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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十三章 獣人が暮らす国・ビーシャルネット
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第54話 『混ざり物』だけが住む国<後編>

 自分にかかっている”人化の術”を解いたのは、実に何年ぶりなんだろうか

私達が最初に訪れた異世界「フィシュビストラー」の国王に会うために城へ向かっていた際、そんな事を考えていた。でも、私の目がまだ見えていたころ、本来の姿を1度だけ鏡で見たことがあったので、あれからどのような成長を遂げたのかはすぐに想像ができた。だから、本来の姿を見せたら、セキ達は怖がるのではないか・・・そんな不安な気持ちもあった。しかし、皆が「大丈夫」と言ってくれたおかげで、少し安心した。やはり、拒絶されるのが怖かったからだろう。

「面を上げよ」

この国の王であるスコウ様の台詞が聴こえる。

「はっ・・・」

その場でひざまずいていた私達は、顔を上げて国王の方を向く。

「・・・人間共と一緒に、めずらしい気を感じたと思っていたが・・・まさか、ミヤ殿だったとはな・・・」

「お久しぶりです、スコウ陛下」

「・・・ミヤ、知り合いなのか・・・?」

私の耳元で、セキがポツリと呟いた。

「ちょっと待ってて・・・」

私もポツリと呟く。

今は、スコウ陛下の目の前だから・・・あまり、コソコソ話はできない状態だからだ。

「陛下。彼らは、私と共に旅をしていた仲間達です。・・・クリムゾロ以外の世界へ行ったことがないため、いろいろと知らない事が多い者たちですが、ご容赦ください」

「かまわんよ・・・」

「ありがとうございます・・・!」

私は深々とお辞儀をする。

 その後、セキから順番に自己紹介をして、スコウ陛下も自ら名乗った。そして、この方が「フィシュビトラー」における次元の狭間を管理する者・『アンコンダクター』だと知った皆は、驚いて言葉を失っていた。

「つまり、“次元の狭間を管理する者”・・・アンコンダクターは、各世界ごとに一人ずつ存在する・・・という事なんですね?」

ランサーはいち早くこの状況を理解して、陛下の方を見ながら話す。

「そうじゃ・・・。我々アンコンダクターの役目は、異世界から来た者共の対応や、不正に外の世界へ行こうとする者の処置などがある。故に、1つの世界に一人は存在しなくてはいけない者なのじゃ・・・」

スコウ陛下は静かに話す。

「陛下!私から1つ聞きたいのですが・・・」

「なにかね?」

私は、この方に一番に訊きたい事があったので、ランサーの台詞の後にすぐに口を開いた。

「クリムゾロにいる召喚獣ツアルから聞いたのですが・・・“テアビノ”に行くために時の精霊タイブレスに会わなくてはならないというのは、本当なのでしょうか・・・?」

私の台詞の後、陛下は2秒ほど黙っていた。

「成程・・・。ダース殿に会いたい・・・という事か」

「はい・・・」

双方が黙りこんでしまい、それを見かねたシフトが話し出す。

「陛下!・・・最初のお話で、アンコンダクターは精霊とのつながりが強いと僕は解釈したのですが・・・。陛下の力で、僕らをタイブレスの元へ導く事だったら可能なんじゃないですか・・・!?」

声を聴いている限り、シフトがいつになく必死になっているのが感じられた。

そして、その1秒ほど後に陛下は再び話し始める。

「確かに、時の精霊タイブレスとのつながりが強いため、本人に会えるには会えるのだが・・・」

「・・・何か問題でもあるのですか?」

セキが私の隣に来て話し出す。

「実は、数いるアンコンダクターの中でも、精霊に直接会えるのは・・・一人だけなのじゃ・・・」

「え・・・!!?」

私を含め、その場にいる全員が驚いていた。

「わしもまだ会った事がないが、確か文明世界「マナ・アトラト」にいると聞くが・・・」

「文明世界・・・?」

「数ある世界の中で、特に文明が発達している世界じゃ・・・。そこのアンクンダクターは、代々とある一族がその役割を担っている。・・・確か、今現在は女子だったはずじゃ・・・」

「では、その人を見つければ・・・」

「うむ。タイブレスの元へ導いてくれるだろう・・・」

「そうですか・・・。ありがとうございます!!」

どうやら、父様がいる世界“テアビノ”に行くには、まず、その「マナ・アトラト」にいるアンコンダクターを探さねばならないらしい。やはり、そう上手くいくものではないなというのが実感できた。

「では、明日にでもそなた達をマナ・アトラトに転送しようかのう・・・」

「え・・・?」

「ダース殿には、何度か世話になったことがある・・・。だから、そのご息女であるそなたの役に立てればと思ってな・・・」

この台詞を聞いた時、父様の偉大さを改めて実感した。

「それと、今宵はわが城で一夜を過ごされるがいい・・・」

「よろしいのですか・・・?」

いくら父様に世話になっているとはいえ、そこまでしてもらうのは何だか悪い気がした。

「構わんよ・・・。最も、城下町に泊めさせるのは、逆に民の反感を買うというのもあるがな・・・」

「やはり・・・この世界に住む人たちは、俺達みたいな普通の人間を嫌っているのですね・・・」

そう呟いたセキの声が、少し震えているのがわかった。



 そして、謁見から数時間後 -----

「シフト!!・・・ランサー、どこにいるか知らない・・・?」

私は辺りを見回しながら、シフトに尋ねる。

あれからスコウ陛下の厚意により、この城で1泊させてもらえる事になった。ミヤはその人から会食に招かれ、セキはあの子に同行した。だから今現在、部屋にいるのは、私とシフトとランサーだけのはずだが・・・。

「ああ。ランサーだったら、ここの上の階にあるバルコニーでタバコ吸ってるよ!」

「そっか・・・私らの中でタバコ吸うの、あいつだけだもんね・・・」

一瞬、目を細めて考え事をしていた私だったが、その後すぐにシフトの口が開く。

「それにしても・・・あれが“獣人”なんだね・・・」

「そうね・・・・」

この時、私の頭の中に、元の姿に戻ったミヤと、あの王様の顔が思い浮かんだ。

「あの金髪と色黒の肌・・・スコウ陛下って、きっと獅子と人間の混血児ハーフなんだろうね!」

「うん・・・。シフトは彼ら獣人を見て、どんな風に思った・・・?」

召喚獣であるシフトにこんな事訊くのも不思議なかんじだけど・・・今はただ、ミヤみたいな存在をどのように思うか、第三者の意見が聞きたかったのだ。

「んー・・・どうだろう?僕もただの人間じゃないから、どう思うかって言っても難しくてよくわからないや!」

そう言いながら、シフトはソファーに寝転ぶ。

「ただ・・・」

「ただ?」

「彼らは、こういった“獣人だけの国”に住んでいるのが、一番よいことじゃないか・・・とは思う」

「・・・そっか・・・」

一言つぶやいた私は、ランサーのいるバルコニーの方へ行こうと歩き始めた。

  シフトは、あの台詞で「1つの種族だけで住む世界なら、民族差別は起こらないのではないか」と、言いたかったのかもな・・・

歩きながら、私はそんな事を考えていた。

 そして、バルコニーに到着した私は、タバコを吸いながら外の景色を眺めているランサーを見つける。

「ランサー!!」

「お!ソエル姉さんじゃねぇか!!」

私があいつに呼びかけると、すぐに気が付いてこっちを向いてくれた。

「・・・タバコって、そんなに美味しいの・・・?」

彼の隣に来て、私はタバコをマジマジと見ながら言う。

「・・・まぁな!ちょっとした時に吸うと、気分が良くなるし♪」

タバコを片手に話すランサー・・・話し方はいつも通りだけど、やっぱり雰囲気がいつもとは違うのがよくわかる。

「自分の出生の事・・・考えていたの・・・?」

恐る恐る今の台詞を言うと、ランサーの表情が少し強張った。

「ごめん・・・。あんたが、グリフェニックキーランでメスカル校長先生と会話していた所を、偶然聴いちゃって・・・」

表情が少し怒り出しそうだったので、私は一瞬焦りを感じた。

 数秒程、私達の間で沈黙が続く。そして、最初に口を開いたのは・・・ランサーだった。

「ガキの頃は・・・“天涯孤独”という自分の立場が、嫌でたまらなかったが・・・この年齢としになると、それだけの気持ちじゃねぇんだよなぁ・・・」

そう呟く彼の瞳が、少しだけ潤んでいた。

「やっぱり、性格が関係あるのか・・・自分が何者で、どうして両親がいないのかについてわからないと、前に進めないような気がしてならねぇんだ」

「そっか・・・」

私はランサーと違って自分や身内の事で「わからない」という事はなかった。だから、彼の気持ちを理解してあげるのは難しい。でも・・・

「これからまだ、他の世界を回ることになるけど・・・見つかるといいね・・・あんたの両親・・・」

理解してあげられなくても・・・側にいてあげる事はできる。

 

  そして、翌朝----

「では、これからわしの力で、そなた達をマナ・アトラトに転送しよう」

「スコウ陛下・・・何から何まで、ありがとうございます・・・!」

ミヤがスコウ陛下に向かって呟く。

「よいのだ・・・。それに昨夜、わが子の無事を知らせてくれた・・・。むしろ、わしの方も、そなたに礼を言わなければならない」

スコウ陛下は柔らかい表情でミヤに言う。

  今朝、ミヤが教えてくれたのだが・・・ウィッシュナクルで会った新しい町長にして異世界の住民だったというオブゼヨという奴が、実はこの人の息子だったらしい。ミヤは、そいつから父親に伝言を頼まれていて、昨夜の会食の際にその話をしたそうだ。

「それでは・・・準備は良いな・・・?」

「はい、お願いします!!」

セキの返事の後、スコウ陛下は杖を片手に、呪文の詠唱を始めた。

その杖には、茶色の水晶のようなモノが見える。

  おそらく、あれがこの世界の輝石なんだろうな・・・

それを見つめながら、私はふとそう思った。すると、時間が経つと共に、私達の周囲に光り始める。

  文明世界かぁ・・・今度はどんな所なんだろう・・・?

そうやって期待に胸膨らませるのが普通なのかもしれないが・・・この時私は、スコウ陛下の額に現れた光の紋章を真剣な表情で見ているランサーの方が気になって仕様がなかった。

 そして、私達は光に包まれて、このフィシュビストラーから姿を消す。

私達が去った後、スコウ陛下の家来が、彼の側に現れて言う。

「陛下・・・。彼らは、マナ・アトラトに向かったのですよね?確か、あそこは・・・」

その家来は、気まずそうな表情で言葉を濁していた。

すると、詠唱を終えて落ち着いたスコウ陛下が静かに話す。

「彼らは・・・特にミヤ殿にとっては、これからつらい戦いが待ち受けている・・・。その戦いで生き残るためには、仲間の問題くらいは解決できる気力を持っていなくててはな・・・」

そう呟きながら、天窓から見える青空を眺めていた――――



いかがでしたか?

最後の方でスコウ王が述べた台詞に何だろう?と思った方はいるかもしれません。

次回から「マナ・アトラト編」・・・別名「ランサー編」突入です!

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