第43話 捕らわれし者
~前回までのあらすじ~
ミヤが人間と魔族の間に産まれた「混ざり物」という事実と、彼女の父親の名前を聞いて、驚きを隠せないセキ達。
一方、とある城に連れて行かれたミヤは、フィズを使って自分を捕らえた黒幕と対面をしようとしていた・・・。
足を数歩進めると、私の後ろで扉の閉まる音がした。玉座に着いたのか、辺りに魔物の気配がない。
「ようこそ、我が城へ」
前方から図太い声が聴こえる。
その瞬間、全身に鳥肌が立ったのを感じた。 ものすごい圧力…
流石は“右腕”と呼ばれるだけある。
「一応…はじめましてかな?我が名はレスタト。“魔神”の異名を持つ魔族だ」
「フィズに何をしたの!!?」
私は低い声で奴を威嚇する。
「おやおや…会って間もないのに、自己紹介もさせてくれないとは…」
「知っているから、必要ない。だから…さっさと私の質問に答えなさい!」
「ククク…威勢がいいな…」
レスタトは満足そうな笑みを浮かべているが、当の私にはそれが見えるはずもない。
強気な態度を取っている私だが…こうでもしないと、奴の気に取り込まれてしまいそうだったからだ。
「そんなに知りたいならば、教えてやろう…」
「え…!?」
気がつくと、私の足が勝手に動いていた。
私の足は前に歩き出し、ある程度進むとその場で立ち止まる。すると、私の顎辺りに硬い何が触れ、顔を上に上げられた。
「成程…。盲目というのは本当のようだな…」
すぐ目の前にレスタトの声が聞こえた。
どうやら、私の何も映さない瞳を見ているようだ。
「…?」
レスタトに触れられたのは初めてのはずなのに、そうでない気がした。
「あの親子の事だが…私は彼らを保護してやっただけだがな…」「…“保護”?」
「そなたの父親…ダースが行方をくらました数日後、フィズとあれの母親に私は言った。“助けたければ、自分に従属しろ”とな…」「でも、フィズのお母さん…ニコラは父が主である事に、誇りを持っていた…!その息子であるフィズだって、そう簡単に従うとは思えない…!!」
私は、あの親子がそう簡単に父様以外の魔族に従うはずがないと確信していた。
彼女は、私も憧れていた誇り高き魔鳥。なのに、なぜ…?
「あの女も、所詮は一児の母。…息子を人質に取られては、従うしかないだろうな…」
「人質……まさか!!!」
その台詞を聞いた時、私の中で怒りが込み上げてきた。
「母親の時は息子を。息子の時は母親を人質にしたら、見事に承諾してくれたよ。…最も、母親を捕らえた時は偽物の息子を人質にしたがな…!」
「なんて奴…!!!」
もしも今、腕を拘束されていなかったら、こいつを引っぱたいてやりたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、実際は刀がないというだけで、一人で歩くことすらままならない。そして、この魔物に触られている手をどかす事でさえ…。私は、自分の無力さを呪った。
その後、レスタトの重い口が開く。
「あの親子の話はここまでとして…。そろそろ、本題に入るとしようか…」
そう言ったレスタトは、私の顔から自分の手を離した。
気まずそうな表情をしている私におかまいなしに、奴は話し続ける。
「“知らない”とは言わせんよ。私がそなたをここに連れてきたのは…現在、行方不明である大魔王ダースの居場所を聞くためだからな…!!」
※
ミヤの出生―――――それを彼女の従者であるガシェっていう魔鳥が話してくれた。“混ざり物”って本人からは聞いていたけど、父親が大魔王で、しかもその座を狙う魔物たちがいる…それだけで話が飛躍している。普通だったら、信じられない話だけど…割とすぐに理解できたのは、僕も召喚獣というミヤみたいに普通の人間ではない故かもしれない。そして、ガシェの話は続く。
『レスタトは、他の魔物達よりも聡く、暗黒魔術の使い手…。だからこそ、ミヤ様の利用価値を最大限に知っている可能性が高いのだ…』
「利用価値…!?」
僕は不思議そうな顔をする。
ミヤが…ダースの唯一の家族だから居場所を知っていて、かつ人質に使えるっていうのはわかった…。でも、それ以上に何があるっていうんだろう…?
知らない方がいいのかもしれないけど、僕は気になってしょうがなかった。
『我やダース様のように、魔力の強い魔族は他者の血肉を食らう事がある。…それは、なぜだかわかるか?』
「…魔力を底上げするため?」
『そうだ』
あの魔鳥からの問いに、ランサーが答える。
『だが…食う対象物が魔力の強大な魔族の場合、魔力の弱い奴が食らうと、身体が耐えきれずに砕けてしまう。…一方で、魔力の高い魔族を親に持つ“混ざり物”の場合…』
ガシェが言いかけている途中、僕の横でセキが壁に拳をぶつけた。
「その血肉は強大な魔力を得る糧になる…って事か!?」
彼の表情は必死で怒りを抑え込んでいるように見える。
そして、ガシェが黙り込んで何も言わないという事は、肯定を意味していた。
「そんな事…させてたまるかよ!!」
拳をぶつけたセキの表情は、怒りでいっぱいだった。
しかし、憤りを感じているのは、セキだけではない。
「そうよ!冗談じゃないわ!!ミヤは…今じゃ大事な仲間であり、私にとって妹みたいな存在だもの…!」
ソエルが叫ぶ。
そして、手を強く握りしめる事で、怒りを抑えながらランサーが言う。
「おい…そのレスタトっていうクソ野郎の根城は、どこにある…?」
それを聞いたガシェは、真剣な表情をして言う。
『お前たちも、以前通ったからわかるであろう…。奴の根城は、かつてダース様が居城としていた城だ…!』
「なっ…!!!!」
僕ら全員の表情が一変する。
「自分の主が使っていた城を根城にするとは…そいつ、すごい図々しいというか…大胆な奴だね…!」
僕は冷や汗をかきながら呟く。
「…城ってのは使いようによっては、要塞にもなり得る。奴もミヤちゃんを捕らえたわけだから、簡単に中へ入らせてはくれなさそうだよな…」
「となると、どうやって侵入するかだな…」
ランサーとセキが、そう言って考え込む。
『それについてだが…確か、あの城にはゴミや人間の死体を捨てるための海底からの出入口があると聞いたことがある。それを使えば、あるいは…』
「そうなんだ!じゃあ、クエンに言って、潜水艦を借りましょ♪」
ガシェの台詞を聞いたソエルが、何か閃いたような表情をして口を開く。
本当だったら、無関係であるクエンを巻き込むのは良くないのはわかっている。しかし、侵入方法がそれしかなく、しかも、あっちで潜水艦を見張る人が必要だという事を考えると、躊躇っている場合ではなかった。
「そうと決まれば…今日はしっかり休んで、明日出発が妥当かもね!」
「でも、おちおち休んでなんかいられねぇよ!!」
僕が言った側で、セキが叫ぶ。
…これは、頭に結構血が上っている…?
彼が、混乱しているのを感じ取っていた。
「おい!バカ皇子!!」
後ろからランサーの声が聴こえる。
「ちょ…バカは余計だろ!!」
セキがランサーの方に向いて言う。
「バカ皇子はバカ皇子だってんだよ!…敵の力量もわからないのに、体力万全じゃない状態で戦えないだろ?…レスタトって野郎を倒してミヤちゃんを確実に救出するには、しっかり休む事も必要だということを理解しとけ!!」
ランサーに怒られたセキは、ようやく落ちつきを取り戻した。
そして、僕達は出発を翌日と決定し、それぞれ準備を始めた。そして、体力を回復させるために、早い時間に床につく。一方、眠れなかった僕は頑張って寝ようと、布団の中で目だけ閉じていた。
小僧…聴こえるか…?
僕の頭の中に、ガシェの声が聴こえてきた。
「この声は…ガシェ?」
静かに
頭の中に響く声が、僕を黙らせた。
これって…もしかして、精神感応能力?
と、考えていると肯定する返事が返ってきた。
先程も話したが…私はこのように相手の脳に干渉することで、盲目のミヤ様に周りのモノが見えるようにしてきた。一種の特殊能力というべきか…
特殊能力…でも、今それを使っているのは僕だけ?
そうだ。…フェニックスの片割れであるお主と、一度話してみたかったからだ…
“フェニックスの片割れ”―――――本当の事だが、この言い方はあまり言われて良いかんじじゃない。記憶を取り戻した僕には、“ミカジ・レイン・アッシュ”っていう本名があるけど…この名を名乗らないのは、それが過去の自分であって今の自分は“シフト・クレオ・アシュベル”だと改めて認識するためである。
(その身体、人造人間だな…
人造人間…?
魔術師が人工的に創った人間ということだ…それらは、好きな年齢から動かせるだけでなく、身体の時が止まっているために“成長”することはない身体だ…
そっか…そうなんだね…
道理で、僕の身体は牛乳たくさん飲んでも背が伸びず、たくさん食べても体重が増えないわけだ。
話は本題に入るが…あの時、ダース様との別れ際の際…おかしな気を感じたのを、鮮明に覚えているのだ…
おかしな気…?
この時、ガシェもヒトやモノの“気”を感じ取れる魔族なのだと理解した。
それは…あまりにも禍々しかったが…おそらく、ククルの女だろう
…大魔王ダースの中に…ククルの気…?
普通なら、考えられない話だが、何故か嫌な予感がした。数秒程、僕は別の事が頭に浮かんだ。…それをガシェは読み取ったのか、「私も…そうではないかと考えていた」と、頭に響いてきた。「信じられない話だけれど…ありえなくはない…かも…」
僕は驚きのあまり、つい口を開いてしまった。
最も、こんな夜中に目を閉じて呟いているのだから、寝言程度にしか聴こえないだろう…。
強いては、ミカジ…いや、シフトよ。お前は、ミヤ様をお助けした後はどうするつもりだ…?
……僕の頭の中に干渉しているのなら、どうするかわかるのでは…?
僕は意味深な言い回しをしながら、相手に想いを伝えた。
※
シフトがガシェと会話していた頃…父様の城でもあった、レスタトの根城で私は、牢につながれた状態で夜を明かしていた。当然、何も状況は変わっていないため、眠れるわけがない。 今までは…独りでも、ガシェがいてくれたからいくらか寂しくはなかったけど…
今はガシェ(あの子)が宿った刀もないし、周囲が真の闇に包まれていたので、怖くて仕方がなかった。
ミスエファジーナであの刀を使った時から…覚悟はしていたんだけどなぁ…
ミスエファジーナで…エレクバンネでできたあの刀でしか倒せない魔物を斬った。それが自殺行為である事も理解していた。だが―――――
「……っ…!!!」
何も映さない漆黒の瞳から、涙がポロポロと流れるのを感じた。
この状況や今後どうなるかなんて、頭ではわかっていたのに…心が…ついてこれていない…!
身体は全身が震えていて、心底恐怖しているのがわかる。
「セキ…皆…!!」
私は牢屋の中で独り、声を押し殺して泣いていた―――――――――
いかがでしたか?
ちなみに、「魔神」レスタトのモデルは、ドラゴンクエスト6のボス、デュランなんです!ゲームを見ていただければ、どんな魔物かわかると思いますが・・・。
次回以降は、捕らわれたミヤをセキ達が助けに行く展開となります!
実はこの後も続く、「ミヤ編」は、作者の私としても一番のお気に入りの章です。
結構気合入れて書いていると思いますので、ご一読よろしくお願いします!!
また、引き続きご意見・ご感想をお待ちしています(^^