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アモウデス

家を出て鞄から杖を出し魔力を注ぐ。そうして空中に浮かびあがった杖に乗って、木々に囲まれた山を下りる。木々が少しずつ減って歩道が見え始めたところで杖から降りて鞄に戻し歩く。

程なくすると町が見え始めた。魔力を持たない多くの人々が住まう国、アモウデスだ。


お婆さんが暮らしていた家は何故かこのアモウデスの国境内だった。少し進めば火焔の魔法使いが住まう国の領土に入るギリギリの位置に家を建てて暮らしていたのだ。火焔の魔法使いだったお婆さんがわざわざアモウデスに住んでいた理由は謎だが、今はそんなことはどうでもいい。


私がアモウデスに来た理由は一つ。人を雇うためだ。


魔力を持たない人々は魔法使いを恐れている。そのため、一人で旅をすることがほとんどない。つまり、一人で旅をしていると十中八九魔法使いだと疑われる。

魔法使い達の住む国では問題ないかもしれないが、道中魔力を持たない集団の旅人に会えば、絡まれるのは目に見えている。彼らにとって、魔法使いは魔物と大差ないのだ。


避けられる面倒ごとは避けるに越したことはない。私はアモウデスの中心街にある一番大きなギルドへと足を運んだ。


ギルドの中はまだ昼間だというのに薄暗く、天井に取り付けられた橙色のランプが室内を照らしていた。私は羽織っていたマントのフードを深く被り顔を隠す。

あちこちに木製の椅子やテーブルがある室内は、どことなく酒場のような雰囲気を醸し出している。壁に備え付けられた掲示板には依頼や報酬、腕の立つ人間を募集するポスターがいくつも貼られていた。その中のいくつかには魔物討伐と共に魔法使い討伐の依頼も貼られていて、無意識に唾を飲み込む。


「ご用件をどうぞ」


カウンターに立つ女性がこちらに気付き声をかける。


「人を雇いたいのですが」


声をかけた女性に言葉を発しながらカウンターに近付く。女性は笑顔を崩さないままこちらの動向を観察しているようだった。


「人数はどうされますか?」

「とりあえず一人でお願いします」

「お一人ですか?」


それまで表情を崩さなかった女性の瞳がほんの少し鋭くなるのを感じた。恐らく聞き耳を立てていた周囲の人間もそれに気付いている。室内に緊張が走る。


「はい。お金をあまり持っていないので。それにたくさん雇うのも怖いですし、このギルドで一番強くて信頼できる人をお願い出来ませんか?」


それに気付かない振りをしたまま、動揺することなく答えれば、女性は顎に手を置き、何かを考えるように「なるほど」と呟いた。


「ですが、生憎当ギルドで一番腕の立つ者は依頼中ですので、すぐには難しいです。それに、その者一人

雇うのに結構な額を頂きますので、それよりはそこそこ腕の立つ者を数名雇われた方が良いかと」


こういうお願いはよくあるのか定型文のように淡々と話す女性は、今すぐ雇える人間のリストを持ってきた。しかし、実際に身を守ってもらう必要のない私はそのリストを手に取り、どうするべきか思案した。


雇うのは一人にしたい。あまり多く雇うと私が魔法使いだとバレた場合、結託してしまう可能性がある。けれど今私がこのリストから一人だけ雇うとなればこの女性は私を怪しむだろう。このギルドで一番強い人間を希望したのに、そこそこの人間を一人だけ雇うなんてあまりにも不自然だ。いくら信用しきれていないからといって、最低でも二、三人は雇うと思っているだろう。


なんたってここはアモウデスで一番実績と信頼のある大きなギルドだからだ。


「うーん、少し考えさせてもらってもいいですか?」


仕方なく私は、納得のいかない客を演じて店を出ることにした。ここほどではなくともギルドは他にもある。一番裏切らない人間がいそうなのがこのギルドだったというだけだ。リストを女性に返すと「分かりました。またお待ちしています」と特に疑った様子もなく笑みを携えていた。


早くここを出よう。そう思い、踵を返そうとした時に背後から声がかかった。


「それなら俺が護衛しますよ」


春の風のような涼やかな声だった。その言葉に私が振り返る前に受付の女性が目を丸くして声をあげた。


「貴方は……」


振り返った時に目の前にいたのは、金髪の青年だった。柔らかな橙色の照明に照らされてきらきらと輝く艶やかな髪は宝石みたいで、さらりと前髪がかかるその瞳は青空の一部を埋め込んだように澄んでいて誰もが目を引く外見だ。


「どなたですか?」


そう尋ねれば青年は優雅な笑みを携えたまま紳士的に腰を折って一礼した。


「こんなところでお会いするとは思いませんでしたご令嬢。顔を隠されていても私には分かりますよ。相変わらず平民の振りがお上手だ」


口を挟む隙すら与えない饒舌さに、先程まで警戒していた私の頭は困惑で思考が停止してしまった。彼は一体何を言っているのだろう。


「リン、彼女の護衛は俺がしてもいいかな?」

「あ、はい。それはもちろん大丈夫です」

「横から依頼をかっさらってしまって悪いね」

「いえ、元々こちらも条件が合わずお受けできませんでしたからお気になさらず」


呆気に取られている内に話がまとまってしまっていて、ハッとなった時には青年に手を取られていた。


「さあ行きましょう。今の貴方は平民なのですからこれくらいの無礼は許してくださいね」

「え、あの、ちょ」


抵抗しようと思ったものの周囲にはまだ人が大勢いる。ここで魔法を使うのはあまりに私に分が悪い。そう思った私は特にこれといった抵抗はせず彼についていった。


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