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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十一章 明かされるミヤの正体
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第44話 ぶつかり合う2つの心

ミヤの出生と、なぜさらわれたかを知ったセキ達は、全ての黒幕である「魔神」レスタトの居城へと向かうことになる・・・。

 翌朝―――――俺達は、クエンと彼の親父さんの潜水艦に乗ってヴァラを出発しようとしていた。乗り込む時、ソエルの爺さんであるシノン長老が見送りに来てくれていたのである。

 「セキ殿…。そなたに、これを渡しておこう…」

 「…これは?」

 シノン長老は、俺に赤紫色の輝石を渡してくれた。

 「以前、村の者が外界で見つけたそうじゃ。どのような効果があるのかはわからんが…大きさから見ると、剣か何かにはめ込む輝石のようじゃ。そなたや、ミヤという少女は剣士だから、何かの役に立つかもしれん」

 「そうですか…。ありがとうございます!」

 俺はシノン長老に礼を言って、潜水艦に乗り込む。

  潜水艦に乗って俺達は魔神レスタトの根城アジトへ向かう。ソエルがクエンと彼の親父さんに運転をお願いした時、断られると思ったが…すんなりと了承してくれたのには驚きだった。

 「大魔王ダースがいた城なんて、100%未到の地なんだぜ!…最近、本業であちこちの国を往復させられていたから、そういう場所に行ってみたかったんだよな♪」

 ソエル曰く、彼はそんな事を笑顔で口にしていたらしい。

 「じゃあ、最初は体力温存という事で…」

 隣の部屋では、うちの参謀的役割を担うランサーが、ガシェと2人(一人と一羽?)で作戦会議をしていた。

 「おう!セキ!!」

 「う、うん…。そっちはどんなかんじかい?」

 「んー…ボチボチかな?まぁ、作戦って言っても、親玉に向けて体力を温存するために、雑魚とはなるべくかち合わないようにするぐらいだな!」

 ランサーがいつもの表情で言う。

 俺としては、“魔神”に従っているのだから、城で出くわすであろう魔物達が相当強いんじゃないかという不安があった。

 「まぁ、今はミヤちゃんを助ける事だけに集中する事!…だから、お前も本戦に向けて剣の手入れでもしとけ!!」

 「あ…ああ…」

 ランサーにそう促された後、俺はすぐ隣の部屋に入って座った。

 ミヤは…あの刀がないことで、ものすごく不安な気持ちになっているだろう…。俺は、誓う…。今度こそ、君を守ると!!

 俺は剣の手入れをしながら堅く誓ったのである。

 

  そして、数時間後―――――――――――-

 「おし!じゃあ、俺らはここで待っているんで、頑張って来いや!」

 クエンが笑顔で、俺達に激励の言葉をくれた。

 彼をここに残したのは、潜水艦の番をしてもらう事になっている。

 「ここが、大魔王がかつていた城…。その割には、あまり魔物の気配がしないね…」

 『この出入り口が、あまり知られていないからであろう。…油断は禁物だぞ、小僧』

 シフトの感想に、ガシェが忠告をした。

 思えば、ガシェって一応幽霊のはずなのに、なんで普通に見ることができるのだろうか。…幽霊にもいろいろあるのかな?

 魔鳥(ガシェ)の存在について、俺は不思議に感じていた。

 「このまま…魔物と出くわさないで目的地に到達したいわね…」

 ソエルが辺りを見回しながら言う。

 俺達4人と一羽は、辺りに注意をしながら、進んで行く。

  

 俺達がレスタトの根城アジト内を進んで行っている一方、当のレスタトはとっくに俺達の侵入に気がついていた。

 「成程、侵入者か。面白くなりそうだな…」

 「レスタト様。いかがいたしましょう…?」

 「配置する魔物は少しでよい。…面白そうな余興を思いついたのでな…」

 「余興…?」

 「ククク…。とりあえず、あの娘をここに連れてこい」

 レスタトが手下の魔物にそう命じてから数分後――――首と両手に錠をはめられ、双方を鎖でつながった状態で拘束されたミヤが連れてこられた。

 「…どうやら、そなたの仲間が助けに来たようだな…」

 「……え…?」

 レスタトの台詞を聴いた直後、生気を失ったような表情をしていた彼女が我に返る。

 「侵入した人間は4人…。一人は黒髪の剣士とガンマン、あとは茶髪の魔術師と、白銀色の髪をした格闘家らしいな」

 「皆……!!」

 ミヤは喜びというより、むしろ戸惑った表情をする。

 「今は黙って傍観しているが…もし、ここまでたどり着いた場合は…どうなるかは想像できているのだろう…?」

 「…っ…!!」

 ミヤの表情かおが深刻な顔つきになる。

 そんな彼女を見たレスタトは満足そうに笑い、話を続けた。

 「…まぁ、よい。これから、そなたに余興を見せてやろう…!」

 「余興…ですって…!?」

 「お呼びでしょうか」

 奴の台詞の直後、玉座の間にフィズが現れた。

 「久しぶりの客人だ。…丁重にもてなせ」

 「…はっ」

 ミヤの表情を見てすぐに侵入者が誰かを察したフィズは、一言だけ口走る。

 そして、すぐに玉座の間を出て行った。

 「力と力…。そして人間が持つ“他者を想う心”とやら…存分と見せてもらおうか!」

 レスタトが上機嫌になっている側で憤りを感じていたミヤは、身体を震わせながら掌を強く握り締めていたのである。

 

  海底の入り口から城内へ侵入し、やっと周りが城らしい内装に見えるフロアまで到達した。

 「…なぁ、ランサー」

 俺はあいつに話しかけた。

 「ここにたどり着くまでに何匹かは魔物と戦ったけれど…それも雑魚っぽい連中ばっかりだった。何かおかしくないか…?」

 「…奇遇だな!俺も今、同じ事を考えていたんだ」

 『確かに、おかしい…。あやつめ、何を企んでいるのか…』

 周囲を警戒しながら、俺とランサーとガシェはつぶやく。

 「シフト…どうしたの…?」

 ソエルがシフトの異変に気がついたようだ。

 「誰かが来る…。しかも、この感覚は…!!」

 シフトがそう言った後、何かを見たかのようにその表情が変わった。

 俺達はシフトが見ている方向に視線を向けると――――――奥の方から、ミスエファジーナで会ったフィズが現れる。

 「フィズ…!?」

 驚きのあまり、俺は声がしっかり出なかった。

 身体が硬直している俺とシフトを見たランサーが、フィズを見て言う。

 「もしかして…この野郎が、フィズか…?」

 あいつの台詞を聞いた俺は、黙ってその場でうなずいた。

 すると、ソエルが続けて口を開く。

 「あなたが、フィズね。…ミヤをどこにやったの!!?」

 「…お前達に答える義理はない」

 「…なら、質問を変えるわ。どうして、人間である貴方がレスタトに従っているの…?」

 即座に答えたあいつに対し、ソエルが問う。

 「“人間”…ね…」

 何を言ったのかは聴こえなかったが、フィズはボソッとつぶやいた後、視線を下に向ける。

 その顔には、自嘲気味な笑みが浮かんでいた。

 シフトがフィズの方を見て言う。

 「ねぇ、フィズ!!君は…あんなに、ミヤと彼女のお父さんを慕っていたのに…どうして、あんな事をしたの…!!?」

 シフトの表情が悲痛な想いで言葉を紡いでいるのが、近くで見ていてよくわかった。

 しかし、あいつは黙り込んで話そうとしない。すると、周囲の空気が変わったかんじがした。

 「…俺に下った命は、侵入者の排除のみ!」

 フィズがそう言い放ったのとほぼ同時に、俺の目の前に踏み込んでいた。

  速い…!!

 剣と剣のぶつかる音が、城内に響く。

 「セキ!!」

 「手を出すな…っ!!」

 後ろからソエルの声が聞こえたが、俺は助太刀を拒んだ。

 相手が1人である以上、一騎討ちで受けるのが剣士としての矜持(プライド)だからだ。

  攻撃を受けたり避けたりの攻防が続く。俺よりも力の強いフィズの方が、いくらか優勢に見える。この光景はまるで、武具大会の続きをやっているみたいだった。

 「フィズ…あんたはなぜ、ミヤを狙うレスタトなんかに加担するんだ!?彼女の幼馴染みなんだろう!!?」

 「…貴様には関係ない…」

 無表情だったあいつの顔が、わずかに反応した。

 「ないわけない!!あの時、あんたはその邪眼で彼女を魔物から助けた!…それが忌み嫌われた能力でも、躊躇わずに…!!」

 剣がぶつかり合う音と同時に、俺とあいつは後ろに数歩下がった。

 「なぜ、それを…!?」

 あいつの表情が戸惑いに満ちていた。

 「昔……その瞳で相手を操り、使いようによっては命を絶つ事もできるという能力があるのを聞いた事がある。けど、それを持つ者は他の人々から酷く忌み嫌われ、ついには虐殺されたという。…ガシェから、あんたが“混ざり物”と聞いた時…“それ”の持ち主だと確信したんだ」

 そう語る俺は、同時に過去の出来事が走馬灯のようにめぐっていた。

 4年程前、レンフェンでも邪眼を持つ女性がいた。その人は当然のように死刑となり―――――当時、自分の無力さを痛感したのをよく覚えている。

 「この邪眼は…死んだ父親の遺伝らしい…」

 黙りこんでいたフィズの口が、ようやく開いた。

 「世間知らずの皇子と思っていたが…多少は知識があるようだな…」

 「え…?」

 “皇子”の言葉に、俺は反応した。

 だが、ガシェ曰く“混ざり物”は俺ら人間にはない、特殊能力を持つらしい。

 だから、俺がレンフェンの皇子ってわかるのも、あり得るのかもしれない。

 「少し話が飛んだけど…もう一度訊く。あんたはなぜ、レスタトに加担する!?」

 すると、フィズがまたもや瞬時に踏み込んで来た。

 「おい!!まだ話は終わってないぞ…!」

 「静かにしろ。…奴が俺達の戦いを監視している…」

 「…ぁ…!!」

 あいつが言う“奴”――――-ここで考えられるのは、レスタトだけだろう。すると、彼は低い声で呟く。

 「ガシェ…今、俺が想像しているイメージを、こいつに視せろ」

 ガシェが宿っているミヤの刀は、俺が腰に下げていた。

 それは、彼女を助けた後、すぐに渡せるようにするためだ。それに応じたのか、ガシェは俺の頭の中に一つのイメージを見せた。それは巨大な水槽の中に、紅の長髪な女性がいる映像。しかし、その女性の背には翼があり、普通の人間ではないようだ。そして、手足を鎖でつながれ、眠りについているように見える。

 「これ…は…?」

 「この女性(ひと)が…俺の母親だ」

 「え…!?」

 目の前にいるフィズをよく見ると、髪の色などが確かに、どこか面影を感じられる。

 「でも…この女性(ひと)、捕らえられているようにも見えるけど…」

 俺はレスタト(奴)に聴こえないくらいの低い声で話す。

 「…ばれないように、戦いながら話すぞ」

 フィズの言葉を皮切りに、俺達は再び剣と剣をぶつけ合う。

 「母親の命を、レスタトに握られている限り…俺が奴を裏切る事はできない」

 「…だが、あんたが持っている邪眼で奴を倒すことはできないのか…?」

 その台詞を聞いたフィズは、タートルネックについているチャックを開き始めた。

  一方、魔神レスタトは水晶を通して、俺達の戦いを傍観していた。その傍らで、ミヤが水晶から聴こえる声に耳を傾けている。

 あれは…!?

 俺がフィズの首筋を見ると、紋章みたいな形の刺青があった。

 「それは…!!」

 俺の後ろで、ランサーが驚いていた。

 「これは暗黒魔術の一種で、好きな時に相手の身体と精神を操る事ができる…」

 「なっ…!!!!」

 それを聞いた俺達4人と、玉座の間にいるミヤが驚いた。

 「レスタト…あなたは私を捕らえる時、フィズを操って無理やり行かせたという事ね!?」

 「ご名答…」

 彼女の台詞にも眉一つ動かさず、レスタトは不気味にほくそ笑んでいた。

 フィズの台詞を聞いたシフトが、あいつに向かって呟く。

 「じゃあ、僕とドンパチやっていたあの時は…」

 「ミヤを拘束した事で…身体が全く言うことを聞かない状態だった…。お前が俺の心の中を透視できたのは、それが理由なんだろう」

 「気がついていたんだね…」

 俺とフィズは剣を構えたまま、沈黙が続く。

 クールを装っているし、もっと冷徹な奴かと思っていたが…本当はいい奴なのかもな…情けない話だけど、こいつやミヤを含める“混ざり物”がどんな人生を歩んできたか、俺には全くわからない。「魔物との共存の証」という捉え方もあるけど、人間は自分達と異質な存在には恐れ、忌み嫌う生物だ。

 俺は彼らについていろんな事を考えていた。けど、今するべき事は―――――

 「フィズ…お前の言い分はわかった。けど、それでも俺達は進まなきゃいけないんだ…彼女を助けるためにも!!」

 俺は、最初と違う構えを取った。

 なんだか…全身から力が湧いてくるかんじがする…!!

 俺は、自身の体から強い力を感じ取っていた。

 一方、その後ろの方では――――――

 「これは…!!」

 「シフト…どうした!?」

 シフトの身体全体に、紅い光がまとわりついている。

 「心臓が、すごく脈打っている…。もしかして…僕とセキの剣が、共鳴している…?」

 それを見たフィズは、真っすぐな視線をこちらに向ける。

 「持ち主とのシンクロによって、剣が召喚獣と共鳴しているようだな…。だが…」

 俺の状態を分析しながら、あいつも剣の構えを変える。

 「この刺青がある以上、お前たちを無傷で通す訳にはいかない…!」

 あいつの表情も、かなり真剣になっていた。

 それこそまさに、戦士の()だ。

 そして、あいつの剣からは冷気が、俺の剣からは炎がほと走る。炎と氷という、相反する2つの元素。

 「氷の精霊よ…その能力(ちから)を我に示せ…!!」

 「シフト…俺に力を貸してくれ…!!!」

 皆やレスタト、そしてミヤが見守る中―――俺とフィズの戦いが決着を迎えようとしていた。

 

 ※

 

  炎を司る召喚獣(フェニックス)と、氷の精霊による魔法剣。フィズの野郎が氷の精霊シルヴァマと契約していたのは驚きだったが、この短期間でフェニックスと連携した技を身につけたセキにも驚いた。ミヤちゃんという一人の女性を想う2人の戦い――――剣の威力は五分五分だったが、何とかセキが勝利した。フィズの実力があれで100%だったのかはわからないが…。

 「フィズ…」

 地面に倒れ臥したあいつの目の前で、セキが膝をつく。

 「余計な情けはいらん。…どうせ俺は人間と魔物の血が入った“混ざり物”…。そう簡単には死なないから、問題ない」

 「…すまない…」

 セキの声音から、本気で謝罪しているのがよくわかる。

 「あいつは…」

 「え…?」

 フィズが何か呟いているのが聴こえる。

 「ミヤは…俺にとって、妹のような存在だった。俺が持つこの忌まわしい能力にも目を反らさず、まっすぐ見つめて接してくれた…。そんなあいつを、俺は…!」

 今のを聞いている限り、フィズはミヤちゃんを拉致した事に後悔しているようだ。

 それは、当然の事だろう。頭の中では拒否しているのに、操られているがゆえに身体の自由が効かなかったのだから。

 「ウジウジ後悔している暇があるんなら、今後どうすべきなのかよく考えろ。…俺達が彼女を救出して、レスタトの野郎をぶっ飛ばした後でな…!」

 ウジウジ落ち込まれるのが嫌いな俺は、辛らつな言い方ではあるが、遠まわしに「自分の力で頑張れ」と言った。

  

 そして、フィズには俺が少し治癒魔法をかけてやってから別れた。ただし、俺は回復系の魔術があまり得意ではないため、完治は無理だったが。進んでいる途中、セキが立ち止まって俺達の方を向く。

 「フィズ…あいつは、無口でクールを装っているけど…本当は、彼女のためなら何でもできるような覚悟を持っている強い奴だ…。剣を通して、何となくそれが伝わってきたんだ…」

 「セキ…」

 心配そうな表情をしているソエル姉さんの側で、手を強く握り締めながら話し続ける。

 「俺は…ミヤを攫い、あの親子の気持ちを踏みにじったレスタトを許さなねぇ…!!同じ王を目指す者同士だが、“あれ”は俺が目指しているものじゃねぇ…!!」

 「…おそらくレスタトは、ミヤを連れて帰ろうとすれば、全力で妨害してくるだろうしね…」

 セキの側でシフトが呟く。

 「だから…奴を倒し、必ず5人全員で地上に戻ろう!!!」

 「うん!!」

 「当然!!」

 「必ず“5人”でね…!!」

 セキの一言で、俺達4人は内に秘める闘志が燃え始めてきた。

 「絶対に勝つ!!」という想いを胸に、レスタトとミヤちゃんがいる玉座の間を目指す。

 

いかがでしたか?

フィズとの戦いというシリアスな面が主な今回でしたが、実は今後の展開に関係してくる文がありました。・・・どれかわかったでしょうか?

次回はついに、「魔神」レスタトと対決する事になります。

セキ達は、ミヤを救出し、無事に脱出できるだろうか!!?


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