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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第八章 過去を垣間見る彼らの瞳に映るのは
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第29話 幻術

「きゃぁぁぁぁ!!!」

「ひぃぃぃっ!!」

茶屋を出た僕・ミヤ・セツナの3人は、街中で起きている光景を見て驚く。

僕らが目にしたのは、どこからともなく現れた大量の黒い狼と、それを見て逃げまとう人々の姿だ。悲鳴をあげて逃げまとう人や、嚙み殺されて絶命したもの。辺り一帯が騒然としていた。

「こいつらは、一体…!?」

今まで見た事のない魔物に対し、僕は動揺を隠せない。

「おかしい…。首都レンタオには、魔物除けの結界が張られているはずなのに…まさか、破られたのか!?いや、仮に結界を通り抜けられる魔物だとしても、これだけの数を警備兵が気付かないなんて事は…!」

いつもは落ち着いているセツナも、この時ばかりは困惑していた。

振り返ると、ミヤは鞘に手をかけながら黙り込み、感覚を研ぎ澄ましていた。おそらく、感じる“気”がどこから発せられているかを見極めようとしているのだろう。

「時に、セツナさん。レンフェンの国技・陰陽術に幻術はありますか?」

「ん…?あぁ、一般的な魔術と少し異なった理の幻術って聞いた事が…」

「だとすると、この狼は幻術です。そして術者は…この国の先住民ツクヨリ…」

「“気”を感じ取るだけで、そこまでわかるんだ!?」

研ぎ澄まして感じた事だけでそこまでわかる彼女に対し、僕は驚く。

「流石は、ミヤちゃん。そうとわかれば…」

一方、セツナはその能力にはつっこむ事はなく、目線を暴れまわる魔物に向ける。

 姿が…!!?

僕も魔物たちに視線を向けると、奴らの姿が徐々に薄くなり、終いには完全に見えなくなったのである。僕は何が起きたのかが理解できず、茫然としていた。

「ランサーみたいな魔術師が使う幻術ってのは、本当に存在しえないものを直接出すような方法だが…。陰陽道による幻術は、相手の脳に干渉して“こんな物がいる”と脳に指令をだし、それを目が脳からの指令を受けて見せる…一種の洗脳術だ」

「…では、盲目の私は例え術にかかっていようとも、脳からの指令を受け取る事が不可能だから、効かなかったと…?」

「…そういう事なんだろうな。俺も詳しくは知らないが…」

セツナの解説を聞いて納得するミヤ。

その後に彼女は刀の柄にかけていた手を一旦放すが、周囲を警戒しながら気配を探り始める。

「…微かに、ツクヨリらしき人間の気を察知しました。ただ、ここより少し離れていると思うので、移動しましょう」

「うん…そうだね!術の事はわからないけど、僕らが狼を幻術と認識したから見えなくなった…と受け取ればいいのかな?」

「おそらくな」

セツナがそう口にした後、僕達は足を動かし始める。

「この術…ツクヨリが異世界の住人の末裔って話は、本当だったのね…」

「ミヤ…?」

歩いている最中に、ミヤが不意に呟く。

最後まで聞き取れなかったが、“ツクヨリが異世界の住人”という内容だけ聞こえたため、僕は首を傾げる。

「ううん、何でもないわ。それより、行きましょう。術者を見つけて対処しないと、被害が拡大するばかりだろうから…」

「うん…!」

いつもの状態に戻った彼女を見た僕は、拳を強く握りしめながら進める足を速めた。


一方、カンウェイ村にあるミイルの家ではソエルが彼女を見張っていた。

「…いた…!」

「…ミイル…!?」

この時、ミイルは不気味な笑みを浮かべながら呟いていた。

その本人とは思えないような口調を見たソエルは、目を見開いて驚いていたのである。



「こっちだ!!」

セツナについて進んでいくと、僕達は街の路地裏へと足を運ぶ。

おそらくは、どこかへ行くための近道なのだろう。

 …あれ?

再び足を進めていると、不意に耳鳴りのような感覚に襲われる。ミヤも何か感じ取ったのかと後ろにいる彼女に声をかけようとしたその時だった。

「うおっ…!!!」

「セツナさん!!?」

前を先導していたセツナのうめき声が聞こえる。

目で追えなかった僕達は、壁に激突したセツナを見て困惑する。驚くミヤを尻目に、僕の視界には、一人の青年の姿が映っていた。

 黒い瞳に黒い髪…。この人…間違いない!

一目みてツクヨリと確信した僕は、相手を見上げて口を開く。

「よくは解らないけど…君!一体どういうつもりで、この国の人達を襲うの!!?」

声をはりあげながら、感じる殺気に対して僕は身構えていた。

「俺の名は、シカリ。異民族のようだから教えてやるが…俺達ツクヨリは、ほとんどがコ族に恨みを持つ。それ以外に理由など要らんだろう?」

視線の先にいる青年は、名を名乗るのと同時に自分の種族も明かしていた。

「…でも、幻術だけで、このレンタオの街を落とせないのはわかっているのでしょう?だとすれば、何が目的…?」

深刻そうな表情(かお)で、ミヤは相手に問いかける。

彼女の発言に気が付いたシカリは、細めていた瞳を開き一点を見つめていた。

「茶髪に…魔刀を持つ女…」

低い声で呟いたまま、その場で立ち尽くすシカリ。

その横でセツナが魔法剣を繰り出そうと詠唱をし始めていた。

「くっ…!!!」

「あれは…!!!」

すると突然、シカリはセツナに向かって何かを投げる。

「貴様…コ族のくせに、魔法剣を扱うとはな…。だが、使わせぬぞ…!」

暗器を投げたまま手を制止させたシカリが、セツナを睨み付けている。

「あれは…確か、ハルカが使っていたのと同じ…という事は、君も忍…!?」

セツナが何とか弾いたそれに見覚えがあった僕は、声を張り上げる。

「貴様らに答える義理はない。しかし、ようやく見つけた…!!」

「…っ…!!」

相手が一言述べた直後、一瞬で間合いをつめ、シカリはミヤの背後に回る。

反射神経の良い彼女はすぐに振り返って対応したものの、少し遅れたのか苦悶の声が響く。ただし、不意討ちでもあるため、若干彼女の方が推し負けている。

「その瞳…。貴様、盲目か…!だが、それならば”苗床だった”のに納得がいく」

「どういう…意味!?」

至近距離に近づいた事で、ミヤが盲目だと悟るシカリ。

その意味深な台詞(ことば)に対し、ミヤも考える余裕はないと思われる。

 もしや、この間の傷の影響…?

僕はこの時、不意にそんな考えが脳裏をよぎる。レンフェン城で暗殺集団と戦った際、僕はあちこちに怪我をしたがあまり深くはなかったがだいぶ完治してきている。しかし、ミヤはたったの一撃とはいえ、毒の塗られた矢を背中に受けたのだ。いつもは魔物相手でも引けを取らない彼女が推されているのは、その毒の後遺症で背中が痛むのではという仮説が生まれた。

しかし、そんな分析をする間もなく、シカリは口の骨格を少しあげ、直後に振り下ろしていた忍び刀を引く。

「っ…!」

奴は一瞬の隙をついて、ミヤの腹部に当身を食らわす。

その際、彼女は小さなうめき声をあげていた。

体勢を崩し、倒れそうになったミヤを忍び刀を持った右腕で受け止めるシカリ。

「ミヤ!!」

その事態に動揺した僕は、声を張り上げる

「あんた…その()をどうするつもりだ…!!」

セツナも、剣をかまえたまま相手を睨み付ける。

 奴がミヤを抱えているから、攻撃できない…!!

僕とセツナは攻撃の構えをとってはいるが、向うにはミヤもいるため、そう簡単には攻撃できない状態となっていた。

「この女は…妹を助けるために必要な人間だ。故に、俺が貰い受ける」

「妹…?」

自分でもよくわからないが、その単語にだけ反応していた。

「本来なら、そこにいるコ族の男を始末したい所だが…早急にこの女を連れ帰らなくてはならないため、今日は見逃してやろう」

「待て…!!」

このまま逃げられると思った僕は、すぐさま相手を追いかけようと地面を蹴る。

しかし、突如目の前に白い霧が発生したために周囲が見えなくなり、すぐさま立ち止まってしまう。

「この霧は……また幻術か!!?」

周囲が真っ白な状態の中、セツナの叫び声が聴こえる。

“幻術”と僕達が認識した事によって、霧は次第に弱くなっていく。しかし、周囲が見えるようになった頃にはすでにシカリがこの場からいなくなっていたのであった。

「…ひとまず、城に戻ろう。今は町中が混乱しているだろうから、ここに長居するのはもっとよくないからな…」

「…っ…そう……だね…」

僕は今すぐにでも追いかけたかったが、宥めるようなセツナの一言に、理性を取り戻す。

何とか堪えた僕を見たセツナは、肩を軽く叩いてくれた後、城の方角へと足を進めるのであった。


 シフトやセツナ兄さんが城に戻り、敵がレンタオの街を去った後―――――入れ違いで俺とランサーがレンタオ城壁の前にたどり着いていた。

「市内に狼…だって…!!?」

「は…はい、セキ様。負傷者や死人が出てしまいましたが、幻術だったためか被害区域は広がらずに済みました」

俺は、城の兵士から街で起きた出来事を聞いて驚いていた。

「幻術…?」

俺が驚いているさ中、ランサーはその単語を聞き逃してはいなかった。

「はい。陰陽師の話だと、術者はツクヨリの可能性が高い。しかし、皇帝陛下が住まう城を狙わないのが妙だと申しておりましたが…」

「確かに、相手がツクヨリならば…元凶たる皇帝を狙うだろうし…って、セキ!!?」

ランサーが考え込む側で俺は、今すぐにでも引き返そうとしていた。

「お待ちください、セキ様!!兄君・セツナ様の忍より、言伝がございまして…!」

それを目撃した兵士は、咄嗟に言伝を受けていた事を言い放つ。

「…ハルカからの…?」

一般の兵士なら気にせず向かっていたが、相手はセツナ兄さんの侍女であり忍のハルカだ。

その存在が口に出た事で、俺は立ち止まって振り返ったのである。


そうして俺とランサーがハルカからの伝言を聞いていた頃、ソエルがいるカンウェイ村ではミヤを連れたシカリが到着していた。

「…誰だ、貴様は」

「それは、こっちの台詞よ!!それより、彼女をどうするつもり!!?」

ソエルは相手に対して銃口を向けていたものの、見えない威圧感もあって腕が震えている。

「カルマ族…か。かつての同胞に銃を向けるという事は…さしずめ、この女の仲間という事か…」

「それが解っているなら、さっさとミヤを放して!!」

シカリは細い視線でソエルを見ているが、彼女はここで引けまいと相手を睨み付ける。

「…くどい女だ」

ため息交じりの声が響いた直後、シカリは一瞬でソエルの背後に回る。

「うっ…!!」

敵は、ソエルのうなじに細い針を刺す。

麻酔薬が塗られたそれに刺された彼女の体は、うつ伏せに倒れてしまう。それを見届けた相手は、一旦下ろしていたミヤを再び担ぎ、ミイルがいる家屋の中へと姿を消す。

「皆…ミヤを…助け…」

まだ意識を失っていなかったソエルは、必死でミヤを担ぐシカリの方に腕を伸ばしていた。

しかし、それ以上動けるはずもなく、ソエルの意識は闇の中へとけていくのであった―――――――


いかがでしたか。

今回、ランサーが使う魔術とツクヨリが使う幻術の違いについて書いてましたが…

これについては、某ライトノベル作品の理屈が参考になっているかな?

因みに、”ツクヨリ”は日本神話に出てくるツクヨミ(月読)からきています。レンフェンが古代中国・日本をモデルにした国なんで、日本の古い神の名を民族名にしてみた次第です。

はたして、連れ去られたミヤはどうなる?

そして彼女は拉致られすぎかも(笑)


ご意見・ご感想あれば、宜しくお願い板います。


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