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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第八章 過去を垣間見る彼らの瞳に映るのは
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第30話 それぞれが抱えるもの

「兄さん…っ!!」

物凄い音を立てながら、セキが部屋の中に入ってくる。

「よお、セキ。…ってお前、襖をそんなでかい音立てて開けるな。他の皇子や皇女に気付かれるだろ?」

「ご…ごめん、兄さん」

慌てて入って来た弟に対し、兄が宥める。

僕とセツナは一旦、レンフェン城に戻り、セキが留守だったのでセツナの部屋にいた。そこに、ハルカからの伝言を聞いたセキとランサーが入ってきたのである。

「まぁ、セキが動揺するのも仕方ないよ!実のお兄さんだもんね?」

「シフト…」

自分にはいなくても、“大事な人が心配で落ち着かない”気持ちは何となくわかっていたため、僕はウィンクをしながらセキに微笑む。

すると、彼は少し安堵したような表情をしていた。

「…ったく、足早すぎなんだよ、お前は…」

微笑ましい気分になっていた所で、後から走って来たランサーが追いつく。

 普段は気にしたことないけど、セキとランサーだと、やっぱりセキの方が運動神経が良いんだね…

剣士と魔術師という職業柄もあるが、彼らの体力差にそんな考えが僕の中でよぎっていた。

「…お二方。まずは、水をお持ちします。互いに、情報共有をせねばなりませんからね」

すると、頃合いを見計らったのか、セツナの側に控えていたハルカが話を切り出す。

それを聞いたセキやランサーは、一気に真剣な目つきとなったのである。彼女はすぐにお水を入れ、セキとランサーに渡す。二人はそれを一気に飲み干した後に口を開いた。

「一息ついた所で…シフト。一体、俺らがいない間に何があったんだ?」

「…まぁ、ミヤちゃんがいない所を見ると、おおよそは解りそうだが…」

セキが話を切り出す中、ランサーは周囲を見渡しながら呟く。

「実は…」

僕の台詞(ことば)を皮切りに、レンタオの街で何が起きたのかを二人に話した。

一方、二人もカンウェイ村で何があったのか――――――ソエルを置いてきた事も含めて話したのである。

「そういう事だったのか…。刀の事といい…彼女は一体、何者なんだ…?」

「セツナ様。今は、ミヤ殿の救出が先です。詮索はその後に…」

セツナが呟き、それに対してハルカが主を諌めていた。

ミヤの話題の時、自分達も知らないとはいえ肝が冷えたような気持ちでいっぱいだった。

「悪いな、ハルカちゃん。それに、いくらソエル姐さんがカルマ族とはいえ、独り残しているんだ。あまりうだうだ言ってられねぇ…!」

「…ただ、相手は陰陽術を使えるツクヨリの男…。ランサーの魔術とは系統が異なるだろうし…厄介だな」

ランサーとセキが口々に言いつつも、腕を組んで考え事をする。

この時、僕は街でセツナが言っていた事を思い出す。

「でも、幻術に関しては、大丈夫だよ!僕とセツナは破る事ができたし…ね♪」

「…は!!?」

僕が何気なく口にした事に対し、二人は目を丸くして驚いていた。

しかも、ちゃっかり声まではもっている。

 あれ…?セキはともかく、魔術研究者でもあるランサーが“それ”を知らないのも珍しい…?

予想外の反応に対し、僕は少しだけ戸惑ったのと、普段なんでも知っていそうなランサーにも知らないことがあるんだというのを実感したのである。

その後、ある程度の用意をした後、城の人々に悟られないようにとこっそりレンフェン城を出てカンウェイ村へ再び向かう事となる。


一方、連れ去られたミヤは―――――――

「う……ん……」

気を失っていたミヤは、ゆっくりと起き上る。

「…起きたか」

「貴方…っ…!?」

シカリの声に反応して体を動かそうとすると、縄で腕を縛られている事に気が付く。

また、シカリは椅子に腰かけたまま、ミヤの刀を手に取っていた。

「その様子からして、この魔刀がお前の“目”になっているといった所か…。貴様は一体…」

「それよりも…私をどうするつもりなの!?」

はぐらかすつもりはなかったにせよ、シカリの問いをミヤは跳ねのける。

“今はそれどころではない”とわかっていたシカリは、すぐに本題を切り出す。

「…妹が目覚め次第、貴様には贄となってもらう」

「贄……!?」

物騒な言葉に反応したミヤだったが、直後に感じた“気”によって、言葉の真意を悟る。

そして、言葉を探るようにして唇を開く。

「今、マカボルンの欠片と一つになっている少女は…貴方にとって、大切な人…って事よね?」

「何…だと…?」

ミヤが発した台詞(ことば)に対し、動揺するシカリ。

当然彼女には、その動揺の表情が見えるはずもない。それだけでなく、ミヤは昔、自分のせいで殺された少年の事を思い浮かべていた。

「大切な人が苦しむ様を見るのは、つらい…。だからと言って、他人を犠牲にして彼女は喜ぶの…?」

「…五月蠅い、黙れ」

ミヤは、思いのたけを口にする。

シカリは、それが的を得ているせいか、次第に苛立ちを見せるようになる。

「信仰から外れ、私をその子の代わりにしても…“何もかも失う”だけよ…それでも、良いというの…?」

「黙れっ!!!」

動揺する事なく話すミヤに対し、シカリはその場で立ちあがって激昂する。

声音から苛立っているのを感じ取ったミヤは、表情一つ変えずに黙り込んでしまう。

「…新しい…子…?」

「…ミイル!?」

すると、眠っていたミイルが目覚めたのか、彼女は低い声で呟く。

それに気が付いたシカリは、妹の方に振り向くのであった。ミイルが持つ黒い瞳には、彼女の兄と共にミヤの姿が映っている。

「見つけた…“お姉ちゃん”…!!」

「…っ…!!?」

ミヤを“お姉ちゃん”と口にしたその顔は狂気の笑みが浮かんでいた。

また、それによって凄まじい殺気を感じ、ミヤは体を震わせ鳥肌が立ったのである。



「ソエル…ソエル…!!」

「ラン…サー…?」

あれからカンウェイ村に戻ってきた俺達は、ミイルの家の側で倒れていたソエルを発見する。

発見するやいなや、真っ先に彼女を抱き起したのがランサーだった。

「気絶していたようだが…兎に角、お前が無事でよかった…!」

そう口にした彼は、ソエルを抱きしめる。

彼らの後ろにいた俺が気付いたくらいだから、当のソエルはすぐわかったんだろうな…

俺は、ランサーの声が微かに震えていた事から、相当不安だったのだろうと考えていた。

起き上ったソエルが視線を上げると、俺やシフトが視界に入る。

「うーん…何だかんだ言っても、君らもラブラブなんだね?」

「ラ…!!?」

ソエルと目が合ったシフトが、満面の笑みでそう述べたものだから、ソエルの頬が真っ赤に染まる。

「おい、シフト!!今はそれ所じゃねぇだろ!!」

そして、ソエル以上に頬が赤く染まっていたのは、他でもないランサーだった。

「ん…?」

すると、俺は少し離れた場所からひびが生えるような音を察知する。

「この音は…!!?」

一言呟いた直後に何の音か気が付いた俺は、一目散に家まで走り出す。

古びた扉を勢いよく開けると、そこには地面に穴があり、かなり奥まで続いていた。

「この家、地下もあった…訳ではないね…!」

「もしや…賢者の石の影響で、地面が陥没した…?」

その光景を目の当たりにしたシフトやランサーも、次々に言葉を告げる。

「あの子もいない…。なら、この空洞の下へ飛び込むしかないな!!」

「ランサー…あんた、大丈夫?かなり震えているけど…」

俺が穴の奥を見下ろしていると、様子がおかしいランサーにソエルが気付く。

「め…目をつぶったまま飛び降りれば、何とかなるだろ!周りは真っ暗闇だから深さはわからねぇし…」

表情はいつものランサーだったが、動揺しているのは何となくわかった。

 あの反応…ランサーって、もしかして…

“高所恐怖症か?”と聞こうかと思ったが、口に出さない所を見ると、言いたくないのだろう。

「ランサーには頑張ってもらうとして…兎に角、急ごうっ…!!」

シフトもおそらく、そんなあいつの心情を理解していたような口調で、俺らに促す。

ソエルだけは何の事だがわからないのだろうが、いわゆる男心という奴なので、知らないままの方がよいだろう。

こうして、俺達は陥没によって空いた穴へと飛び込んでいくのであった。


俺達が穴に飛び込んでから数十分後――――マカボルンによって力が増幅し、下半身にあった木の根っこが増え続けるミイル。腕を拘束されていたミヤは、その一部に体を巻き付かれていた。強い圧力で締め付けられているため、彼女の意識も朦朧としているのだろう。

「根の化け物は成長していくが、暴れていない…“苗床”の選出は、間違ってはいない…そうだよな?ミイル…」

そう呟きながら、シカリは自分の妹を見つめる。

目的を果たしたはずなのに、彼の表情(かお)は曇っていた。

「お姉ちゃん…これからは、ずっと一緒…一緒…だよ…」

「や…め……」

狂気にまみれた笑みを浮かべながら、ミイルは捕えたミヤを自分の元へと持ち上げるのであった。

シカリの表情が曇っているのは、今のミイルには兄のことが目に入っていない事に気が付いたからだろう。

「ミヤ…!!!」

俺の叫び声の直後、ランサー・シフト・ソエルの3人もその場に現れる。

ミイルは、セキの声に反応して動きを止めていた。

「さてさて…うちの可愛い子ちゃんを返してもらいにきたぜ…!!」

「ってか、木の蛇…というより、根っこがたこみたいで太くて気持ち悪い!!」

「兎に角、完全にミヤが取り込まれる前に、助けるわよ!!」

ランサーやシフト。そしてソエルが、口々に述べながら、武器を構える。

その光景に圧倒されつつも、シカリも忍び刀を構える。

「貴様ら…俺の…俺達の邪魔はさせない…!!」

そう言い放つと、シカリはその場から走り出す。

「…っ…!!?」

しかし、すぐに気配を察知し、瞬時に向き直る。

「先程はどーも!…言っておくけど、速さは負けないよ?」

瞬時に背後に回っていたのは、シフトだった。

「ちっ…!!?」

シカリは彼の蹴りに反撃しようとするが、ソエルの放った弾丸を避けたために、動きが鈍る。

「同胞でもある貴方に銃口を向けるのは、罪だと解っている。それでも…それでも私は、仲間を救うためならば、どんな罪だって背負うわ…!!」

岩陰に潜みながら、ソエルは銃を構える。

その瞳には、“仲間のためなら、どんな事も受け入れる”という強い覚悟が示されていた。ソエルとシフトがシカリを引き付けている一方で、俺は剣を握って走り出していた。また、その後方ではランサーが呪文の詠唱をしている。

「女の子を火あぶりにするのは難儀だが…俺様だって、手段は選ばない主義なんでね…!!」

そう言い放ったランサーの周囲に細長い炎が出現し、ミイルの元へ飛び発火する。

しかし、業火でないため、木の根っこにいくつか押しつぶされてしまう。

「ぐっ…!!」

炎をかき消したミイルは、息切れを起こしていた。

また、その瞳はツクヨリが持つ黒ではなく、血のように紅い瞳をしている。

「…やっぱり、こんな威力の炎じゃ無理か…。ここが地下でなければ、盛大に炎を出したいが…仕方ねぇ」

「はぁぁぁぁぁっ!!」

ランサーの炎が消えた直後くらいに、俺は走り出して斬りつける。

しかし、木とはいえマカボルンで強化されているため、硬くて弾かれてしまう。

「マカボルンで強化されているって事…か!…ランサー!!」

「おうよ!!!」

一筋縄ではいかないのはわかっていたため、俺はすぐにランサーへと合図を出す、

返事をしたランサーは再び詠唱を始め、現れた炎がセキの剣にのりうつっていく。

「…して…」

「…!!?」

本来ならば炎をまとった剣で攻撃するはずだったが――――ほんの小さなかすり声が耳に入り、俺は反応する。

そして、振り下ろすはずの剣を構えたまま、彼女の声に耳を傾ける。

「私が…私で…ある…内に…」

「まさか…この子…自我がまだ…!?」

その側では、締め付けられていたミヤの声が聞こえていた。

しかし、当の俺はそんなミヤの声すら聞こえていない。

「…殺して…」

「…っ…!!」

その一瞬の刹那、過去の似たような光景と重なり、動揺してしまう。

「セキっ、前…!!」

すると突然、後ろの方でシフトの叫び声が聴こえた事で我に返る。

「くっ…!!」

何とか避ける事ができたものの、その時飛んできた木の根によって腕を掠め、剣を握る手首から血が流れていた。

「…あんの馬鹿…!!」

一方、少し離れた場所にいたランサーは、俺が躊躇って剣を振り下ろせなかった事にいち早く気付く。

シフトも加勢しようとするが、そこにシカリの邪魔が入ってしまうため、なかなかこちらに来られない状態だ。

「おい!セキ!!てめぇ、何を躊躇しているんだよ!?」

怒りを露わにしていたランサーが、俺の胸ぐらを掴む。

「…悪い。昔、起きた出来事が彼女と重なって…」

「何、こんな時に…!!」

ランサーは今にも俺を殴りそうな表情だったが、すぐに言葉を紡ぐ。

自分の表情を見て“触れられたくないこと”と悟ってくれたのだろう。

「…セキ。お前は、国のためにマカボルンを手に入れるんだろ?強い覚悟を持って国を出たんだろう!?」

「…解っている。けど、彼女はまだ自我が…!!」

ランサーに対して俺は、必死に“彼女を殺さずしてどうにかできないのか”と目で訴える。するとランサーは胸ぐらから手を離し、俺に対して背中を見せる。

「…中途半端な優しさは、誰も救えねぇんだよ」

「ランサー…」

俺と同じくらいの背丈な奴の背中が、かすかに震えているような気がした。

「それにな、皇子様。ソエルだって本当はあの忍野郎…カルマ族の同胞であるツクヨリに銃口を向けるのは躊躇われるはずだ。だが、彼女はそれを振り切った…解るだろ?」

「…っ…!!」

横目でこちらを見ながら語るランサーを見て、俺は我に返る。

 そうだ…つらいのは…つらい想いをしているのは、俺だけではないんだ…!!皆、色々なものを抱えて生きているのだから…!!

そう思うと、自分が情けないような気持ちでいっぱいになる。

「…あぁ…そうだな、ランサー」

「…解ればいい。お前の考えも…人としては、間違っちゃいねぇしな…」

俺は今にも泣きそうな表情(かお)だったが、すぐこらえランサーは複雑な笑みを浮かべながら一人呟いたのである。

「…いくぜ、ランサー」

「しくじんなよ…!」

いつもの状態に戻った俺は、ランサーに背を向けるようにして剣を構える。

ランサーは呪文の詠唱を再びはじめ、剣に炎が宿り始める。

「……参る」

一瞬瞳を閉じて精神統一をした俺は、剣をかまえ再び走り出す。

意識が朦朧としたミヤが見守る中、俺が持つ剣が彼女達に近づいていく。そのうち、ミイルは瞳をゆっくり閉じるのであった。


いかがでしたか。

今回はかなり長めで、執筆してた際はかなり白熱してたかもです!

といっても、単にどのあたりで区切ろうか決めかねていたらこうなっただけですがね(笑)

さて、次でこの章は最後になるかな?


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