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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第二章 ケステル共和国
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第6話 瞬時の対応

闇オークションも終盤に近づいてきた。落札された後に沈んだ顔をして売られていく人達を見ていて、複雑な気分になる。

他のバイト達が噂していた最後の「モノ」の順番になろうとした時、俺に対して客の一人が声を掛けてくる。

「飲み物を戴けないかね?」

「あ、はい!」

飲み物を渡すと、何も言わずに席へ戻っていく。

その男は黒い帽子をかぶり、髪が腰近くまで伸びていた。

 …どれだけ髪が長いんだよ

とか一瞬思ったが、 その男が金持ちなのはすぐに気がついた。全体が純金で所々に宝石がはまり、一番大きいサファイアの中に紋章が刻まれている――――そんな腕輪をしていたからだ。

 でも、あの腕輪どこかで…?

「それでは、最後の商品をご紹介します!民族としては、魔法大国ミスエファジ ーナ原始の民・バルデン族の少女!!」

腕を組んで考え込んでいたが、司会の言葉を聞いて、俺の心臓が強く脈打つ。

ミヤもあの漆黒の瞳を除くと、白い肌と赤みがかった茶色い髪――――――バルデン族の特徴を持っていたからだ。

「歳は18と若く、鑑賞用でも中身を売り飛ばすも、なんでも有りです!…それでは、ご覧戴きましょう!!」

近くに運ばれた鳥籠の形をした檻のベールが取られようとしていた。

不気味な仮面を被ったステージガールがベールとなっている布を外すと、人間一人入れそうな檻が出現する。そこに入れられていたのは、青いドレスを着て、腕を縛られていた女性・ミヤだった。

一瞬目を見張ったが、あの周りを見えているようで見えてない漆黒の瞳…間違いない!!

「ミ……!!!!」

彼女の名前を叫ぼうとした途端、背後から口を塞がれた。

「それでは、4000ナノから始めましょう!」

司会者の合図の後、競り合いが始まった。

口を塞がれて後ろの柱に引きずり込まれようとした際に反射的に相手の手を振りほどき、そいつの首筋に掌を寄せる。

「君は…!!」

「しっ!」

俺の口を塞いでいたのは、この空き家の地下に入る時に旅人用の身分証明書を渡してあげた少年…シフトだった。彼は小声で言う。

「大丈夫。あのお姉さんはちゃんと助かる。だから、ここで待ってて…!」

「っ…!?」

どういう事か聞きたかったけど、シフトは身軽な足取りでその場を離れていく。


硬いレバーが落ちたような音と共に、薄暗かった会場の照明が急に明るくなった。何が起きたのかと、参加者達がざわめく。

「静かにしてください!!!!」

シフトが客席の後ろから叫ぶ。

「我々は、ケステル共和国直属のギルド『アズ』の者です!!この会場はすでに、包囲されています!」

周りを見ると、アルバイトに扮していた男達が皆、銃や剣を持って会場内を取り囲んでいた。

「窃盗容疑及び違法な物品の売買!そして人民権の侵害により、城までご同行願います!!!!」

「ふざけるなぁっ!!」

1人の用心棒らしい男がシフトに向かって襲いかかってくる。

ナイフを振りかざす男に対し、彼は瞬時に対応した。腕を押さえつけ、自分より大きい男の腹に一発の当て身が入る。

「がはっ…!!」

その場に男は倒れこんだ。

「尚…反抗する場合はこちらも正当防衛として少し痛い目にあってもらいますので、ご了承ください!」

 …丁寧な口調で怖いよ、少年

笑顔で今みたいな台詞を銀髪の少年が言ったものだから、俺は内心でヒヤヒヤしていた。


 あっという間に事が進み、オークションの参加者及び関係者が連行されていく。知らない間に空き家の周りには政府の兵隊がたくさんいた。

「ミヤ!!」

檻の鍵を手に入れた俺は中に閉じ込められていた彼女を解放し、縄をほどく。

「よかった…!」

そこで俺は彼女の刀を手渡した訳だが、ミヤは自分の身の安全よりも、刀が戻ってきた事に安堵しているようですごく柔らかい笑顔になっていた。

先陣切って叫んでいたシフトが自分はケステル共和国直属のギルドに所属していて、今回大規模な闇オークションを取り締まってほしいという依頼を受けていた。

そして、アルバイトに紛してオークションに潜入することで取引が行われている所を現行犯逮捕しようとしていた事と…ただ一つ、部外者である俺が会場に入ってきたことだけが予想外だと後で話してくれた。

「とりあえず、あの少年が言っていた”フェニックス”という店に向かおう」

ミヤの荷物を取り戻し、元の服装に戻った俺たちは歩き出した。

「…どうして、私なんかを助けたの?」

「特に理由はないよ。ただ…」

疑心暗鬼な表情で問いかける彼女に対し、俺は間をあけながら答える。

「ただ、一つだけ言えるのは、放っておけない…君の力になりたいって思っただけかな」

俺の台詞を聞いたミヤは少し予想外だと言わんばかりの表情をしていた。

「俺からも一つ聞きたいんだけど」

「…何?」

「君はどのような目的で旅をしているの?」

その言葉を聞いたミヤは一瞬黙る。

「人を…探してるの」

「それって大事な人?」

「ええ。その旅の途中でマカボルンの存在を知って…。”願い事を叶える魔石”、…これさえあれば、父の居所もわかるんじゃないかって思ったの」

「そうだったんだ…」

旅人が旅を続ける理由はそれぞれある。

でも、このように具体的に話を聞けたのは初めてだった。

「俺も、自分や…周りの人々のためにマカボルンを探しているんだ。それと、旅は一人より二人の方が楽しいし!ほら、”二人寄れば文殊の知恵”って言うじゃない?」

「”3人”…でしょ?」

わざとボケた訳ではないが、間違えた俺に対してクスクス笑いながらミヤは言った。

「それも…いいかもしれないわね」

その言葉を聞いて俺は叫びたいくらい嬉しかった。

「よろしくね…セキ」

「…ああ…!」

照れくさそうに言うミヤに対し、満面の笑みで答えた俺は、そのままゼーリッシュの街へと駆け出していくのであった。


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