第38話 精霊の住む森
今回は、この物語の世界観がよくわかる回。
山岳宮殿を抜けたセキ達は、無事に第魔王ダースの居城を通り抜けることに成功し、先を急ぐ・・・。
山岳宮殿を抜けた俺達は、大魔王ダースの居城を無事通る事ができた。
魔族の長が住む城っていうから、もっと魔物だらけで苦戦するかと思っていたが・・・静かで助かったな
歩きながら俺は考え事をしていた。
「しっかしよ~!やっぱり寒いよな~!!」
ランサーが身体を震わせながら言う。
「そうね。・・・でも、吹雪がないだけでもありがたいと思わなきゃね!」
ミヤはそう言ってランサーの肩をポンと叩く。
現在俺達が歩いている場所は、もちろん無法地帯だ。そして、ここまで到達した冒険者もいないので、世界地図でも詳しく書かれていない。
「そういえば、ソエル!その小さな機械は何だい?」
「俺も気になっていた!お前、そんなのずっと持っていたっけか?」
俺とランサーが、ソエルの服のポケットから見え隠れしている小型の機械を見ながら問う。
「ああ・・・これ?これは、ザフィロムが私に持たせてくれた通信機!遠くにいる人と話せるモノなんだけど、あいつがくれたのは別の目的なのよ」
「別の目的・・・?」
「ええ。ここに小型カメラが付いているんだけど・・・“最果ての地を目指しているなら、これで使えそうなモノを撮って送って”と頼まれたの」
「使えそうなモノって・・・機械作りとか?」
シフトが考えこみながら、ソエルに問う。
「そう!勿論、それだけじゃないけど・・・“収穫次第ではご褒美がある”ですって。なんか、大人にしつけられた子供みたいで嫌なかんじだわ!」
そう言った彼女は口をプクリと膨らませ、不機嫌そうな態度を取る。
そうして会話をしていた俺達は、大きな森の中を進み始めた。
「何か、この森…空気が澄んでるよね」
「だな。森全体に魔力が溢れている・・・。ここだったら、まだ精霊とかがいるかもな!」
シフトとランサーの会話が周囲に響く。
確かに、この森は神秘的な雰囲気を感じる。木々も太くて背の高いモノが多い。
「・・・精霊なんているの?」
ソエルが不思議そうな表情で言う。
「…太古の昔、神はこの地に存在する精霊の力を借りてこの世界を作ったの。8元素を司る彼らがククルを作り、今に至るわ」
「だが、人間は精霊の恩恵を当たり前だと思い、ついには戦争を始めちまった・・・。それに心を痛めたあいつらは、ほとんどがこの世界から去った・・・と云われている」
精霊について、ミヤとランサーが語る。
ランサーはともかく、ミヤが精霊について詳しいとは思いもしなかったな・・・
この会話の後、シフトが申し訳なさそうな表情をしていた。多分、精霊達がいなくなったのは、最初の人類である自分達のせいだと思い込んでいるんだろう。
「過去に何があろうとも、お前自身に罪はない・・・。だから、あまり気に病む事はないからな!」
シフトの肩をポンと叩いた後に俺はそう言った。
「うん・・・。ありがとう、セキ」
そう言ってあいつは俺の笑顔に応えてくれた。
「ねぇ!あれを見て!!」
何かを見つけたソエルが、指を指しながら言う。
「これは・・・!!」
俺達の目の前に広がっていたのは―――――この森で一番大きいであろう、大樹だった。
「すごい大きさ・・・」
「本当だな・・・」
大樹を見上げながら、ミヤと俺は呟く。
「だが・・・あまり穏やかな場所でもなさそうだぜ・・・」
「え・・・?」
ランサーの台詞を聞いた俺は、辺りを見回す。
「きゃっ!」
「ソエル!?」
「あそこ・・・!!」
ソエルが指を指した先には…草に埋もれて見えづらかったが、大量の骸骨が見えた。
もしや、魔物の仕業か!?
魔物の存在を匂わせた物を目撃し、俺は周囲を警戒し始める。すると…
「危ない!!」
ミヤが叫んだかと思うと、彼女が俺の上に被さってきた。
俺と彼女が地面に倒れこんだ際、彼女の胸が俺の上にのしかかってきたので、俺は驚きと恥ずかしさでドキドキだった。もちろん、彼女は冗談でこんな事をする人ではない。
「魔物・・・!?」
ソエルの声が後ろから聴こえて、ようやくミヤが俺を助けるために覆いかぶさったのに気がついた。
「ミ・・・ミヤ・・・。とりあえず、どいてくれるかな・・・」
「あ、ごめんね。今どくから!」
顔を真っ赤にしてドキドキしていた俺とは対照的に、ミヤは冷静な口調で身体を起こした。
起き上がって見てみると、そこには狼がいた。ただし、普通の狼とは明らかに見た目が異なる。その狼は普通に見ると毛が茶色いけど、俺らの側を走り抜けた時、その毛並みが金色に光っていた。
「名前とかはわからねぇが・・・こいつって、絶滅種の狼なんじゃないか・・・?」
ランサーが不思議そうな顔をしながら呟いた。
「わっ!!!」
見えづらい場所から襲い掛かってきたその狼に対し、シフトはなんとか避ける事ができた。ただ、奴もかなり素早かったので、避けた拍子にしりもちをついてしまう。
『人間よ、立ち去れ!!!!』
金色の狼が木の上で立ち止まった時、どこからともなく声が聴こえてきた。
「げっ!!!」
ランサーが間の悪いような台詞を言ったかと思うと、頭を抱えてその場でしゃがみこんだ。
「ランサー!!?」
「大丈夫!どうやら精神感応能力の類が苦手で、それによって起きる頭痛らしいから・・・」
しゃがみこんだあいつを見て俺とシフトは驚いたが、ソエルが冷静に説明してくれた。
要するに、持病みたいなものか・・・?というか、ソエルの奴はいつの間にそんな事知っていたんだな・・・
彼らを見ながら、ふと考えていた。そして、この精神感応能力は「立ち去れ」と再び言ってくる。
「俺達に“立ち去れ”と言うなら、何か理由があるはずだ・・・。なぁ!何故、俺達の邪魔をするんだ?」
その場を立ち上がった俺は、そう言って金色の狼を睨み付けた。
『・・・お前達人間を、この先に行かせたくないだけだ』
「そう言って、マカボルンを求めていた冒険者達を…殺めたのか?」
声の主の返答を聞いた俺は、剣を強く握りしめながら呟く。
すると、ミヤが俺の横に来て口を開く。
「貴女、大地の精霊アークルよね?・・・甲冑を身にまとい、私のような茶髪だった
女戦士を知っている?」
彼女は自分の母親である、アクト女王の事を声の主に訊く。
『確かに今から200年程前、そなたのような人間がここを通ったが・・・まさか・・・!?』
「なぜ、貴女は母様だけは通したの?娘の私は、知る権利がある・・・!」
最初は冷静な口調だったが、この台詞ではものすごく必死なかんじがした。
その直後、金色の狼は登っていた木から降りて、先程見つけた大樹の側に近づく。
そして、大樹が光ったかと思うと――――狼の側にはライトグリーン色の髪の女性が現れた。
この女性が大地の精霊・・・?
「いかにも、私は大地の精霊アークルだ。だが、バルデン族の娘であれば、誰でもそのような嘘はつける。・・・娘よ、こちらへ・・・」
アークルはそう言った後、右手をこちらに差し出してきた。
「はい・・・」
返事をしたミヤは精霊に近づく。
「ちょっと・・・!ミヤに何するつもり!?」
警戒するシフトが、身構えていた。
するとアークルはあいつを見て言う。
「フェニックスの片割れか・・・。案ずるな。ただ、この娘の心の中を見るだけだ・・・」
「何故、それを・・・」
驚きの余り硬まっているシフトにも目にくれず、アークルは近づいてきたミヤの左手を両手で握る。
最初は無表情だったが、段々表情が変わっていく。そして、金色の瞳を一瞬閉じたかと思うと、すぐに見開いていた。
彼女の心の中・・・。アークルは一体、何を透視たのか?
「成程・・・。だから、そなたは・・・」
精霊は呟く。
最後の方で何か言いたげだったが、すぐにミヤの手を離した。
「私の言葉が真実だということ・・・ご理解戴けましたか?」
ミヤの顔は正面にいるアークルに向いていた。
「そなたの母は・・・真実を知っても尚、己の意思を貫いた・・・。その志を見て通る事を許したのだ」
「真実・・・?」
ソエルが不思議そうな表情で話を聞いていた。
「マカボルンが何から出来ているか・・・そして、その壊し方だ」
「創り方!!!?」
その台詞に、ランサーがものすごい食らいついていた。
「大地の精霊アークル・・・貴女は、マカボルンの創り方を知っているんですね・・・」
シフトが深刻そうな表情をしながら言う。
「ミヤよ。真実を知ってもなお、マカボルンを求めるか・・・?」
「はい」
彼女は、ほぼ即答だった。
しかし、俺も同じように訊かれたら、そう答えるかもしれない。
「・・・では、話そう。真実を・・・」
※
大地の精霊アークルの口から、マカボルンの創り方。そして、壊し方について僕達は聞いた。人々のあらゆる願いを叶えられる魔石―――――それが人間の魂で出来ているなんて真実、僕は教えたくなかった。壊し方も既に知っていた僕は、改めて聞いて気がついた。
もしかしてミヤは・・・!!?
僕の脳裏に、一つの確信が生まれる。だとすると、これまでの出来事のつじつまが合うような気がした。アクト女王が亡くなった年がおかしい事と、100年前くらいに産まれていたであろうミヤがなぜ、18歳くらいの女性にしか見えないのか。
本当に、アクト女王はマカボルンを手に入れていたんだ・・・
あれを創ったのは僕らレッドマカボルン族なのに、本当に数千年経過していてもあるものだと認識できた。
僕が考えていた可能性――――――それは、アクト女王からミヤにマカボルンが移ったということ。
でも、今の彼女は体内にマカボルン(あれ)を取り込んでいるかんじがしない。・・・どうしてだろう?
「最後に一つ・・・この先は魔物化したククルの魂だけでなく、太古より存在する魔物が数多く生息する。・・・そなた達に通り抜けられる資質があるか、試させてもらおうか」
「それは、貴女と闘うという事?」
「そうだ」
僕の問いに対し、アークルは即座に答えた。
一瞬だけ瞳を閉じた僕は、それとほぼ同時にフェニックスの紅い翼を生やした。僕の周囲では、ミヤやソエルがそれぞれ刀と銃を構え、セキやランサーも身構えていた。それに対し大地の精霊アークルは、従者である金色に光る狼を操り、こちらに向かってきた。
マカボルンの真実を知り、皆は何を思ったのだろうか・・・?
ソエルの銃弾が狼を狙い打ちする。狼も避けるが、銃弾の速さも同じくらいだったので、何発か命中していた。
「うぉぉぉぉっ!!!!」
セキの剣とミヤの刀がアークルへ向かっていく。
相手は木でできた槍を次々と飛ばしてくる。
「はっ…!!」
2人に飛んできた槍を、僕の拳で潰した。
それと同時に、発火した木の槍は燃える。
フェニックスとしての力を取り戻した僕は、炎を拳にためこんで叩く技を身につけていた。
「ありがとう!!」
僕の横で礼を告げながら、ミヤが駆け抜けていく。
「はっ!!」
ミヤが衝撃波を放つ。
この黒い衝撃波、あの時の!!?
僕は、ミスエファジーナで彼女が巨大な魔物に放った衝撃波を思い出した。アークルは腕でかき消そうとしたが、そう簡単にはいかなかった。
物凄い轟音の後、煙が森全体に広がった。それが晴れ、精霊の左腕には、刀傷がついていた。その直後、ミヤが相手の懐に入り込んで、アークルを後ろにある大樹まで突き飛ばしたのである。
「ぐっ…!!」
セキやミヤが再び剣と刀を構えると、精霊アークルは重たい口を開いた。
「そこにいるコ族の青年・・・セキという名か。そなたは、国のためにマカボルンを欲しているようだが・・・もし、“大切な人間の命を差し出せば、マカボルンを与えよう”と言ったらどうする・・・?」
「え!!!?」
いきなり質問されたセキは驚いていた。
「身構える必要はない。“もしも”の話だ・・・」
なぜ、そんな事を…?
僕が不思議そうにしている、アークルは僕をチラリと見た。
そっか・・・彼女は、僕達の考えている事がわかるんだな・・・
その事実を、僕は身をもって実感した。
そして、セキが重たくなった口を開く。
「確かに、俺はマカボルンを求めていますが・・・誰かの命と引き換えにして何かを得ようなんて、考えていません」
「マカボルン(あれ)が人間の魂でできていると知ってもか?」
「世の中にどれだけ優れた物があったとしても・・・命より大切なモノなんて、ないと思います。命は一度失えば戻らない、かけがいのないモノですから・・・。そして、かけがいないモノだからこそ、それを守るためにマカボルンを必要としています!」
セキの表情がいつにも増して真剣だった。
アークルの瞳は、セキの藍色の瞳をまっすぐ見ていた。数分程、森の中で沈黙が続く。
「その決意・・・二言はないな?」
「祖国レンフェンと、この剣に誓って」
そう断言したセキは、自分の剣を目の前に突き刺した。
「そなた達の魂・・・しかと見極めさせてもらった・・・」
「と・・・いうことは・・・?」
ソエルが恐る恐る訊く。
「・・・この森を抜ければ、ククルの都市跡がある・・・。そのいずれかの建物の中に存在する瞬間移動装置を使えば、あそこまでたどり着く・・・」
「あそこ・・・って事は、ついに・・・!?」
僕達5人は喜びと驚きが重なり、言葉を失っていた。
「大地の精霊アークル・・・。ありがとうございます!!」
セキが精霊に向かって深くお辞儀をした。
それに続いて、僕ら4人も彼女に御礼の挨拶をする。
この森を抜けて、都市跡を通り抜ければ・・・ついに、マカボルンとご対面できるんだな・・・!
本当だったら嬉しいはずなのに、なんだか複雑な気持ちだった。
でも・・・僕にしかできない事、絶対にやり遂げなきゃ・・・!
森を歩きながら、僕はそれを誓った。
僕達は森を更に奥へと進んでいく。僕らの後ろ姿を見ながら、アークルは呟いた。
「あの者達には・・・悲しい現実が待っているのだな・・・」
いかがでしたか?
次回はついに、旅の終着点である「最果ての地」に到達します!
そこで物語が終わるかどうかは・・・次話をご覧ください★
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