第64話 彼らに遺してくれたモノ
シフトは、アキさんの魂が存在していたマカボルンと共にあの世へと旅立った。
あれだけマカボルンを求めていたのに、今は気持ちがすっきりして落ち着いている。・・・不思議な気分だな…
必死で探し求めていた物を得られなかったにも関わらず、心は満たされている事を私は実感していた。
「おい・・・あれ・・・!!!」
ランサーが、空を指差して叫んでいた。
私には見えなかったが、一つの紅い光の粒が、私達の元へ降りてくる。
「これ・・・は・・・?」
その光は私の掌に落ちてきた。
「うわぁっ!!!」
落ちてきた感触を味わった直後、セキや皆の悲鳴が聴こえる。
柔らかい熱を感じた事から、その”何か”が眩い光を放ったのだろう。
『…今まで、本当に……ごめんね…』
・・・・・え・・・・・!!?
この直後、私の頭の中に一つの声が響いてきた――――――――――
「ミヤ!!・・・大丈夫か!?」
セキの一言で我に返る。
気がつくと、私は顔面を抑えて座り込んでいた。ほんの数秒だけ、意識が飛んでいたと思われる。
「ええ・・・」
私がゆっくりと自分の両手をどかすと、思わぬ変化があった事に気がつく。
「見え・・・・る・・・・」
「え・・・?」
私の側でソエルの声が一瞬聴こえたが、今の私はそれ所ではなかった。
あまりに突然の出来事で声が出なかった私は、よろめきながら足を踏み出す。
草木のない岩山。まだ残っている有害な霧・・・・歩いた時にできる土煙―――――
数十年ぶりに見た光景は決して綺麗なモノではなかったが、今の私にはそれで十分だった。
「まさか、ミヤちゃん・・・目が・・・・?」
ランサーの声を聴いた瞬間、私は我に返る。
風景が見えるって事は、もしや…!?
私はゆっくりと声のした方向に振り向く。
するとそこには、茶髪で淡い水色の瞳をしたランサーと、黒髪・黒い瞳で髪をポニーテールみたいに結んでいるソエルの姿がある。
「そう・・・みたい・・・・!」
私の台詞を聞いた2人は、すごく喜んだ表情を見せる。
「ミヤ・・・よかった!本当によかったわ!!!」
そう叫んだソエルが、私を強く抱きしめてくれた。
”混ざり物”である私と違い、彼女の腕の中は暖かくて心地よい。まるで、母親に抱きしめてもらえている感覚みたいだったので、とても新鮮で嬉しく感じた。
「やったな、ミヤちゃん!!!・・・おい、セキ!!!お前もそんな所で呆けてないで、こっち来て喜べ!!」
ランサーが、違う方向を向いて叫ぶ。
セキ・・・私が生まれて初めて、「一緒に生きたい」と思わせてくれた男性…!
私は彼の方を振り向く。
初めて見るセキの顔――――-黒髪・藍色の瞳を持つその男性はレンフェン独特の衣装を身にまとい、その表情は・・・とても穏やかで優しそうな顔だった。
「本当に・・・俺の事も・・・見えるんだ・・・よな?」
「・・・うん・・・!!」
私の瞳は潤み、彼の問いかけに答えた直後、私は即座に走り出してセキの腕の中に飛び込む。
「私・・・言葉にならないくらい、嬉しいわ・・・!!」
嬉し涙がとめどなく流れる。
涙で顔がひどいことになっても、全く気にならないくらいだった。
「本当に・・・俺も、自分の事のように嬉しいよ・・・!」
セキの藍色の瞳も、涙で潤んでいたのである。
こうして私達は、ランサーとソエルが見守る中、で目が見えるようになった喜びを分かちあう。そして、ランサーの掌には・・・豆粒くらいの大きさだが、小さなマカボルンのかけらが存在していたのであった―――――――――
いかがでしたか?
おそらく、ミヤだけが聴いた”声”って何?と思われた方が多いと思います。
ミヤは嬉しさの余り、それが何か考えなかったので本文でも書かなかったのですが、実際は”ミヤの視力を奪っていたマカボルンに存在する魂”と言った所でしょうか。
短めだった今回は物語としてはこれで最後ですが、次回が本当の最後・・・エピローグとなります。
引き続きお読み戴く事をお勧めします!