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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第一章 出逢い
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第2話 密室空間内での出会い

 やっと見つけた…

高層ビルのエレベータ内にて、やっと茶髪の女性を探し出す事ができた。

目的達成に安堵したその瞬間、喉元に何かが突き立てられている事に気がついた。

女性は瞳を閉じたまま、自分に対して刀を向けている。

 抜刀する瞬間すら、見えなかった…

いくら自分が一瞬視線をそらしていたとはいえ、剣士たる自分に気がつかれずに刀を向けられた事に対して、俺は驚きを隠せなかった。同時に、彼女から静かなる殺気を感じ、身震いし始める。

「警備員じゃない…よ?」

落ち着いた声音で言ってはいるが、内心は戸惑いを隠す事ができない。

「…エレベーターのドアを閉めて」

彼女は数秒考えた後、俺に次の行動を促す。

どうやらエレベーターはドアが開いた後、すぐには閉まらないらしい。もし、この場に先程の警備員がいたら確実に捕まっていたという事になる。

 …危なかった

俺は心の底からそう思えたのである。


「なぜ、エレベーター内に隠れていたの?」

「ボタンを押さないでそのまま止まっていれば、奴らに“停まっている階に降りて逃げた“と思わせられるから」

彼女は。すぐに答えた。

「あなたも旅人みたいだけど…調べ物?」

「うん、ちょっとね」

聞かれるだろうと思ったので、あらかじめ考えていた言葉で答えた。

「君も調べ物?」

「ええ。でも、ギルドの仕事だから、これ以上の詮索はしないでね」

彼女は顔色一つ変えもせずに言った。

 ギルドに所属しているんだ…

”ギルド”の名前が出た途端、それがどのような仕組みの組織かを思い出す。

ギルドとは一般人や政府の要人などからお金をもらい、魔物退治・捜索・労働などいろんな仕事を請け負う、いわゆるなんでも屋だ。ギルド所属者の掟として「仕事内容を第三者に話してはいけない」というものがある。

それは、ギルドでは大きな声では言えない重要任務や、法に背くような悪い仕事も請け負うためらしい。俺はギルドに所属してないから詳しくは知らないが、とりあえずこれ以上の詮索はしない事にした。

 ここまで登ってくるのに結構体力使ったから、一休みもしたいし…

そう思い立った俺は、ギルドとは関係ない話をしようと口を開く。

「俺はセキ・ハズミ。君は…?」

「…私はミヤ」

「ミヤ…かぁ。いい名前だね」

「そんなことより、貴方はちゃんとした脱出手段あるの?」

「え!?」

ミヤの台詞に、自分の表情が固まる。

 脱出手段のことなんて、考えてもいなかった…

「…もしかして、ないの?」

「いやぁ…まぁ、そんなかんじ…」

俺が黙り込んでいるのを見かねたのか、首をかしげながらミヤは問いかけてくる。

一方で、俺は下にうつむいてしまう。自分の計画性のなさがわかった瞬間だった。

その後、不機嫌そうな表情(かお)をしたミヤは口を開く。

「脱出手段を用意しないで、よくここまで来れたわね。“今は”街の状態も普通だけど、時間になったら…」

ため息混じりで、彼女がその先を口にしようとした瞬間―――――――

硬い物が地面に落ちたような音と、大きな揺れを感じた。

何が起きたのかさっぱりわからない自分に対してミヤは、すぐに事態を把握する。

「しまった・・・!」

表情が険しくなり、声を張り上げていた。

「一体、何が起きたんだ??」

「エレベーターが自動から手動に切り替えられたわ」

「手動…?ということは…」

「エレベーターに隠れているのがばれたってことね」

「ゲッ!!」

少し下品な物言いだが、思わず口に出してしまった。

しかし、女の子の目の前で下品な言い方は良くないとか悠長に考えてる暇はなかったのである。

「やばいよ…!!どうすればいいんだ!?」

「私を肩車して」

「…はい」

軽い混乱に陥っていた俺に対し、ミヤが鋭い声で一言述べる。

それによって、一瞬で黙らせられたのだった。

「天井のハッチを開けて脱出するわよ」

彼女の言葉を聞いて、俺はすぐに地面に座り込んだ。

そこからミヤは木登りに慣れている小動物のように俺の肩に手を乗せ、乗り上がる。直後に立ち上がったが、見た目以上に軽く感じた。

「俺が開けようか?」

エレベーターの天井にあるハッチは鉄でできているので、いかにも硬そうだ。そのため、そう簡単に上げられないだろうと考え、彼女に声をかける。

「…大丈夫」

しかし、彼女は問題ないと答え、年頃の女性では開けられなさそうな天井のハッチを一発で開けてしまった。


ミヤがハッチから抜け出した後、俺もすぐに抜け出した。

 彼女、見かけによらず力持ちだな…。それとも、女剣士って皆こうなのかな?

差し出してくれた手を掴んで引っ張ってもらった際、俺はそんなちょっとした疑問を感じていたのである。因みに、立ちあがった時に気が付いたが、彼女の背丈は自分より最低20cmは低い。そんな華奢な女性が、餓鬼とはいえ大の男を引っ張り上げた所も、力持ちだと感じた所以だった。

エレベーターの外は暗く、下の方では機械の音が響いている。しかし、底が全く見えないのには身震いがした。このビルに入った時、パッと見で50階くらいはありそうだったし、自分が乗った階も20階辺りだったので、高さがあるのは当然のことだろう。

「この先どうするの?」

首をかしげながら尋ねる俺に対し、

「今停まっている所のすぐ上のドアを手で開ける」

彼女は即答だった。

俺はその判断力の速さに、ただただ驚いた。

 さすが、ギルドに所属しているだけのことはある。…でも、皆が皆、こんなに冷静に対応できるものなのだろうか…?

一瞬考えている内にミヤは自分一人の力で上階のドアを開けようとしていた。流石にこれを一人で開けるのは難しいだろうと考え、自分が開けることにする。

 両手の指でドアを押さえて開けようとしたが、やはり開けづらい。元々は自動で動き、その動きはコンピューターが管理しているので当然だろう。

 指がちぎれるのは嫌だー!!

とは思ったものの、こんな暗い空間にずっといるのは絶対に嫌なので、渾身の力をこめた。  

すると、何とか開けることに成功する。そうしてエレベーターの外によじ登った後、ミヤの腕をつかんでひっぱり上げた。

 先程も思ったが、すごい細くて華奢だなぁ…

彼女の腕を掴んだときに、ふとそんな考えが浮かんでいた。しかし先程と異なるのは、無意識の内に視線が足腰を見つめていた事だ。

こんなときに何考えてるんだろう、俺は…

自分にまとわりついてきた邪念を取り払うかのように、俺は別の話題を切り出す。

 「この後・・・どうするんだ?」

すると、今度の彼女は即答せずに少し間が空けてから話し出す。

「・・・屋上へ向かうわ」

そう口にしながら、彼女は立ち上がった。その直後―――――

「あの女はどこだ~!?」

「早く見つけ出さなくては…!!」

2・3人くらいの足音と共にその台詞が聞こえてきた。

「やばい、警備員の奴らだ!!」

すぐに2人で階段を登り始める。

「はぁ…はぁ…」

まだ屋上まで半分近くあるが、エレベーターが使えない関係で階段で登るしかない。

最初は俺もミヤも勢い良く階段を駆け上っていたが、次第に疲れが出始め、少し息切れも感じるようになっていた。しかし、ここで立ち止まっている暇はない。

屋上に行って無事に脱出できるかもわからないし、彼女が持っている「脱出手段」が何なのか全くわからないけど…!!

そう強く思いながら、俺とミヤは無我夢中で屋上を目指すのであった。



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