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011 交通事故

 トラックに追突されたとき、ソウマは反射的に呟いた。


「さすがに痛いな……!」


 ソウマは無事だった。

 通常だとモザイク処理がかかるレベルでぐちゃぐちゃになるだろう。

 しかし、高い総合力によって、「いてぇ」と言う程度に留まっていた。

 当然ながら吹き飛ばされることもなく、横断歩道の真ん中にいる。

 しっかりと幼女を守っていた。


「お兄ちゃん……あのね、あのね……」


 幼女が涙目で言う。


「大丈夫、俺なら無事だよ」


「そうじゃなくて、大きな車が……」


「ん?」


 ソウマが振り返ると、そこには大破したトラックの姿があった。

 まるで壁にでも突っ込んだかのように、フロントが激しく凹んでいる。

 幸いにも運転手は無事だ。


 ソウマは幼女を立たせた。


「一人で歩ける?」


「うん! ありがとー、お兄ちゃん!」


 幼女は涙を拭き、笑顔で走り去る。


「そっちも大丈夫そうで何よりだ」


 ソウマは運転手の男に言った。


「ど、どうして……」


 男が顔を真っ青にしながら呟く。


「これでも冒険者学校の生徒なんでね」


「冒険者学校に通うとスーパーマンにでもなれるのかよ……。それより、扉を開けてくれないか? さっきの衝撃で壊れちまった」


「はいよ」


 ソウマは運転席の扉を開けた――というより、剥がした。

 割れた窓を手で掴み、べりべりっと。


「すげぇ……」


「他に何か手伝うことは?」


「いや、問題ない。ありがとう。そっちも無事でよかった」


 ソウマは頷くと、静かに去ろうとする。

 それを運転手の男が止めた。


「このこと、警察には言わないでもらえるか? 会社に知られたら、俺……」


「言わないよ。俺も女の子も無傷なんだ。おおごとにする必要はない」


「ありがとう……! 本当にありがとう!」


 ソウマは頷くと、その場を後にする。

 周囲の人々が拍手喝采を送り、彼の勇気ある行動を褒め称えた。


 ◇


 その夜、ソウマは眠りにつき、いつも通りミストリアに行った。

 イカ臭い宿屋の一室から始まったので、浴室で体を綺麗にする。


 それからミストリアについて図書館で調べた。

 周辺の地理だったり、この世界の文明だったりを学ぶ。


 満足したところでギルドに行った。


「ソウマ様、こんにちは!」


「どうも、マリーダだよね?」


「はい! 名前を覚えていただきありがとうございます!」


 受付カウンターで、受付嬢のマリーダと他愛もない話をする。


「そういえば、エレナ様から伝言を預かっております」


「俺に?」


「はい。『待っていても来ないので、一人でクエストを受けます! ソウマさんのばーか!』らしいです」


「なるほど」と、苦笑いのソウマ。


「ずいぶんと仲良くなられましたね」


「ああ、マリーダのおかげだよ」


「私の?」


「エレナのPTに参加する機会を与えてくれた」


「それが仕事ですから」


 マリーダが微笑む。


「俺もソロでクエストをするよ。別のPTに入ってもいいけど、なんとなくエレナが嫌がる気がするんだ」


「ふふ、乙女心を理解されていますね」


「面倒なことに敏感なだけさ」


 そんなわけで、ソウマはソロでクエストを受けた。

 少し離れた荒野で、レベル8の魔物を数十体狩るクエストだ。


 ◇


「おら! 〈ライトニング〉! そこだ! あちょー!」


 目的地の荒野で、ソウマは狩りを満喫していた。

 覚えたての魔法を駆使しつつ、剣で敵を切り裂いていく。


「ギャアアアアッス!」


 人型のサボテンモンスター・サボテンマンが悲鳴を上げて絶命する。


「魔法って思ったより連発できるものなんだな」


 ソウマは視界に映るゲージに注目した。

 HPの下に、新しくMPゲージが追加されている。

 魔法を覚えたことで表示されるようになった。

 今はどちらのゲージも半分近くまで減っている。


「回復しておくか」


 道具屋で買ったポーションを飲むことにした。

 見た目は試験管のようなガラス製の瓶に入った液体だ。

 液体の色は赤と青の二色があり、赤がHPを、青がMPを回復する。

 コルクの蓋を親指で弾き飛ばすと、ソウマはポーションを飲み干した。


「苦ッ! まずっ!」


 思わず吐き出しそうになる酷い味だった。

 しかし効果は申し分なくて、二つのゲージがぐんぐん回復していく。


「次はもう少し美味いポーションを買おう」


 道具屋には飲みやすく味付けされたポーションも売っていた。

 ただ、同じ効果なのに割高だったので、ソウマはゲロマズ版を買った。

 失敗だった。


「なんにせよ回復したのはたしかだ! もういっちょ頑張るぜ! うおおおお! 〈ライトニング〉!」


 ソウマは日が暮れるまで狩りに励んだ。

 その結果、彼のレベルは8から10に上がった。


-----------------------

【ジョブ】剣士

【レベル】10

【総合力】2186

-----------------------


 地球だとベテランの冒険者に匹敵する強さだ。

 だが、ソウマにとっては始まりにすぎなかった。


 ◇


 次の日――。

 週明けの登校日がやってきた。


(今日はPT訓練だ。楽しみだな)


 ソウマは起きると、ウキウキした気持ちで顔を洗った。

 PT訓練は、生徒同士でPTを組んでダンジョンに挑むというもの。

 週に二度ほど行われており、生徒が最も好む実戦形式の訓練だ。


 ソウマはPT訓練が嫌いだった。

 自分の無力さを痛感し、皆に疎まれるからだ。

 だが、それも過去の話である。


(今日は学年1位の逢坂(おうさか)マイをはじめ、名だたる優等生たちと組む。そこで活躍して、皆の評価を改めさせてやる! そして、過去に迷惑を掛けてしまった人たちともPTを組んで、今度は俺が引っ張ってやるんだ!)


 ソウマはやる気に満ちていた。

 そんな彼の後ろ姿を眺めて、母・ナミエが微笑む。


(この数日は本当に楽しそう。彼女でもできたのかしら?)


 ソウマは顔を拭くと、ナミエと二人で朝ご飯を食べた。

 質素な和食だが、愛情がたっぷりで美味しい。

 綺麗に完食すると、制服に着替えて剣を装備した。


「行ってくるよ、母さん。今日はバイトだから遅くなるよ」


「気をつけてね」


「もちろん! ようやく俺の物語が幕を開けたんだ!」


 ソウマは上機嫌で家を飛び出した。

 すると、すぐ外に四人の警察官がいた。

 その奥には二台のパトカーが縦に並んでいる。


「君、神代ソウマくんだね?」


 警察官の一人が言った。

 周囲の住民が、なんだなんだと遠巻きに眺めている。

 ナミエも家から出てくる。


「そうですけど……」


「あの、ウチの子に何か?」


 ナミエが不安そうに尋ねた。

 警察官はその言葉を無視して、ソウマに言う。


「話を伺いたいから、一緒に署まで来てもらえるかな?」


 疑問形だが拒否権はなく、ソウマはパトカーで連行された。

 幕を開けたばかりの物語に、早くも暗雲が立ちこめるのだった。

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