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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十一章 明かされるミヤの正体
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第40話 悲しみ、絶望、過去の恐怖

~前回までのあらすじ~

ついに、捜し求めていたマカボルンが存在する「最果ての地」へ到達したセキ達。

目標達成かと思っていたが・・・なんと、マカボルンはその場所に存在していなかった。

あまりに残酷な結末に、絶望をする中、ランサーはミヤの母親アクト女王が遺したと思われる録音機を発見する。

その録音された内容を聴いた後、「最果ての地」を後にする・・・。

  船の音が艦内に響く。轟音だけど、なんかこれが当たり前のように感じられる。そのため、嫌な心地はしない。

 僕達5人は今、クエンと彼のお父さんが操縦する潜水艦に乗ってヴァラへ向かっていた。

  

 今から2時間ほど前――――僕達はマカボルンが祭られていた神殿から、瞬間移動装置を使って都の跡地に戻ってきた。ランサーを除く全員が生気の抜けたような表情かおをしながら歩いていたのである。

 さっきは頑張って気をきかせたけど…やはり記憶が無事戻ったにせよ、マカボルンがなかったという事実はつらいなぁ…

 そんな事を僕は考えていた。

 普段は僕かランサーがふざけてその場を和ませているが、全員が呆然自失状態だったので、僕もランサーもどうするべきか迷っていた。

 すると突然、ソエルが持っていた小型の機械から、ものすごくやかましい音が聴こえてきた。

 「ソエル…鳴っているよ?」

 「あ…。え、ええ…」

 僕は耳を塞ぎながらソエルに言うと、我に返った彼女が通信機を取り出す。

 「はい。…ザフィロム?」

 『ああ、ソエル!無事だったんだね!!』

 通信機越しに、ザフィロムの声が聴こえてきた。

 「どうしたの…?」

 彼女は通信機で、ザフィロムとの会話を始める。

 『君が送ってくれた写真、見たよ!なかなか上出来じゃないの♪』

 「あ…ありがとう…」

 『あれ…?何か元気ないね…』

 「うん…ちょっとね…」

 その後、数秒だけ沈黙が続いた。

 『ああ、そうそう!!忘れるところだったけど…頑張り次第では君にご褒美がある…って言ったのを覚えているよね?』

 「ええ…言っていたわ」

 ソエルが通信機に耳を当てているため、ザフィロムの声は微かにしか聞こえなかった。

 『えっと…あと2・3分くらいかな?クエンとあいつの親父さんがそっちに到着するから、待っていてよ!』

 「クエンとあいつのお父さん…」

 ソエルがその台詞を言った直後、少し黙り込む。

 「“あれ”の修理…終わったということ?」

 『そういう事!!』

 ザフィロムの通話を終えた後、僕達は彼の指示ということで都市跡の敷地内にある湖へと移動したのである。

 すると――――――――――

 「おーい!!!!!」

 そこには、船にしては変な形をしているモノと、ヴァラで会ったソエルの幼馴染・クエンの姿があった。

 「クエンじゃねぇか!!もしかして…このヘンテコな機械で、ここまで来たのか?」

 ランサーが不思議そうな表情かおで彼に尋ねた。

 「“ヘンテコな機械”じゃねぇ!!これは、“潜水艦”っていう、海底を進むことのできる優れた機械なんだぞ!!!」

 「海底!!?」

 セキとランサーが目を見開いて驚く。

 こいつらって気が合わなそうな二人だけど、息はピッタリだよね…

 そんな事を僕が考えていると、自然と笑みがこぼれてきた。

 「ザフィロムからの”ご褒美”って事で…俺様がお前たちをヴァラまで運んでやろうってわけだ!」

 クエンがウィンクしながらそう言うと、後ろからスパナが飛んできて、景気のいい音と共に彼の頭へと激突した。

 「こら、クエン!!!!本来はワシの潜水艦ふねなんだから、自分のモノみたいに自慢しておる暇があるなら、さっさと手伝わんかい!!!」

 潜水艦から出てきた60~70代くらいのおじさんが、クエンを中に連れて行こうとしていた。

 「おじさん…ありがとうございます!!」

 ソエルがクエンの父親に向かって、お礼を述べた。

 「すぐ出発するけど…お前らは、もうこの地での用は済んだんだよ…な?」

 クエンが最初は普通に切り出していたが、この微妙な雰囲気になっているのに気がついたらしく、声がだんだん小さくなっていく。

  

 そんな出来事があって、今は皆潜水艦内にある部屋で一休みをしている。ただ、個人が所有している潜水艦なので、軍艦並に大きいわけではない。それでも、一休み用の部屋は3部屋程あった。

 しかし、僕達全員が呆けているのか、同じ部屋にいたのに会話をしようとする気配すら見えない。本当は皆を元気づけるのが僕の役目でもあるが、「マカボルンを見つけたい」と必死に頑張っていたセキやミヤの事を考えると、そんな気分にもなれなかった。

 それに、このままだと僕の“果たすべき事”も実行に移せない…

 そのことを考えると、僕も頭が痛くて仕方がなかった。

 

 ※

 

  何もなかった祭壇―――――-「最果ての地」であるあの神殿での出来事が、何度も私の頭をよぎっている。

 私はマカボルンを見つければ、父がどこにいるかわかるヒントを得られるかもしれないという動機を持ってマカボルンを探していたのである。「何でも願い事を叶えられる」と云われているだけあって、その説に対する期待は大きかった。

 本当だったら精神的にボロボロになっているはずだったが、母様の声が録音されていた機械を見つけた事が、唯一の救いだ。

 母様の声…夢の中でしか聴いたことなかったから、こんな綺麗な声の方だったなんて気がつかなかったな…

 そんな事を思いながら、私は録音機を強く握り締めていた。そして、皆のいる部屋から、誰もいない個室の方へゆっくりと歩いていた。

 …夢の中…!?

 部屋にたどりついてから椅子に腰かけると、疲労がたまっていた事もありその場で呆けていた。すると、私の頭の中に忘れている記憶の断片らしきものが映し出された。因みに、その夢とは、ミスエファジーナに滞在していた時に見た夢の事を指す。

 あの時と同じ、見知らぬ荒野。以前と違うのは、赤子の私が母様に抱かれていたというのが鮮明に見えたということ。そして、場面は母娘の温かい雰囲気から一変する。

 「ミヤ…!!!!」

 「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 これは、私が誰かに捕らえられた時の場面だ。

 赤子の私が大粒の涙を流して泣いている。その下で、苦しそうな表情の母様がいる。

 「ほほぅ…。この赤子が、お前と奴の間に生まれた子供か…。髪の色が、そなたにそっくりだな…」

 姿かたちは見えないが、私を捕らえている“奴”の声が聴こえた。

 「魔神レスタト!!あなたは…あなたの狙いは、私なのでしょう!!?その子に触らないで…!!」

 そう叫んだ母様は相手に向かって剣を向けてはいるが―――――何かに苦しんでいるのか、思うように身体が動かせないようだ。

 「おや…。どうやら、わたしが直接手を下さなくても、死にそうな勢いだな…。まぁ、そなたに何があろうと関係ないが…」

 赤子の私はこいつの手のひらの中で握られているみたいで、姿かたちはやはり見えない。しかし、その声がものすごく低く、下手したら押しつぶされそうな雰囲気をかもしだしていた。

 「それよりも…お前達2人の子供だから当然、“混ざり物”という訳だ。…その血肉は格別に美味しいのだろうなぁ…!」

 「!!…まさか!!!」

 「ふはははは!!!いい表情になったではないか、“女神”よ!!!…だが、わたしはそなたが恐怖する顔だけでなく、奴が恐怖におののき、娘の助命を請う所の方も見たいのだがね…!!!」

 この台詞の後、母様の顔が恐怖と絶望に叩きのめされたような表情に激変する。

 「やめてぇぇぇ…!!!その子は…その子は、あの人と私の大事な娘なの…!!」

 母様は、懇願するかのように叫ぶ。

  もしかしてこれは…ただの夢じゃなくて、実際に起きた出来事なの!!?

 私の心臓は、激しく脈打っている。そして――――――――

 

 ※

 

 「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 突然、隣の部屋からものすごい絶叫が響いてきた。

 「ミヤ…!!?」

 マカボルンがなかったというショックから立ち直れていなかった俺だったが、ミヤの絶叫を聴いたとたん、我に返る。

 俺はすぐさま絶叫が聴こえた隣の部屋へ急ぐ。そこには、身体を丸めて泣きながら震えているミヤの姿があった。

 「ミヤ…おい…!!!大丈夫か!!?」

 彼女の顔が真っ青で、全身汗だくになっていた。

 俺は震えた彼女の身体をさすりながら言う。部屋のドアの所には、皆やクエンがどうしたのかと顔を出していた。

 「…夢を…見ていたの…」

 数秒後、ようやく彼女の声が聴こえてきた。

 「…どうやら、相当怖い夢を見ていたんだな…」

 「ごめん……なさい…」

 「ミヤ…?」

 「もう…ここにいるべきじゃないのかも……しれない…な…」

 「え…?」

 汗だくの状態で、彼女がつぶやく。

 時折感じることだけれど、いつもは冷静で剣の腕も良い彼女だが、たまにひどく弱る事がある。女の子だから、そういった部分はあって当然なのかもしれないが、ミヤの場合は何かにひどく怯えているような気がしてならない。

 今回の…「マカボルンがなかった」という事実は俺やミヤにとって、かなりショックだけど…何かこれ以外に恐れている事でもあるのだろうか…?

 そんな疑問が脳裏をよぎるが、こんなにも怯えた彼女に訊くのは酷だと思い、それ以上の詮索はしなかった。

 「ミヤ…。ヴァラに到着したら…少しの間、休ませてもらおう。…ゆっくりすれば、おのずと次にやるべき事が浮かんでくるだろうから…」

 俺は彼女の頭を優しくなでながらつぶやいた。

 本当は、俺もショックで泣き叫びたい気分だったが…こんなに弱ったミヤを見ていると、そんな情けない事はしている余裕はなかった。

 俺がミヤの側に寄り添っている一方で―――――――

 「ミヤちゃんは…セキの奴に任せておこうぜ…」

 ランサーが小さな声で皆に言って、隣の部屋に退散していった。

 海に生息する魔物を避けながら進んだため、ヴァラに到着するまで丸一日かかってしまった。泣き疲れたのか、寝てしまったミヤをおぶって俺達は潜水艦を降りたのである。

 皆の表情を見る余裕はなかった。おそらく、誰も嬉しそうな表情はしていないだろう。

 潜水艦を降りた場所から階段で地上に上がり、数日ぶりにヴァラへ戻ってきた。でも、何だか何年も来ていなかったかんじがした。

  ソエルの爺さんであるシノン長老の家に到着した後、長老本人が俺達を迎えてくれた。

 「お爺ちゃん…しばらくの間、私達…ここにいてもいいかな…?」

 ソエルの表情かおはものすごく悲しそうだった。

 状況をすぐに理解したのか、シノン長老は黙って頷く。

 

 ※

 

  私達がヴァラに到着した翌日の夜―――――――-

 「ちょっと…散歩、してくるね…」

 皆がいる中で、ミヤが言った。

 「ミヤ…もう大丈夫か…?」

 セキが心配そうな表情かおで彼女に問いかける。

 「うん…私は大丈夫!…少し一人になりたいんだ…」

 そう言ってミヤは私の家を出て行った。

 あの子、微笑んでいたけど…すごく無理しているようなかんじがする。やっぱり、ショックが大きいんだろうな…

 私はミヤが出て行った扉を見つめながらそう考えていた。

 それにしても…アクト女王って本当にすごい女性(ひと)なんだな…

 私は録音機を見つめながら思った。

 マカボルンを見つけた彼女は、自らの体内に取り込む事であれを消滅させようと試みた。大地の精霊アークル曰く、「マカボルン(あれ)は多くの人間の魂――――要はエネルギーが込められているので、力の弱い者が取り込むと、身体をズタズタに裂かれて死亡する」らしい。誰もが怖くて実行できない事を、アクト女王は実行したのだ。本気ですごいなと思える。気がつくと、居間にいたのは私一人だけだった。後ろを見ると、中庭にセキの姿があった。

 「セキ!」

 「ソエル…」

 中庭に出た私は、振り向いた彼に軽く手を振る。

 「何をしているの…?」

 「星を…見ていたんだ…」

 「そうなんだ…。でも、この村は閉ざされた場所にあるから…他で見るより見えづらくない…?」

 「そうだね…」

 セキがつぶやいた後、少しの間私達2人の間で沈黙が続く。

 「俺…実は、別に皇帝になりたかったわけじゃなかったんだ…」

 「え…?」

 セキがようやく口を開き、思わぬ台詞(ことば)に、私はきょとんとした。

 「マカボルンを探す旅に出たのは…あくまで“国の皆に、一人前の男として認めてもらいたい”ってだけだったんだ…」

 「そう…だったのね…・」

 空を見つめながら、私達は話す。

 「でも…ミヤやソエル達と出会って…本気で誰かを…大事な人々を守るために、マカボルンを手に入れたいと…思うようになった…。なのに…!」

 そう話し続けるセキの腕が、震えていた。

 そして、涙を必死になってこらえている彼に対し、私はそっとつぶやく。

 「セキ…あんたはいつも、私達の前では明るく気丈な態度を取ってくれていた…。やっぱり、男として弱い所を見せたくなかったんでしょうね…」

 そう言って私は震えているセキの左手にそっと触れる。

 「男だって…あなただって、感情のある人間なのよ。だから…泣きたい時には、泣いてもいいんだからね…?」

 「う……」

 彼が持つ穢れなき藍色の瞳から――――大粒の涙が流れてきた。

 「俺は…俺は……っ!」

 セキは、右手で自分の顔を抑えながら泣いていた。

 そんな彼を見ていると、本当の弟のようで、ものすごく愛しくなる。

 彼はずっと泣きたかったのに…周りの環境がそれを許さなかったのだろうな…

 私は泣き続ける彼の肩に、黙ったままソッと自分の肩を寄せた。

 

 ※

 

 セキとソエルのそんなやり取りがあった一方、私は夜のヴァラを散歩していた。

 一人になると…やっぱり、こういう時は落ち着くな…

 歩きながら私は物思いにふける。

 母様はどうして…マカボルンを消滅させようと考えたのかな…?

 あの録音機に録音されていた母様の声を聴いてから、疑問はいっぱいあるはずなのに、今はそんな事どうでもよかった。唯一、父様を探す事ができる手がかりが消えてしまったのだから―――――――――――

 「そろそろ潮時かな…」

 ボソッと独り言をつぶやく。

 マカボルンが見つからなかった以上…皆と一緒に旅をする理由はなくなったもんね…

私はこれまで世界中を旅してはいたが、“隠れるように”して生きてきた。俗世間とはほとんど関わらず、「ほぼ」たった独りで。それは、過去に多くの人々を傷つけてしまった私が自分に課した罰なのだ。

 もうこれ以上、他人(だれか)を犠牲にしたくはない…!!

 そんな事を考えていると、気がつけば人気のない村はずれまで来ていた。

 流石に、そろそろ戻ろうかな…

 そう思って振り返ると、私の目の前に誰かがいた。

 この独特の気…

 私の目の前にいたのは、ミスエファジーナで会った幼馴染・フィズだったのである。

 

いかがでしたか?

この回で、ミヤがミスエファジーナで見た夢の詳細が描かれました。

この夢の結末をしっかり書くことはないと思いますが、ただ結末の一部は今後の会話の中にチラリと書かれているので、気になる方は次回以降で探してみてください!

次回は武具大会が終わって以来会っていなかったフィズとの再会からスタートです。カルマ族の「隠れ里」なので、そう簡単に外部の人間が入って来れないのはおわかりだと思います。

では、フィズがなぜその場にいたのか?

マカボルンを見つけられなかったセキ達はどうするのか!?

次話をお楽しみに☆


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