第34話 召喚獣バハレンド
今掲載している、「ソエル編」に出てくるグライドは、主人公のセキと顔がうり2つ。ちなみに、これまでの話から言うと
ミヤ←トイスト王女(ミスエファジーナの王女)
ソエル←アキ(シフトの生前の恋人)
なかんじですね☆
今、だいぶ先まで話を考えてますが、今後は誰との瓜2つキャラが登場するか?
・・・お楽しみに♪
薄暗い洞窟の中を、私とランサーの2人で歩いて行く。
…こんな時、魔術って便利だな
そんな思いが頭の中を巡る。私はうっかり、明かりとなる懐中電灯を持参するのを忘れてしまっていた。しかし、ランサーがすぐに光の魔法で辺りを照らしてくれたのである。
「ソエル姉さん、この奥って何があるんだ…?」
「何ていうか…私たちからすると、『聖地』みたいな場所。…要は亡くなった仲間の墓や骨の納め処があるのよ。だから…」
「だから、普段は立ち入り禁止になっている…ということか?」
「ええ」
私は首を縦に頷いた。
ランサーは一緒にいると気楽ではある。やはり、頭の回転が速いので私が全部を説明しなくても、理解してくれるからだ。
まぁ、時々からかってくるのが、たまにキズだけれど…
「おい…。どうやら、奥のほうから人の声がする…」
洞窟のかなり奥に進んだ私と彼は、そこで自分の幼馴染であるクエン・グライド・ザフィロムの3人組を見つけた。彼らは何かの話をしているようだが、私たちには聞こえない。
「あいつら…!」
「待つんだ、ソエル!」
3人の所へ行こうとした私を、小さな声でランサーが呼び止める。
「なんだか様子が変なんだ…。盗聴する趣味はねぇが、少し様子を見てみようぜ…」
「そうね…。わかったわ」
それが冗談で言っている台詞でないと判断した私は、その場に隠れて様子を見る事にした。
「そういえば、グライド!…お前、夕べもあのコ族の坊ちゃんにつっかかっていたな…」
「…それがどうした」
「彼が冷静で気を使える男だから良かったけど…もし、短気で性格が悪い奴だったら、お前斬られていたかもしれないんだから…。わかっているの?」
「わかっているさ…」
クエンとザフィロムがグライドに何か言っているように見えたが、その内容はよく聞こえなかった。
「だが、俺は忘れたくないんだ。俺の親父や…ソエルの両親を奪ったコ族の連中を…!もし、今自分の目の前に先帝がいたら…確実に殺している…」
グライドの台詞の後、ザフィロムがため息をついて言う。
「グライド…。僕は別に、奴らを恨むなとは言わないよ。ただ…」
「ソエルの奴を見てみろ!あいつだって両親を殺されているのに、コ族の坊ちゃんに恨み言を一つもかましていないし、むしろ連中との旅を楽しんでいる。そして何より…昔と変わらず明るい。お前も、もう少しあいつみたいになれるよう努力すべきじゃねぇか…?」
相変わらず、内容が聞こえないが、クエンがグライドの肩をポンとたたいているのが見えた。
「俺は…。俺は……ただ…」
『お前はただ、女の心が連中にあるのが気にくわないだけだろ…?』
「えっ!?」
どこからともなく、誰かの声が聞こえる。
…しかもこの声、この場にいる誰のモノでもない、初めて聞く声…
「ぐっ…!!」
「ランサー!!?」
その声が聞こえてきた途端、ランサーが頭を抱えて苦しみだした。
「俺、昔から…精神感応能力だけがどうしても苦手で…。似たものを聞くと…頭痛が…いてっ!!」
苦悶の表情を見せるランサーからは、汗が多く流れていた。
こいつにも、苦手な事ってあるんだ…
そう思うや否や、精神感応能力とやらで聴こえる謎の声は続く。
『グライド…てめぇは過去に縛り付けられたままなのさ!それだけでも罪深いってのに…。終いには、あの女にとって特別な相手は自分だけだと考えている…』
「そんな事ない…!俺は…!!」
『偽善者ぶっていても、無駄だ。人間、結局は自分が一番可愛い生物なんだよ…!』
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
グライドが絶叫し、彼の身体は黒い光に包まれる。
そして―――――――――
「グライド…!!?」
クエンとザフィロムが驚いて身体を硬直させていた。
見た目は変化なかったが、その瞳の色が本来の色ではない紫色に変貌していた。
「やっと…この身体を制御できるようになったか…」
グライドがまた話し出したが、さっきと雰囲気が全く違う。
「てめぇ!…グライドじゃねぇな!!?」
クエンが、グライドに向かって銃をつきつけているのが一瞬見えた。
「…駄目っ…!!」
「ソエル…!!」
その場を見た私は、ランサーの制止を振り切って思わず走り出す。
実はこの空間、あの3人組がいる場所は『あの世とこの世の境目』へ続く崖のど真ん中に位置し、そこへ行くには岩で出来た柵なしの通路を通らなければならない。一歩間違えれば、谷底に落ちてしまう―――――そんな危険な場所だが、今の私はそれ所ではなかった。
「…言っておくけど、こんな事をしても俺は倒せない…。それに、お前らカルマ族なんだろ?…だったら、俺が誰だか想像つくんじゃねぇの…?」
「あんたたち!!!」
私は息切れをしながら、3人の元にたどり着く。
「ソエル…!お前…!?」
クエンが私を見てしかめっ面をする。
「ソエル…君、僕らの会話を盗み聞きしていたの…?」
「…何話しているかは聴こえなかったけどね!それよりも、何か物騒なかんじがしたから出てきたの!!…喧嘩するのなら、せめて村の中でやってちょうだい!!」
そう私は2人に言ってなだめようとすると、独り突っ立っていたグライドが口を開く。
「……アキ……」
「えっ…?」
グライドが何かつぶやいたように聴こえたが、たった一言だったので聞き取ることができなかった。
「きゃっ!?」
すると、グライドは戦闘中のシフトのような素早さで私に近づき、肩に担ぎ上げたのだった。
「グライド!!!?」
「てめぇ…彼女をどうする気だ!!!?」
動揺している私の視線の先には、痛みをこらえながらこちらまで歩いてきたランサーがいた。
「ちっ…!」
彼を見るなり舌打ちをしたグライドは、私を抱えたまま、崖から飛び降りる。
「きゃぁぁぁーーーーっ!!!」
「ソエル!!!!!」
悲鳴と共に、ランサー達が私を呼ぶ声が聞こえ、その声もだんだん小さくなるのであった。
※
「アキ!!!?」
僕は右腕を伸ばしたまま、目が覚める。
気がつくと、全身が汗だくだった。
「シフト…大丈夫?」
意識を取り戻した僕に気がついたミヤが、優しく声をかけてくれた。
「ミヤ…。ねぇ、ここは…?」
「ここは、シノン長老…ソエルのお爺さんの家よ。あなたは昨夜、彼女が歌っている途中に気を失って…今の今までずっと眠っていたのよ…」
「そっか…」
頭痛が治まり、落ち着いた僕はミヤに返事をした。
僕は意識を失っている間、夢を見ていた。それは、自分の過去にまつわる夢。
そして、今感じるこの頭がボーッとする感覚…初めてじゃない…
「ミヤ…今度こそ…全ての記憶を思い出したよ…」
それを聞いたミヤは、一瞬黙ったが、すぐに口を開いた。
「そう…。でも、私たちに話してくれるのは今すぐじゃなくて大丈夫。シフトが落ち着いた後でいいから…」
「うん…あ、ありがとう…」
瞳がまだ虚ろになっている僕に対し、ミヤがホットココアを渡してくれた。
暖かい…。昔、アキが入れてくれたココアを思い出すな…
「あ…!!!!」
ココアを飲み終えた僕は、何か“気”のようなものが消失したのを感じていた。
「ミヤ…!!!アキ…じゃない、ソエルは…今どこに!!?」
「シフト…、どうしたの??落ち着いて…!!」
僕の仲間であり、アキと瓜二つの女性――――-ソエルの身に何か起こったような気がしてならなかった。
すると、外からドアを開ける音が聞こえ、セキが中に入ってくる。
「大変だ!!今、ランサー達が戻ったきたんだが…ソエルが!!!」
その後、僕達はシノン長老の下に集まる。僕が寝ている内に外出をしていたランサーと、ソエルの幼馴染であるクエンとザフィロムが深刻そうな表情をしていた。
「おっ、シフト!!お前、目が覚めたんだな…よかった…」
「う、うん!ありがとう…。それより、ソエルは…?」
ランサーが少しだけ笑顔で言ってくれたので、僕もそれに応えた。
しかし、ソエルの事を尋ねると、彼は黙り込んで答えない。
「…話は聞いたが…厄介な事になったのぉ…」
シノン長老が考え込む。
「シノン長老…もしかして、14年前みたいに…助かりますよね?ソエル…」
「14年前…?」
ザフィロムの一言にミヤが反応した。
「14年前…この子らが9つの時、同じことがあったのじゃ…」
「“同じこと”…?」
「ソエルとグライドの2人があの崖から転落し…奇跡的に無傷で帰ってきたのじゃ…」
「えっ!!!?」
僕ら4人は目を丸くする。
崖から落ちたのに…無傷ですんだ!?
普通に考えると、崖から落ちたら、どういった落ち方であっても即死だ。
「問題は…グライドに取り憑いているという、死人の魂の事じゃ…」
「あいつは昔から霊媒体質というか…霊が見える能力があったが、それが災いしたのかもな…」
クエンが独りつぶやく。
「クエンよ…グライドに取り憑いた魂は…ソエルの事を確かに、『アキ』と呼んでおったのじゃな…?」
「え…!?」
僕は驚きのあまり、身体を硬直させる。
僕以外で、彼女の事を呼び捨てにする人物…。もしや…
自分の脳裏に、とある人物の顔が浮かんでいた。
「ああ、間違いないぜ」
「こやつらの話と…そして、今見せたシフトの反応を見て、はっきりした…」
「正体が…わかったのですか!?」
ランサーが身を乗り出して言う。
…目の前で好きな人が攫われたんだしね…。いくら彼でも、落ち着けないのだろうな…
「少年と同じく、あの子を『アキ』と見間違えたその男…それは生前、歌姫アキの実の兄であり、死した後は召喚獣『竜王バハレンド』となった青年じゃ…!」
「“カイバ”…!!」
僕は、無意識の内にその名前を口走っていた。
「…それが、バハレンドの生前の名前なのじゃな…」
「シフト…お前、記憶が…?」
長老の話に必死だった僕の側で、セキがつぶやく。
確かに、アキには兄がいた。僕は会ったことないけど、彼女は幼少の頃に兄と一緒に暮らし、戦争によって生き別れになった事を僕に話してくれたことがあった。
でも、彼も僕と同様、もうこの世の人じゃないはず…なのに、なぜ…?
「シノン長老…もしかして…」
彼が現世をさまようようになった原因を考えた途端、一つの仮説が生まれた。
しかし、それを言葉にしかけた途端、仮説が確信に変わったのである。長老は少し黙り込んだ後、静かにうなづいた。
「ど…どういう事??」
「もしかして…ソエルの歌…?」
わからないで考え込んでいるセキの隣で、ミヤがつぶやく。
「そう。あの曲は…歌詞の意味から、時々鎮魂歌として歌われる…。そして、ソエルはそのアキに容姿や歌声が似ているときたものだし…。奴が目覚めたのはおそらく…」
ザフィロムが真剣な表情で述べた。
「長老様…。ソエルを連れ去った人の正体はわかりましたが…彼女を助けに行くには…やはり、私たちもあの崖に飛び込むしかないのでしょうか…?」
ミヤが真剣な表情で、長老に問いかける。
「…本当はむやみにあそこに落ちるものではないが…いちかばちか、それを実行するしかないのかもしれんな…」
長老はため息をつきながら言う。
「長老さんよ!相手の正体がわかったのなら…俺は一人だろうと行くぜ!…生きとし生ける者は、死人と長時間一緒にいると…魂を奪われるって聞いたことあるしな!!」
ランサーがそう言い放った後、長老の家をすぐさま出て行った。
「セキ…!僕らも…行ってみよう!!」
僕がそう言った後、セキやミヤと一緒に、先に出たランサーを追って行った。
あいつを助けられるのは…もしかしたら、僕だけかもしれない…
その時僕は、なぜかそんな確信があったのである。
※
ソエルが谷底から落ちたと聞いた時、俺は身の毛が凍ったようなかんじがした。だから、それでも「助かる」と言っていた長老が不思議でたまらなかった。あれから、ソエルを除く俺達4人は、彼女らが落ちた崖のある場所に来ていた。
「この村の中に…こんな場所があったなんて…」
ミヤが辺りを見回しながら、話続ける。
「この周辺にさまよっているモノ…きっと、死者の魂ね…」
目が見えないのに、そんなことまでわかってしまう…。ミヤが何者かを考えた事はあったけど…今はそれ所じゃねぇよな…
俺は彼女の洞察力に感心しつつも、本来の目的に頭を切り替えた。
「すごい崖…。底が見えないね…」
シフトが覗き込みながら、言う。
「長老が言ってた…『あいつは過去に1度落ちたが助かった』と…。あの2人にできて、俺ができないはずはない…!」
「ランサー…貴方、身体が震えているけど…大丈夫?」
ミヤがランサーの腕を優しく触る。
「ああ…これね…。実は俺…高所恐怖症だったりするんだ…」
それを聞いた俺は、ため息をつきながら少し呆れた口調で言う。
「…それなら、早く言ってくれれば良かったのに…。なんで、あんな大見得はるのか…」
「し…仕方ないだろ!!そもそも、目の前にいたのに、あいつを助けられなかったのは俺の責任でもあるんだし…」
「そっか…。そうだよな…」
俺がミヤを大事に想っているように、今じゃランサーにとってソエルは…それだけ大事な女性なんだもんな…
女性を思いやるというのは、同じ男としては、とても共感できる事だ。
「じゃあ、ランサーには頑張ってもらう事になるが…行ってみようぜ!!」
俺達4人は、一斉に崖から飛び降りる。
底が見えない谷底へ落ちて行く俺達。
ソエルを連れ去った男…召喚獣バハレンドをどのように倒すか…無事、グライドから引き離すことができるのか…。相手が魔物じゃないので、どうすれば彼女を助けられるのか…
一方で俺は、いくつかの不安を抱えながら、谷底へと落ちていく―――――――――
いかがでしたか?
ちなみに、ソエルの幼馴染であるこのクエンとザフィロムとグライドの3人組は、FFのとある3人組がモデルです(性格はだいぶ違うが・・・)。
誰なのかは、ご想像にお任せします(^^
では、ご意見・ご感想がありましたらよろしくお願いします!