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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十一章 明かされるミヤの正体
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第46話 降臨

<前回までのあらすじ>

戦いの火蓋は切られた。

ミヤを奪還するため、レスタトに戦いを挑んだセキ達。

しかし、その圧倒的な力によって次々と地面に倒れ臥す。

そんな彼らを見たミヤは、「仲間を殺さないで欲しい」と懇願するが、レスタトはそんな彼女を精神的に追い詰めて行く・・・。

そして、過去に自分を食い殺そうとしていた事を明かされたミヤから、怒りと共に黒い光が発し・・・。

  「う…」

 レスタトに絞め殺される寸前だったので、意識を取り戻すまで少し時間がかかった。

 「ミヤ…!?」

 気がつくと、彼女の姿が人ではないモノに変貌していた。

 腕の所どころに鱗があり、細い指には鋭い爪。耳はエルフのように尖っている上に、背中には漆黒の翼が生えている。その姿は、文献でしか見た事のない大魔王ダースと似た風貌をしていた。

 「あああああああっ!!!!」

 彼女の雄叫びとも言える絶叫が、周囲に響く。

 『ミヤ様…!また…また、あの時と同じように…!』

 刀からガシェの声が聞こえた。

 「“あの時”…!?」

 『…以前も、人間の友を殺されて…魔族化した事があるのだ。あれ以来、2度とこんな事は起こさせないと誓ったのに…今、何もできない自分が情けなくて仕方ない!!』

 つらそうな声音でガシェは述べる。

 魔族化―――――“混ざり物”だけに現れる現象で、その能力(ちから)は親である魔物によって大きく異なる。

 今思えば…出会った当初にあまり人と関わりを持とうとしなかったのは、そういった経験があるからなのかもな…

 彼女の変わり果てた姿を見ながら、ふとそんな思いが脳内を駆け巡る。

 「魔族化…成程、“奴”を倒したのはそれがあったからか…」

 レスタトが興味深そうな表情で呟く。

 “奴”…?

 その台詞(ことば)の真意はわからなかったが、今はそれ所ではない。

 魔族化によって自分を拘束していた鎖を引きちぎったミヤは、奴に襲いかかる。上空から飛びかかってきた彼女を見て、奴は一瞬で避けた。その一撃は玉座に直撃し、奴が座っていた場所が見事に崩れる。

 彼女の爪がかすったのか、奴の腕に軽い切り傷と血が見えた。かすった部分の傷を舌で舐めとった後に、レスタトは呟く。

 「先ほどより、魔力や破壊力が相当上がっているようだな。……だが!!」

 奴が彼女の首を掴んだと思うと、その右手で地面に叩きつける。

 轟音と共に、床に亀裂が入った。

 「ミヤ…っ!!」

 俺や皆の表情が一変する。

 「がはっ…!」

 地面に叩きつけられて、痛みに苦しむミヤ。

  あの姿で戦いを挑んでも…奴には傷一つ負わせられないのか…!?

 レスタトはうつ伏せに倒れた彼女の結いだ髪を強く掴み、自分の目線下まで持ち上げた。

 「魔力が相当上がっていようが、所詮は“混ざり物”…。完全な魔族である、私の力までは及ばないさ…」

 奴の台詞の後になって怒りが収まったのか、ミヤの魔族化が少しずつ解けてきた。

 鱗や翼が消え、耳も戻っていく。そして、その表情は――――――涙で濡れている。

 「もう…やめて…」

 彼女が苦しそうな表情をしながら、何か呟いている。

 「あなたに…従うわ…。だから……もう仲間(みんな)に…手出しはしないで…。お願い…!」

 彼女の腕がかなり震えているのがわかる。

 「…よかろう。そなたが、そこまで言うのならば…」

 そう言った後、レスタトはもう片方の手でミヤの首筋に触れ、服をやぶっていく。

 「何を…する気だ…!!?」

 俺の近くで、身体の動けない状況でランサーが声を張り上げる。

 当の彼女も、服を破られたのには気がついたが、何をするのかが全くつかめていなかった。

 「ククク…なに、悪いようにはせんよ…」

 口ではそう言っているが、とても何もしないようには見えない表情だ。

 しかし、その台詞の直後…なんと、奴はミヤの首筋に牙を当てて、食らいついたのだった。

 

 ※

 

  鈍い音と共に、ミヤの首筋から赤い血が流れてくる。私は感情に任せて攻撃してしまったので、見事返り討ちに遭ってしまった。全身が打撲や切り傷で痛く、動きたくても動けない状況だったが―――――この時、私はあの時の事がフラッシュバックのように甦る。それは、吸血鬼であるオルトに血を吸われた時の事だった。今、目の前で起こっている事は、まさに“恐怖再来”…といったかんじだ。

  最初はがっつくようにして彼女の血を食らっていたレスタトだったが、割りとすぐに牙を離し、何やら呪文の詠唱を始めた。

 立ち上がって、彼女を助けに行くべきなのに…!

 自分が同じ目に遭った時の光景が頭から離れなくて、私は全身が硬直していたのである。

 気がつくと、ミヤの首筋には、紋章みたいな刺青が浮き出ていた。その刺青が現れることによって、かみつかれた跡が消えていく。そして、奴は右腕を離す事で、ミヤの身体が地に墜ちた。当然、血を吸われて術をかけられたあの子は意識を失っている。

 「レスタト!!彼女に何をした!!!?」

 横に視線を向けると、セキが物凄い形相をして奴を睨んでいた。

 「その禍々しい魔力…もしや、フィズと同じ…!!?」

 「クックック…。察しの通り、この術は相手の肉体や精神を操る事のできるモノ。…その効果は、フィズで実証済ではないかね…?」

 口についたミヤの血を拭いながら、シフトの方を向いて奴は答える。

 「そして、この娘を手に入れた以上…貴様らはもう、用済みだな…!」

 そう言った直後、私達の周辺の壁や床がみるみると不気味な有機物に変化していく。

 「何なのよ、これっ…!?」

 「くっ…離せ!!」

 その不気味なモノは魔物の腕や口に変貌し、私達を地中深くに引きずりこもうとする。

 「レスタト!!てめぇ…ミヤとの約束を破るつもりか…!」

 「ふははははは!!!約束など、最初から守るつもりはない!縛魂の紋章さえ刻めば、いくらでも精神操作(マインドコントロール)できるからな…!」

 「ふざけんじゃ…!」

 魔物の腕らしきモノが、無造作に私の口を塞ぐ。

  息が…!

 もがけばもがく程、抜けられなくなる。まるで、底なし沼のようだ。

 「ちなみに、“これら”は私の心そのもの。人間を殺したくて仕方がないという気持ちの象徴といったところだ…。そして、取り込まれた者の魂は…再生と破壊を繰り返す無限地獄へ行き着く…」

 意識が薄れていく中で、奴の台詞(ことば)が聞こえてくる。

 一瞬周囲を見回すと――――――――――皆も私と同じように、地面に引きずりこまれている。

 「くそぉぉぉぉぉっ!!!!」

 悔しそうなセキの叫びが響く。

 今度こそ…死んじゃうのかな…

 そんな一種の諦めの想いと同時に、私は死んだ父さんや母さんの下へ行けるのでは…ということも考えていた。

 

 ※

 

 『そこまでだ』

 腰に提げたままだったミヤの刀から、一瞬何か聴こえたと思うと―――俺の周りが、瞬時に光る。眩しくて目を閉じた俺は、恐る恐る閉じていた瞼を開く。すると俺らを引きずりこもうとしていた不気味なモノが綺麗になくなっていた。

 俺達4人は、何が起きたが全くわからず、ただ呆然としている。

 「この声…もしや!!」

 顔を上げると、動揺したレスタトが突っ立っていた。

 『久しぶりだな…レスタト…』

 気がつくと、俺の背後に1人の男が立っていた。

 群青色の髪に、金色の瞳。そして、背中に生えている漆黒の翼を見た瞬間、俺はその人物が何者かを悟る。

 「まさか……大魔王ダース…?」

 驚きの余り、あまり声が出なかった。

 俺の呟きに気がついたこの男は、自分の方に向いて言う。

 『お前がレンフェンの皇子か。…娘が世話になっているようだな…』

 その表情は笑顔ではなかったが、魔族が持つ強力な覇気があまり感じられない。

  こいつが、大魔王…?

 その穏やかな雰囲気は、とても“魔族の長”とは思えなかった。

 「ふ…まさか、そちらから接触してくるとはな…」

 レスタトの台詞に対し、ダースは静かに答える。

 『私も、アクトが貴様と出くわした時…まさか、あれではなく、ミヤを狙っていたとは思いもしなかったな…』

 「ククク…。忘れはしない…あの時、貴様に負わされた傷を…!」

 話を聞いていて何のことかはつかめなかったが…一つわかるのは、レスタトは昔、ダースに傷を負わされ、それを根に持っているという事くらいだ。

 『昔話はここまでとしよう、レスタトよ。…そんなに私を倒したいのならば、こんなまどろっこしい事をせず、わが元へ来るがいい…』

 「何…?」

 『私の実体は今、異世界の一つ“テアビノ”にある。…ミヤに託した刀が次元を超える媒体になるから、来るならいつでも相手をしてやろう』

 「え…」

 俺達4人の表情が一変した。

 ダースだって、自分を殺し、“大魔王”の地位を奪おうと考える魔物がいる事くらい知っているはず…なのに、何故…?

 「クックック…」

 その台詞を聴いたレスタトは顔を下に伏せていた。

 そして、不気味に哂ってから言う。

 「ならば、お望み通り、貴様をなぶり殺しに行くとしようか…!…そして…」

 奴は気絶しているミヤの腕を掴み上げ、話を続ける。

 「貴様は、自分の娘の変わり果てた姿を見る事になるだろうな…!!!」

 不気味にほくそ笑むレスタト。

 その表情を見たダースから、強力な覇気を感じる。今まで感じたことがないレベルの覇気を感じた瞬間、全身に鳥肌が立った。

 『私の娘に触れるな!!!』

 自分の真後ろにいたために表情は見られなかったが、憤りを感じているというのは覇気からみて間違いない。

 その台詞の後、ダースから黒い光が出現し、眩しくて俺や皆は目をつぶる。

 「ぐっ…!!!」

 何とか目を開けると、そこには右腕を切断近くまで斬られたレスタトがいた。

 そして、強大な覇気をまとったダースは、俺の方を向く。

 『小僧!私の羽から作られたその刀で…奴を斬れ!!』

 「え…?でも…これって、ミヤ専用なのでは…!!?」

 いきなり「ミヤの刀を使え」と言うから、俺は戸惑いを隠せない。

 『確かに、その刀は娘を守るため、あれ専用に鍛えた刀。本来、普通の人間は扱えない代物…。だが、ガシェに認められたお前ならば、可能だろう』

 「…わかった…」

 根本的な事は理解したとは言い難いが、奴の言う事を信じるしかなさそうだ。

 『早くしろ…!!この姿は実体じゃないため、本来持っている力の半分しかない!!』

  強大な覇気をまとっているのに、まだ全体の50%…

 真の力がいかなる程あるかは考えないことにした。

 「おのれぇぇー…人間ごときに…ましてや、人間に心を奪われた愚か者などに…負けてたまるかぁぁぁっ!!!!」

 レスタトが少しつらそうな表情をしている。

 先程の黒い光が影響しているようだ。

 俺は、腰に下げていたミヤの刀を鞘から取り出そうと、柄を握り始める。

 「うっ…!!」

 魔刀から、溢れんばかりの邪気が体内に流れ込んでくる。

 本来、魔剣や魔刀を使いこなすのはとても困難で、一歩間違えると命を落としてしまうという危険な代物だ。

 「魂がざわつく」…という表現が正解なのだろうか…?

 そんな俺の中にある魂の叫びはただ一つ。“愛するべき大事な人々を守り、共に生きること”、それが全てだった。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 鞘から一気に刀を抜いた俺は、レスタトに立ち向かう。

 怒りや憎しみではなく、未来を切り開くという想い。仲間達を慈しみ守るという想い…いろんなモノをこの刀にこめて、俺は“魔神”レスタトを倒す――――――

 

 ※

 

  大事な人を失った時の絶望――――人間年齢で12歳の頃、私はそれを一度経験した。

 絶望感・恐怖・怒り・憎しみ。それらが最大となる事で魔族化した私は、当時“大魔王の左腕”と呼ばれた魔物を倒し、その場にいた多くの人間の命を奪ってしまった。

 そんな過去があるため、仲間達がレスタトに目をつけられる事に心底恐怖した。

 奴に従う事でどんな目に遭わされるか検討がついていたし、もう2度とあんな想いはしたくない…

 縛魂の術をかけられて気絶している中、夢の中でそんな事を考えていたのである。

 「ミヤ…」

 「母…様…?」

 夢の中で、誰かの声が聴こえたと思ったら、そこにいたのは母様だった。

 「ミヤ…。あなたは、まだ死んではいけない…!」

 「母様…?」

 夢の中ではあるが過去の記憶ではないため、ボンヤリと母様の気が感じられるだけだった。

 「…貴女は、自らが犠牲になる事で、仲間たちをレスタトの手から守った。…けれど…」

 「けど…?」

 「あなたが死ぬ事で…悲しむ人はいっぱいいるはずよ…?」

 その台詞(ことば)を聴いたとたん、私の涙腺が緩み始めた。

 「でも…母様!私が…私が存在する限り、皆を危険な目に遭わせてしまう…!自分のせいで、誰かが犠牲になるのなんて…もう見たくないのっ!!!」

 私は、思いのたけを母様にぶつける。

 それを聴いた母様は、黙ったままこちらに向かって歩いてきた。そして…私を強く抱きしめてから言う。

 「ミヤ…何があっても、如何なる罪を犯したとしても…死を望んではいけない。だから…生きるのよ…!」

 「母様…」

 母様は、私が窒息するぐらい強く抱きしめてくれている。

 夢の中なので、感触がないのが寂しいが――――――――

 そうして、私は徐々に意識を取り戻していくのであった。

 

いかがでしたか?

物語中でガシェが「ミヤの友人が殺された」話をチラッと出しましたが、今現在、その過去の話もおおよそ考えてます。ただ、本編の中にどう組み入れるかはまだ未定なので、可能であれば、こちらで掲載しようかなとは思っています。


次回はついにダースとミヤの親子が”再会”を果たす回となります。

普通の人間より寿命の長いミヤにとっては、50年以上会っていないという事になります。

そして、次回以降は今後どのように旅をしていくか・・・その辺りが具体的に語られて、実行されていきますので、お楽しみに!


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