第33話 ソエルの歌声
ソエルが唄を歌うところから今回は始まります!
彼女のモデルになったキャラはFFXのリュックになりますね!
夜が更け、ヴァラの村の至る所に炎による灯りがともされる。シノン長老曰く、今夜の宴は自分達の先祖ククルの民で、2000年前に亡くなった有名な歌姫を偲ぶらしい。俺とミヤとランサーとシフトは、彼からその宴に招待された。
村の集会所として使われている家屋の中だったため、この間の宴会場の事を考えると、思いのほか広くはない。最も、レンフェンにあった俺の部屋や城内が広めなだけであって、集会所となればこれくらいが普通なのかもしれない。
「クエン!…あの厚さが薄い機械は?」
俺は右隣にいたソエルの幼馴染であるクエンに問う。
「薄い…?ああ、あれは『モニター』っていうカメラで映した映像が映る機械の事だぜ!」
「モニター?カメラ??」
聞きなれない言葉に、俺とシフトが首をかしげる。
「…要は、この機械からソエルを見ることもできるって事よ」
「そういうこと!…あれ…?あんたカルマ族じゃないのに、よく知ってるな…」
ミヤは、黙ったまま返事をしなかった。
「その女といい…ソエルの奴、奇妙な連中と旅しているんだな…」
俺と顔が瓜二つなグライドという男が、低い声で呟く。
嫌な奴だなー…
少しだけこいつに対して苛立ちを感じたが、頼みごとをしている立場のため、あまり文句を言うわけにはいかない。皆のためにも、とりあえずは我慢した。
「お!そろそろ、あいつの歌が始まりそうだぜ!」
ランサーの台詞のすぐ後に、ひざ下くらいの長さがある細身のドレスを身にまとい、綺麗に着飾ったソエルが前に出てきた。
『皆…今宵は集まってくれてありがとう…ソエルです』
村民達の拍手や黄色い声が聞こえる。
俺達も、同じように拍手をした。
『今日、いきなり代役を任されたから焦っちゃったけど…私達の先祖であり、伝説の歌姫であるアキ・ルーク・ガルバゼンを偲ぶために…この歌を捧げます』
彼女の台詞を合図に、楽器の演奏者が伴奏を奏で始めた。
「この歌詞…古代ミスエ語?」
俺は歌声に耳を澄ませながら、無意識の内に言葉が出ていた。
「そう!…もしかしてあんた、歌詞の意味わかるの?」
「いや…。言語は一通りしゃべれるけど、古代ミスエ語はまだよくわからない…」
ザフィロムの問いかけに対し、俺は彼女に釘付けになりながら答えた。
「それにしても、ソエルの唄…ザフィロムさんが言うように、すごく上手…。伴奏とも息ピッタリだし…何より、声色がきれい…!」
「め…めずらしく、マトモじゃねぇか!ソエル姉さんの奴…」
ミヤがソエルを褒めた後、ランサーがポツリと言う。
室内が少し暗めだったのでハッキリとはわからなかったが、あいつがソエルに見惚れているのだろうなというのはわかった。
まぁ…世の男共が見れば、今のソエルは…誰もが心奪われるのかもな…
内心ではそんな事を考えていた。普段の彼女はポニーテールのような髪型で黒い髪を結っているが、今宵はドレスを着ているせいか、結っていた髪をまっすぐ下ろしている。ランサーが以前、“童顔”なんて言ってからかっていたけど、そんなことない。
なんだか…今の彼女を見ていると、亡くなられた俺の母上の事…思い出しちゃうな…
俺は、6歳の時に亡くなった母上の事をいつの間にか考えていた。
…って、俺はマザコンかよ!!シンミリしていたら、皆に悪いじゃねぇか!!
無意識の内に目が潤んでいた俺は、必死で彼女の歌に集中しようとした。しかし、自分でもいろんな想いがこみ上げてくるという事は、それは他の人たちもそうだろう。彼女の歌声は、多くの人々に感動を与えてくれるくらい素晴らしいものなのだ。
「本当にすげぇよな、ソエル…。なぁ、シフト!…お前もそう思わないか…?」
俺はそう言ってシフトの方を向くと―――――――――
その光景を目の当たりにした俺は、驚きの余りに声が出せなかったのである。
あいつの紅の瞳からは涙がとめどなく流れ、本人は歌い続けるソエルを見つめたまま涙を流していた。
「シフ…ト…?」
俺は、次に言おうとしていた台詞が出てこず、衝撃的な光景に思わず目を見張った。
「シフト!!?…貴方から…悲しみの気がすごい感じられるわ…。どうしたの…?」
表情が見えないミヤが側に駆け寄り、彼の顔を抑えながら困惑していた。
これはどう見ても、ソエルの歌に感動して流した涙ではない。あの3人組が不審そうな瞳で俺らを見ているなんて事はお構いなしに、シフトは無言のまま立ち上がり、歩き始めた。
「おい…!シフト…!!!」
ランサーが歌や演奏の邪魔にならない程度の声であいつを呼び止めるが、全く反応がないまま、ソエルが歌っている一番前の方まで歩いていく。
『あれ?シフト…?』
演奏者の前を横切った時、ソエルも自分に近づいてくるシフトに気がついたようだ。
そして、あいつは彼女の目の前に立つ。
「シフト!?あんた…って、キャッ!?」
ソエルの台詞とほぼ同時に、シフトが彼女を強く抱きしめたのだ。
「なっ!!!?」
俺達も含め、その場にいた村人達全員がざわめきだす。
「なんだ、あの少年は…?」
「あの子に何しているんだ…!?」
あまりに突然の出来事に呆然としていたソエルだが、すぐに我に返ったのか、頬を赤らめながら声を張り上げる。
「ちょっと…シフト!?一体、どうしちゃったの…!!?」
何とか彼をどかそうとするソエル。
しかし、女性のように華奢な肉体とは思えないくらい、シフトは彼女を強く抱きしめているため、引き剥がす事ができなかった。すると、ずっと黙ったままだったシフトの口が開く。
「アキ……」
「え…!?」
彼の口から到底聞くことのない内容だったのか、ソエルが目を丸くして驚いていた。
「アキ……。僕は…僕は、ここにいる…ここにいるよ…!!」
そうつぶやいたかと思うと――――――――――シフトはその場に倒れこみ、気を失ってしまった。
「シフト!!!!」
俺とミヤとランサーはあいつの元にかけつけ、宴の場は騒然としてしまう。
俺達4人がシフトの元にいた時、後ろで唄を聴いていたシノン長老が独りつぶやく。
「やはり…そういう事だったのじゃな…」
※
今宵は私達カルマ族の先祖であり、私が尊敬している歌姫アキを偲ぶ宴だった。
そこで私は、大事な仲間である皆の前だったので頑張って歌ったけれど…何故、こんな事が起きてしまったんだろう…?
涙を流しながら私に抱きついてきたシフトは、謎の台詞を口走った後、気を失ってしまったのである。
あれから村人がパニックになったために宴は中断され、今は夜が明けて朝になっている。あんなにせつない瞳をしたシフト…初めて見たな…
そんなことを私は考えながら、15歳の頃にしたお爺ちゃんとの会話を思い出す。
「ソエルよ…そなたの母もそうじゃったが…お主ら母娘は、“彼女”によく似ておるのぉ…」
「“彼女”…?」
「そうじゃ。我らカルマ族の先祖であり、『伝説の歌姫』とまで呼ばれたアキ・ルーク・ガルバゼンという女性の事じゃ…」
「お爺ちゃん、“歌姫”って何…?」
「歌姫とは、冠婚葬祭や儀式などの際、皆の前に立って様々な唄を歌う女性の事じゃよ」
「ふ~ん…。でも何故、私とお母さんがその女性に似ているの?」
「それはじゃな…。黒い髪と瞳を持ち、お主らの歌声が生きとしける者に限らず…死した者達にも響く澄んだモノじゃから…」
「ソエル…!」
「え…?あぁ、おはようミヤ」
私は考え事をしていたので、ミヤが後ろから私を呼んでいたのに全く気がつかなかったのである。
「ソエル、おはよう…。昨夜は寝られた?」
私は首を横に振った後、同じように問う。
「昨夜の事が衝撃的すぎて…。ミヤも眠れた…?」
「ううん…私も気になる事があって、あまり寝られなかったわ…」
「気になること?」
私が不思議そうな表情をして尋ねると、彼女は言葉を濁したような表情をしてから話し出す。
「なんか…昨日はあなたが歌っていたから皆には言えなかったんだけど…。グライド…だっけ?彼の雰囲気が、長老様の前で初めて顔合わせした時と比べて違うの…。なんか…変な想念がまとわりついている…っていうか…」
そう言いながら、ミヤは気まずそうな表情をした。
彼女の台詞にきょとんとしていた私だったが、それよりも、一つの疑問が生まれる。
「ミヤ!あなた…以前に出会ったタルテも言っていたけど、人間や生き物の“気”か何かを感知できるの…?」
「ええ…まぁ…」
たどたどしい返事をした彼女を見た私は、“これ以上は踏み込まない方がいいな”とその場で判断し、話を本題に戻す。
「…まぁ、グライドの奴は昔から何かと根暗で霊感が強かったから、幽霊とか結構まとわりついていたらしいわよ!だから、あんたが気にする必要ないって!」
私はそう言いながら、ミヤの頭を軽くたたいた。
一方、5人の中で彼だけだったため、ランサーは村の中にある喫煙スペースにて一人タバコを吸っていた。
昨夜の出来事…流石の俺も驚いたな…。だが、シフトの奴が未だに目が覚めないのを見ると…。ついに、あいつ…記憶が…
タバコの煙を大きくはきながら、一人考え事をしていた。
「お…?」
そんなランサーの視線の先には――――――グライド・クエン・ザフィロムの3人組がいた。3人とも、何か深刻そうな表情をしている。
何か、喧嘩でもしそうな雰囲気だな…
そう考えながら3人を観察していると、彼らはとある場所に入っていく。
あの洞窟…昨夜近くを通った時、『立ち入り禁止』の看板があったような…?
「おーい!!!」
ランサーが考え事をしていると、後ろからセキの声が聞こえる。
「よう、セキ!どうしたんだ?…急いで来たみたいだが…」
「どうやら、シノン長老が俺らに話があるらしいから…呼びにきたんだ!!」
※
昨夜の出来事は、俺にとっても、皆にとっても衝撃的だったのだろう。シノン長老の下に俺達4人が集まった際、ミヤやソエル。ランサーまでもが寝不足のように見えた。おそらく、昨夜はほとんど寝れなかったのだろう。
「朝っぱらから…呼び出したりして、すまんな…」
寝室の方からシノン長老がゆっくりと入ってきた。
「お爺ちゃん!!私達に話があるってもしや…」
「そう…。シフト…じゃったな。あの銀髪の少年の事じゃ…」
そう述べた長老は座布団の上にゆっくりと腰掛けた。
「あの子に抱きしめられた時…『アキ』って名前を呼んでいた…。まるで、恋人に呼びかけているように聞こえたのよね…」
ソエルが複雑な表情で、昨夜の事を話す。
「うむ…。結論から先に言うとな…あの少年は、伝説の歌姫アキの恋人だった青年…という事になる…」
「えっ…!!!?」
俺を含む全員が、驚きのあまり言葉を失った。
シフトが…2000年前に死んだ歌姫の恋人…!!?じゃあ、もしや…
「シノン長老!!…と…いうことは……。昨日言ってた『フェニックスの片割れ』ってのは…」
「うむ。今から約2000年前…歌姫アキは、あの青年と共にビルから身を投げ…その2人の魂からフェニックスが誕生したのじゃ…!」
シノン長老との話が終わった後、どうすればわからない俺達はバラバラになっていた。シフトの意識がまだ戻らないので、旅立つわけにはいかない。ランサーはソエルを連れて外の空気を吸いに行き、俺はミヤと一緒にシフトが眠っている寝室で呆けていた。
「『死者の魂にも響く歌声』…か…」
ミヤが突如つぶやく。
「ミヤ…?」
「あ、うん…。シノンさんがおっしゃっていた台詞を思い出していたの…。彼ははっきりとは言わなかったけど…ソエルの歌声が、そのアキって女性の声に似ていたから、あの子の失われた記憶が目覚めたんじゃないか…って」
「やっぱり、気を失ったのは…記憶が急激に戻った事が原因なのかな…?」
「そうね…多分、その可能性が非常に高いわ」
そう言うと、彼女は俺の肩にそっと寄りかかってきた。
「ミヤ…?」
「記憶が急激に戻った時って…どんな感覚なのカナ…」
彼女の台詞の後半が変になまっていて、よく聞こえなかった。
「ミヤ…何かつらいことが君にもあるんなら…。俺じゃあ頼りないかもしれないけど…聞くよ…?」
彼女は数秒程黙り込む。
「ありがとう、セキ。でも…話すまで、もう少し時間がほしいの。時が来れば、あなたにも…そして、皆にも全てを話すつもりだから…」
「そっか…。うん、わかった…」
「ありがとう…」
礼を言う彼女の表情は微笑んでいたが、どこか無理しているようにも見えた。
そんな彼女を見た俺は、何だかものすごく愛おしく思い――――――
「セキ…?」
俺は、「大丈夫。安心してくれ」という想いを込めて、彼女の唇に優しく口づけをした。
※
シフトの看病はあの若手カップルに任せようと考え、俺はソエル姉さんを連れ出して外には出ていた。しかし、何から話せば良いのか全然わからなかった。
俺の頭の中も混乱しているし…
村は静かだったが、外でおしゃべりをしている大人達(俺らもだが)が、俺とソエルをチラチラ見ながら陰口を囁くように口を動かしていた。俺が鋭い眼差しで睨みつけるとそそくさといなくなったが、不快感は消えなかったのである。
「ソエル姉さん!他の連中がどう言おうと…あんたには何一つ責められる謂れはねぇんだからな!しっかりしろよ?」
「そう…だよね。…うん、ありがとう…」
昨日までは、俺やあの3人組にツッコミを入れたりといつもの姉さんだったが――――今はおとなしすぎて、からかい甲斐が全くない状態だった。
「そういえば…」
「ランサー?」
俺はすっかり、あの3人組の事を忘れていたのである。
「なぁ、ソエル。あそこの洞窟…昨夜は『立ち入り禁止』になっていたけど、今朝方に、お前の幼馴染3人組が中に入っていったぞ…?」
「え…?」
今の台詞を聞いたソエルの顔に、生気が戻ってきたように見えた。
俺はあいつらが何やら深刻そうな表情をしていた事も言おうと思ったが、敢えて言わなかった。
…っていうか、何で俺があの3人組の存在を気にしなくてはならないんだか!
「あいつら…!以前もあそこで遊んでいて小母さん達に怒られたってのに…まだ懲りないのかしら!!?」
姉さんが頬を膨らませながら言う。
「行きましょう、ランサー!あの3人を連れ戻すわよ!!」
「おう!」
いつものソエルに戻って少しホッとした俺は、姉さんと一緒に『立ち入り禁止』の看板があった洞窟の中へと入っていく――――――――
いかがでしたか?
実はソエルが謳っていた唄は、ただの唄じゃないんです。
次回辺りはその辺について、触れて行くことになりそうですね★
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