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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第二章 ケステル共和国
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第7話 理由はそれぞれ

今回もミヤ視点でスタートです

 セキはシフトという銀髪の少年を助けたことで、「フェニックス」というお店に招かれたらしい。

言霊があるのかもしれない…

そう私は考えていた。かがされた薬の影響がかすかに残っていたのもあったが、彼の言葉には暖かさと強い意思を感じた。本当は求めてはいけない暖かさだけど、悪くないかもしれない。そう思って、一緒に旅することに同意したのである。

「いらっしゃい!!」

店員の声が響く。

「えっと、シフト君に招待されたんですけど…。」

「ああ、シフトのダチかい。…奥の席で座って待っていてくれ。」

セキの台詞(ことば)を聞いた店長が、奥の席を案内してくれた。

どうやらこの「フェニックス」というお店は夕方から夜間営業のカフェらしい。席につきしばらくすると、先程とは違うと思われる服装をしたあの少年が入ってきた。

「待たせてごめんなさい!なかなかすぐには片付かなくて…」

「全然大丈夫さ。それより、このパスタとスイーツ本当にタダでいいのか?」

「いいのいいの!昼間のお礼なんだから!」

私とセキは4人くらい座れる席に座っていたのだけれど、テーブルいっぱいのパスタとスイーツを運んできて、無料で食べて良いという。

「それに、お姉さんもひどい目に遭って疲れているだろうし…どんどん食べてね♪」

 相変わらず表情は読み取れないが、身長から見るにまだ15~16歳くらいの少年だろう。ナイフを持った相手を一発でねじ伏せた所を見ると、格闘家のようだ。

しかし、亡失都市トウケウを脱出して以来何も食べていなかったので、無我夢中で食べ始めた。

「お姉さん、よく食うね…」

「ミヤ、君ってもしかしてやせの大食い?」

二人の視線を感じた。

大食いといえば、そうかも…と思い、その場でうなずいた。

「では、改めて自己紹介を。僕はシフト・クレオ・アシュベル、16歳です。このたびは、・・・えっと…」

「セキ・ハズミ」

「ミヤといいます」

「セキさんには仕事前のお世話になり、ミヤさんには被害者だけどこちらの仕事にご協力して戴き、本当にありがとうございました。僕個人と、そしてギルド「アズ」を代表して、二人にお礼申し上げます」

「セキでいいよ」

「私も、呼び捨てで大丈夫です」

「じゃあ、セキにミヤ!!」

シフトは私達を見つめてから口を開く。

「2人は恋人同士なの?」

「ゲホッ!!!」

 その拍子に、私は喉をつまらせる。

一方でセキが―――――――――

「いやいやいや、まだ知り合って間もないから!」

私も、何を言い出すのかと思ったくらいだ。

「でもね、セキはミヤを助けるのに必死だったよ?後先考えずに、「ミヤ~!」って叫びながらつっこんでいきそうな勢いしていたし!」

私の耳の側でシフトが言う。

そうだったんだ・・・

何故か胸が暖かくなったような、不思議な気分だった。


「そういえば、身分証明書を見るからに、シフトは旅人だよな?この国での滞在可能期間って最大何日間だっけ?」

「あ~・・・」

「最大で7日間だぜ。」

黙り始めたシフトに対し、最初にセキが声をかけた店長らしき人物がやって来た。

「おい、シフト!少しの間、片付け作業代われ」

「・・・うん、わかった!」

シフトが厨房の方へ歩いていった。

「あいつの友達ねぇ・・・。バルデン族の嬢ちゃんと、コ族の坊ちゃんが」

「あなたは・・・?」

「ああ、失礼。仕事柄、人間観察をついしちまうもので。俺はアロンド・ヴァン・ココリエ。2足のわらじで生活している、シフトの育ての親みたいなものだ」

「実の親子ではないって事ですか?」

気になった私はアロンドさんに問う。

「まぁ・・・な。あいつはちょっと訳ありで、路頭に迷っていた所を俺が見つけてギルドとこのカフェにて住み込みで働かせているんだ」

 わけあり・・・か。シフトを初めて見たとき、何か人間とは思えないような“気”を感じた。彼自身は普通の少年に見えるが・・・なんだったのかな?

「・・・もしかして、彼は滞在可能期間を超えて滞在しているんですか?」

セキが言う。私もそれが自然なのではと思えてきた。

「・・・ここだけの話なんだが・・・。知り合いで政府の国民管理部に勤めている奴がいるんだ。そいつに頼んで、実際は旅人のままで戸籍登録をした「フリ」をしている。・・・他言無用だからな」

「わかってます」

私とセキは、そろってうなずいた。


「片付け、終わったよ!」

片付けをしていたシフトが厨房から戻ってくる。

その夜は4人で語ることで朝まで過ごした。シフトは旅人だけどケステル共和国を出たことがないらしいので、旅の話で盛り上がる。アロンドさんと私は、楽しそうに話すシフトとセキの話を聴いていた。

まだ互いが知り合って間もないのに、こんなに打ち解けて話せたのは何年ぶりかな・・・。セキの存在が皆を安心させているのかな?

話を聞きながら、私はそんな事を考えていた。

朝方、話し疲れたセキとシフトはうつ伏せになって眠っていた。眠れなかった私は、厨房に戻ったアロンドさんの元へ向かう。

「やぁ、嬢ちゃん。起きていたのか」

「はい・・・」

その場でうなずく。アロンドさんは手を動かしながら私に話しかけてきた。

「・・会って間もないのに、あいつがこんなにも打ち解けられたのは…坊ちゃんや嬢ちゃんのおかげかねぇ・・・」

その台詞(ことば)に対し、特に私は何も返さなかった。

「はは、嬢ちゃんはおとなしい奴だね。実は、さっきまで考えていたんだが・・・。あいつ・・・シフトを、あんたらとの旅に連れて行ってやってくれないかな?」

「え・・・?」

「・・・こんな事を頼むのは、かなりずうずうしいのはわかっている。ただ、記憶喪失を治すには世界を旅して、いろんなモノに触れることが大事だと思うんだ」

「・・・彼がいなくなってしまい、それでいいのですか?・・・血はつながっていないとはいえ、あなたの息子でしょう?」

私も父しかいない身なので、何故自ら離れるような真似をしようとするのかが気になった。

「いいんだ、俺は。もう年だからカフェとギルド経営という2足のわらじで生活していくのはきつくなってきた。・・・どちらか1つを残すとしたら、俺の・・・死んだ妻が遺したこの店を残すのが一番良いと考えるようになった」

旅人が旅する理由がいろいろあるように、親がどのように子供の事を考えているかも人それぞれなのだ。

私の父は、私のことをどのように考えてるのかな・・・

私はその場で考え込んだ後に、口を開く。

「セキにも話してみます」



 目を覚ますと、すっかり朝になっていた。昨夜は4人でずっと語りながら過ごした。最も、しゃべっているのはほとんど俺とシフトで、ミヤとアロンドさんは俺たちの話を聴いているかんじだったが―――――――――――

「あれ?父さ~ん??」

自分と同じように目が覚めたシフトは、そう言いながら厨房の方へと歩いていった。

「おはよう、セキ」

「ああ、おはよう」

自分の目の前にはミヤがいた。

「よく眠れた?」

「ああ。でも、うつ伏せで寝ていたから、首筋が痛いや」

クスッとミヤは笑い、その後、真面目そうな表情になって言った。

「突然こんな相談をするのもあれなんだけど・・・シフトを私達と一緒に連れて行くことってできないかな?」

「俺はいいけど・・・どうして?」

一緒に旅する仲間が増えるのはとても喜ばしい。

でも、シフトにはアロンドさんがいるので、何故それを言い出したか気になった俺に、彼女はアロンドさんと2人で話していた内容について語ってくれた。

「俺が寝ている間にそんなことがあったんだ・・・」

「なんでこんな気持ちになったのかわからないんだけど、なんか・・・シフトの記憶が戻って本当の両親や家族の事を思い出せれば、彼も不安な気持ちにはならないかなって思ったの」

出会った頃のミヤは自分の気持ちや感情を表に出そうとしなかった。

そんな彼女が、俺やシフトに対して感情を表に出していることに不思議なかんじはしたが、ミヤも女の子だなと思うと、少し安心した。

「ミヤ!セキ!」

シフトが厨房から戻ってくる。

「格闘技の師匠でもある父さんが、修行の一環として君たちと一緒に旅をしろ・・・って言ってきた」

アロンドさんがシフトをどのように行かせると思ったが・・・確かに、それが自然な理由かもしれない。

「やっぱり、アロンドさんが格闘技の師匠だったのね」

「やっぱり・・・?」

「彼は数年前、ギルド所属者の間で有名な凄腕の格闘家だったのよ」

全然知らなかった・・・。

ミヤの台詞(ことば)を聞いて、俺は完全に呆気にとられていたのであった。


 俺たちが外に出たとき、ゼーリッシュにある多くの店がオープンし始めていた。その中でアロンドさんがセキに言う。

「・・・身体に気をつけろよ」

「うん!・・・いってきます、父さん!」

そう言ったシフトは俺たちの元にやってくる。

俺とミヤはアロンドさんにお辞儀をして、ゼーリッシュの街を歩き出した。

シフトは「旅に出ろ」と、言われてどんなことを考えているのだろう・・・。

「そういえば、”マカボルン”の手がかり、次はどこに探しに行くの?」

シフトは変わらず無邪気な表情で俺に問いかけてきた。

「じゃあ、歩きながら話すよ」

3人で話しながらゼーリッシュの街を後にする。

仲間が増えたことで、旅の楽しみが増えたのがすごく嬉しかった。しかし今後、かつて経験した事のない出来事に遭遇する事になろうとは、この時は微塵も思っていなかったのである。


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