015 一次試験
8月1日――。
「ここが帝栄冒険者学校か。普通の見た目なんだな」
ソウマは帝栄冒険者学校に来ていた。
学校は東京の一等地にあり、大きさは東京第四冒険者学校と変わりない。
ただし、外観は比較にならないほど煌びやかで高級感が漂っていた。
(それにしても……)
ソウマは自分の格好を見た。
東京第四冒険者学校のブレザーを着ている。
(この格好だと新しい学校って感じがしないな)
ソウマだけでなく、他の生徒も通っていた学校の制服を着ていた。
ぞろぞろと学校に入っていく生徒たちを見て、ソウマは思った。
(というか、思ったより生徒の数が多いな。てっきり20人くらいしかいないと思っていたが、この様子だと100人以上いるんじゃないか)
ソウマはスマホを取り出した。
事前に指示された帝栄専用のアプリを確認する。
集合場所が表示されていた。
(二階のAフロアって……ここか)
ソウマは他の生徒と同じように校舎へ入り、指定のフロアにやってきた。
(多過ぎだろ! なんだこの数!)
フロアには、100人どころか500人近い数の生徒がいた。
誰もが自信に満ちた顔をしている。
「お!」
ソウマは知り合いを見つけた。
「マイじゃん!」
「え? ソウマ!?」
この中で唯一同じ制服を着ている生徒・逢坂マイだ。
「久しぶりだな。転校すると言っていたが、まさか帝栄だったとは」
「というか、ソウマのほうこそ推薦もらえたんだ? 実力的には妥当だけど、締め切りが厳しかったんじゃない?」
「ギリギリだったよ」
「というか、すごい数よね。帝栄の卒業生って例年30人くらいだって話なのに」
「今年から方針が変わったのかな?」
二人が話していると、フロアに担当の女教師が入ってきた。
上は軍服を連想させるジャケットで、下は短めのスカート。
黒のストッキングにヒール靴と、大人のフェロモンが漂っている。
細身の剣――レイピアを腰に装備していて、その目は鋭い。
「入学おめでとう……と言いたいところだけど、制服が支給されていないことからも分かる通り、君たちはまだ我が校の生徒ではない」
女教師が開口一番に言った。
「え? どういうこと?」
マイが小さな声で呟いた。
「これから君たちには二つの試験をこなしてもらうわ。二次試験を突破できたら、晴れて我が校に入学できる」
「入試があるの!?」と、驚くマイ。
「どうやらそうみたいだ」
他の生徒からも「聞いていないぞ」という声が上がる。
そういった不満の声を全て無視して、女教師は話を進めた。
「では一次試験として、30分以内に4人PTを作ってもらう。ジョブなどの制限は何もない。ただし、必ず4人でなければならない。誰と組むか決めたら、帝栄アプリでPTの登録を行うこと」
「誰でもいいなら簡単じゃない」
マイが笑みを浮かべた。
他の生徒も同様の反応を示している。
「先に言っておくと、今回組んだPTで今後は活動してもらう。一般的な冒険者学校における〈結成式〉のようなものだと思ってもらいたい」
「ちょ! そんな大切な相手を30分で決めないといけないの!?」
驚愕するマイの隣で、ソウマは冷静に思う。
(PTメンバーにこだわりはないし、一次試験は楽勝だな)
「必要なことは伝えたわ。質問は受け付けない。それでは、始め!」
女教師が手を叩く。
「俺は札幌にある私立流星冒険者学校の浜渡! ジョブはウォーリアー、レベルは4、総合力は390だ!」
「私は岡山第一冒険者学校の早見よ! レベル4のウォーリアー!」
「拙者は伊賀冒険者学校の服部! ジョブはウォーリアーでござる!」
生徒たちは大急ぎで自分の名前、ジョブ、総合力を言い合う。
(冒険者として活動するには強さだけじゃなくて相性の良さも大事。でも、30分で最高の相手を三人も見つけるなんて無理! どうしよう……!)
マイは胸に手を当てて不安になりながら周囲を見る。
「マイ、俺とPTを組もう」
そんな彼女に、ソウマが声を掛けた。
「え? いいの?」
マイは驚いた。
(ソウマからしたら私は圧倒的な格下なのに……)
「もちろん。残り二人は能力より協調性の高い奴にしよう。気弱なイエスマンっぽい奴を探しておいてくれ」
そう言うと、ソウマは女教師の方に向かって歩き出した。
「分かったわ……って、どこ行くの!?」
「俺は先生に質問があるんだ。PTの件は任せるよ。すぐに戻るけど、できればそれまでに済ませておいてくれ」
「質問って……まぁいいわ」
マイは下を向いてニヤける。
(二次試験はきっとPTでの実力が問われる。でも、ソウマが同じPTなら万に一つも落ちることはない。だってアイツは最強なんだから!)
マイは笑顔で残りのメンバーを探した。
◇
「すみません、質問いいですか?」
ソウマが女教師に話しかけた。
付近の生徒が興味深そうに眺めている。
「ダメよ。最初に言ったでしょ? 必要なことは全て伝えたと」
「試験のことじゃなくて、別の件です」
「別の件?」
「お祝い金っていつ振り込まれますか?」
ソウマはスマホの画面を見せた。
銀行のアプリが開かれており、預金残高が表示されていた。
残高は1万3500円しかなかった。
「今日中に入らないと利息の支払いについて考える必要があって」
「利息って……君、借金をしているの?」
「俺ではなく親が。それで、さっきの説明ではお祝い金に触れていなかったので質問に来ました」
「たしかに話さなかったわ。こちらの落ち度ね」
女教師は素直に非を認めると、ソウマの質問に答えた。
「入学が決まったらすぐに振り込まれるわ。だから今は試験に集中しなさい」
「分かりました。それでは」
ソウマはスタスタとマイのもとへ戻った。
(このタイミングでお祝い金について訊くなんて変わった子ね)
女教師は不思議そうにソウマの背中を見つめる。
「なんだよ、金の話か」
「最初から卒業まで耐えられる自信がないんだろ」
「アイツはダメだな」
話を盗み聞きしていた連中は、誤解してソウマを見限る。
その様子を見て、女教師は鼻で笑った。
(分かっていないわね。こんな状況でも冷静でいられる彼のような人間こそ期待できるのよ)
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