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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十三章 獣人が暮らす国・ビーシャルネット
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第53話 『混ざり物』だけが住む国<前編>

久しぶりの前編後編の構成です。

本シナリオ前の一休みエピソードではありますが、ちゃんと本編とつながる話となっています。

そして、この回で思わぬ事実も・・・

 夕日で赤く染まる空…。1つの国らしき場所の近くに、大きな森があった。

 落雷のような音と共に、俺達はその地に到達する。

 「あ痛たたたた…」

 「森の中…ということは、成功したのかな…?」

 着地時の衝撃でお尻を思いっきり打った俺は痛がっていたが、シフトや皆は意外と平気そうで辺りを見回していた。

 「なんか、俺達がいた世界と、感じられる空気が随分異なるような…」

 「多分、世界を構成している粒子の種類がクリムゾロと異なるからなんでしょうね…」

 「ふ~ん…・」

 ランサーとミヤの会話に、俺は耳を傾けていた。

 「見て見て!!あっちの方に灯りがあるわ!!」

 「本当だ…!どんな場所なんだろうね?」

 俺達のいた場所がちょうど丘の上だったのか、木々の先の下には灯りが少し見え、街の真ん中には大きな城が建っているのがよくわかる。

 それを、ソエルとシフトが一番に見つけたのだ。

 「何が待っているかはわからないが…とにかく、行ってみようぜ!!」

 上から見た街の景色と夕日をに焼き付けながら、この丘を下り始めた。

  丘の上から街に向かって降りていく。1つ気になったのは、大きな森なのにも関わらず、鳥や動物の鳴き声が聴こえたりしないという点だった。

 「なんだか、不気味なくらいに静かな森だな…」

 「魔物の気配も感じないくらいだしね…!!?」

 「どうした?シフト!!」

 何かに反応したのか、シフトはバッと辺りを見回す。

 「ミヤ…今、向こうの方から悲鳴みたいなのが聴こえなかった…?」

 「ええ、微かに…」

 「私には聴こえなかったけど…」

 「俺も…」

 シフトとミヤの会話に、俺とソエルが入ってくる。

 「とにかく、行ってみないと始まらないかもね…」

 そうミヤが呟いた後、俺らは、その悲鳴が聴こえたであろう場所へと急いだ。

 「あ!あそこ!!!女の子が、魔物に襲われている!!!」

 俺達の視界に入ってきたのは、以前ウィッシュナクルで退治したブラックロンドウルフのような狼系の魔物と、7・8歳くらいの女の子だった。

 「危ない!!!」

 女の子に向かって襲い掛かってきた狼の目の前に俺は立ちふさがる。

 「君、大丈夫か!!?」

 一瞬だけその子の方を向いたとき、何か違和感を覚える。

 あれ…?この子…

 一瞬考え事をしていると、魔物は再び襲い掛かってきた。やはり、わりと最近に強い敵と戦ったせいか、この魔物が襲い掛かってきても恐怖は感じなかったのである。

 「はっ!!!」

 狼の鋭い爪を避けた俺は、そのすれ違いで相手の腹を貫いた。

 「ギャァァァァッ!!!」

 魔物は、うめき声を上げながら地面に倒れ伏す。

 倒せたからよかったけど…こいつの爪があともう少しそれていたら、ヤバかったな…

 地面に倒れ伏した魔物を見下ろしながら、俺はそんな事を思った。

 「あれ?…さっきの子は…?」

 「さっきまで、ここにいたのにね…」

 気が付くと、俺が助けた女の子の姿がない。

 俺達は不思議そうに辺りを見回すと、遠くで人影らしきものが目に入る。

 「あ!あれじゃねぇの?」

 ランサーが指差した先に、先ほどの女の子がいた。

 「あ!!待って…!!」

 こっちを見たその子は、逃げるように走り出す。

 「おいおい!別に、追いかける必要はないんじゃねぇの…?」

 「いや、なんだか誤解されているような気がしてさ…」

 俺とランサーはその子を追いかけながら話す。

 「…その女の子、見た目はどんなかんじだったの?」

 「え…っと…。一瞬だったから少しわからなかったけど、色黒な肌と金髪で…頭に、角みたいなモノが…。でも、ミヤ!どうして、そんな事を…?」

 赤の他人の外見についてミヤから聞いてくることがあまりなかったので、俺は不思議で仕方なかった。

 「…この世界は、もしや…」

 「ミヤ…?」

 シフトが不思議そうな表情かおでミヤを見つめる。

 「…まず、その子に話を聞いてみるしかなさそうね」

 そう彼女が呟く。

  少女を追いかけていく内に、先ほど見えた町らしき場所の入り口までたどり着く。そこの入り口は、要塞のように周囲を空まで届きそうな高い壁で覆っている。そして、その後になって俺の視界に入ってきたのが、門番の男2人と、50歳くらいの中年女性の下へ走っていくその少女の姿だった。おそらく、あの女の子の母親というところか。

 入り口近くまで走ってきた俺達に対し、門番の男が槍を向けてきたのである。

 「蛮族よ!!幼きこの子に何をした…!!?」

 物凄い形相で睨んできた。

 もしかして、こいつら…俺達がその子に何かしたと思っているのか!?

 俺が因惑していると、ランサーとシフトが話し出す。

 「おいおい!!勘違いしてもらっちゃあ、困るなぁ!!」

 「僕達は、魔物に襲われていたその子を助けただけで、何も…」

 「騙されないぞっ!!現に、この子が怯えているではないか!!!」

 漆黒の瞳を持ち、頬に鳥の鱗みたいなモノがついている門番が叫ぶ。

 「だから、本当に…!」

 途中言いかけると、ミヤが俺を制止して前に出てくる。

 「彼らは、同族以外の存在に対して警戒心がとても強いの…」

 「え…?」

 低い声で彼女は呟く。

 その台詞を聞いて、どういう事かがさっぱり理解できなかった。

 「門番さん。ここは…“獣人の国”ビーシャルネットですよね…?」

 彼女の台詞を聞いた門番2人や、その場にいた全員の表情が一変する。

 「貴様!!なぜ、この国の名前を…!!!?」

 まるで、豆鉄砲を食らった鳩のように驚いている門番達。

 そして、俺の目の前にいたミヤが、黒い光につつまれる。

 「っ!!!!」

 眩しくて、俺や皆は思わず手で光を遮った。

 「…・ミヤ…!!?」

 目を開けてみると、そこにいた彼女の外見が明らかに違っていた。

 片翼だけだが背中に漆黒の翼を生やし、二の腕辺りが羽毛に覆われていた。その姿を見た俺達4人の表情が一変する。

 「貴方達の王…スコウ陛下にお会いしたいのですが、どちらまで行けばよろしいのでしょうか…?」

 静かにしゃべるミヤを見て、俺達はただ呆然としていただけだった。

 

 ※

 

  車輪が動く音と共に、馬車が街中を進んでいく。あれから、町というよりこの国に入れた僕達は、この国を治めているスコウとかいう王様のいる城に馬車で向かっていた。

 「ミヤ…僕、状況がさっぱりなんだけど…」

 僕は、恐る恐るミヤの方を向いて呟く。

 この馬車に乗る前にミヤが一瞬光出したかと思うと、いつもとは違う姿に変わっていた。どちらかというと、今の彼女は鳥に近い外見をしている。

 「昔…父様から「混ざり物だけが住む国がある」って聞いた事があるの」

 「“混ざり物だけの国”…?」

 「そうか…だからこの国の連中は、それぞれ獣みたいな特徴を持っているんだな…!」

 僕やセキが驚いている側で、ランサーが考え事をしながら呟いた。

 「“異世界”に来たのだから、そういう変わった国があるって事は理解できたけど…。私はそれよりも、あんたのその格好の方が気になるわ」

 ソエルがマジマジとミヤを見ながら言う。

 「そうね…皆は、生まれてからずっとクリムゾロで育ったから、流石に知らないか…」

 「ミヤ…?」

 複雑そうな表情をするミヤに、心配そうな顔でセキが見つめていた。

 「結論から先に言うとね…私、実は魔法も少し使えるの」

 「え…!!?」

 驚きのあまり、僕の声が馬車内に響く。

 だが、驚いているのは自分だけではなかった。

 「初めて出会ったとき…君自身から一般の魔術師が持つくらいの魔力を感じてはいたけど…まさか、魔法剣士だったとは…」

 目を丸くした状態で、ランサーが言う。

 「でも…あなたが魔法を使うところなんて、見たことないわ!」

 僕が思っていたことを、そのままソエルが代弁していた。

 「ランサー…。魔術の根本的な仕組み…貴方だったら、わかるよね?」

 ミヤがランサーの方を向いて問う。

 すると、最初はきょとんとしていたけど、すぐに話し始めた。

 「ああ…。呪文を唱える事で、その中に圧縮された膨大な情報が世界の魔導…魔術の大本になる力にリンクして、術が発動するっていう原理だけど…それがどうかしたのか?」

 「…クリムゾロとこの世界“フィシュビストラー”は、その魔術の元になる力の種類が全く異なるの。だから…」

 「だから、俺達のいた世界では魔術を使えなかった…という事?」

 「ええ」

 何かをひらめいたかのような表情かおで話したセキにミヤが首を縦に頷いた。

 「そして、この国が“混ざり物だけが住む国”と理解したのもあり、クリムゾロでは解けない“人化の術”を解いたって事なの…」

 説明をし終えたミヤは、僕達の方を見て言う。

 「混ざり物の身体は人と魔族の血を継いでいる事もあり、これが元の姿なの…。でも、この世界以外の私達みたいなモノは皆、迫害されるのを恐れてこの“人化の術”を用いるの。皆は……今の私の姿を見て…怖いとか思う…?」

 最後にしてきた質問をしてきた時…彼女の身体が震えているのがわかった。

 緊張しているのがよくわかる。

  すると、セキが彼女の正面に座って口を開く。

 「そんな事、思うわけないだろ!!姿かたちがどうであろうとも、ミヤはミヤなんだから…!!」

 そう訴えかけるセキの瞳が少し潤んでいた。

 「…そうだよ!あの時…どんな存在であろうと僕は僕だと教えてくれたのは、ミヤだったじゃない!だから、今更怖がるなんて事はないよ…!!」

 僕はゆっくり、そしてはっきりと自分の素直な気持ちを口に出した。

 「そっか…そうだよね…」

 「大丈夫だよ!」と言わんばかりのかんじで笑顔を見せていた僕らの気を感じ取ったのか、フワッとしたかんじの笑顔を浮かべながら、ミヤは呟いた。

 「まもなく、城に到着する…。陛下に失礼のないようにしてもらいたい」

 「…わかりました…」

 さっきの門番が俺達に城へ到着したのを告げ、ミヤが返事をした。

 そして、馬車を降りた僕達は、城の中へと入っていくのである。

 

いかがでしたか?

この物語に出てくる魔術の仕組みを、今回でいくらか理解できたかと思われます。

簡単に言うと、この”ビーシャルネット”が存在する世界は、他と比べると特殊な世界だという事になります。

次回は後編をお送りします。

そして、ご意見・ご感想もどしどしお願いします!

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