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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第二章 ケステル共和国
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第4話 すれ違い

話の中である3つの国は

ケステル共和国→イギリス・フランス

ミスエファジーナ→北欧・ギリシャ

レンフェン→古代日本・中国

上記の国の雰囲気をモデルとしています。

馬車が揺れる音が響く。土を踏み、街道を駆け抜けていく。亡失都市トウケウを脱出した俺とミヤは、ケステル共和国の首都ゼーリッシュ行きの馬車に乗っている。

あの都市の印象が強くて、こちらの世界が現実だということをすっかり忘れていたのである。

 トウケウは古代都市ではあるが、今よりも技術がかなり進んでいた。一方、俺達が生きる現代は、大規模なモノはなくても、未だ各地で戦争が起きている。世界は数十カ国の王達によって建国されたケステル共和国と、魔法大国ミスエファジーナ。そして俺が生まれた国レンフェンの3大勢力に別れ、他の小国を治めている。ミスエファジーナとレンフェンは不可侵条約を結び、歴史の背景等からある程度良好な関係を築いているが、ケステル共和国とは異なる。宗教上の思想などの関係で、大戦争にはならなくても睨み合いが続いている。


「そろそろ着くわよ」

ミヤの言葉を聞いて窓を見てみると、ゼーリッシュの入り口前に到着していた。

馬車を降り、関所にて身分証明書を見せる。

 この国に限らずだが、世界中のどの国でも適用されているが「旅人制度」というものがある。これは旅人のための制度で、いろんな国を歩き回る人に旅人用の身分証明書が発行され、自由に入出国が可能となる。

しかし、これにはデメリットもある。旅人はその国の民として国籍登録がされていないため、滞在国での法に守られることがない。そのため、病気や怪我をした際も対処してくれない。また、1つの国に滞在できる期間も国によって決められているため、長期滞在する場合はその国で国籍登録を行わなくてはいけない。もちろん、その国の国民が旅人になりたい場合も手続きが必要で、国籍登録を解消しなくてはならない。

面倒な手続きをさせることによって、その国の民を失わないようにするのが目的で作られた決まりなのだろう。


2人はゼーリッシュを歩き始めた。ミヤが手に入れた本を依頼人に持っていくという。歩いて行く内に路地裏の方へ入って行った。

「そういえば、その本は依頼人に渡しちゃうんだろ?・・・渡す前に少しだけ見せてもらうことってできないかな?」

「・・・・・・見てどうするの?」

「その・・・俺もマカボレンについて調べているんだ。せっかく持ち出せた資料だし、参考がてら見てみたいなって思って・・・」

一瞬の間があき、こちらに振り向いた彼女は口を開く。

「やっぱり、この本が欲しくてついてきてたのね」

「え・・・?」

「・・・自分の利益のためなら何でもする。私に言った言葉は全部嘘なんでしょ?」

歩く向きになってから、ミヤは続ける。

「所詮、人間なんてそんなものよ。過去の歴史には興味ないけど、トウケウもそういった人間ばっかりだったから滅びたんじゃない?」

その台詞を聞いた途端、何かこみあげてくるものがあった。

憤りと呼ぶほど激しい感情ではない、何か生物的な衝動といった所だろう。思わず駆け寄り、俺の右手は彼女の左腕を掴んでいたのである。

「確かに人間は自分の利益しか考えない部分もあるけど、それだけが全てじゃない!君だって人間じゃないか!!」

「…っ!!触らないで…!!!」

振りほどこうとするミヤを目の前にして、俺は初めて彼女の顔をしっかり見たのである。

漆黒の瞳に光を感じず、顔は正面を向いているのに目は自分を視えてないようだった。かつて盲目の人間を見た事があったが、彼女のような瞳をしていたのを思い出す。気がつくと、ミヤは俺の腕を振り払っていた。

「…さようなら」

そう口走ったかと思うと、その場から逃げるように走り去っていく。

彼女が怒ったのは自分のせいだけど、間違えた事を口にしたつもりはない。

なぜあのような言い方をしたんだろう…?

一つだけ抱いた違和感を胸に、数分間だけの沈黙た続く。


2人から1人に戻った事で、また振り出しに戻ってしまった。

マカボルンの情報もあまり得られなかったし…

途方に暮れた俺は、飯でも食べようと路地裏を出ようとした瞬間―――――――

「んーー!!んーんー!!!!」

まるで口を塞がれた時に出るような声が聞こえてくる。

かすかに聞こえた声色を聴いて嫌な予感がした。 路地裏を走り抜けて辺りを見回すと、路地裏から中央通りへ抜ける所の目の前に馬車が停まっていて、2・3人の男達が馬車に何かを乗せようとしていたのである。

あれは…ミヤだ!!

茶色い髪しか見えなかったけど、1人の男が彼女の刀を持っていた事で、乗せられているのがミヤだと悟る。

中にいる人物と何かを話していたかと思うと、馬車は出発してしまった。残された男達は、どうやら彼女の刀を売り飛ばそうかという話をしているようだ。

このとき、口を塞がれて猿ぐつわ等をされた。そして、刀を取り上げられた=誘拐・・・という発想にたどり着くまでそう時間はかからなかった。本来、旅人の厄介事に関わっても誰も助けてくれないので、何もメリットはないのは解っている。しかし、理屈では語れない何かを俺は感じていた。そして、「このまま見殺しにしてはいけない」という気がしたのだ。

「その刀、俺に譲ってくれないかな?」

俺の声に気がついた男達はこちらを向いてきた。

「なんだぁ?てめぇは・・・」

「・・・その刀、誰かの落し物ってことかな?だったら、忙しそうなあんたらに代わって俺が役所に届けるよ?」

遠まわしに「お前らがやっていた行為は見逃してやるから、刀を渡せ」って言っているつもりだけど…通じたかな?

俺はそんな事を考えながら、相手の返答を待つ。

「アホぬかしてんじゃねぇぞ、このガキが」

3人の内、一番大柄な男が俺に鋭い目で睨んできた。

しかし、全く怖くなかった。

・・・もっとやばい目に遭ったこともあるしな…

そう思っていると、どこにでもいるようなチンピラみたいなパターンで、俺を殴ろうと向かってきた。剣を使ってしまえば楽に勝てるが、傷害罪とかで捕まって死刑になるのはご免なので、素手で対処することにした。

自分は剣士だが、ある程度の体術は会得しているのでチンピラ程度なら特に問題ない。

向かってきた男に対して俺は殴り返すこともなく、瞬時に避けたのと同時に相手の足を引っ掛けてやった。そうしたら見事にこけたので、思わずにやけてしまったのである。

「野郎っ!!!」

お決まりの台詞で殴りかかってきたもう一人の男も、先程よりは素早かったが、みぞおちに当て身を加える事で、一気に勝負はついてしまった。


「なら、この手に入れたばっかりの刀で切り刻んでやる・・・!!」

ミヤの刀を持っていた3人目の男が鞘から抜こうとしていた。

その光景を見た俺は眉間にしわを寄せる。

こんなくだらない喧嘩に、剣士の魂たる刀を使うなんて・・・!

俺は同じ剣士として、憤りを感じずにはいられなかった。

「やめろ!!!」

そう叫んだ俺はつい刀を持った男を殴ってしまい、その反撃をくらってしまった。

俺を殴ったその手で彼女の刀を持ち、男は抜こうとしていた。しかし、いくら取り出そうとしても、刀は1ミリたりとも動かない。不思議に思った男は商手・片足を使ってみたがそれでも動かなかった。

どうなっているんだろう?

目の前の光景に首を傾げていると、感電したような音が周囲に響く。

「痛てぇ!!!」

指を抑えながら男は痛そうな表情で刀から手を放した。

その瞬間、俺は急いでその男からミヤの刀を取り戻し、来た道を戻る。全速力といっても、狭い路地裏では障害物もある関係で、あまりその速さを実現できない。しかしながら、とにかく出来る限りの全速力で走った。辺りを見回しながら走っていたので、途中で人とぶつかってしまう事もあったが…

「わりぃ!今ちょっと急いでるんだ!!」

「はぁ・・・」

俺とぶつかった人は顔はよく見ていなかったが、髪色が銀髪だったのが目立った。

その後、走りながら考える。

さっき男が刀を抜こうとした時、黒い何かが吹き出て・・・一見した所、あれに感電したといっても間違いなさそうだな。でも、あの刀が原因だとすると…普通じゃないよな・・・

そんな考えが頭の中を占めていたが、それどころではないと自分に言い聞かせる。

「とにかく、ミヤを探さなくては!!!」

このままではミヤが危ない!!と思うと、不思議と走る力が出てきたのである。

なんだか、トウケウ脱出前の猛ダッシュみたいだ・・・

そのような事を考えながら、俺はぜーリッシュの街を走り抜けていく。


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