エピローグ
これが本当の最終回です。
こうして、俺達のマカボルンを探す旅は終わった。その後、俺達はそれぞれが持つ本来の生活へと戻る。
ランサーは、本来の勤め先である魔法省に戻り、仕事をしながら育て親であるメスカル校長先生の補助をする事になる。俺としては、異世界“マナ・アトラト”にいる姉・カリユシさんと一緒に暮らすのが良いかと思ったが・・・あの世界におけるあいつやカリユシさんの立場もあり、一緒に暮らすのは辞めたらしい。
そのかわり、俺を含む4人はクリムゾロからマナ・アトラトへ自由に行き来する事を時の精霊タイブレスに許されたため、会おうと思えばいつでも会える。それもあって、ランサーはクリムゾロで暮らす事を選んだのだろう。
ソエルは仲間達が待つ里へと帰り、機械を取り扱う本業に戻る。ただ、移動手段があまりないため幼馴染であるクエンと一緒に多くの国を回り、作った機械を渡したり操作方法を説明したりする仕事に励んでいるらしい。後から聞いた話だが、“一緒に仕事する事”をクエンは喜んで快諾してくれたとか・・・。おそらくクエンは、ソエルの事が女性として好きなのだろう。ただ、彼女にはランサーがいる事を思うと、応援はできなかった。
ミヤは最初こそ旅を続けていたものの、ミスエファジーナのククラス女王の強い薦めで養女としてミスエファジーナの国籍を得た。“実の娘”ではないため王位継承権はないが、ミヤ本人は養女にしてもらえただけで満足しているようだ。最も、彼女は第8代目女王アクト・ファジーナの実の娘なので、この王家に戻ってくる事は、何もおかしな事ではない。
その事実は変わらないため、籍を入れた直後は家臣達からの悪評が多かったが、すぐに収まったという。
そして、俺はというと・・・故郷・レンフェンへ帰り、普通に暮らしていた。いや、普通ではないかもしれない。豆粒くらいのモノだったとはいえ、マカボルンを手に入れたわけだから、父上や兄さんが物凄い喜んでくれたのである。
兄さんからの助言で、民や他の皇子・皇女達には一切話さなかった。そのため、俺がマカボルンを手に入れたという話は、兄さんと侍女のハルカ。そして、父上と臣下のごく一部の者だけしか知らない秘密事項だ。その辺はともかく、周りの人々がすごく嬉しそうな顔で喜んでいる姿を見て、「旅に出てよかった」と、心の底からそう思えたのである。
それから5年後―――――――――――
「セキ!!・・・調子はどうだ・・・?」
セツナ兄さんが俺の部屋に入ってくる。
「あー・・・もう、身体がすごいガチガチなんだけど…!!!」
俺は物凄く緊張した口調で答える。
マカボルンを探す旅が終わってから5年が経過し、俺はなんと皇帝に即位する事となった。
国籍を捨てて旅人になった俺にこんな日が来るなんて思いもしなかったが、この5年間の内にありすぎと言えるくらい、いろいろな事があった。
まず、俺にとって最も衝撃的だったのが――――――父上の死。
俺がレンフェンに戻ってきてから1年後、重い病でこの世を去られた。
享年62歳・・・内乱の後は国の平和を誰よりも願い、叶えようと努めてきた父上の死に対し、俺は激しいショックを受けた。その強いショックの余り、数日間は食事も喉に通らない日々が続いた。しかし、周囲は悲しんでいる暇を与えてはくれなかったのである。
その翌年、流行り病にて皇太子であった皇子が死去。その皇太子には皇子も皇女もいなかったため、当然のようにレンフェン城内は荒れた。
皇位をめぐった派閥争い。父上の死から立ち直れていなかった俺にとっては、皇帝の座なんてどうでも良かった。
しかし、皮肉にも多くの臣下たちが俺に味方するようになり、派閥争いは幕を閉じた。
俺は目を閉じながら、今まであった出来事を思い返していた―――――――
「おい!セキ・・・!!・・・聞いているのか!!?」
「・・・あ、ごめん。兄さん・・・」
呆けていた俺は、セツナ兄さんの呼びかけで我に返る。
「ほら!緊張しているのなら、贈られてきた祝いの手紙でも読んどけ!」
そう言って兄さんは、紙いっぱいの箱を俺の机の上に置いた。
「・・・戴冠式までもう少し時間があるから、それで気を紛らすといいさ」
そう呟いた後、兄さんは部屋から出て行った。
皇位継承の戴冠式が行われるに至って、各国のお偉いさんや個人的な知り合いからたくさん祝いの手紙が届いていた。その中には当然、かつての仲間たちの姿も―――
「お!ランサーからだ・・・!!」
あいつの字とは思えないくらい丁寧な字で書かれた手紙を、俺は手に取る。
「なになに・・・・」
手紙を読んでいくと、そこには驚きの記述があった。
「ランサーとソエルが・・・・結婚!!!?」
驚きの余り、声を張り上げる自分。
こういう事は、戴冠式終了後の宴で話してくれればいいのにー!!
俺は、面白くないような表情で、あいつの手紙を読んでいた。
「失礼致します、セキ様」
「…お!ハルカか!!・・・どうしたんだ?」
セツナ兄さんの侍女であるハルカが、襖ごしに声をかけてきた。
「お客様です」
その台詞を聞いた時、俺はきょとんとした。
「あれ?戴冠式の前って・・・客人を俺の部屋に呼んではいけない決まりじゃなかった?」
そう尋ねると、ハルカの真剣な声音が少し緩んだ。
「わが主セツナ様の計らいで、数分だけですが・・・・」
「・・・誰だ・・・?」
「・・・私だよ・・・!」
その瞬間、聞き覚えのある声が聴こえる。
襖が開いた直後、俺の目の前に現れたのは・・・淡いピンク色のドレスを身にまとい、王族らしい格好をした女性―――――――ミヤだった。
「久しぶり・・・でもないかな?」
「ミヤ・・・!!!」
俺は嬉しさの余り、彼女の側に駆け出した。
彼女に近づいた俺は、挨拶の抱擁を交わす。
「今日はお養母様・・・女王陛下の名代であるトイスト王女の付添として、同行したの。それで、王女が“戴冠式まで時間があるので、挨拶してきなさい”って・・・」
「そういえば、戴冠式の参加者名簿の中に、ミヤの名前もあったね」
「ええ・・・。何だか、今でも不思議なかんじ・・・。だって、今は“ミヤ・ファジーナ”なんですもの・・・!」
そう語るミヤは、とても元気そうだった。
俺はそんな彼女の表情と姿に見惚れながら呟く。
「ミヤ・・・すごく綺麗だよ・・・」
俺の台詞を聴いたミヤは、顔を少し赤らめながら呟く。
「・・・ありがとう・・・。あなたも・・・すごく輝いているわ・・・」
その直後、俺はミヤの唇に口づけをした。
その間、俺達2人はつながっている感覚が嬉しくて、今までよりあついキスを交わす――
その瞬間だけ、時が止まったようなかんじがした。そして、お互いを見つめ合った後・・・
「・・・そういえば、ランサーとソエル・・・結婚したらしいよ!」
「・・・本当に・・・!?」
俺の台詞の後、一瞬だけ間が空いた後にミヤが驚いた。
「全く・・・俺達も今日、あいつらに大発表しようと思っていたのに・・・」
文句を垂れる俺を見た彼女は、クスクス笑いながら言う。
「本当に、先を越されちゃったかんじよね・・・。でも、私達はまだ彼らに教えていないのだから、後で驚かせられるじゃない!」
「・・・それもそうだな・・・!」
俺がフーッとため息をつくと、襖の向こうで物音がした。
「セキ様!・・・そろそろ、お時間でございます!!」
「・・・わかった!今行く」
襖の向こうから聴こえたハルカの声の後、俺はすぐに返事をした。
「私もそろそろ、戻らなくちゃ・・・!じゃあ、セキ。また後でね・・・!」
ミヤはそう言った後、俺の部屋を出てトイスト王女のいる来賓席の方へ戻っていった。
「こちらです、セキ様」
ハルカや他の侍女達の案内の下、俺は戴冠式の行われる会場へ向かう。
式が終われば、自分は皇帝になる―――――会場内にある新皇帝が出てくる入り口の前にたどり着いた時、自分が皇帝になる事を改めて実感した。
シフト・・・。俺は・・・人々を慈しみ、愛する人達を守れるような皇帝になるよう努める事をここに誓う。だから・・・そこで、見守っていてくれ…!
そう固く決意した俺は、会場の入り口から中に入り、自分が背負う冠の側へ一歩ずつ足を踏み出すのであった。
<完>
ついに、『紅の鳳凰』完結致しました!!
ここまで読んでくださった皆様、最後まで本当にありがとうございました!
実際はここまで書くのに半年もかかっていた事に後から気がつき、すごいやりきった感がしてきます。
まさかネットで初めて書いた小説がここまで続くとは・・・
掲載を開始した時は全然思ってもいませんでした。
さて、『紅の鳳凰』はこれにて完結ですが、現在書いている『ガジェレル-Left-』と『ガジェイレル-Right-』はまだまだ続きますので、今後ともよろしくお願い致します。
それでは、また☆