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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十章 最果ての地へ
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第39話 最果ての地

今回は、ついに旅の終着点「最果ての地」に到達する回。

ククルの都と通り抜け、マカボルンが祭られているという神殿らしき空間でセキ達を待ち受けているのは・・・?

 “自分の先祖が創ったといわれるモノだから”…皆とは違い、一種の好奇心でここまで旅をしてきた私。マカボルンに何か願い事をしたいとか、手に入れた後はどうするとか…考えたことも無かった。

 大地の精霊アークルがいた森を抜けた私達5人は、私の先祖―――――――ククル達が暮らしていた都市の跡地に到着した。何百年と経過しているため、都市の原型すら留めていなかった。かろうじて残っている建物には、ケステル共和国やミスエファジーナ、そしてレンフェンのどの国にも当てはまらない独特な建築様式なのが微かに見られる。

 「僕の記憶が正しければ…ここは多分、アキの生まれ故郷だ…」

 シフトが低い声で呟く。

 「本当に!!?」

 「うん…。“自分の故郷は、海底を再現したような雰囲気だった”って言っていたのを、何となく覚えている…」

 私が驚いていると、辺りを見回しながらあの子は語った。

 「“ククルの都”っていうから、亡失都市トウケウみたいな機械仕掛けの街を想像していたけど…こんなに神秘的な場所とは想像もしていなかったな…」

 私の側で、セキが言う。

 そういえば、セキとミヤはあのマカボルンによる幻を映すと云われる、亡失都市トウケウへ行った事があるんだっけ…

 私は彼ら2人を見ながら思った。

 「だとすると…学者連中にとってこの街は、歴史的発見かもな!!」

 「どうして?」

 「歌姫アキは、考古学者連中の間では有名だが…彼女の出身地や宗派などは不明とされていたんだ…」

 「でも…こんな神秘的な場所を、見知らぬ連中に入ってこられるのは、何だか嫌だな…」

 ランサーの説明を聞いて、私はポツリと呟いた。

 「…大丈夫!!魔法省に帰っても、ここの事を学者連中には一切話さねぇから!」

 私の横でそう言ったランサーは、ニコッと微笑んでくれたのである。

  普段はふざけているけど…やっぱり頼もしいし、いい奴よね…。

気を使ってくれているのに気付いた私は、何だか嬉しく感じていた。

 「うんうん!こうやって見ていると、ソエルも可愛いね♪」

 私とランサーの側で、シフトがニッコリと微笑みながら言った。

 「ちょっと!大人をからかわないで頂戴!!」

 「…でも、実際は僕の方が大人だよ?」

 「あ、そっか…」

 シフトに諭されて、私は納得する。

 “このマセガキ!!!”って最初思ったけど、本当の所は私よりシフトの方が年上だってことをすっかり忘れていた。

  そんなこんなで私達は、この跡地を奥へ奥へと進んでいく。

 「母様も…この街を通ったのかな…」

 歩いている途中、ミヤがボソッと呟いた。

 それを聴いた私達は、少しの間だけ黙りこんでしまう。

 「ミヤ…。君のお母さんであるアクト女王陛下が、何て呼ばれていたか知ってるかい?」

 セキが口を開いた。

 「いえ…知らないけど…?」

 「そっか…。俺も幼少時に書物で学んだ程度の事しか知らないんだけど、彼女はある時を境に“女神”…って呼ばれるようになったのだって」

 「“女神”…?」

 「アクト女王は旅に出る前、民にも慕われた優れた人格者だったらしい。…ここからは俺の想像なんだけど、そんな人望厚かった彼女が“最果ての地”に到達し、無事に生還できた事実から、尊敬の念を込めて“女神”って呼ばれるようになったんじゃないかって思うんだ」

 ミスエファジーナ原始の民であるバルデン族については、日常生活でほとんど関わる事がなかったから、全く興味なかった。しかし、ミヤと出会って仲良くなったせいか、今の話を私も歩きながら真剣に聴いていた。そして、いつの間にか「どんな民族なんだろう」と、興味関心を持つようになっている自分がいた。

 「…っ…!!!!」

 シフトが何かに反応したのか、瞬時に周りを見渡す。

 「どうしたの?シフト!」

 「あっちから、魔物の気配がする…」

 シフトが拳を握りながら言う。

 「魔物が多いということは……あっちに瞬間移動装置があると見て、間違いなさそうだな!!!」

 

           ※

 

  俺達は山のように大きく、さんご礁みたいな建造物の中へと入っていった。入り口が洞窟みたいな形をしていたその場所に入り込むと…一方通行だったが横が広く、空間内には大量の魔物がいた。

 「屋内だから、広範囲に及ぶ魔術が使えねぇじゃねえか…よ!!!」

 ランサーが風の力をまとったタクトを使って、魔物に攻撃する。

 「それは、俺だって…同じだっての…!!!」

 俺も剣を振るいながら話す。

 「二人とも!!無駄口叩いていないで、早く仕留めましょう!!!」

 普段は怒らないミヤに怒鳴られた俺達は、即刻黙ったのである。

 「それにしても…多いよね、魔物の数!!!」

 「もしかしたら、マカボルンが近いからなのかもね!!!」

 息切れしながらシフトとソエルが話した。

  それからどれぐらいの時間が経過したのかわからないが、何とかこの場所にいた魔物達を倒すことができた。これによって、傷もたくさん出来て体力が消費した。しかし、誰も大怪我をせずに倒せたのは、きっとここにたどり着くまでに皆が強くなったからだろう。自分で言うのもあれだけど、俺自身も国を出たばかりの時と比べると、結構強くなったような気がしていた。

 洞窟のような空間を通り抜けた俺達の目の前には、巨大な貝みたいなモノでできた神殿らしき建造物があった。その中に入ると…中央に何かの装置みたいなモノが存在する。

 「もしかして、これは…!!!」

 「…これが、精霊(アークル)が言っていた瞬間移動装置みたいだな…」

 驚きのあまりに呆然としている俺の横で、ランサーが呟いた。

 「ついに…ついに、ここまで来たのね…私達…」

 ミヤが呟く側で、俺も同じ事を考えていた。

 「…この機械で座標を設定するみたいね…。シフト!この文字読める…?」

 ソエルが装置を動かす機械を眺めながら、シフトにチョイチョイと右手を動かした。

  シフトがソエルの横に来て数分後…

 「できた!これで、目的地へ行けるはずだよ…!」

 シフトが息を大きく漏らした後、そう俺らに告げた。

 「装置を起動して10秒後に、瞬間移動できるみたいだわ!…皆、準備はいい??」

 ソエルの台詞を聴いて、俺は心臓が強く脈打っていた。

 しかし、緊張して立ち尽くしているだけでは、何も始まらない。

 「ああ!頼む!!!」

 自分を奮い立たせるように、皆に対して言った。

 『今から10秒後に転送を開始します。10…9…』

 機械からの音声がカウントダウンを始める。

 それと同時に、機械を操作していたソエルが俺達の元へ走って戻ってくる。離れ離れにならないように、俺達5人は互いの腕を組み合って一つに固まった。

 俺がミヤとシフトの腕を組んだ時…二人とも、身体が震えているのがわかった。

  緊張しているのは、俺だけじゃないんだな…

そう思うと、少し安心した。

 『…2…1…0…』

 「0」という音声が聴こえたのとほぼ同時に、装置が作動した。

 そして、俺達はついに「最果ての地」へたどり着くことになる…。

 

  気がつくと、俺達は大きなサークルのど真ん中にいた。瞬間移動は成功したのだろうかと辺りを見回すと、何かの建物の中みたいな構造になっていた。前方と後方に巨大な扉が2つあり、あの街の事を考えると内装もしっかりきれいな状態を保ち続けているようだ。

 「どうやら…瞬間移動は成功した…みたいだな…」

 辺りを見回しながら俺は言った。

 「こっちの扉が開きそうにないから、おそらくそっちの扉が奥への道みたいね…」

 ミヤが俺の後方にあった扉を触りながら述べた。

 「あ~もう!!!緊張して心臓バクバクだから、早く奥へ進もうよ!!!」

 シフトが地団駄しながら駄々をこねた。

 「確かに、ここでボーッとしているわけにもいかないから…先へ進みましょう!」

 ソエルの台詞の後、俺達はもう一方の扉を開いて中へ入った。

 

  中へ入ると、真ん中には祭壇があった。…どうやら、ここがこの建物の中心のようだ。入った途端、ミヤがいち早く祭壇の方へ走り出した。

 「ミヤ!!!」

 彼女を追って、俺も走り出す。

 俺とミヤはマカボルンが祭られているであろう、祭壇にたどり着く。

 「ミヤ…マカボルンは…!!!?」

 息切れをしながら、彼女の視線の先を見ると――――――――――

 

 「……ない……」

 彼女がボソッと呟く。

 俺達の目の前には……石どころか、あった形跡すらない状態だった。

 あまりに衝撃的な結末に…俺とミヤは呆然として、言葉も出てこなかったのである。

 「2人とも、どうだった?」

 シフトとソエルとランサーが追いついてきたが、呆然としていた俺達は彼らの問に答えられない状態になっていた。

 「そんな…嘘だろ…!!?」

 俺は膝をつき、地面に座り込む。

 国を出る前…世界の言語や文化について猛勉強を重ね、旅に出た直後は魔物との戦いにも慣れる事ができず、泣きたいぐらいつらい時があった。それでも…「マカボルンを見つけて、皆に認めてもらう」の一心でここまで来たのに…。

 俺の中にあったいろんなモノが…音を立てて崩れるような絶望感を感じた。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 祭壇中に、俺の絶叫が響いく。

 

           ※

 

  今回ばかりは俺の予想が外れてほしかったのに…まさか、俺の読み通りの結末が待っていたなんて、思いもしなかった。

 賢者の石がなかった―――――この真実を知った俺達。セキは頭を抱えて床に座り込み、ミヤちゃんもショックで地面に座り込んでいた。そんな彼女の元にソエル姉さんが駆け寄り、最初は同じように呆然としていたが、すぐに我に返ったシフトがセキの元へ駆け出した。

 俺自身は賢者の石に対してあまり執着していなかったので、ショックは少ない。しかし、セキやミヤ。そして、ショックを顔に出さないでセキの側にいるシフト達を見ていると…いたたまれず、やるせない気持ちでいっぱいだった。

  こんなことって…こんな結末なんて、ありかよ…!!!

俺は心の中で叫んでいた。

 今の状況に納得ができない俺は、せめて何か手がかりがないかと辺りを見渡す。

  長い間、あまり人間が訪れていない場所だから…何かあるはず…!

俺はそんな事を考えながら祭壇の周りを調べていた。この神殿内のあらゆる場所を手探りで探す。すると、地面から何か違和感のある感触を得る。

 「もしや…この床板、はずれるのか?」

 独り言を呟いた俺はその床板を動かそうと両手で触れると、外す事が可能だった。

 魔術などによって見た目が綺麗でも…実際は何千年も経過した建築物。…やはり、ガタが来ているんだろうな…

 床板を違う所に置いた時、俺は思った。

  外れた床板の中には…小型で古ぼけた機械があった。

 「なぜ、こんなところに機械が…!?」

 機械についた埃を払いながら、俺は一人驚いていたのである。

 「おい…皆!!ちょっと、来てくれないか?」

 俺はあいつら4人を大声で呼んだ。

 いいタイミングでこれを見つけたな

 この時、思わぬ発見に救われた気がした。とにかく、今は少しでも賢者の石以外の事を考えさせねばならないからだ。

 「ソエル姉さん!!こんな所にこいつが落ちていたんだが…これ、何だかわかるか??」

 「これは…!」

 俺がソエルに小型の機械を手渡す。

 そして、姉さんがじっくり見た後に口を開いた。

 「これ…形がだいぶ古いけど、録音機だわ」

 「録音機…?」

 俺とシフトが不思議そうな表情かおをする。

 録音機を見たセキとミヤの顔に、生気が戻ってきたようだ。

 「人の声やいろんな音とかをこれで録音すると、何度でもその音声が聴けるっていう機械なの…」

 「使える…か?」

 「電池が入っていれば、使えるかも…」

 そう言いながら、姉さんは録音機に付いているボタンを一つ押すと、ザザザッという雑音が聴こえてきた。

 「…何か、聴こえない?」

 何かが聴こえたのか、録音機に耳を近づけたシフトが言う。

 「音量を上げてみましょう!」

 そう言って、録音機の音量を大きくした。

 『…を見ているときは、何十年…いえ、数百年は経過しているでしょう…』

 「…母様!!?」

 録音機の音声が聴こえた時、いきなりミヤちゃんが叫んだ。

 「ミヤ…どうした…?」

 セキが虚ろな表情かおで彼女に尋ねる。

 「この声…多分、私の母親の声だと…思うの…」

 「“多分”ってなんだよ…」

 ミヤがゆっくり答えると、側でシフトがため息をついていた。

 空気を読まないシフトに対して俺がげんこつを食らわせた後、話し出した。

 「いや…おそらくこれは、アクト女王の声だろう…。何せ、この場所に到達できたのは、この世界で彼女ただ一人だからな…」

 「言われてみれば、確かに…」

 俺の説明を聞いて、皆が納得したようだった。

 「今、一時停止の状態だから…続きを再生するわね」

 「ああ…たのむ」

 無意識の内に俺は低い声でしゃべっていた。

 『…私、アクト・ファジーナは、“最果ての地”にたどり着き、念願のマカボルンを入手しました…』

  やっぱり、アクト女王が手に入れていたんだな…

この録音機がそれを物語っている。

 だが、この声のかんじから見ると…賢者の石を手に入れた後の、喜びコメントじゃなさそうだな…

 ということも考えていた。

 『ですが…ここに到達するまでに、私は多くの犠牲を払いました。故郷の民や重臣…数え切れないくらいの犠牲を…。…そして、大地の精霊にお会いした時に“手に入れてはいけない”とおっしゃっていた意味が、今になって理解できた気がします…』

 「マカボルンを手に入れて…アクト女王はその後、どうしたのかな…?」

 セキがボソッとつぶやいた。

 『私は、実物を手にした時に思いました。“この魔石は存在してはいけない物だ”と…』

 「…もしや…」

 俺は気がつかなかったけど、シフトがものすごい真っ青な表情になって録音機を見つめていた。

 『そして私は今さっき…マカボルンの破壊方法である“体内に取り込んで浄化する”を実行しました…。精霊様が、“命を落とす可能性が高い”とおっしゃっていたけど…この石が、悪意のある人間に渡る事を…私は望まない…!』

 アクト女王の声から、必死であるが一方で苦しそうなかんじが聴いていて読み取れた。

 『この石は、私が何とかします…。そして、この録音機を見つけて聴いた時には…既にこの神殿の場所が多くの人々に認知されているかもしれない時代になっているでしょう…!ですから、お願いです!!マカボルンは…ただの伝説であり、実在しないことを…後世に伝えてくださ…!!』

 「い」の言葉が聴こえる前に、録音機の音が途切れてしまった。

 「…電池切れみたい…。最も、200年以上経っているのに再生できた事自体が奇跡よね…」

 ソエル姉さんがため息をつきながら言った。

 「つまり、今の台詞をまとめると…アクト女王はマカボルンを見つけたけど、“悪いもの”と判断して破壊することを決意した。そして、僕達旅人にあれがないことを皆に伝えろ…って事だよね?ランサー!」

 「そのようだな…」

 シフトが俺の方を向いてきたのに対し、俺はうなずいた。

 「ということは、本当に…・マカボルンはこの場にないんだな…」

 相変わらず、間抜けそうな表情かおでセキの野郎はつぶやく。

  ダメだこりゃ…

  あまりにふぬけ状態にあいつがなっているため、俺はため息をついた。

 「母様…」

 ミヤちゃんがポツリと何か言ったかと思うと…その漆黒の瞳から、一筋の涙が流れた。…しかし、彼女は「声を出して泣かない」と言わんばかりの表情で、必死に涙をこらえている。

 「ミヤ…!!」

 それを見たソエル姉さんは、必死でこらえているミヤちゃんに近づき、強く抱きしめた。

 「マカボルンは見つけられなかったが…この録音機で君は、母親の肉声を聴く事ができた…。それを幸運だと思って、これ…大事に持ってるといいぜ…」

 そう言った俺は、ミヤちゃんに録音機を渡し、彼女の頭を優しく撫でた。

 その後、俺は立ち上がる。

 「まずは…この場所を出ようぜ…」

 この一言を言った後、俺達5人は賢者の石が祭られていた祭壇を後にする――――――

 

いかがでしたか?

実は、物語はこれで終わりではないです。

次回以降は、ついにヒロインであるミヤに関する章になります。

明かされるミヤの出生とは…。

これまでの話でチラリチラリと描いてきましたが、やっとセキ達が真実を知ることになりそうです!


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