第36話 知らない方がよいこと
今回はマカボルンについての話が中心といったかんじです!
「おはよう、皆!」
竜王の件から2日後、体調もすっかり回復したソエル姉さんが顔を出す。
俺はあいつが目を覚ますまでずっと看病していたが―――――何だか今になって、“命の大切さ”を理解できた気がする。
ガキの頃、施設に入るまでは盗みや殺人など、生きるために何でもやってきた。「親に捨てられた」事から、憎しみで何人もの金持ちを殺った事か。
「グライドさんも無事目を覚まして、例の解析も終わったらしいわ!」
「じゃあ、皆であいつの所行くか!」
セキの台詞を皮切りに、俺達5人はグライドの家に向かう。
シフトの奴も記憶を取り戻したみたいだし、あとは賢者の石が見つかれば、お役目御免って所かな♪
そう思った後、俺はミヤちゃんの方を見た。
あとは、彼女が何者かわかれば心配事はなくなるんだがな…
歩きながら考え事をしていると、当の本人が声をかけてきたのである。
「ランサー・・・どうしたの?」
「え・・・!?・・・あぁ、ミヤちゃんの髪ってサラサラだから、どうやって手入れしているのかな~なんて☆」
いきなり声をかけてきたから、一瞬焦ったのである。
まるで、心を見透かされたような気分だ。
「ランサーってば、相変わらずね!それより・・・着いたわよ!」
ソエル姉さんがそう言って、奴の家を開ける。
・・・お前も、ノックくらいしようや・・・
内心で俺は、呆れていた。
「ソエル・・・。それに、お前達か・・・」
セキのそっくり野郎――――グライドが俺達を出迎えてくれた。
「例のファイル・・・動画だったから、雑音も出来る限り消した。・・・見るか?」
「もちろん♪流石ね、グライド!」
ソエル姉さんが奴の背中を軽く叩いた。
何か、複雑なかんじがする・・・
奴がコンピューターを操作し、動画ファイルが開く。一緒に添付されていた写真を見る限り、すごい映像が拝めると俺は踏んでいた。 映ったのは研究室みたいな風景だったが、以前にルーティー姐さんの家で見た研究所の風景とは全く違った。
「このビーカー・・・少し古いが、魔法省の規格にある奴だ・・・!」
俺は1人呟いたが、全員が映像に釘付けだったので、沈黙が走る。
その後に1人の男が映った。
「ちょっと、ストップ!!!」
大声で叫ぶ俺に対し、グライドが一時停止を押す。
「どうしたの?いきなり大声出して・・・」
シフトが横で不思議そうにしていた。
しかし、当の俺はそんな事を気にせずに話を続ける。
「こいつは・・・間違いねぇ・・・!!」
「ランサーは、この人を知っているの?」
ミヤちゃんが俺に問う。
「ああ・・・。魔術師なら誰でも知っているさ!奴は・・・コ族で初めて、グリフェニックキーランを首席で卒業した男だ・・・!」
「…もしかして、“タツヤ・コドウ”?」
「そう!・・・レンフェンではあまり知られていないはずだが、よく知っていたな・・・!」
陰陽道を国の魔術とするレンフェンでは異端扱いをされていた魔術師だったが、それでも知っていたセキに俺は感心した。
「奴が死んだのは、今から40年前・・・。なぁ、グライド!DVD-ROMって、一度画像とかが入った奴に、更に書き込む事って可能なのか?」
「容量が残っていれば可能だ・・・」
「成程・・・」
俺が映像を見ながら考え事していると、ソエル姉さんが首をかしげながら口を開く。
「あのさぁ、話が全然見えないんだけど・・・」
「要は、以前見た写真は古代人・・・ククルが撮影したモノで、この映像は今から40年くらい前にタツヤっていう魔術師が撮影して、これに残したって事さ!」
俺は姉さんに説明する。
聞いた話だと、このタツヤっていう野郎はかなりやり手の魔術師で、召喚獣の研究もしていたらしい。
ということは・・・賢者の石とはあまり関係ないかもな・・・
俺は確信と同時に、少し残念な気持ちも感じた。
「とりあえず・・・続きを見てみましょう」
ミヤちゃんが真剣な表情をしながら言う。
グライドに一時停止を解除してもらい、再び俺達は画面を見つめる。そこに映っているタツヤは地面に描かれた魔方陣の所に向かっているようだ。そして、一瞬雑音が入ったかと思うと――――画面が変わり、そこには全身血だらけの奴が映っていた。
「きゃっ…!」
驚きのあまり、ソエル姉さんが軽く悲鳴を上げる。
セキやシフト、そして俺の表情が一変する。ただ一人を除いて―――――
血だらけのタツヤは、カメラからすぐに目をそらし、魔方陣の方向を向いて地面に倒れ臥している。
奴は一体・・・何を見ているんだ・・・?
俺達の中で緊張感が走る。すると、魔法陣の上には、何か光り輝いている物体が見える。人影と思われるが、画質が悪いのもあって判別がしづらい。
「グライド!・・・あの光みたいな奴、拡大表示できないか・・・?」
「あ・・・ああ」
グライドの野郎も画面に釘付けだったらしく、俺への対応が少し遅れた。
光みたいなモノを拡大表示してもらうと、そこには、目や口は見えなかったが―――――銀髪でシフトの面影がある人間が映っていた。
しかし、一時停止を解除した途端、そこで映像が終わりなのか画面が真っ暗になってしまったのである。
「どうやらこれで・・・終いのようだな・・・」
グライドがそう呟くと、DVD-ROMを機械から取り出してケースに入れた。
「途中でソエルの悲鳴が聴こえたけど…どうだったの?」
俺らが驚いている側で、ミヤちゃんが問いかけてくる。
目が見えない以上、俺らがどんな表情をしているかなんて、彼女には全くわからないのだろう。
「あの後、血だらけのタツヤが映って・・・光の中にいた誰かの方を向いていた・・・」
虚ろな瞳で、セキがミヤちゃんに説明した。
「あの光の中にいた人影・・・あれは多分……僕だ・・・」
「えっ!!!?」
シフトの呟きに全員が驚く。
「血だらけのタツヤに魔法陣・・・。まさか・・・!!?」
「うん。僕が・・・この世に召喚された時の映像だよ、あれは・・・」
「マジかよ・・・」
俺は驚きの余り、背中を部屋の壁にぶつけてしまう。
召喚術は、術を行使する原理は錬金術と似ていると聞いた事がある。錬金術では等価交換の法則に基づき、いろんな物質を錬成する。しかし、術に失敗すると、それは行使した術者に返ってくる――――それを“リバウンド”という現象だと聞いたことがある。
「ランサーだったら・・・錬金術を知っているよね?」
「あ・・・ああ」
シフトの口から錬金術という言葉が出てきたのが、不思議に感じた。
「あれと同じようなものだよ。彼は・・・タツヤは僕らフェニックスを召喚しようとしたが・・・失敗し、片割れである僕の魂しか呼び出すことができなかったみたい・・・だね」
「“片割れ”・・・?」
その言葉を聞いた時、俺は心臓の鼓動が強く鳴った。
インナショドナル塔で片翼しかないあいつを目撃した後、俺はフェニックスについて1つの仮説を立てていた。それは、『フェニックスは他の召喚獣と違い、2つの魂が一緒になって完璧な存在となる』という仮説だ。そう考えれば、シフトの背に片方しか翼がないのも納得できるか・・・とは思ったものの、仮説の段階なので、誰にも話さないでおいた内容である。
「僕は・・・僕とアキの魂が揃って初めて“フェニックス”なんだ・・・。だから、本来の半分の力しかない僕は“癒しの能力”を持っていない・・・」
まさか、俺の仮説が・・・ドンピシャだったなんてな・・・
いつもなら嬉しく思う所だが、なんだか変な感じがした。あまりに突然知らされた真実に、俺の中の知的好奇心がうずきだし、俺は周りなんてお構いなしにシフトへ問う。
「なぁ・・・お前まさか、マカボルンの製造方法とかも・・・思い出したのか!?」
「ランサー・・・!?」
ソエル姉さんの声が聞こえるが、あまり耳に入っていなかった。
「うん・・・」
「っ…!!!」
俺は目を丸くする。
「なぁ・・・簡単にで良いから、少し話してくれねぇか!!?」
「・・・あれは、知らない方がいい・・・!」
シフトが低い声で話しながら、俺を鋭い眼差しで睨んだ。
・・・あんなに殺気だった瞳のあいつ、初めて見た・・・!
「力ずくでも聞き出すぞ!!!・・・って言いたい所だが、こいつらもいるし、また後日でいいや・・・」
シフトがかなり真剣な瞳で訴えかけてくるのに圧倒された俺は、とりあえず今は訊かない事にした。
※
DVD-ROMを見終えた俺達は、出発を翌日にしようと決め、今宵はヴァラでの最後の夜を過ごすことにした。あれから、クエンとザフィロムが乱入してきて、夕飯を食べながら皆で酒を飲んだ。この隠れ里はもちろん、未成年の飲酒禁止とかはないので、シフトは瞬く間にあの2人組+ランサーに囲まれてお酒を飲んでいた。
「シフトの奴・・・顔真っ赤だけど、大丈夫かね・・・?」
「確かに・・・」
俺の側でミヤが焼酎を飲みながらうなずいた。
「ミヤ・・・君、全然顔色変わっていないね!・・・もしや、ザル??」
「うーん・・・そうなのかな?」
ミヤはボンヤリしていた。
すると、一人だけ黙々と飲んでいたグライドが俺とミヤの近くに来た。
「セキとミヤ・・・だったな。ソエルから聞いたが・・・俺の事を助けてくれて・・・ありがとうな・・・」
突然の礼に、俺ら2人は呆気にとられていた。
「あと、お前・・・」
「ん?」
グライドは俺の方を向いて言う。
「この間は・・・突っかかったりしてきて・・・・その・・・悪かった・・・」
たどたどしい口調をしながら、グライドは俺に対して謝罪をしてきたのである。
こいつ、変なモノ拾い食いでもしたのか・・・?
不意にそう思ったが・・・ソエル以外のカルマ族の人間に、少し許された気がして、安堵した自分がいた。
「・・・プッ・・・!」
俺らが前を見ると、必死で笑いをこらえているソエルの顔が目に入った。
「ソエル・・・どうしたの?」
不思議に感じたミヤが、彼女に問う。
「だって・・・さ・・・!セキとグライドが・・・・何だか、双子がそこにいるみたいで・・・面白くって・・・!!」
「あっそー・・・・・」
俺とグライドがなぜかハモリながら、微妙な表情をした。
側でミヤがクスッと笑う。
「あ・・・ミヤ!!今、笑っただろ!?」
「あら!気のせいじゃない?」
ミヤがフフン!と鼻で笑ったような表情をした。
シフトが酔いつぶれて寝ちゃったり、ソエルが大爆笑したり・・・周りから見ると、すごいアホな連中に見えるかもしれないが・・・心から楽しんだ夜だったと、今は思う。
全てを知ったわけではないが、お互いを信頼し、気を許せるからこんなに楽しくやれているのだろう。亡失都市トウケウからいろんな事が起こり・・・最果ての地までもう少しまでの所に俺達は来ている・・・。
マカボルン・・・いや、妖石までもう少しだな・・・!
俺は酒を飲みながら、夜空に浮かぶ星を眺めていた。
そして翌日、俺達は最果ての地へ向けて出発する。
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