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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十四章 文明世界マナ・アトラトで知らされる真実
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第58話 語られる真実

夜の闇に包まれた国立魔導研究所・・・。気配を消しながら、敵に見つからないように進む。

「パッと見は普通の研究所だけど・・・おそらく、警備は相当なモノでしょうね・・・」

私の側でソエルが小さな声で囁く。

「そうね・・・。今はとりあえず、ランサーを助け出す事だけを考えましょう・・・!」

腰に下げている刀を強く握り締めながら、私は呟いた。

 

 今から数時間前―――――

「ランサーとカリユシさんは、同じデスティーロ族(民族)であり、実の姉弟である」

この事実をナモンさんが口走った時、私達4人は愕然とした。

「以前に話した、“20年前の悲劇”を覚えているだろう?表向きには“政府にクーデターを起こそうと企んでいたデスティニーロ族を殲滅した”という話だ・・・。あの殲滅戦の本当の目的が、“魔導石の原動力である魔導(力)を持つ彼らを捕らえて石を大量生産する”という話も・・・」

「・・・はい・・・」

愕然としていたが、何とかいつもの状態に戻ることができた私は低い声で頷く。

「あいつから聞いただけだから、詳しくは知らねぇが…その時、俺の親友であるあいつらの父親と当時アンコンダクターだった母親が、あの姉弟を命がけで守った。その後、母親の手によって、時の精霊タイブレスの元へたどり着いたカリユシは、その時に次世代の“次元の狭間を管理する者”となったんだ」

「・・・あれ?でも・・・」

ナモンさんの話の途中、シフトの声が聴こえる。

「彼らの母親が2人をタイブレスの元へ送ったという事は、そのまま異世界に逃げ込む事も可能だったんじゃないの・・・?」

私達の間で、沈黙が走る。

「・・・逃げ込むことができなかったんじゃないかな・・・」

考え事をしていたソエルがボソッと呟く。

「・・・精霊は、カリユシにこう言ったらしい」

「何て・・・言ったのですか・・・?」

隣で話すセキから、ツバをゴクリと飲む音が微かに聴こえた。

「“それぞれの世界の安定のためにも、“次元の狭間を管理する者”は基本、自分のいる世界を離れてはいけない。そして、そなたが私に仕える一族である以上、本人のためにも弟とは離れて暮らせ“と」

「そう・・・だったんですね・・・」

この台詞を聴いた時、なぜランサーはクリムゾロへ送られたのかがよく理解できた。

 アンコンダクターであるカリユシさんと同じ世界にいれば、ランサーが命を狙われたり、人質にされる可能性は高い。彼にしてみれば、勝手な選択かもしれないけれど・・・2人の事を考えると、一番の最善策だったのかも・・・

私はそんな事を考えていた。

以前まで、「皆が生きて幸せになれれば、自分はどうなってもかまわない」という覚悟を私は持っていた。無論、今でもその気持ちは変わらない。故に、タイブレスの考えがすぐ理解できたのである。

「あいつらピカレスク家の一門が、代々“アンコンダクター”の役割を担ってきたのは、政府の上層部を知っていた。・・・だから、行方不明となった弟の方を血まなこになって探していたようだ」

「それで、あの時・・・ランサーが魔術を使用し、しかも石を使っていない事を話してしまったから、バレてしまったんですね…」

「その通りだ」

セキの呟きに、ナモンさんは首を縦に頷いてた。

政府あちらの考えはわからないが、カリユシに直接手を出せないのは事実。一方で、こちらもあまり大きく動けない・・・。だから、アモーネが政府から送り込まれたスパイだと気がついていても、上手く対処できなかったんだ・・・」

「アモーネさん・・・」

そういえば、ナモンさん達に初めて会った夜、彼女が持つ気がすごい不安定だったように感じられたのを思い出す。

「じゃあ、カリユシが今いないのって、もしや・・・」

「・・・明け方頃、俺らがこの家に戻ってくる時、政府のトラックとすれ違ったんだ。嫌な予感がした俺達は、急いで戻ると…お前らが薬で眠らされていて、ランサーだけがいないのを見て、すぐに飛び出していきやがった・・・。あの冷静なカリユシにしては、らしくねぇ・・・!」

ナモンさんの声が、微かに震えている。

 やはり、「親友の娘」だから・・・何か思う所があるのかな・・・?

「・・・とにかく、政府側が動き出したという事は、何かやらかすに違いねぇ・・・。これで終わらせるためにも、あいつらを全力で叩き潰す!!・・・もちろん、お前らも行くだろう・・・?」

「もちろんです!!!」

“聞かれるまでもない”と言わんばかりの声で、セキが答えた。

「仲間を見捨てない」という心構えは、私を含む全員が当然持っていたであろう。

「よし!ちょっとした失敗で全滅可能性だってある。だから、慎重に作戦を立てなければな・・・」


 こんなやり取りがあって、現在に至る。

「裏口Bの経路を確保しました。外の警備連中の対処は、我々にお任せください」

私達2人の元にやってきた男性が低い声で言う。

ナモンさんを含め、私達全員で考えた作戦は、2手に別れた陽動作戦。ナモンさんが集めてくれたSPという傭兵みたいな人達が先陣で活路を開き、私とソエル。セキとシフトの2手に別れて侵入する。

機械の扱いに長けたソエルが研究所のセキュリティー室へ向かって施設内を掌握し、私はそんな彼女を護りながら行動をする。そして、セキュリティー室を掌握した後、セキとシフトがランサーを救出するという作戦であった。

 SPの合図で中へ侵入した私達2人は、所内の人間に見つからないように進む。

「ミヤ!こっち・・・!!」

ナモンさんから教わり、研究所のコンピューターにある“データベース”という所から“ハッキング”という情報を盗み出す行為によって手に入れた施設内の地図を確認しながら、ソエルが私を誘導する。

「あれが、”セキュリティー室”・・・」

施設内で使われている機械や水・警備関係を管理している部屋の扉の前で、隠れながら私は呟いた。

「あそこは、”カードキー”という鍵がないと入れない場所だから、誰かが入ろうとすればいいんだけど・・・」

ソエルが考え事をしている側で、私は誰かがセキュリティー室の近くへ近づいてくるのに気がついた。

 バケツとモップを持っている・・・。清掃員とかかな・・・?

男か女かはわからなかったが、感じる気からすると、完全な一般人だ。

「ソエル・・・今、思いついたんだけど・・・」

私はそう言って、ソエルの耳元で、今考え付いた事を話し始めた。



 真っ白い空間。いろんな場所を移動させられた俺は今、この床から壁まで真っ白い部屋の中にぶち込まれている。この“魔術師の能力を無効化する手錠”をはめられて魔術が使えない俺は、普段から隠し持っている伸縮自在のタクトで逃げ出そうと試みたが、やはり両手を拘束されていたために上手くはいかなかった。

この国立研究所に連れて行かれてから、変な光を浴びせられたりして、訳がわからない事が多い。唯一わかるのは、連中が俺を殺す気は今のところないという事だけだ。

『調子はどうだ・・・?』

天井近くにあるスピーカーから、声が聴こえる。

声の主は、アモーネちゃんを操り、俺をここに連れてきた政府の人間――――ラグナとかいう野郎だ。

「そんな事訊くくらいなら、こんな所に連れてくるんじゃねぇよ・・・!!」

俺はキッとスピーカーを睨みつける。

これは憶測だが、自分の目の前にある巨大で真っ黒なガラスは特殊なモノで、こちら側からは何も見えないが、あっちからは俺の姿が丸見えではないかと俺は考えていた。

『ふ・・・賢い貴様のことだ。国立魔導研究所ここに何故、自分が連れてこられたかを理解したのではないか・・・?』

その台詞を聞いて俺はピクッと反応する。

「・・・おおよそはな。だが、一つだけ腑に落ちない事がある」

『ほう・・・。それは、一体?』

「・・・俺からその“魔導”の力を引き出すにしろ、それが尽きてしまえば魔導石あのいしを大量生産できなくなり、俺の利用価値がなくなる。それを理解しているのに、俺を殺さないような扱いをしているのが何故かと思ってな・・・」

俺の勘が正しければ、こういった“裏の世界”では、利用価値がなくなったモノは即座に処分するはずだ。しかし、俺を傷つけないような扱いをしている事だけが、不思議でたまらなかったのである。

数秒程、沈黙が続く。

『ラグナ様』

『・・・どうした』

『・・・実は・・・』

スピーカーから、微かに奴と奴の部下らしき男の声が聴こえる。

 ・・・何かあったのか・・・?

俺はスピーカーをまじまじと見上げていると――――――

『喜べ、ランサー』

「何だと・・・?」

今の第一声だけだと、こいつが何を言いたいのかが理解できなかった。

ただし、こいつの口調が、他人ひとを見下しているような雰囲気がしてきたので苛立ちを覚える。

すると、機械で制御されたこの部屋の扉がウィーンという音と共に開き、そこからラグナの部下共が入ってくる。

「ちょ・・・今度はどこへ連れて行く気だ・・・!!」

俺を連行しようとしていたので、嫌そうな表情でこの野郎共に叫ぶ。

「・・・今から、お前の疑問を解決する場所へと連れて行く。だから、おとなしくする事だ」

扉のすぐ目の前にいたラグナは、真剣な表情をしながらそう述べる。

 解決する場所・・・?

意味深な台詞ことばの意味を、俺は連行されながら考えていた。

 2・3分程、研究所内を歩かされた俺がたどり着いた先は、室内ではあるが、小さな公園のように広さを持つ空間だった。

「え・・・!!!?」

俺は少し離れた場所にいる人物を見た時、表情が激変した。

視線の先にいたのは、カリユシだったのである。

「なんで、あんたがここに・・・!!?」

この時、頭痛と一緒に、頭の中でひびが生えるような音が響いた。

 まただ・・・一体、何がどうなってやがる!!?

頭痛に苦しみながら、俺は彼女の方に視線を上げる。

「これはこれは、アンコンダクター殿・・・。まさか、正面から堂々と入ってくるとは、思いもしなかったな・・・」

ラグナの台詞を聞いて気がついたが、カリユシの周りには彼女によって叩きのめされた警備の連中が、床に倒れている。

「挨拶はいらん・・・。ラグナ、そいつを返してもらおうか・・・!」

あの冷静なカリユシが、物凄い形相でラグナを睨んできていた。

「こちらの要求の方が先だ。内容は・・・おおよそわかっているだろうな?」

「“総統を時の精霊タイブレスに会わせる”事・・・か?」

「そうだ」

「はぁ!!?」

奴が首を縦に頷いたのを見て、「何故そんな事を望むのか」と思った俺は、つい声を張り上げてしまう。

「この国を統べている総統は…軍事や交易のためにも、異世界へ行く事を強く望まれている。だがもちろん、異世界に赴くには彼奴の許可が。そして、その精霊と面会するには、貴様を介してではないと不可能だからな・・・!」

奴は自分の事のように、総統とかいう偉い奴―――要は、国自体が異世界を侵略。もしくは貿易でもして進出したいというような目的を語った。

「そろそろ“魔術が使えない日”も終わった事だろう・・・。我々に従い、総統を時の精霊タイブレスの元へ連れて行ってもらおうか・・・!」

「・・・そんなくだらない要求、応じないと言ったら・・・?」

カリユシが低い声で答える。

それもあってか、周囲の空気がより緊迫な状態になっていた。

突然、俺の頭に何かが突きつけられた音がした。

 この音は・・・拳銃!!?

振り向こうとしたが、銃を突きつけられているようで、なかなか動かせない。その直後、ラグナの重たい口が開く。

「・・・弟の命が惜しければ、我々に従う事だな」

「・・・弟・・・?」

今の台詞を聞いた瞬間、俺の視線は奴の方へ向く。

心臓が強く脈打っていた。

 彼女と会話をしていた時、何か懐かしいかんじがしたような気がした・・・。それに、俺と似たような風貌で、強い魔力を持つ女性・・・

「・・・まさか・・・」

「気がついたか。奴は・・・」

「・・・ラグナ!!!」

「言うな」と言わんばかりの大声でカリユシは叫んでいたが、当の俺はそれ所ではなかった・・。

ラグナは俺の方に一瞬だけ視線を落とした後、すぐにカリユシの方を向いて口を開く。

「その女とお前は、実の姉弟だ」



いかがでしたか?

ちなみに、この悪役キャラであるラグナのモデルはゲーム『テイルズオブシンフォニア』のユアンです。・・・ご存知の方はいるでしょうか?

実はランサーの出生については、他のキャラクターと比べると一番遅くに考え付きました。最初は”天涯孤独の天才青年”だけで終わろうとしたのですが、ある作品をきっかけに、今回の”マナ・アトラト”での話を思いつきました★


引き続き、ご意見・ご感想、そしてご指摘をお待ちしてます(^^

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