから順にレベル5、8、10となっている。魔物を1体倒したときに得られる点数は、レベル5が1点、レベル8が3点、レベル10が10点になるわ」


「レベル10だけ異様に点数が高いな……」


 独り言を呟くソウマ。


「制限時間は2時間。終了時間までに戻ってくること。今回はアプリで報告する必要はないわ。あと、ダンジョンの変更は一度だけ認める。この試験で点数の上位15PTが合格よ。それでは、始め!」


 ミレイは淡々と説明を終え、試験開始を告げた。


(これは思ったより頭を使う試験になったな。この仕様だと皆がレベル10に飛び込むことは間違いない。そうなるとレベル10のダンジョンが混んでまともに狩れないはずだ。すると、俺たちは裏を読んでレベル8のダンジョンで数をこなしたほうがいいか?)


 ソウマが深く考え込む。

 しかし、彼の考えは全く当たっていなかった。


「レベル8だ!」


「急げ! レベル8だ!」


 多くのPTがレベル8のダンジョンに飛び込んでいったのだ。


「どういうことだ……!?」


 ソウマが困惑している間にも、PTが続々とゲートに消えていく。

 レベル8の次に多いのはレベル5だ。


 ソウマの予想に反して、レベル10のダンジョンには誰も入らない。

 これには理由があった。

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