第42話 出生の秘密
今回は題名を見てわかるように、ヒロインであるミヤの出生が明らかになる回です。
なぜ、フィズによって拉致されたのか・・・。
そして、これまで出てきたミヤの不審な行動や言動についてのカラクリがここでわかるように書きました。
『最初に、自己紹介をさせてもらおう。…私の名はガシェ。ミヤ様の従者であり、この刀に宿る魔鳥の魂だ』
ガシェというこの魔物は俺達に自分の名を名乗った。
「彼女の従者ね…。まず、順を追っていくのなら、ミヤちゃんが何者かについてだな…」
ランサーが俺の側でそいつに言う。
『うむ…。まさか、人間達の前でこのような話をする事になるとは思わなかったな…』
「御託はいいから、早く話しな」
「ちょっと、ランサー!その言い方はちょっと…」
険しい表情をしたランサーに対し、ソエルがあいつをなだめる。
「俺はな、ソエル。こういうグチグチしたのが嫌いなんだ!“訳あり”ならば、出会ってからすぐにでも話してくれればよかったんだからな!!」
いつもはソエルの尻に敷かれているような雰囲気だったけど…今回はランサーの方がソエルを黙らせてしまった。
『話を始めよう。まずは…ミヤ様が人間と魔族の間に生まれた混血児…いわゆる“混ざり物”という事からだ』
「混ざり物!!?」
俺とシフト、そしてソエルが驚いた。
しかし、ランサーだけは驚きもせず、まっすぐガシェを見ていた。
「ランサー…お前、まさか…?」
「ガシェの存在に気がついた時から…そうじゃないかと考えていた」
けだるそうな声音で、彼は述べる。
頭の回転が速い奴とは思っていたが…まさか、そこまで気がついていたとは…
ランサーについては、脅かされる事ばかりだ。
「ミヤのお母さんが、アクト女王だから…父親が魔族って事だよね?」
シフトが腕を組みながら言う。
『そうだ。あの方のお母上であるアクト・ファジーナ女王…。彼の“最果ての地”へ向かう旅の途中に、私のかつての主であるあの方と出会った』
「“あの方”…?」
『貴様ら若造はあまり馴染みがないかもしれないが…ミヤ様のお父上は…はるか昔より魔族と一部の魔族をまとめてきた…大魔王ダース様だ』
※
俺達が彼女の事をあいつから聞いていた一方、当の彼女はある城に降り立っていた。
「う…」
目が覚めた私は辺りを見回したが、真っ暗で何も見えない。
そっか…。あの時、刀を手放してしまったから…
周りが真っ暗で少し不安だったが…身体に感じる感触から、私はどうやらフィズに抱きかかえられたまま移動しているようだった。
「フィズ…?」
彼の気を感じたから、すぐ側にいるのはわかるけれど…相変わらず一言も話そうともしなかった。
私達がいるこの空間の中で、彼の足音だけが聴こえる。
「フィズ…あのね…」
20年は会っていなかったので、話したいことはいっぱいあるはずなのに…何から話せばいいのかがわからなかった。
「…貴方達親子が、私の父様の配下にいて…皆で一緒に暮らしていたあの頃、“母親がいない”と聞かされてきた私にとって…かけがいのない家族のような存在だった。なのに…」
私はつばをゴクリと飲んで話し出す。
「実は私、父様と離れ離れになる前後の記憶がないの…。だから、その時とその後に…貴方達親子に何が起こったのかを知らない。一体、何があったの…?」
必死に問いかけたつもりだったが…変わらず彼は声を出そうとしない。
さすがにこれはおかしい…
そう考えていると、彼の首筋辺りから…過去に感じたことのある禍々しい気を感じた。それを感じた瞬間、全身に鳥肌が立つ。なぜ、フィズから2つの気が感じられるのか…と、考え、私はその理由に気がつく。
「まさか……!!」
※
ミヤの父親の名前を聞いて、俺達4人は驚きのあまり声を失った。
第五原子エレクバンネで出来た翼を持つ魔鳥で、その羽の色から“黒き鳳凰”という異名を持ち、人間達に恐れられてきた魔族の長。そんな奴がアクト女王と出会って、ミヤが産まれた…。「女神」と「黒き鳳凰」…まるで、神話のような話だった。
「…彼女が盲目なのは、人間と魔族の遺伝子関係によるものなのか?」
驚きのあまりに黙り込んでいたランサーが、数分後にようやく口を開いた。
すると、ガシェは気まずそうな表情をして答える。
『いや…ミヤ様がダース様と一緒に暮らしていた頃は、その目も見えていた。…私としては、なぜあの方が盲目になられたのかだけがわからないのだ…』
「そう…なのか…」
俺はそう呟いた後、下を向いた。
だとすると…何か事故とかに遭って目が見えなくなったのか…?
そんな事を俺が考えていると…
「あの子の父親がすごい奴だって事はわかったわ!次に…どうして攫われたのかを、教えてもらえないかしら?」
ソエルが顔を突き出してガシェに尋ねる。
『それを話すには…まず、今現在における魔族の状態を話さねばならないな』
ガシェは最初の表情に戻って話を再開する。
『今…魔族は長であるダース様が“行方不明”という事で、混乱を極めている』
「“行方不明”…。だから、ミヤはマカボルンを使って父親を探そうと…?」
『…そういう事になる』
俺の問に対して、すぐに答えてくれた。
「混乱か…。ということは、それに乗じて“大魔王”の座を手に入れようとしている野郎もいるって事だな?」
『そうだ…。この世界には、ダース様の地位を狙う魔族は多くいる…。だから、私とミヤ様は隠れるようにして生きてきた…』
「隠れるようにして…?それって、どういう事??」
シフトが不思議そうな表情をしながら言う。
「まさか…!!」
レンフェンの皇族として生きてきた俺にとって、その理由はすぐに理解できた。
「セキ…お前は気がついたみたいだな…」
「二人とも…それって、どういう事なの?」
驚いて言葉を失っている俺を見かねたランサーが、代わりに答えてくれた。
「要するに…ミヤちゃんは、親父さんの座を狙っている魔族に…狙われていたって事さ…!」
「!!!!」
シフトとソエルの表情が一変した。
『そうだ…。ミヤ様の存在は多くの魔物達も知っていた事だし…おそらく「ミヤ様ならダース様の居場所を知っていて、かつ良い人質になるであろう」…そう考えていたのだろうな…』
「…っ…!!!」
当然、こんな時に自分がどんな表情をしているかなんて想像できなかったけれど…おそらく、ものすごい顔が真っ青になっていたのかもしれない。
「“隠れて生きてきた”って事は…今まではそれで何とかなってきたんだろ?じゃあ…なぜ、今回はあっさり連れていかれてしまったんだ!!?」
俺がそいつに掴みかかろうとしたが…俺は相手が肉体のない魂だけの存在だということを忘れていたため、通り抜けて地面にずっこけた。
『それは…』
つらそうな表情でガシェは話し出す。
『あの時…ミヤ様がこの刀を使ってしまったから…奴に…!!』
「“奴”…?」
「あれ…?あの時ってもしかして…!!」
ランサーとシフトがそれぞれつぶやく。
「どういう事なんだ?“あの時”って一体…?」
今度は俺の頭がこんがらがってきた。
すると、あいつの口が開く。
『ランサー。貴様は、ミヤ様が所有されているこの刀…どんな物質でできているか知っているか?』
すろと、俺達やガシェの視線がランサーへ向く。
「ああ…。大魔王ダースも持っている、第五原子エレクバンネだろ?」
「…ねぇ、あれってどんな物質なの?」
エレクバンネの名前が出てきたすぐ後、ソエルがやんわりと話に加わってきたのである。
『…エレクバンネはどんな衝撃にも耐える事が可能で、他の物質よりも軽くて、硬いモノだ。それゆえに、“第五原子”と言われている。…この刀はわが主・ダース様の羽から鍛えたモノ。だから、使いようによってはどんなモノも斬れる。…例えば、相当硬い甲羅に包まれた魔物とかな…』
「硬い甲羅…」
そういえば、ミスエファジーナの武具大会時に戦った魔物は、どんな衝撃を受けても無傷だった。ミヤの斬撃を受けるまでは――――――――
『そして私は…あの武具大会で起きた事件の黒幕は、ミヤ様を狙う“奴”だと考えている…』
その台詞を聞いた瞬間、俺はものすごく嫌な予想が頭の中をよぎる。
「おい…もしそれが本当だとしたら…!!彼女は、それを承知の上であの魔物を斬ったというのか!!?」
自分の心臓が強く脈打ち、その鼓動は次第に早くなっていく。
捕まらないように隠れて生きてきた彼女にとって、その行為は「自分はここにいる」と気がつかせてしまう、いわば自殺行為だ。彼女だって、馬鹿ではない。だから、その行為の意味をわかっていたはず…。なのに、なぜ…!!?
気がつくと、ガシェの瞳が潤んでいた。こいつがもしも人間だったら、悲痛な表情で涙を流していたであろう。
『私は…あの時、必死になってあの方をお止めした!「ここであの魔物を斬れば、連中に気付かれてしまうのは時間の問題です」と…!!…そうしたら、ミヤ様は……なんておっしゃられたと思う!!?』
その瞳を見た瞬間、こいつがかなり必死なのが痛いくらいにわかった。
そして、少し息切れをしながら、ガシェは話を続ける。
『あの方は…おっしゃったのだ。「私はこれ以上、大切な人を失いたくはない。もし、この後“奴”に見つかって私が殺されたとしても…皆を守れるのならば、本望よ…」と…』
「なっ…!!!」
俺達全員の表情が激変する…。
俺の頭の中は、一瞬真っ白になった。
「ミヤは……自分が捕らえられるとわかっていて…あの魔物を…倒した…?」
俺の後ろで、シフトは完全にパニック状態になっていた。
他人に狙われながら生きていく恐怖――――幼少期、何度か殺されかけた経験を持つ俺にとって、それがどれだけ恐ろしい事かをよくわかっていた。
「くそぉっ!!!!」
俺は右の拳を壁に叩きつけながら叫ぶ。
「俺は…“狙われる恐怖”を…誰よりも知っているはずなのに…!!どうして…どうして、気がついてあげられなかったんだ!!!」
悲痛な声で叫ぶ俺の脳裏には、彼女とのやり取りが走馬灯のように駆け抜ける。
※
ミスエファジーナで魔物と戦っていたとき、ミヤちゃんが言っていた台詞をこのガシェって魔鳥から聞いて…彼女がどれだけ俺達の事を想ってくれていたのかが、はっきりとわかった。
「くそっ!」
俺は後悔した。
あの時――――山岳宮殿で二人きりだった時、なぜ彼女の事を根掘り葉掘り訊きだそうとしてしまったのかと…。
今までは、大変な事があっても何とか落ち着かせることはできたけど…今回ばっかりは、自分が情けなくて仕方なかった。俺の視線の先では、セキが地べたについていた。声は出していなかったが…後ろから見ていると、嘆いているように見える。
すると、不意に疑問が生まれた。
そういえば…ミヤちゃんを拉致した野郎はシフト曰く、彼女の友達だって言っていた…。仲が良かったはずなのに、なぜそいつは敵方についているんだ!?
それは、よく考えれば、すぐに気がつく疑問点だった。
そうだ…ここで何か打開策を見つけなくては…!
そう思った俺は、魔鳥に向かって話し出す。
「なぁ…彼女を連れ去ったフィズって野郎は、ミヤちゃんの幼馴染だったんだろう?…そいつは何者で、なんで敵方についているんだ?」
気がつくと、皆の視線が俺の方に向いていた。
『あの男…フィズは、ミヤ様と同じ“混ざり物”の青年。少なくとも、あの方より10年は長く生きているので、剣の腕は相当なモノ…。ただ、なぜ“奴”の配下に下っているのかまでは…』
そう語りながら、ガシェは首を横に振る。
「そうか…」
それを聞いただけで、俺はある程度納得できた。
昔、メスカル校長先生に聞いた事があった。人間と魔族の混血児である“混ざり物”は、普通の人間よりも身体の成長速度が遅いという。
ミヤちゃんの年齢が推定18歳だとすると、そのフィズって野郎の見た目は20歳~24歳辺りなんだろうな…
そんな事を考えていた。
『あやつの場合、母親がダース様と同じ魔鳥。…母子共にあの方の配下だったが、あの日の後に何があったのか…』
「“あの日”…?」
セキが不思議そうな顔をしていた。
『いや…。それより、あやつがこの村を去る時、暗黒魔法を使用していた…。魔族であの術を使える奴はただ一人しかいない。おそらく、フィズはそやつの配下に今はなっているのだろうな…』
「…あれ、暗黒魔法だったんだね…。ちなみに、そいつはどんな奴なの?」
ミヤちゃんがさらわれた時、その場にいたシフトが傷を抑えながら言う。
『そやつの名は、レスタト…。“魔神”という異名を持ち、かつて“ダース様の右腕”とも呼ばれていた魔族だ…』
※
地面を歩き進める音だけが響く。
広い城内みたいな場所を歩いているのか…。最初はフィズに抱かれて運ばれていた私だったが、途中で魔物と変わり、今度は自分の足で歩かされている状態だ。
「さっさと歩け!!」
「うっ…!」
魔物の声の後、首につながっている鎖を思いっきり引っ張られた。
私は歩きながら考える。
フィズから、この魔物に入れ替わった時…あの禍々しい気が一瞬にして消えた。すぐに扉が閉まってしまったからはっきりとはわからないけど…彼が私の名前を呼んでいたような気がしたのは、気のせいだったのかな…?
こういう時、相手の表情だけが見えないという事…ましてや、盲目である自分が嫌でたまらなかった。
だが、自暴自棄になっている場合ではない。私を狙い、かつミスエファジーナであの将軍のパトロンになりえる魔族はただ一人―――――“魔神”レスタトだけ…。おそらく、これから奴と対面する事になるだろう。
父様ほどではないけれど…仮にも「大魔王の右腕」と言われた魔族。…ここに皆がいなくてよかったな…
この時、私の脳裏には皆と楽しく話したりしている時を思い出していた。私はフッと嗤う。こんなときに私ったら、何を考えているんだろう…。こうなってはもう…皆に会う事なんてできないのだから…
歩きながら、そんな事を考えていた。今の状況は逃れる事のできない、私の運命なのだから…。
「ついたぞ」
魔物が一言言うと、目の前で巨大な扉の開く音がした。
皆…何があっても…生きて、幸せになって…!
私はセキや皆の事を考えながら、扉の中へと入っていくのであった。
いかがでしたか?
ミスエファジーナ編を読まれた方は、最初は「あれ?」と思われた展開があったと思いますが、ここで書かれている事がそのタネ明かしといったかんじですね☆
次回はミヤの夢の中に何度か出てきた魔族「レスタト」と対面するシーンから始まります。
今後はガシェから真実を聞いたセキ達が、ミヤを救出しに行こうとする展開になるのは、何となくおわかりかと思います!
しかし、そこで待ち受けているのは・・・。
次回もお楽しみ♪
引き続き、ご意見やご感想、あと評価を戴けると幸いですので、よろしくお願い致します。