016 武藤リョウ
戻ってきたソウマを見て、マイが言った。
「早かったわね、何の話をしていたの?」
「お祝い金がいつ振り込まれるのかを確認していた」
「はぁ!?」
「それより――」
ソウマはマイの後ろに目を向けた。
「――そっちも早かったんだな。大したもんだ」
マイは既に二人のメンバーを見つけていた。
緑髪の小柄な女と、妖艶な魅力を放つ黒髪の女だ。
「彼があなたの言っていた最強の男子?」
黒髪の女がマイに尋ねた。
艶やかなロングヘアで、背が高く、胸も大きい。
薙刀を装備している。
「そう! 間違いなく最強だから安心していいよ!」
「たしかにこの状況でお金の心配をするあたり普通じゃないわよね。それに何だか……とっても美味しそう」
黒髪の女は舌なめずりをしながらソウマを見る。
「ソウマ、紹介するわね。この人は百瀬レイカ! ジョブはプリーストだよ!」
マイは黒髪の女に手を向けながら言った。
「よろしくね、ソウちゃん」
「ソウちゃん!?」と、驚いたのはマイだ。
「あら、ダメだった?」
これにはソウマが答える。
「問題ないよ。よろしく、レイカ。プリーストなのに薙刀を装備しているなんて珍しいな」
「回復職だからって後ろにいる必要はないからね」
「言われてみれば、たしかにそうだ」
「補足しておくと、レイカは私から誘ったんじゃなくて自分から希望してくれたの! 私が総合力やレベルについて尋ねないのが気に入ったんだって!」
「私、皆と同じって嫌なんだよね。だからマイを見て興味が湧いたの。他の人は絶対にレベルと総合力を尋ねるでしょ?」
ソウマは「なるほど」と頷き、もう緑髪の女に目を向けた。
「ひっ」
女は肩をビクッと震わせた。
三つ編みのツインテールを震わせ、怯えた小動物のような目をしている。
シンプルながら高級感のある長い杖を両手で持っている。
「彼女は葉月シオン! サマナーだって! 一人でおどおどしていたから迷わずに誘った!」
マイがドヤ顔で胸を張った。
(見るからに気弱そうだな……。でも、学校が推薦するってことはそれなりに腕が立つのか)
ソウマがまじまじと眺めていると、シオンが深々と頭を下げた。
「よ、よろしくね、ソウマくん……!」
「こちらこそ」
ソウマはマイに言う。
「これでウチのPTは完成したな」
「だね! 他はどこも苦労しているし、ウチが一番乗りじゃない?」
「そのようだ」
ソウマは周囲を見回した。
強さが足りないだの、ジョブが合わないだの、何かしら問題が起きている。
「もしかしたら私たち以外は制限時間内にPTを組めなかったりして!」
マイがニヤリと笑った。
「どうだろう。終了時刻が迫ってきたら妥協するんじゃないか」
「私もソウちゃんと同意見ね」
レイカはさりげなくソウマに距離を詰めた。
そして、右手の甲でソウマの頬を撫でる。
「ちょっとレイカ、どういうつもりよ!」
マイが頬を膨らませる。
「私ね、他人が欲しがるものを奪うのが好きなの」
「他人が欲しがるもの? 俺がか?」
「そっ。マイから奪っちゃおうかなって」
「はぁ!? 私は別にそんなんじゃないし!」
マイは顔を真っ赤にしながら否定した。
「だったら私がソウちゃんにどうしようと自由よね?」
レイカはニヤニヤしながらソウマの背後に回り込むと、彼の胸部から腹部にかけて撫で始めた。
「おおっほ……」
これにはソウマもご満悦だ。
一方、マイは「ぐぬぬ」と悔しがるだけで言い返せない。
「ね、ねぇ、アプリの登録を済ませておかない……?」
シオンが恐る恐る言った。
「そうだな」
ソウマたちは同意し、スマホを取り出した。
◇
一次試験の終了時間が迫ってくると、一気に場が動き出した。
ソウマの予想通り、多くの生徒が妥協を始めたのだ。
それによって次々にPTが完成していく。
「そこまで!」
開始から30分が経過したところで、担当の女教師が終了を告げた。
「今回の受験者数は493人だから、最低でも1人は落第者が出るはず」
女教師はタブレット端末を取り出した。
画面には生徒たちの名前と合否が書かれていた。
「残念ながら21人が4人PTを組めなかったようね。名前を挙げなくても自分で分かっているはず。該当者は不合格よ。今すぐこの学校を去りなさい」
女教師は淡々とした口調で言った。
「マジかよ……」
「一次試験とは言っていたが……」
「PTを組めなかっただけで不合格は辛いな……」
生徒たちがざわつく。
「待ってください! 俺たちPTは組めていたんです! ただアプリで申請するのを忘れていたんです!」
男の4人組が前に出た。
「残念ながらその場合も不合格よ」
「そんな……」
「ここに来られるくらいだから、それなりの実力はあるはず。それぞれ地元の冒険者学校で頑張ることね」
女教師は聞く耳を持たなかった。
「俺、前の学校で『お前らと違う』とか言いまくっていたぜ。どんな顔をして戻ればいいんだ」
「俺もだ……」
不合格となった生徒たちが絶望した様子で出ていく。
しかし――。
「気に入らねぇなぁ!」
――1人の生徒が異を唱えた。
2メートル近い大柄で、筋骨隆々の男だ。
短く刈られた赤い髪は、まるで燃え盛る炎のようだった。
他の生徒は左右に分かれて、女教師と男の間を空けた。
ソウマたちも何食わぬ顔で紛れていた。
「あなたは?」
「武藤リョウだ。他の奴らと違って、俺にはPTメンバーなんて必要ねぇ! だから誰とも組まなかったんだよ」
武藤が女教師を睨みながら言い放つ。
「要するに馬鹿ってことね。お疲れ様、去りなさい」
「なっ……!」
あまりにもあっけない対応に愕然とする武藤。
「アイツが武藤リョウか」
「噂通りの巨体だな……」
「総合力が500を超えているらしいぜ」
「レベルも10あるとか……」
「化け物すぎんだろ」
生徒たちは、武藤の名にビビっていた。
「あら、なかなか悪くない男じゃない」
レイカは楽しそうに笑っている。
「レベルはともかく、総合力500は人間じゃないでしょ……」
マイが呟く。
「俺は4388あるよ、総合力」
「え?」
「冗談だ」
「いや、分かるよ。というか、何その冗談」
マイが「変なの」と笑う。
(本当は冗談じゃないんだけどな)
ソウマは改めて自分のステータスが規格外だと自覚した。
「帝栄は実力主義だって聞いたがウソだったのかよ? えぇ? おい!」
武藤がドスを利かせた声で言う。
「本当よ。そして、PTを組むことすらできないあなたには実力がないと言っているの」
「分からねぇ女だな。俺は1人で十分だって言ってんだ」
武藤は引き下がらなかった。
それどころか、ズボンのポケットから武器を取り出した。
ドリルのように突起したナックルだ。
「本当に実力主義って言うなら、俺と勝負しろよ。俺があんたに勝ったら、特例として俺の入学を認めてもらう」
女教師はため息をつくと、レイピアを抜いた。
「仕方ないわね、受けてあげるわ。ルールはどちらかが負けを認めるか、もしくは死んだら終わり。フィールドはここ。それでいい?」
「ああ、いいぜ――おい、誰か戦闘開始の合図をしてくれ」
「そんなの不要よ」
女教師はコインを取り出した。
「今からこのコインを指で弾く。コインが地面に当たったら戦闘開始よ」
「いいだろう」
「いくわよ」
女教師がコインを弾く。
その瞬間、武藤が突っ込んだ。
「おい! 武藤の奴、まだコインが地面に当たっていないぞ!」
別の生徒が叫ぶ。
「馬鹿が! 戦闘が始まる前に動いちゃいけないってルールはねぇ! 素直に掛け声で始めりゃいいのに馬鹿な女だぜ!」
武藤は凄まじい速度で距離を詰める。
コインが地面に当たる前には、既に拳が届く距離まで迫っていた。
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