倍々おっぱいの呪い
「ねえ、助けてほしいんだけど……お、お願いできますか。」
男は振り向き、戸惑った顔で彼女を見つめる。
「ど、どうしたんだい。そんなに汗だくで……」
「ちょっと言いにくいんだけど。私、ある呪いをかけられちゃって……5分ごとにおっぱいが分裂するの。」
彼女は必死の形相でそう告げる。
「お、おっぱいが……分裂……?」
男は驚いた表情で言葉を詰まらせる。
「そう。もうどうしようもなくなってきて。頼むから……揉んでくれない?」
恥ずかしそうに言う彼女に、男は目を見開いている。
「え、本当に……いいのかい?」
その問いかけに、彼女は小さくうなずく。
「変な呪いでね。私が触ってもダメなの。誰か男に揉んでもらわないと、2つに戻らないんだ……」
彼女の声は震えながらも切実だった。
「そ、そんな妙な呪いがあるなんて……。じゃあ、失礼するよ。」
男はおそるおそる、そっと手を伸ばす。
「……これでいいのかな?」
あまりにも不思議な光景に、道行く人々が振り返っている。
「うん……ありがとう……!」
揉まれた瞬間、まるで何かの歯車が噛み合ったように、あふれかえっていた乳房がシュルシュルとひとつにまとまっていく。
彼女は安堵の息を吐く。
「助かった……」
――そして5分後。
彼女の胸は再び倍になっていた。
「う、嘘でしょ。もう分裂しちゃった……どうしよう……」
周囲にいた別の男性が訝しそうに近づく。
「いったい何が起きてるんだ?」
彼女は真っ赤な顔で事情を説明する。
「すまないんだけど……あなた、揉んでくれない?」
そう言われた男は、最初こそ驚いていたものの、彼女の必死の様子に押されて胸に手を当てる。
「なんだか夢みたいな話だが……これでいいのか?」
彼女は申し訳なさそうに目を伏せる。
「お願い……すぐに分裂しちゃうの……」
揉まれた胸は再び普通の状態へと戻る。
ホッとする彼女の前で、揉んだ男は呆然と手を見下ろしていた。
「本当に元に戻るんだな……」
――さらに5分が経過する。
「また……増えてる……。次は誰か……」
かろうじて人通りのある場所に移動し、彼女は必死の形相で次々と声をかける。
「すみません、揉んでください……!」
「は、はい?」
慌てて手を伸ばす男たち。
「なんというか……悪い気はしないが、こんな呪いがあるとは……」
彼女は恥ずかしさをこらえ、何とか乗り切っていた。
だが、同じ男は2回揉んでも効果がない。
そのため街の男性を片っ端から探し、揉んでもらう必要がある。
――1時間後。
町の大通りを歩く彼女の胸は、とうとう四千九十六個に分裂していた。
「ねえ、誰か……! まだ揉んでくれる人いない……?」
もうあちこちで揉まれ尽くしたせいか、新しい男は見当たらない。
「もうほとんど……誰も……」
そんな中でも、必死な彼女の姿に寄ってくる男性はまだいた。
「俺、まだ揉んでないよな?」
「ええ、ぜひ……お願い……」
――2時間後。
男たちが多く集まる市場へ移動してみても、あまり状況は好転しない。
呪いの勢いは止まらず、胸は千六百七十七万七千二百十六個に増えている。
「誰もがうわさを聞きつけて……次から次へと揉んでくれたけど……」
彼女は息も絶え絶えに独りごちる。
「でも……もうすぐ揉んでくれる人がいなくなる……どうすればいいの……」
――3時間後。
裏通りへ足を運んでも、驚きと戸惑いを抱きながらも彼女を手助けする男性がいたが、追いつくわけもなく、胸は六百八十七億千九百四十七万六千七百三十六個に到達していた。
あふれ出した乳房が道いっぱいに広がり、人々はそれを乗り越えながら歩かなければならない。
「もう……いや……どこを歩いてもおっぱいだらけ……」
――4時間後。
彼女の胸は二百八十一兆四千七百四十九億七千六百七十一万六百五十六個。
城の広場に移動してみるが、すでに男たちは疲れ果て、かつ彼女に協力したことのある者ばかり。
「同じ人には……効果がないっていうのに……」
呪いは止まるどころか加速するように膨れあがり、目が眩むほどのおっぱいが世界を覆い尽くさんとしていた。
――5時間後。
絶望的なまでに増殖したおっぱいは百十五京二千九百二十一兆五千四十六億六百八十四万六千九百七十六個。
町も森も海も山も埋め尽くしてしまい、人々は胸の波に飲み込まれるように必死でもがいている。
「……もう、どうしようもない……」
彼女は呟くが、その声すらおっぱいの壁にかき消されるように届かなかった。
その後、彼女を助けようとする男がどれだけいても追いつかず、世界はおっぱいで完全に満たされてしまった。