第48話 ヴァラで過ごす、最後の夜
この回をきっかけに、セキ達が新たな旅立ちをする事になります。
その後、俺は皆を集めた。
「セキ…皆を集めて、どうしたの…?」
ソエルが不思議そうな表情で俺を見つめる。
「ああ…俺なりに考えた事なんだけど、皆に話しておきたいことがあるんだ」
俺はつばを飲み込む。
「皆もわかっていると思うが…今現在、俺達の知る限りではマカボルンは存在していない」
「それは…わかりきってる事じゃ…!」
そう言い放とうとしたシフトを、ランサーが制止する。
「めずらしく、マトモな表情しているな…。ここはセキ君の話を聞いてみるとしようぜ!」
そう言ったランサーは俺の方を向いた。
あいつと目が合った俺は、黙ってうなずいた後に話を続ける。
「ミヤの母上であるアクト女王が、手に入れたマカボルンを消滅させようと試みた。…しかし、彼女は今から100年前に亡くなっている…。ここからは俺の仮説なんだが、100年前、彼女が亡くなる直前くらいにミヤが産まれ、何らかの形でミヤに渡った。だが、ミヤが実物を持っていない所を見ると…ダースがミヤから受け取ったのでは…と、俺は思うんだ」
一気に話した俺は、皆がどんな反応を見せるのかと辺りを見回した。
全員が、考え事をしている。すると、ミヤの刀からガシェが現れて言う。
『その仮説…あながち間違ってもいないかもしれんな…』
「そうだね…」
そのすぐ側で、なぜかシフトがうなずいていた。
「ガシェ…。そう言うって事は、何か根拠があるのか…?」
『…ああ。私が、ダース様と別れた際、“複数の古代人の魂”…というより、エネルギーを感じていた。大魔王であられるあの方に、普通だったら考えられない現象だからな…』
「ガシェ…そんな事が…?」
ガシェの言葉にミヤが反応した。
『…黙っていて申し訳ありませんでした、ミヤ様…。貴方様を連れて“あそこ”を出た後、あなたは一時的な記憶喪失になられていた。しかも、当時の貴女は幼かったから、なぜ離れ離れになったのかを説明するには、あまりにも酷だったから…』
それを聴いたミヤは、今にも泣きそうな表情だったが…涙をグッとこらえ、俺の方を向く。
「セキの仮説…私も正しいんじゃないか…って気がしてきたわ。思い当たる節もあるし…」
彼女の表情がいつもの状態に戻りつつある。
俺にとっては複雑な気分だった。
「…泣いたり、わめいたりしている場合じゃない。その可能性が出てきた以上、私はこの世界を抜け出してでも父様のもとへ行き、真意を確かめるわ…!でも…」
皆を見ながら彼女は話を続ける。
「もうこれ以上…自分のせいで、誰かが犠牲になるのは見たくない。…だから、皆は私なんかの事情につきあう必要はないからね…?」
…今回のレスタトの件で、彼女が抱える不安要素は消えたと思われたが…まだ、そんな事を気にしていたんだ…
そう考えていると、ソエルがミヤの目の前に来て強く抱きしめる。
「ミヤ…あんたはいつも、一人で全部抱え込んじゃって…!」
「ソエル…?」
表情の見えないミヤは、なぜソエルが自分に抱きついてきたのかが理解できなかった。
「あなたはもう…私達の大事な仲間なのよ…!仲間が苦しんでいるのに、黙って見ているなんて、私にはできない…!」
ソエルの瞳が少し潤んでいた。
俺も、それをミヤに伝えてあげたかったが…時には、女同士で気持ちをぶつけ合うのもいいかもしれない…と思うと、間に入ろうとは思わなかった。
「そうだよ、ミヤ!それに…“マカボルンを見つける”っていう目的は皆一緒だし、これからも変わらないんだから!!」
ソエル達の後ろで、シフトが言う。
「ソエル…シフト…」
涙を必死でこらえていた彼女の漆黒の瞳から、一筋の涙がこぼれる。
「私……また、皆と一緒にいて…いいのかな…?」
「当たり前だろ…!!」
彼女の表情を見ていて、今にももらい泣きをしそうだった俺は断言する。
「ありがとう…。本当に、ありがとう…!」
周りを気にせずに、涙を流している彼女を見て俺は思う。
ああ、今度こそミヤは幸せになれそうだな…
とーーーーーーーーーーーーーーー
「…よし!そうと決まったら、異世界への行き方を調べなきゃだな…!!」
「“異世界”かぁ…ダースがレスタトに自分の居場所を教えるまで、そんな世界があるとは思えなかったもんなぁ…」
俺とシフトはいつもの雰囲気に戻って話し始める。
「ここから違う次元へ行くには…確か、媒介になる物と、“次元のはざま”が発生しやすそうな場所を見つける事が必要なはず…。ガシェ、私が持っているこの刀が…異世界へ行くための媒介になるのよね…?」
『その通りです、ミヤ様』
俺らの前でたくさん泣いた後、完全にいつものミヤに戻っていたのである。
それを見た俺は、ものすごく安堵した。
「“次元のはざまが発生しやすい場所”か…。俺にもさっぱりだが…あの人なら知っているかもしれねぇな…!」
「“あの人”…?」
ランサーの台詞を聞いた俺の脳裏に、ある人物の顔が浮かぶ。
「以前、グリフェニックキーランで会った俺の恩師・メスカル校長先生の事だ。…あの人はあれでも魔法省の幹部だから、何か知っているかもしれねぇ…!」
「という事は、次の行き先はグリフェニックキーランね♪」
「待ってました!」と言いたげな表情でソエルがウィンクしながら言う。
「よし!今日はゆっくり休んで、明日に備えよう!!」
※
この隠れ里で過ごすのも…これで最後かな…
寝室のベッドに座りながら、私は窓の方を見ていた。今は刀も手放しているために何も見えないが、顔に月の光を感じる。
多分、今夜は満月なんだろうな…
そんな事を考えていると、扉を叩く音が聞こえる。
「ミヤ…入っていいか?」
「ええ。どうぞ…!」
声と気で、セキだと感じた私はそう答える。
その後、部屋に入ってきたセキが、私の隣に座る。
「…ったく…シフトの奴、「今日、この部屋は2人で使ってね★」とか言いやがって…」
「え…?」
セキが何か呟いていたけど、ボソボソ言っていたので、はっきりと聞き取ることができなかった。
私は全く気がついていなかったが、顔を少し赤らめながら、彼は話し始める。
「な…なんか、普通に野郎だけで寝ようとしたら、ランサーに閉め出されたんだ…。そんで、シフトは「クエン達の所で泊まってくる~!」とか言って出て行っちゃうし…」
「そっか…」
私はフフッと笑った。
シフトは何を考えているかわからないけど…ランサーはきっと、ソエルと一緒にいたいのよね…
「セキ…」
私は彼の気が感じる方をしっかり向いて口を開こうとする。
いろんな事がありすぎて、頭が混乱していたけど…私は、今絶対に言わなきゃいけない事を、セキに告げていなかった。…だから、私から言葉にして言わなくては…。
「今回の件では…セキや皆のおかげで、私はこうしてまた生きている…。なんて礼を言ったらどうか…」
私の台詞を聞いたセキは一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「礼だなんてそんな…俺はただ…君の力になりたかっただけなのに…」
「その気持ちだけでも…嬉しいわ…」
そう呟いた私は…何も見えない状態で、彼の顔に触れようとする。
「ミ…ヤ…?」
不思議そうな表情をしているセキとは裏腹に、私は両手を使い、手探りで彼の肌に触れる。
口…ほっぺ…おでこ…眉毛…。今まで自分から他人に触れようだなんて思わなかったから、人間の顔がこんな感触だなんて知らなかった。
「セキ…あなたの顔、すごくきれい…」
「そう…なのか?俺は、目は父上似だけど、それ以外は母上似とはよく言われていたが…」
「あなたの顔…この目でしっかりと見えればいいのにな…」
それを聴いたセキは、フッと笑って話す。
「俺も、君に“自分はこんな奴だ!”ってその目で見せてやりたいけど…そんなにハンサムな顔じゃないから、なんだか複雑な気分だよ…」
そう言う彼を見た私は、言い方がものすごく子供っぽくて…それでも、なんだか愛おしく感じていた。
…これがいわゆる“母性本能”って奴なのかしら…?
「セキ…。本当に、いろいろとありがとう…。……大好きよ……」
「うん。…俺も…」
その夜、私は…両親以外での温もりと、女としての幸せを心から感じた一夜を過ごしたのである。
※
仲間はずれはしんどいけど…セキとランサー、うまくやってるかなぁ…?
夜のヴァラを散歩しながら、僕は考えていた。実は、“クエンの所で泊まる”というのは嘘。明日からの新たな旅立ちに向けて、彼らにより強く結束してもらうために…と思って僕が仕組んだ事だった。
ランサーはエスコートとかできそうだから問題ないかもしれないけど…。セキは筋金入りのお坊ちゃんだから、大丈夫かなぁ…?あ、でも、意外にミヤがしっかりしているかも…
僕の頭の中は妄想でいっぱいだった。
でも、そうやっていろんな事ができるのは…“生きている”っていう、何よりの証拠だもんね…
僕は自分の腕を見ながら、その場で立ち止まる。
「アキ…」
僕の頭の中には、生前の彼女の姿が映っていた。
軍の科学者だった僕は、軍の施設内にあるバーで歌姫として働いていた彼女に出会い、交際を始めた。当時はマカボルンの発明を成功させたことから、火を噴くような忙しさだった僕にとって、彼女の存在だけが救いだったのである。
そして、今となっては彼女を抱くことすら叶わない…。しかしーーーー
「アキ…もうすぐで…君に会えるよ…!」
僕はその紅の瞳に涙を浮かべながら、右腕を空に掲げて呟いていたのである。
いかがでしたか?
この作品は少年漫画風のストーリーではありますが、今回は少し恋愛要素が入っていたのは読んでお気づきかと思います。
次回以降は、ミヤの父親を探しに異世界へ行く術を探しに行くセキ達。
果たして、何が待ち受けているか!?
・・・お楽しみ♪
引き続き、ご意見・ご感想をよろしくお願いします。