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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十一章 明かされるミヤの正体
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第41話 拉致

<前回までのあらすじ>

「最果ての地」にマカボルンが存在しなかった・・・。

このあまりにも残酷な事実をつきつけられ、絶望に打ちひしがれるセキ達。

クエンらの力を借りて、ヴァラへ戻る彼ら。何もする気になれないくらい落ち込んでいたが、傷心状態のミヤに魔の手が伸びる・・・。

 私の目の前にいたのは、フィズだった。なぜこの隠れ里にいるのか、どうやって入ったのか…そういった疑問よりも、私は彼に訊きたい事があった。

 「フィズ!!…闘技場での“あれ”は…なんだったの!?」

 闘技場での出来事―――――それは、魔物を使ってミスエファジーナを乗っ取ろうと企んでいたアーケード将軍の逃亡の手助けをした事を指す。

 フィズは黙ったままで、何も答えない。

 「アーケード将軍は、人間が扱えるはずのない魔物を操っていた…。それに、あなたは暗黒魔術を使えないはず…!」

 私は彼に訴えかけるように訊く。もし、フィズがアーケード将軍とグルだったとしたら、嫌な予感がするからだ。しかし、彼は黙ったままで全く口を開かない。

 私達の間で…沈黙と一緒に、緊迫した空気があった。

 「ちょっと!そこの娘さん達!」

 私の斜め後ろ辺りから、見知らぬ人の声がする。…どうやら、ヴァラの人みたいだ。

 「この里では、夜の0時過ぎたら、外出は禁止しているんだよ。だから、早く帰りなさい!」

 「あ…すみませ…」

 私が謝ろうとすると、前から物凄い殺気を感じた。

 すると突然、剣と剣がぶつかり合う音が周囲に響く。なんと、フィズが私達に声をかけてきたおばさんに向かって襲いかかってきたのだ。

 間一髪、私が間に入ったから斬られずに済んだが…彼は剣を納めようともしなかった。

 「逃げて!!!!」

 「あ…!」

 うなずいたかはわからないが、私の後ろにいたおばさんは、怖がっている声を出しながら、走り去っていった。

 剣と刀が重なりあっている音が響く。

 フィズ…やっぱり、あなたは強いわ…!

 彼の剣を受け止めながら、改めて実感する。

 私と同じ“混ざり物”であるフィズは、私よりも20年は長く生きているので、剣の腕も半端ではないのだ。

 「フィズ!!どうしちゃったの!!?昔のあなたは…理由もなく、人間を襲ったりしていなかったわ!!」

 再会するまでに彼に何があったのかはわからない。

 しかし、私の知っているフィズはこんな人ではないはずだ。自分の中でそういった想いが強かったのである。

 「逃げ……ろ…」

 「え…?」

 一瞬だけ、彼の声が聞こえた。

 逃げろ…?何から…?

 一瞬、どういう事か考えていたため、その後の対応に遅れが生じてしまう。

 目にも止まらないような速さで、フィズの一振りが私の刀を宙に飛ばした。私の刀が飛ばされて地面に突き刺さる。それとほぼ同時に、彼は私の右肩を掴んだ。

 「ぐっ…!!!」

 彼の拳が私の腹を突く。

 当て身を食らわされた私は、痛みと共にだんだん意識が遠のいていく。

 フィ…ズ…。ど…うし…て…?

 時間と共に、私の目の前が暗くなっていくのであった。

 

 ※

 

 「ミヤーー!どこー?」

 時間が夜中の0時過ぎているのに、ミヤだけが帰ってこなかった。

 僕は、「セキは精神的に疲れて、寝てしまったから」とソエルに言われ、彼女を探してくるように頼まれたのである。

  以前にセキやソエルと3人で「ミヤとランサーは似ている」という話をした事があった。全く…こういう一匹狼な所も似ているんだから…

 僕は歩きながら考えていた。

 すると、そう遠くない場所で剣が弾かれたような音がした。

 「なんだ…!?」

 僕は急いで音がした方向へ向かう。

 向かった先で僕が見たのは――――僕の瞳みたいに紅い髪で、右目に眼帯をした背の高そうな男だった。

 「誰…!?」

 容姿からして、この村の人間ではない。

 その台詞の後、ふとそいつが担ぎ上げているモノに目が入る。華奢な身体で、赤みがかった茶髪…すぐにミヤだと気がついた。

 「あんた…ミヤをどうするつもり!?」

 僕がそう言い放ったのとほぼ同じくらいのタイミングで、奴が僕の前に移動していた。

 速い…!!

 ミヤを抱えたまま剣を振るっているから、自ずとスピードが遅くなるはずだが、相手からはそんな雰囲気は見られない。というより、彼女を抱えているから、僕も彼のスピードについてこれているのだと実感した。

 「くっ…!!」

 スピードにはついていけるけど、力は圧倒的に相手の方が強い。

 「えい!!!!」

 僕はありったけの力を込めて、右ストレートを打ち出した。

 「っ…!!」

 奴は剣を地面に落としたかと思うと、小さなうめき声をあげながら、左手で僕の拳を受け止めた。

 僕と奴の動きが一瞬止まる。

 「え…!!?」

 彼の左手に触れた瞬間、写真みたいな風景がいくつも僕の頭を駆け巡る。

 こいつと同じ、エメラルドグリーンの瞳で右目に眼帯をしている少年。そして、少年が抱いている赤子…まさか!!?

 「あんたは…一体?」

 僕はこの男を真正面で見た。

 あれ…?こいつ…何だか、ミヤと似た雰囲気を微かに醸し出しているような…

 1秒ほどそんな事を考えていると…あいつの首から、黒い光のようなモノが見えてきた。服で肌を隠しているみたいなのに、なんであんなに不気味に光っているんだろう…

 そう思った瞬間、事態が急変する。

 「うわぁぁぁぁっ!!!」

 何が起きたかはわからないが、僕の身体が宙に舞い、すぐに地面へたたきつけられた。

 「痛ててて…」

 近くにあった木に衝突した僕は、背中が痛かった。

 気がつくと、ミヤを担いだあの男は僕より少し離れた位置に立っている。ずっと虚ろな表情で口を開かなかった奴が、突然誰かと話しだしたようだ。

 「…承知いたしました」

 誰と会話しているのかはわからなかったが、一言そう言っていたのだけは聴こえた。

 すると、そいつは後ろを向き、その目の前にはブラックホールみたいな黒い穴が出現する。

 「待て…!!!」

 立ち上がって奴を追いかけようとしたが…先程の衝撃のせいか、身体が思うように動かない。

 そうして、奴はミヤを連れてブラックホールみたいな穴の中へと消えていったのである。

 

 ※

 

  そのころ、何も知らなかった俺は眠りにつきながら、一つの夢を見ていた。

 背景が…海の上といったところだろうか。俺はその空間のど真ん中にいて、まるで宙に浮いているかのように見えた。

 「貴方は…!!」

 俺の目の前に現れたのは、俺の先祖であり、アクト・ファジーナの護衛をしていたヴァン・レンフェンだった。

 赤みがかった茶髪に、白い肌…。バルデン族の特徴を持ち、昔レンフェン城で見かけた肖像画と同じようにレンフェンの民族衣装を着た状態で立っていた。

 「我の子孫よ…。そなたは、あの方をお守りしなければならない…」

 「“あの方”…?もしかして…ミヤのことですか?」

 最初は何の話かさっぱりわからなかったが…ヴァン皇帝が「あの方」と呼ぶ以上…それは、アクト女王の一人娘であるミヤ一人しか考えられなかった。

 「我は…己の主であるアクト女王陛下を最期までお守りすることができなかった…。人生で一番後悔している事といえば…この事だろうな…」

 ヴァン皇帝を目の前にして、嘘はつけない。

 そして、彼本人も偽りを言わない。

 ここはおそらく夢の中だろうと考えた俺は、以前に少し考えていた…自分の本音に対して問いかけてみることにした。

 「ヴァン皇帝陛下!守るといっても…。ミヤは…俺よりもといえるぐらい、強い剣士です。…一度、守りようがないように考えたことがありました…」

 それを聴いたヴァン皇帝は、重たい口を開く。

 「…よく覚えておくがいい…」

 「え…?」

 「誰かを“守る”ということは、相手の肉体を守ることだけではなく…その者の心を労わり、支えてあげることも…“守る”事なのだと…」

 

  気がつくと俺は、ソエルの家の寝室にいた。俺は、ソエルと話をした後に寝てしまったみたいだ。時間はもう朝方となり、日が出始めていたのである。

 「もう…何がどうなってるの!!!?」

 部屋の外から、ソエルの叫び声が聞こえた。

 「皆、おはよう!…朝っぱらからどうした…?」

 起き上がった俺は、ソエル達がいる居間の扉を開いて皆に挨拶をした。

 「セキ…」

 俺の名前を呼んだソエルの顔が、真っ青だった。

 だが、様子が変なのは彼女だけではない。ランサーも深刻そうな表情かおをし、シフトは…何かで掠めたのか、頬に絆創膏が貼られていた。

 「セキ!驚くな…というのは無理だろうけど、緊急事態なんで、話す」

 「ランサー…?」

 あいつの方を向くと、時折見せる真剣な表情をして話を進める。

 「実は…ミヤちゃんが、何者かに攫われたんだ…!」

 「え…!!!?」

 確かに、彼女の姿が見当たらないが…あまりの衝撃に、俺は身体が硬直してしまう。

 「驚くのも無理はない…。俺だって、最初は信じられなかった…」

 「おい…それは、どういう事だよ!!!?」

 混乱し始めた俺は、無意識の内にランサーの肩をつかんでいた。

 「セキ!!!落ち着いて…!!!」

 シフトが俺とランサーの間に入る。

 「信じられないかもしれないけど、本当なんだ!真紅の髪色で眼帯をした男が、ミヤを担いでどこかに消えたのを、僕は見たんだから…!!」

 「シフト…お前…!!?」

 「どうして、止められなかったんだ!」と、シフトに怒鳴りつけるところだったが…彼女を拉致した男の特徴を聞いて、一人の人物が頭に浮かんだ。

 「…なぁ、シフト」

 「何?セキ…」

 俺はつばをゴクリと飲んで口を開く。

 「もしかしてその男…真紅の髪にエメラルドグリーンの瞳を持った、両手剣を使う剣士じゃなかったか…?」

 俺の台詞を聴いた瞬間、皆の表情が一変した。

 「確かに、そうだけど…まさか、そいつのこと知っているの!!?」

 シフトが必死そうな表情かおで俺に問いかけてくる。

 「名前がフィズ…だったかな?ミスエファジーナでの武具大会で1度戦った奴だ。…そして、ミヤの昔なじみでもある」

 「そっか…。やっぱり、そうだったんだね…」

 俺の回答にランサーとソエルは驚いていたが、シフトだけが驚かず、むしろ納得したような表情かおをしていた。

 それに対して、俺は不思議そうな眼差しでシフトをみつめる。

 「え…?ああ…なんかね…。これも、“ククルが持つ能力”っていうのかな?彼と戦った時、過去の出来事が見えたんだ。産まれたばかりの赤子…多分、ミヤなんだと思う。フィズが幼い彼女を世話したり、一緒に遊んだりという和やかなモノだった。…だから、この2人は何らかの形で仲が良かったんだな…っていうのが、はっきりとわかったんだ」

 「そう…だったんだ…」

 ミヤとフィズの話を聞いた俺は、少しだけ胸の痛みを覚えた。

 「でもさ…そのフィズって奴がミヤの幼馴染だとすると…何故、彼女を連れ去ったの?それによって、そいつに何の得があるって言うの…?」

 ソエルが頭を抱えて混乱状態になっていた。

 だが、奴の目的が見えない以上、俺にも何が何だかさっぱりだ。

 すると、ずっと黙っていたランサーが重たくなった口を開く。

 「その辺を含めて…そろそろ、全てを話してもらった方がいいみたいだな…」

 そう呟いたかと思うと、ランサーは俺達の荷物の側に置いてあったミヤの刀の方に視線を向けた。

 「お前なら、全てを知っているんだろ?…その中に隠れていないで、さっさと出てこいよ…!」

 真剣…というより、今にも怒りが爆発しそうな表情かおをしていた。

 こんなランサー、初めて見た…

 俺はこの台詞を言ったときのあいつに一瞬だけ恐怖した。

  すると、ミヤの刀から黒い光と共に何かが現れる。

 「鳥…?」

 シフトがきょとんとしていた。

 「刀から現れたって事は…名のある剣に宿るといわれる、精霊…?」

 俺は刀から現れた鳥に向かって呟く。

 昔、セツナ兄さんから聞いたことがある。国で売っているモノや世界中にちらばっている中で、「名剣」と謳われる刀剣にはそれぞれに、精霊が宿っているという事を。

 『残念だが、小僧。私は精霊などという大層なモノではナイ…』

 「…なぜに、ファブレ語(=ケステル共和国の言語)なまり!?」

 「そっちかよ!!!」

 シフトのボケに、なぜか俺とランサーがハモリでつっこんだ。

 あいつのボケで少し落ち着いたのか、ソエルがため息をつきながら話し出す。

 「あんたたちってばもう…。そんなくだらない事よりも、あんたは一体…?」

 確かに、普通だったら刀に鳥の霊が宿っていたら変だと考える。

 『正確に言うと、私はこの刀に宿っている死した魂といった所だ』

 「幽霊…?」

 『人間達の間では、そんな呼び名もあるらしいな。それより…』

 その鳥はランサーの方を向いた。

 『小僧…確か、ランサーとかいう名だったな。…いつから、私の存在に気がついていた?』

 そう尋ねると、あいつは険しい表情から一変して普段のポーカーフェイスに戻った。

 「ミヤちゃんと初めて会った時に、「もしや」と思ったが…確信を持ったのは、ミスエファジーナでの戦いの後だった」

 「あの魔物との…?」

 俺は不思議そうな表情であいつを見た。

 『…成程な』

 「まぁ、それはさておき…。あんたには、彼女の代わりに全てを話してもらうぜ。彼女は何者で…何故、攫われたのかを…」

 ランサーが持つ褐色で真っ直ぐな瞳がその鳥を見る。

 『本当は、ミヤ様に口止めをされていたが…。こうなってしまった以上、私一人の力では限界がある。…・全てを…話そう…』

この台詞(ことば)を皮切りに、ミヤの出自について知ることになるのであった。


いかがでしたか?

次回はヒロインであるミヤの出生が語られる回となります。

もともと、これまでの話で少しずつ触れてはいたのですが、セキ達が知らない所で語られていたので、次回は彼らに全ての事が伝わるという事です。

なぜ、ミヤはさらわれたのか・・・!!?

次回もお楽しみに(^^


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