表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第十章 最果ての地へ
38/66

第37話 似たもの同士

カップルとしての組み合わせとしては、セキとミヤ、ランサーとソエルに分かれて行動することが多いですが…今回は、セキ・ソエル・シフトとミヤ・ランサーの二手に分かれて物語が進みます。

 カルマ族の隠れ里ヴァラを出発した私達は、隠し通路から一旦サカキ大陸に戻り、北を目指す。

 「クエンの話だと…北へ行くなら、山岳宮殿を通ると早いらしいわ」

 地図らしき物を見ながらソエルが言う。

 「山岳宮殿?」

 「ククルかすらわからない時代に建てられた、イリオモ山にある古代遺跡の事よ」

 「僕らククル以外にも、違う人類とかいたのかなぁ…?」

 セキの問いかけにソエルが答え、シフトがつぶやく。

 ククル以外の人類か…

私の脳裏には、とある種族の存在があった。

実は、私達がいるこの大地とは異なる場所…俗に言う『異世界』は実際に存在している。この世界の人々は、その事実を知らないみたいだ。私も、父様から聞いたくらいで詳しくは知らないが…。

 「…あれじゃねぇの?」

 先程の会話から1時間程歩き、イリオモ山の麓に到着した。

 「セキ…どれ?」

 「山肌に沿ってある…あれだよ!」

 私はセキに問うと、彼は指を指して教えてくれた。その後、私がセキの方を向いていたらちょうど真正面にいた。

 「あ…ごめん…!」

 「ううん…」

 私と彼は、すぐにそっぽを向いた。普段は人が目の前にいても、「目があう」って事がないから気にならないけど…この瞬間、ヴァラでセキが私にキスした事を思い出した。大人が子供にするような優しいキス…。

 いきなりだったけど、嫌じゃなかったな…

そんな事を考えながら、手で唇を抑えていた。

 「あら!2人共、顔が赤いわよ~?」

 「若いっていいねぇ~♪」

 ソエルの声を聞いて我に返ったが、シフトのおばさんみたいな台詞を聞いて一瞬考える。

 「そういえば、シフト!あなた自分では16歳って言っていたけど…本当はいくつなの?」

 私の問いかけに、周りが一瞬で静まった。

  …皆、知りたいのかな?

その沈黙が、皆も同じことを考えている証拠だったのかもしれいない。

 「…ああ!僕って見た目は16だけど、実年齢は27だよ!」

 「えぇぇっ!!?」

 「私より年上…」

 私やセキ、そしてランサーがシフトの意外な年齢に驚き、側でソエルが呆気に取られていた。

 

 「今思い出した!クエンは途中までしか通っていないらしいけど、なんか“いろんな仕掛けがある”って言ってた…」

 「古代の人々が建てた宮殿…注意をしながら進んだ方がいいわね…」

 神殿内を進み始めて数分が経過した時の事だった。

 私が呟いた後、足元にひびが生えるような音が聞こえた。(なんだろう…?)そんな事を考えていると突然、身体のバランスが崩れる。

 「きゃぁぁっ!!!」

 「ミヤ…!!?」

 一瞬の出来事だったので何が起きたか理解できなかったが、気が付くとしりもちをついたようで、お尻が少し痛い。

 地面に座り込んだまま、上を見上げると…どうやら、私は地下に落ちたようだ。

 「二人とも、大丈夫―??」

 上からシフトの声が聞こえる。

 「2人??」

 「あ痛たたたた…」

 私のすぐ側には、同じようにして落ちたランサーの声が聞こえた。

 ただし、周りが何も見えない…真っ暗だからなのか。

 すると、ランサーが魔術で周囲を明るくして言う。

 「俺もミヤちゃんも、大丈夫だ!」

 「ランサー、登ってこれそうか?」

 「なんとかな…!?」

 「どうしたの?」

 ランサーが何かをジッと見つめていたので、気になった私は彼に問う。

 「この文字…!?」

 ランサーがボソッと呟いた。

 私は辺りを見回してみると…気がつけば、奥へ続く道があった。

  自然にできた穴ではなさそうだな…

不意にそんな考えが浮かぶ。

 「セキ!!俺らはこの地下を進んで行くから、お前らもそのまま進んでくれ!!」

 ランサーが上にいるセキ達に向かって叫ぶ。

 「ちょっと!どういう事?」

 「ここに古代文字が書かれた石板があったんだが…どうやら、2手に別れて進まなくてはならないらしい!!」

 「よくわからないけど…とにかく、僕らはこのまま進めばいいんだよね!?」

 「ああ!そうすれば、変な罠にかからなくて済むらしいぜ!!」

  こんなやり取りがあった後、私はランサーと2人で進む。

  ランサーと2人きりになる事って、初めて会った時以来だったから考えたことなかったけど…彼も私と同じ、人を殺めた経験があるんだな…

そんな事を考えていた。グリフェニックキーランの人も言っていたけど、彼の気は凛としたかんじがするけど…一方で、微かに血の匂いが混じっている。

 「…そういえば、ミヤちゃんと2人きりになるのって、初めて会った時以来だよな!」

 「えっ…!?」

 一瞬、考えている事を読まれたと思いドキッとした。

 「あの時…君は目が見えていないのに、俺が魔術師だという事を一発で当てた。…普通の障害者だったら、考えられないよな…」

 「ランサー…?」

 彼は、歩いていた足を止めて口を開く。

 「ミヤちゃん!滅多にない機会だから、2人で暴露大会しねぇか?」

 「暴露……大会?」

 私も立ち止まる。

 すると、彼の周囲の空気が変わった感覚がした。

 「単刀直入に言う。君は一体…何者なんだ…?」

 

           ※

 

  俺らは2手に別れて、この山岳宮殿を進む事になった。

 2人共大丈夫かなぁ…?ランサーがいるから、戦闘的には問題ないが…違った意味で心配だな…

歩きながら、俺はそんな心配をしていた。

 「そういえばさぁ…」

 歩きながらシフトの口が開く。

 「シフト、どうした…?」

 話題を切り出してきたシフトに対し、俺は問う。

 「あの2人ってさぁ、何か似てない?」

 「“2人”って…ミヤとランサーの事?」

 ソエルが顔をひょっこり覗かせて言う。

 「うん。何かさ…2人共、自分の事をあまり話さないんだよね…」

 「確かに…」

 ランサーは自分の仕事については包み隠さず話してくれたが、あいつの出生についてはソエルから聞くまで知らなかった。

 一方のミヤも…アクト女王の娘だとわかったのは、あくまでククラス女王がいたからであって…昔はどんな子供だったとか、両親の話とかを全く聞いた事がない。

  未だに信用されていないのか…?

   そう思うと、何だか虚しかった。

 「それと…色々と抱えこんじゃう所なんかも、そっくりよね…」

 「だな…」

 そう言ってソエルと俺はため息をつく。

 俺ら3人の間で沈黙が走ったが、シフトがフッと微笑んで言う。

 「そういう相手を思いやり、心配できる所はセキとソエルもそっくりだね!」

 「え…?」

 「相手を思いやる事って…できるようで出来ないものだよ!」

 「シフト…?」

 そう言ったシフトの()は、悲しみの色が出ていた。

 「あと、似ているなら…お酒好きな所とか♪」

 場の空気を読んでくれたのか、シフトはすぐに笑顔に戻った。

 「確かに2人共、絶対ザルよね!」

 ソエルがそう言った後、俺やシフトが笑う。そして、いつもの俺らの雰囲気に戻り、山岳宮殿の出口を目指していく。

 

           ※

 

 「君は何者か?」

 ランサーの台詞に、私は唇を噛みしめる。

  今までしっかり考えた事はなかったけど…ランサーは私達5人の中で、一番頭の回転が速い人だ。魔術師として優秀なのもあるけど、それだけではない。…だから、私に対して不信感を募らせる可能性は充分あった。でも…

 「ミヤちゃんが自分から話さないから、皆に話せないかんじと見たが…まだあいつらを信用していないのか?」

 「違う…!!!!」

 私の声が周囲に響く。

 「違う…私は……!!!」

 自分の正体…そして、自らが抱えている業を人に話してしまえば、楽かもしれない。

 この瞬間も全部ぶちまけたかったけれど…「アレ」の事を考えると、とても話せる状況ではない。

 「察して…ほしいの…」

 「…?」

 冷静さを取り戻した私は、重くなった口を開く。

 「セキや…あなたを含む皆の事…大好きだから…。だからこそ、話せないの…」

 今の私は心臓の鼓動がかなり早くて、今にも泣きそうだった。

 しかし、「こんな所で泣いてはいけない」という気持ちが30年くらい前からずっと持っていたので、必死でこらえた。

 「ただ、今言えるのは…私が普通の女じゃないこと。そして…あなたが思っている以上に、私は穢れているということだけ…」

 「“穢れている”…?」

 私達2人の間で沈黙が走る。

 私は…これまで生きてきて、起こった出来事が走馬灯のように甦った。

 「そんな表情かおするなよ…」

 「え…?」

 ランサーがボソッと呟いたが、何て言ったのかはわからなかった。

 彼の左手が私の頬を触る。

 「そんな表情かおしてたら…キスしちゃうぞ!」

 「なっ…!!」

 その台詞を聞いた途端、私は数秒もしない内に後ろへ退いた。

 私の行動を見た彼は、口から笑みがこぼれていたのである。

 「ハハッ!冗談だよ、ミヤちゃん!」

 笑いをこらえながら、話を続ける。

 「…そろそろ、行こうぜ!!ソエル姉さんに“遅い!!!”って怒られるの嫌だろ?」

 この台詞を聞いた時、私は(普段のランサーに戻ったかな…?)と思い、安心した。

 そして、ランサーは進行方向へ向き直したのである。

 「ミヤちゃん」

 「何?」

 「今日の所はここまでにするけど…セキの奴、顔には出していないが、君の事をかなり心配している。あいつだって、微妙な立場なのにな…。だから、その辺の所を察してやれよ…?」

 いつもは軽そうな口調のランサーが、この時は声が震えて緊張しているように聴こえた。

 

           ※

 

  俺達は2時間以上歩き…ようやく、山岳宮殿を出る事ができた。

 「セキ!シフト!!あれを見て!!!」

 「あれは…!!!」

 ソエルの向かった方向について行った俺とシフトの目には、雪が積もった真っ白な風景と、その傍らに見える1つの城の姿が映っていた。

 「あれが、”最果ての地”へ行くために通らなくてはいけない、大魔王ダースの居城…!」

 魔族と魔物の違いが未だにわからないが…とにかく、俺達の目に映る古城は目的のマカボルンにかなり近づいたという、何よりの証拠だった。

 「お~い!!!」

 後ろから声が聞こえたかと思うと、ミヤとランサーが宮殿の中から出てきた。

 「ミヤにランサーも!無事だったのね…!!」

 ソエルが安心したような表情かおで言う。

 「あの城…もしかして…?」

 「ああ。おそらく、大魔王ダースの居城だ!」

 「おお!!!とうとう、ここまで来たか~!!!」

 俺が城について答えると、いつも通りの口調でランサーは答えてきた。

  本当、相変わらずだよな…

 そんな事を俺は考えていた。

 「城の周辺…おそらく、魔物が多いだろうから、気をつけて通らなきゃね…」

 真剣な表情でミヤが言う。

 「そうだよね!!出現する魔物も今までの比じゃないだろうし…頑張らなきゃ!!!」

  相変わらず、ミヤは真剣だし、シフトは元気だよな…

  そんな風に考えていたが、一方で彼女達のような存在がいてくれることで…これから何が起こるかわからない恐怖を感じても、頑張ろうという気になれる。

 「よし!!!まずは、この山を降りようぜ!!!」

 ランサーの掛け声と共に、俺達はイリオモ山を下山していく。

  そして、この時俺は全く気がつかなかったが…上から俺達の会話を聴いていた一匹の蝙蝠がすぐに羽ばたき、大魔王ダースの居城の方へ飛んでいったのである。


いかがでしたか?

この作品を呼んでくださっている方にはわかるように書いていますが、まだ登場人物達がミヤの正体について知る事になるのは、もう少し後になります。

次回はまた1話完結の回になりますが、ちゃんと本編とつながった回となっていますね!

引き続き、ご意見・ご感想をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ