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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
最終章 決戦と訪れる別れ。そして…
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第63話 消えゆく炎と黒い羽

 テアビノにある巨大な山の麓で大爆発が起こり、その影響で周囲が真っ白な霧が立ち込めている状態になっていた。

 「ハァハァ…ハァ・・・ハァ…」

 自分の身に何が起きていたかはわからないが、物凄い一撃を放った俺とミヤは地面に降りた後はかなり息切れをしていた。

 ただ一つわかるのは、ランサーが召喚した“ウィル・オ・パシフィルヴァ“が俺達に力を貸してくれたくらいだろう。

 「・・・あれ・・・!!!」

 ソエルが叫びながら指を指した先には、ちぎれた漆黒の羽が周囲に散らばり、仰向けに倒れている男――――大魔王ダースがいた。

 「父様!!!!」

 一番最初に彼の元へかけつけたのが、ミヤだった。

 彼女は、弱りきった父親の手を強く握る。

 「・・・強くなったな・・・ミヤ・・・・」

 「父様・・・」

 すると、ダースは血で汚れたもう片方の手で、何かをミヤに渡そうとする。

 「ミヤ・・・側にいられなかっただけでなく・・・お前に・・・死よりもつらい目に遭わせてしい・・・すまなかった・・・」

 「父様・・・そんな・・・!」

 「“共存”の意味を持つそなたの名前・・・。それは、アクトと一緒に考えた・・・人と魔物が、共に生きていける未来が訪れる事を願って・・・」

 掠れた声で話すダース。

 ミヤは父親から受け取った物を触れる。それは、中に小さな写真が入ったロケットだった。

 「これ・・・は?」

 「・・・私が生まれて初めて撮った、“家族の写真”…というモノだ。・・・もう・・・“お前は独りではない”・・・・。この時、初めてそう思う事ができた・・・。不思議なモノだな・・・」

 それを聞いたランサーが、彼らの側に来て言う。

 「その写真・・・そのままだと、彼女も見えないだろうから・・・。後ほど、俺が見えるようにしておきます・・・」

 ランサーは、柔らかい笑顔でダースにそう告げた。

 すると、ダースがフッと嗤って口を動かす。

 声は聴こえなかったが、唇の動きからおそらく「恩に着る」と述べたのだろう―――――

 「ミヤ・・・・」

 「はい・・・」

 俺とランサー。そしてソエルとシフトの4人は、静かにこの親子を見守る。

 「・・・これから私は・・・独り孤独な想いをしているアクトの元へ行こうと思う・・・。あれも、意外に寂しがりやだから・・・」

 「はい・・・」

 このやり取りを聴いた瞬間、伝えるなら今だ―――――――そう俺は直感した。

 俺はダースを抱えているミヤの元へ駆け寄り、真剣な表情になってから口を開く。

 「俺は・・・俺達は・・・貴方が愛したこの世界を、何が起ころうとも守っていきたいと思います。そして、ミヤの事も…!」

 その直後、自分の視線が無意識の内にミヤへ向いているのに気がつく。

 「だから、貴方も・・・奥さんの事・・・いつまでも大切にしてあげてください・・・!!」

 こんな俺の台詞をランサー達は瞳を潤ませながら、見守ってくれていた。

 ダースは少し黙った後、最後の力を振り絞ったのか・・・とにかく、ゆっくりとを開いた。

 

 「・・・ミヤ・・・・」

 「はい・・・」

 「・・・・行ってくる・・・・・」

 その最期の一言は、ありったけの言霊がつまっているような力強い声だった。

 「・・・・・お気をつけて・・・・・私の大好きな父様・・・・・!」

 ミヤは精一杯の笑顔で父親を看取る。

 大魔王ダースは娘に最期の笑顔を見せ・・・光に包まれて消えた。

 彼が持つ漆黒の羽と共に――――――――

 

  父親が横たわっていた地面を見つめ、ミヤは全く動こうとしなかった。その場にいる俺達全員の瞳は潤み、ソエルの瞳からは涙がとめどなく流れていたのである。

 「・・・ミヤ…」

 やりきれない気持ちでいっぱいだった俺は、呆然としているミヤを黙って抱きしめた。すると・・・

 「・・・アァァァァァァァァァァッ!!!」

 彼女は突如、声をあげて泣き始めた。

 漆黒の瞳から涙が滝のように流れ、まるで産まれたての赤子のような表情かおをしている。今までも涙を流す事はあったものの、彼女は1度たりとて大声を張り上げて泣き叫んだ事はなかった。

 自分はただの男だけれど、ミヤを愛し、共に未来を歩んで行こう…

 俺は彼女を強く、窒息するくらいきつく抱きしめながら、己の精神(こころ)と魂に誓った。

 

 どれだけの時間が経過したのかわからないが、気がつくと光の音みたいな振動が聴こえてくる。

 「・・・・なんだ、ありゃあ・・・!!?」

 視界に入ってきたものを目の当たりにしたランサーが、目を見開いて驚いている。

 涙を拭き、いつもの状態に戻りつつあるミヤが身体を一瞬震わせるた。

 「大量の“気”・・・・エネルギーを感じる・・・・!!!まさか、これが・・・・」

 「マカ・・・・ボルン・・・・?」

 彼女の側で、俺が不意に呟く。

  俺達が見つけたモノは血のように赤い光を不気味に発し、宙に浮いた拳銃くらいの大きさをした石だった。

 「аегдЯЫ・・・・」

 石からは、おかしな口調の“声”が複数聴こえる。

 「・・・あ・・・・・!」

 ソエルの表情が真っ青になったかと思うと、声は自分達にもわかる言葉を発し始める。

 『・・・殺してやる・・・』

 「なっ…!?」

 石から黒い髪の女性らしき霊体が現れたのだ。

 それを目の当たりにした俺達は、驚きの余り身体が硬直する。

 『殺してやる・・・憎い・・・・この世の全てが・・・そして・・・己が・・・憎い・・・・!!』

 この黒髪の女性は白目を向きながら、ボソボソと呟く。

 マカボルンに宿る人間の魂の一つ―――この世のモノとは思えない光景を、俺達は全員目撃していたのである。

 あれ・・・?でも、この女性・・・・どこかで…?

 一方で俺は、この黒髪の女性を、どこかで見たことがあるような違和感を覚えていた。

 

 「アキ・・・・・・」

 この時、後ろの方から前に出てきたシフトが口を開く。

 「アキ・・・・だって・・・!?」

 俺は目を見開いたまま、驚く。

 当然、それは他の3人も同じだった。

 『ミカジ・・・・』

 「ガシェ・・・!?」

 ミヤの刀からガシェが現れ、彼女の視線がガシェに向く。

 『本当に・・・実行するのだな・・・?』

 深刻そうな表情をするガシェを見たシフトは、黙って頷いた。

 「どういう・・・事だ・・・!!?・・・お前、まさか・・・・!!!」

 シフトがやろうとしている事に気がついたのか、ランサーの顔がみるみる真っ青になっていく。

 話が全くつかめない・・・・。一体、シフトは何を…?

 「僕・・・・皆と一緒に旅ができて・・・楽しかった・・・」

 「シフト・・・?」

 表情を読み取れないミヤは、不安げな表情かおでシフトを見つめる。

 「僕はアキと一緒に・・・あの世へ帰るよ・・・」

 「っ…!!!!?」

 突然の発言に、俺達全員の身体が硬直する。

 「“あの世に帰る”って・・・どうして、あなたが!!!?」

 ソエルは今にも泣きそうな表情で叫ぶ。

 俺達の中で、誰よりも“大事な人の死”をよく知っている彼女だからこその台詞(ことば)だ。

 「このままでは・・・マカボルンがまた争いを呼ぶ原因となり、ミヤの両親みたいな悲劇が起こる・・・」

 その言葉を聞いた俺達4人は、何も言葉が浮かんでこない。

 そして、シフトの話が続く。

 「僕と彼女は、あの時・・・ビルの屋上から身を投げて召喚獣フェニックスと化した。僕ら2人の精神ココロは1つに溶け合った事で召喚獣となり得たが・・・肝心の肉体と魂をその場所に置き去りになってしまい・・・・マカボルンの一部となってしまった」

 シフトは俺らの方を見渡しながら話していたかと思うと、ソエルの方を向く。

 「さぁ、アキ・・・一緒に逝こう…!」

 「え・・・?きゃっ・・・!」

 ソエルに向かって右腕を出してきたシフトに応えるかのように、彼女の身体から光の塊のようなモノが出現し、ゆっくりと彼の元へ行く。

 「この暖かい光・・・。これって・・・」

 「・・・そう。これは君の中にあった“アキの精神こころ”・・・。錬金術における“人間”は、肉体と魂が精神によって繋がっている・・・っていうよね?ランサー」

 「あ・・・ああ。確かに・・・」

 いきなり話しかけられたランサーは呆然としていたものの、すぐに我に返って答えた。

 「つまり・・・アキの精神だけが私の中に生まれ、魂は・・・マカボルンの中に存在していた・・・ということ・・・?」

 状況を掴めているかわからないような表情で、ソエルは話す。

  その後、シフトの周囲に紅い炎が現れる。

 「シフト!!!!」

 思わず叫ぶ俺に気がついたシフトは、俺らをその真っ直ぐな瞳で見つめて言う。

 「セキ・・・そして、皆・・・。僕ら古代人ククルもマカボルンも、遠い過去の存在。“過去あっての現在いま”ってよく言うけど・・・僕達過去の存在(もの)のせいで、君達が生きる未来を・・・あきらめるわけにはいかないんだ・・・!」

 彼の思いのたけを聴いた俺達4人は、この台詞に返す言葉が見つからなかったが・・・

 「シフト・・・」

 ランサーが少し悲しげな表情で、炎の前に立つ。

 「・・・いくらお前の恋人がいるとはいえ・・・マカボルンを取り込む事は、相当の苦痛なんじゃねぇのか・・・?」

 「ランサー・・・」

 ランサーは本人なりに、心配しているのだろうな…

 あいつの声が震えていた事から、俺はそうなんだろうと解釈した。

 「ありがとう、ランサー・・・。でもね、これは・・・召喚獣の魂を持ち、死しても誰も悲しまない人造人間ホムンクルスの肉体を持つ僕だからこそできる事なんだ・・・・。だから、僕がやらなくては・・・・!」

 穏やかな表情をしていたが、シフトが持つ紅い瞳は潤んでいたようにも見える。

 「・・・そうか・・・」

 ボソッと呟いたランサーは、一旦顔を伏せたが、すぐに正面を向いて口を開く。

 「おい、シフト!!女の子をあまり待たせるなよ!アキちゃんが待ちくたびれているんじゃねぇの?」

 いつものランサー節が本人の口から発せられる。

 これは夢でもない、現実なんだ。シフトは・・・本当に消えようと・・・!

 俺はここで改めて、その現実を実感した。

 そして、目の前で燃え広がる炎のせいで俺達4人は気がつかなかったが、シフトの身体が少しずつブレていく。

 「もう・・・皆とは会えなくなってしまうけど・・・心はいつまでも、皆の中で生きているから・・・」

 そう言った直後、シフトの瞳から一筋の涙が流れる。

 それにつられたかのように、俺の瞳も涙で相当潤んでいた。

 

 「シフト・・・!」

 彼の名前を呼ぶソエルの声が、物凄く震えていた。

 「皆・・・幸せになってね・・・!そして・・・」

 炎が更に強くなり、シフトやマカボルンを包む。

 「・・・・・ありがとう・・・・・・」

 そう述べた後、シフトとマカボルン――――否、彼とアキを包み込んだ炎は、天高き遠くへ飛んでいき・・・消えた。

 

 フェニックスでもあるシフトは、片割れであるアキさんの魂と再会を果たした。強く、激しい喜びを分かち合い、逝ったのだろうな…

 目の錯覚かもしれないが、天に向かって飛んでいく炎が復活を果たした伝説の不死鳥のように見えたのである。

 

いかがでしたか。

今回の内容はずっと書きたかった結末の一つ。

構成もだいぶ前から考えていて、「ここまでいくために、前後をどうつないでいこうか」という考えの下で、シナリオを考えてきました。

ただ、これでまだ終わりではありません!

本当の「締め」は、次回以降となりますので、お楽しみに♪


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