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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十四章 文明世界マナ・アトラトで知らされる真実

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第60話 テアビノへ行く前に

  「さて!!大分道草を食っちまったが、本題に入るとするか!!!」

 姉と弟の再会から数時間が経ち、完全にいつもの状態に戻ったランサーが笑顔で他の仲間に声をかけた。

 “一人でも血のつながった家族がいる”…。これだけで、人はこうも変わるモノなんだなぁ…

 早くに両親を亡くしている私は、ランサーが少し羨ましいとも感じていた。それでも、何故か安堵した状態でランサーを見ている自分がいたのである。

 「本来ならば、私が彼らをここへ連れてこなければならなかったのに…お手をわずらわせてしまい、申し訳ございませんでした」

 傷はまだ完治していなかったが、いつもの状態に戻ったカリユシが精霊に深く頭を下げる。

 「いいのですよ、カリユシ…。今回の事は、私にも責任があります。私に仕えているとはいえ、元は普通の人間なのですから…できぬ事があるのは仕方のないのですよ…」

 「…ありがとうございます」

 彼女は再びお辞儀をした後、一歩下がった場所に立ち始める。

 「…それでは、本題に入るとしましょう。まず、貴方たちの用件は…“テアビノ”へ行きたい…それで良いのですよね?」

 「はい」

 タイブレスの台詞の後、セキが低い声で頷いた。

 「私達は皆、“何でも願い事が叶えられる石”マカボルンを探しています。そして、今現在それを所持しているのが父…大魔王ダースが持っていると考えています。そういった経緯から私達は、彼に会うために“テアビノ”へ入りたいのです…!」

 いつになく真剣な表情でミヤが自分たちの目的を語る。

 ミヤの台詞を聞いた精霊は、その場で黙り込んでしまう。

 「精霊様…。もしかして、テアビノは…」

 不安そうな表情で呟くシフトは、そのまま精霊を見上げていた。

 「貴方たちが“テアビノ”にどうしても行きたいという気持ちはわかりました…。しかし、行く前に私の話を聴いてほしいのです」

 「話…?」

 私は何の話をされるのかと思い、首をかしげる。

 「はい…」

 精霊は一瞬黙り込むが、今度はすぐに話し始めた。

 「まず、結論から先に言わせて戴きます。ミヤ…貴女の仮定は正しいです。そして、“今の彼”に会うならば、死ぬ覚悟で行かなければならない…という事です」

 「“死ぬ覚悟”…!!?」

 その言葉を聞いて、シフト以外の4人の表情が一変する。

 そして、シフトの方を見たタイブレスは、話を続ける。

 「シフト…貴方達レッドマカボルン族があの石を創った時、私は”人間による普通の発明品”としか捉えていませんでした。…しかし…」

 「しかし…?」

 「マカボルンを体内に取り込んだ大魔王ダースを見た時、私は確信しました。“この石は精霊の力を弱め、自然の摂理を壊す物質(もの)だ”と…」

 「だから彼を…生き物の住んでいない“テアビノ”へ送ったのですか?」

 後ろで考え事をしていたカリユシさんが、精霊を見ながら言う。

 「…はい。彼は“体内に取り込む事がマカボルンを消滅させる方法だ”と言っていたので、その言葉を信用し、特別に異世界に滞在する事を許可したのです」

 「やっぱり…俺らの仮説は間違ってはいなかったんだな…」

 近くでセキがボソッと呟いた。

  とりあえず、ここまででミヤの父親…大魔王ダースがマカボルンを持っているという事がわかった。あれ…?でも…

 まだ話が終わりじゃない事に気がついた私は、精霊に問う。

 「さっき、貴方は”自然の摂理を壊す”…とか言っていましたよね?それって、どういう事ですか?」

 気がつくと皆だけでなく、タイブレスの視線も私の方に向いていた。

 「…ダースをテアビノに送ってから1年後、あそこのすぐ近くにあった世界“シハネ”がテアビノと衝突し、多くの生き物が死に絶えました」

 「え…!!?」

 その場にいた全員の表情が激変する。

 「その原因となったのが、あの魔石…。そして、自然と反する形でテアビノとつながった影響で、シハネにて死に絶えた生き物が魔物となって蘇ってしまった…」

 「それは…マカボルンには僕達ククルの魂が大量に存在しているから…ですよね…?」

 ひどく緊張した声でシフトが尋ねると、精霊は黙って頷いた。

 「人間のエネルギー…そして、死に絶えたシハネの生き物達の怨念が、邪悪な魔物を次々と生み出していった…」

 「…そんな場所に…そんな場所に、父様はいるのですか!!?」

 話を聴いていたミヤが不安に怯え、少しだけ混乱していた。

 「ミヤ…!!」

 精霊に突っ込んで行きそうな勢いだったミヤに対し、セキが制止に入る。

 「人間の魂でできたあの石には、エネルギーだけの存在になろうとも“意思”が存在していた…。ダースがなぜ、貴女から無理やりマカボルンを引き剥がしたのか、そろそろ理解できたのではないでしょうか…?」

 精霊は、真剣な表情でミヤを見る。

 「あ…!!!」

 その直後、ミヤの表情がどんどん青ざめて行く。

 「じゃあ、ミヤの母上が亡くなられた原因って…!!」

 目を見開いて驚くセキ。

 しかし、驚きの余りに身体を硬直させているのは、彼だけではなかった。

 「賢者の石がミヤちゃんのお袋さんの寿命を延ばし…彼女が産まれた時にその身から離れ、お袋さんは亡くなったという事か…。胸くそ悪りぃ話だ…」

 私の横でランサーが呟く。

 「じゃあ、ミヤの目は…!!?」

 私はその先を口走るのが恐ろしくて、声に出す事ができなかった。

 単なる仮説ではあったけど、この時私の頭の中に思い描いたのは、彼女のお母さんから彼女自身にマカボルンが移る。マカボルンは紅い魔石なので、ミヤの目にそれがあるという事がわかる何かが見られる。それに気がついたダースは自らの力であれを引き剥がし…その副作用みたいなモノで彼女は失明したという3つの仮説だ。

 「ゲホッ…ゴホッゴホッ…!!!」

 「ソエル姉さん!!?」

 考えれば考えるほど恐ろしい事を頭の中で想像してしまった私は、それに対して発作のような咳を起こす。

 「だ…大丈夫…」

 心配そうな表情をするランサーに、私はできるだけ笑顔で応えた。

 「そして、この先は非常に言いづらいのですが…」

 「精霊様…?」

 そう呟いた精霊タイブレスの表情が、すごく気まずいかんじになっているのに私は気がつく。

 「魔族の長であるダースがマカボルンを取り込んでいるから、今の状態を維持しているのです…。もし、彼の心が石の中に存在する魂達に奪われてしまった場合…」

 「…全ての生き物を殺し、全てを破壊してしまうのですね…」

 セキのおかげで落ち着きを取り戻したミヤが、深刻そうな表情で言う。

 「ミヤ…それって、どういう事…?」

 シフトが冷や汗をかきながら、彼女に尋ねた。

 すると、ミヤは自分の腕を強く掴みながら語る。

 「魔族が持つ本性は“殺戮”と“破壊”…。精神(こころ)を失い、力が暴走した魔族は…全てを破壊し尽くすまで止まらないの…!!」

 「なっ…!!?」

 その場にいた全員の表情が一変する。

 自らもその経験を持つミヤは、頭を抱えてその場に座り込んでしまう。

 「情けない話ですが、あの石は私達精霊の力ではどうにもできません…。そのまま暴走を続ければ…最悪の事態になることも…」

 「最悪の…事態…!!?」

 「…全世界の破滅…」

 あまりに残酷な事実を打ち明けられ、声を失っていた私達の後ろで、カリユシさんも呆然とした表情で一言呟いた。

 「じゃあ…このままだと、俺らも…俺らがいた世界も…全てが無くなってしまうという事なのか!!?」

 普段は落ち着いているのに、流石のランサーも動揺がむき出しになっている。

 “全て”が無くなる…

 私の頭の中は、完全に真っ白な世界と化していた。

 「僕達がなんとかします…!!」

 その時、隣で意外な人物がはっきりとした声で口走る。

 

     ※

 

 「僕達がなんとかします…!!」

 そう口走ったのは――――なんと、シフトだった。

 「シフト…?」

 ソエルは彼を見つめながら、そう呟いた。

 背筋を伸ばして精霊に向かって話すシフトからは、強い“気”が感じられる。

 「貴方たちでどうにかするという事は…何をするのか、わかって言っているのですよね…?」

 そう言い放った精霊様の視線が私に向いているような気がして、心臓が跳ねた。

 私達がマカボルンをどうにかするという事は…父様を―――

 そう考えた途端、私の身体が震え始める。

 でも…このままでは皆が…皆が死んでしまう…!!!

 私の胸は心臓を抉られたような痛みを感じ、とても苦しそうだ。

 …いや、どちらにしろ、何もしなかったら“全て”を失ってしまう…!

 そう考えると、迷っている暇はないのである。

 「私は…私達は…皆がいるこの世界を、守りたいです…何が何でも…!!!」

 私は胸の痛みを抱えたまま、精霊にそう告げる。

  真剣な眼差しをする私やシフトを見たタイブレスは、その白銀色の瞳を閉じ…数秒後、ゆっくりと開いた。

 「…あなた方の決意はよくわかりました…。それでは、用意ができたら私に声をかけてください。あなた方をテアビノまで転送します…」

 タイブレス様は静かに話した。

 「…わかりました…」

 真剣な表情でセキが答える。

 

 ※

 

  用意という事で、一旦俺達はマナ・アトラトに戻った。崩壊した国立魔導研究所は、タイブレスの力によって、元の姿に戻る。しかし、ランサー誘拐に関係する人々の記憶は消去されたが―――――おそらくは、時空魔法を使った代償ということだろう。

 「旅立つお前らのために、いい物用意したぜ!!」

 記憶を消されて最初会った時の状態に戻っていたナモンさんが、俺達に旅人用の保存食や、薬・包帯などを無償で渡してくれた。

 「ありがとうございます…!!」

 ミヤはナモンさんに深くお辞儀をする。

 しかも、それだけに限らず、ミヤと俺の刀と剣をピカピカに磨いてくれた。ソエルには良質の鉄でできた弾丸の箱を何箱か戴き、言葉では言い表せないくらいこの人には感謝しなければとその時は考えていた。

 「では…私が、タイブレスの元まで送り届けよう…」

 カリユシがそう呟き、自分たちを精霊の元へ転送してくれる事になった。

 この後、俺らは再び時の精霊タイブレスのモトへ赴き、そこからテアビノに転送してもらう事になっている。そのため、カリユシやこの世界の人々とは、ここでお別れとなるのだ。

 「ランサー…これを…」

 カリユシが、ランサーに貝殻みたいなモノがついたブレスレットを手渡す。

 「姉貴…これは一体…?」

 「これは、我らデスティニーロ族の守り神である召喚獣“ウィル・オ・パシフィルヴァ”を呼び出す媒体となる、巻貝のブレスレットだ。お前だったらきっと…呼び出す事ができるだろう…」

 「姉貴…ありがとう…!!」

 少し照れくさそうな声で話しながら、ランサーはブレスレットを受け取った。

 「じゃあ…」

 そう呟いたランサーは、服のポケットから黒色のピアスを取り出す。

 「今回の件で思い出したが…これ、死んだお袋の形見だったみたいだな…」

 「…ああ。それは、亡くなられた母上が生前大切にしていたピアスだ」

 2人の間に沈黙が続く。

 「姉貴…このピアス…持っていてくれねぇかな…?」

 「ランサー…」

 「生きて戻ってこれるかはわからないが…死んだお袋はおそらく、いろんな想いを込めてこれを託してくれたんだと、今では思う…」

 「…そうだな…。わかった…」

 カリユシは、微笑みを浮かべながらランサーからピアスを受け取った。

 

 ※

 

 「ランサー…そして、皆!!!用意はいいか…?」

 「大丈夫!!!」

 私達4人は一斉に声を張り上げる。

 だが、ミヤだけの声は小さかった。

 「カリユシさん…そして、ナモンさん!!本当に…本当に、いろいろとありがとうございました…!!」

 背筋を真っ直ぐに立ててお礼を言ったセキは、とても生き生きとしていた。

 「武運を祈る…」

 「頑張ってこい!!」

 カリユシさんやナモンさんが、私達に激励を送ってくれたのである。

  その後、カリユシさんが呪文の詠唱を始める。私は見えないが、アンコンダクターが人間を異界に転送する呪文を唱える時に現れる光の紋章は、”精霊と共に歩もうとする世界”を意味していると、準備の際にランサーが私に教えてくれていた。

 そうしてカリユシさんが唱える呪文によって、私達は時の精霊タイブレスの元へ再び運ばれる事になる。私の中に存在する胸の痛みを抱えたまま――――――

 

いかがでしたか?

次回以降は、ついに最終章です。

話の最後にもあったように、ミヤの心の中は、まだ整理がついていません。

次回はそんな状態のままテアビノに到着する所から始まります!

大魔王ダースが待つ”テアビノ”で、セキ達を待ち受けているのは何か!?

次回をお楽しみ★


引き続き、ご意見・ご感想をお待ちしてます♪

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