第55話 市内観光
この回から”ランサー編”スタートです。
“獣人の国”ビーシャルネットの国王スコウ陛下が、俺達を文明世界「マナ・アトラト」に転送してくれたが・・・気がつくと、俺達全員が光に包まれながら空を飛んでいた。
「すごいすごーーーい!!僕達、空を飛んでるね!!!」
シフトが辺りを見回しながら、瞳をキラキラと輝かせている。
この時、俺は亡失都市トウケウでの出来事を思い出していた。
「ねぇ、ミヤ。トウケウで空を飛んだ時もこんなかんじだったよね・・・?」
「そうね・・・。でも、あの時のあなたは、私がいないと脱出すら出来ない状況だったわよね?」
「う・・・」
ミヤに笑顔で言われて、心臓がつままれたような感覚を覚える。
「あなた達も相変わらずね・・・。でも、なんか今は流れ星みたいな気分で、楽しいわ♪」
ソエルが俺達を見ながら言った。
俺達は、流れ星のように空を浮遊しながら、次第に地面へと落ちて行く。
「わっ!!」
着地をした際、身体のバランスが崩れてこけてしまう。
「痛ててててて・・・。皆、大丈夫か??」
尻もちをついた俺は、皆が無事かどうか辺りを見回す。
「大丈夫だよ!」
「とりあえず、こうやってちゃんと無事に到着できたのだから・・・スコウ陛下には感謝をしなくてはね・・・」
シフトとミヤの声が聞こえる。
「・・・ランサー・・・?」
皆が立ち上がっている一方で、あいつだけがまだ地面に座っていたままだった。
「大丈夫か・・・?」
そう言いながら、俺はランサーに手を差し伸べる。
「え?あ、ああ・・・」
呆けていたのか、俺の声を聞いてやっと我に返ったようだ。
「あんた達!!見てみて!!!」
ソエルが元気そうな表情をしながら、俺達を呼びに来たのである。
「これは・・・・!!!」
ちょうど俺達が降り立った位置が丘の上の方だったらしく、マナ・アトラトの全体が見渡せる位置にいた。
「遠くから見ても、こんなに綺麗だなんて…!」
当りは真っ暗な夜なのに、マナ・アトラトの都市全体は、まるで昼間のように光がたくさん見えて、明るい・・・。しかも、色々な色の光がいっぱい見えて、あそこだけ別世界のようだつた。
「ここが、マナ・アトラト・・・」
後ろから歩いてきたランサーがボソッと呟く。
ランサー・・・?
彼の表情を見て、どうしたのだろうと考えていると・・・
「とりあえず、都市の方へ行ってみようよ!!」
シフトに引っ張られて、俺達はマナ・アトラトの都市に向かう。
入国審査を終えた俺達は、ミヤの指示で「観光局」という施設に向かう。
「それにしても、入国パスを貸してくれた辺り、スコウ陛下もいい人よね♪」
ソエルが上機嫌なかんじで話していた。
「陛下と会食をした際、ここに入ったらまず、“観光局”へ行って市内を案内してもらうのが一番なんだって・・・」
ミヤが歩きながら説明する。
俺もその会食に出席していたので、マナ・アトラト最大の都市でもある、ここ“クウィーン・MD”の事について、ある程度聞いていた。そして、俺はスコウ陛下から戴いたクウィーン・MDについての書類を読みながら歩いていると・・・
「はぁい!お兄さん♪・・・ここへ来るのは初めて??」
気がつくと、目の前には紫色の髪で、俺くらいの年頃の女の子が立っていた。
「はぁ・・・まぁ・・・」
不審者かと思ってかまえていると、彼女の胸元にある名札が目に入ってきた。
「観光局都市ナビゲーター、アモーネ・ディパン・・・?」
俺が彼女の名札に書かれた文字を読み上げると、女性はクスッと笑いながら言う。
「あら!私の胸元なんて見ちゃって、もぉ~!!」
この時、一瞬だけ背後から殺気を感じたのである。
「これはまた、可愛い子ちゃん♪・・・“ナビゲーター”って事は、都市案内をしてくれる人って事?」
前半はいつものランサー節だったけど・・・後半の方は、鋭い瞳でこのアモーネさんって子を見下ろしながら、ランサーが会話に入ってくる。
「部長!!1組お客が来たんで、ツアーガイドしてきまーす!!!」
ランサーを一瞥したその子は、何か機械みたいなモノに向けて叫んでいた。
「え・・・ちょっと・・・!」
まだ、「案内してください」とも言っていないのに・・・
「うそ・・・もしかしてそれ、トランシーバー!!?」
彼女が使っていた機械を見て、ソエルが物凄く驚いた表情をしていた。
「ソエル・・・“トランシーバー”って何・・・?」
「トランシーバーってのは、私が持っている通信機みたいに、離れた場所にいる人と会話できる機械なの」
「通信機と異なる点は、今みたいに叫んだ声とかを、他の人はあの耳につけている“イヤホン”からいつでも聴くことができるんだよ!」
ミヤとソエルの会話の中に、シフトが入ってきて説明する。
半ば強制的に、俺らを案内する事になったアモーネさんっていう女の子。
この強引さは、なんだかソエルみたいだ・・・
内心でそんな事を考えていた。
「?どうしたの??」
ソエルの方を向いてボーッとしていたので、本人に尋ねられてドキッとした。
「いや!何でもございません!!!」
いきなり敬語になってしまった俺を見て、シフトが後ろでプッと笑っていたのである。
「皆さん、始めまして!観光局所属で、今宵あなた方のナビゲートをします、アモーネ・ディパンです!!よろしくお願いします★」
元気な声で、挨拶してくれた。
アモーネさんの自己紹介の後、彼女は俺達を連れて都市内のあらゆる所を案内してくれた。ご飯が美味しい場所や観光名所となっている場所、都市内の一角にあるテーマパーク、穴場スポット等・・・。眩しいだけでなく、いろんな場所がありすぎて、少しだけ頭がこんがらがってきた。
「この、”二階建てバス”っていう、天井がない乗り物・・・。風を切りながら進んでいて、なんだか気持ちいいわ・・・」
都市内を回る途中で移動手段として、俺達はこの“二階建てバス”に乗った。
初めての体験に、ミヤも心から楽しんでいるように見える。当の俺も、瞳をキラキラさせながら、街中の風景を見る。街を歩く恋人たちや、道端では楽器を弾いている人たち・・・全てのモノが新鮮に見えた。
「懐かしいな・・・・」
皆がはしゃいでいる一方で、いつもは元気なランサーだけが、ボンヤリと辺りを見回しながらボソッと呟く。
「ランサー、さっきからボーッといているけど・・・どこか具合でも悪いのか・・・?」
なんだか、このマナ・アトラトに着いてから様子がどうもおかしいと感じた俺は、ランサーに尋ねる。
「おぉ!セキ君!!・・・どうした?」
我に返ったランサーは、いつもの口調に戻って話し始める。
「お前・・・大丈夫か・・・?」
俺は心配そうな表情をしながら、こいつを真正面から見つめる。
「大丈夫大丈夫!!・・・いやーこの都市、まさに“機械じかけの街”ってかんじで、俺様でもかなり驚いちゃってさぁ・・・!!!」
表情や台詞はいつものランサーだけど・・・何か、無理をしているような・・・?
いつも通りな態度が逆に不自然で、俺にとっては不安が生まれた瞬間だった。
「皆さん!!次は逆に“行ってはいけない場所”にご案内します!!」
「“行ってはいけない場所”・・・?」
アモーネさんの台詞を聞いたシフトが、首をかしげながら彼女を見る。
「はい。・・・ここクウィーン・MDは“マナ・アトラト”の首都であり、この都市には国立の施設が多く存在します!・・・機密事項を扱っている施設もあるため、このようにガイドツアーの際に場所だけ教えておいて、その後は近寄らないようにさせるよう観光局から言われているんです」
さっきまで、笑顔で案内をしてくれた彼女が、この時だけは真剣な表情をしていた。
その後、バスから降りた俺達は、“行ってはいけない場所”・・・要は、政府関係の施設をいくつか案内された。世界会議を行う議事堂や、国の幹部関係の人々が暮らす居住区、兵士たちの訓練所や牢獄などの前を通る。そして・・・
「皆さん、ここが最後の“禁止区域”である施設・国立魔導研究所です!」
「“魔導”・・・」
「先程もお話した通り、マナ・アトラトでは“魔導石”という技術によって、火や風を起こしたりできます。その技術を開発したのがこの研究所なので・・・特に近づかないようにお願いしますね!!」
アモーネさんが言う“魔導石”というのは、俺達の世界でいう魔術そのものの事。要は、その“魔導石”という石を媒介にして、魔術のように火や水。風を発生させる事ができるらしい。
突如、少し離れた場所にある研究所の門が、吹っ飛んだような音が聞こえた。
「何だ!!?」
その音を聞いた俺達は、驚いて辺りを見ると、何かに気がつく。
「ちょっと!!あれ・・・・・!!!!!」
ソエルが指差した先には、山羊とライオンの頭をした・・・いわゆる、合成獣が、見えた。
「魔物!!?」
ミヤが真剣な表情をしながら、刀を抜こうとしていた。
「そこにいる人たち!!逃げてください!!!」
合成獣の後ろの方から、白衣を着た研究者らしき人たちが俺達に向かって叫ぶ。
「皆さん!!!あれは多分、研究所で扱っている実験動物・・・!!研究所を抜け出したということは、相当凶暴そうだから逃げましょう・・・!!!」
アモーネさんが冷や汗をかきながら俺達に言うが、全く動じていない人物が一人だけいた。
「・・・要は、殺さなければいいんだろう?」
「え・・・!!?」
ランサーの台詞を聞いたアモーネさんは、驚いて身体を硬直させていた。
「・・・俺も昔、魔法生物を扱った時は・・・苦労したんだよな!!」
そう言った直後には既に、呪文の詠唱が終わっていた。
すると、地面から土色の紐みたいなモノが大量に出現し、合成獣を拘束する。
「ギャォォォォォォォォォォォッ!!!!」
自分に絡まった紐のようなモノを、必死で取ろうと暴れる合成獣。
「ソエル姉さん!!」
「ええ!」
ランサーがソエルに目で合図すると、彼女は合成獣に向かって銃口を向ける。
銃声が周囲に響いた直後、暴れていた合成獣は、地面に倒れ臥す。
「殺した・・・の・・・!!?」
ものすごい表情をして怯えているアモーネさんの側でソエルが静かに言い放つ。
「いえ。私が撃ったのは麻酔弾だから・・・時間が経てば、ちゃんと目を覚ますわ!」
その後、後ろから追いかけてきていた研究者達が俺達の前に来て言う。
「皆さんには驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。・・・非常に勝手かもしれませんが、今日の出来事は見なかった事として、他言無用でお願い致します」
「それは別に構いませんが・・・今後は気をつけてくださいね?」
俺は研究者達に軽く忠告をした。
というのも、近くを通りかかったのが俺達だったから良かったけど、これが一般市民だったら誰かが大怪我をしていたかもしれない。こうなってしまったのは、明らかに研究所の管理ミスによるものだから・・・。
「それはそうと・・・先ほど、実験動物を捕らえたあの紐みたいなモノを魔導石で出現させた方は・・・」
研究者の一人が、きょろきょろと俺達を見る。
「・・・俺だけど」
ランサーが右手を上げて、低い声で名乗り出た。
「いやぁー、あんなすごいモノは初めて見ましたよ!!!」
「はぁ・・・」
どうやら、この異様に元気な研究者の話し方と、握手したとたんにブンブンと振るうこの人を見て、げんなりしているという所か。
「おや・・・?貴方・・・魔導石をどこにも装着していないような・・・」
「まぁな。石なんかなくても、魔術は使えるし・・・」
「えっ!!!?」
ランサーの台詞を聞いた研究者の表情が、一変した。
俺達の間で、数秒だけ沈黙が続く。
どうしたんだろう・・・?
あまりの動揺ぶりをの理由を、俺は考えていた。
「お話中申し訳ないですが、そろそろ案内ツアーが終わる時間ですので、ここいらで失礼させてください!!」
と、アモーネさんがランサーと研究者達の間に割り込んできた。
「そうですね・・・失礼致しました。」
そう言って俺らにお辞儀をした後、研究者達は気を失った合成獣を連れて、施設の方へ戻っていった。
案内ツアーは、最後に俺らが泊まれるホテルを紹介した後に終了となる決まりらしい。だけど、そんな事よりもさっきの出来事が頭から離れなかった。・・・多分、突然の出来事だったので、皆もかなり驚いていただろう・・・。
「・・・ホテルとかって、あっちの方じゃないんですか・・・?」
ミヤの台詞を聞いて気がついたけれど、国立魔導研究所が中心街から離れた場所にあったとはいえ、さっきから俺達が歩いている場所は、人気のない道だった。
「そういえば、さっきから気になっていたんだけど・・・。あなたの服の中に仕込んであるモノ・・・拳銃じゃないの・・・?」
ソエルが真剣な表情でアモーネさんを見る。
「・・・こんな平和そうな街で一般人が拳銃を所持しているなんて・・・何かおかしくありませんか・・・?」
険しい表情をしたミヤがソエルの台詞の後に補足する。
その直後、その場にピタッと立ち止まったアモーネさんはようやく口を開く。
「あなた達・・・異世界から来た人間ですよね・・・?」
「えっ!!!?」
俺達5人の表情が一変する。
「なぜ、それを・・・!!?」
驚きに余り、俺は言葉を失っていた。
「今日の夕刻、この街の外の方へ落ちて行った5つの流れ星・・・あなた達でしょ?」
そう言ってこちらを向いた彼女の表情は・・・無邪気な少女みたいだったのが、大人の女性のような表情になっていた。
「・・・この街に、異界から来た者たちを察知できる人がいるの・・・。あなたたちにはこれから、その人に会ってもらうわ・・・。」
「もしかして・・・この世界の“次元の狭間を管理する者”・・・?」
「・・・そうとも言うわね。」
一言呟いたアモーネさんは、元の向きになって歩き始めた。
そうして俺達は、月夜の中を進んで行く。
いかがでしたか?
ちなみに、この”クウィーン・MD”のモデルが現在のニューヨークとかで、名前は”ワシントン・DC”みたいにカタカナとアルファベットを組み合わせてつけてみようと思って考えました。
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