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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第八章 過去を垣間見る彼らの瞳に映るのは
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第28話 マカボルンに魅入られた少女

ソエル→ミヤ→ランサーの支視点で話が展開します

 ランサーが木でできた蛇を一掃した後、親玉がいると思われる民家へと足を運ぶ。先頭にはセキが行き、その後を私とランサーで向かう。セキの手には剣に私は銃。ランサーは、いざという時のために伸縮自在の棍を手にしていた。

 土臭っ…!!

セキが民家の扉を開けると、中から古い木の匂いがしてきた。廃村した村なだけあって、締め切っていた中の空間は半端でないほど汚いだろう。

「…っ…!!?」

しかし、そんな臭いも中の光景を目の当たりした途端に気にならなくなっていたのである。

私達の視界に入ってきたのは、一人の少女だ。ただし、下半身が木になっているという異形の姿だったため、私は目を丸くして驚いていた。また、黒髪・黒い瞳という自分と同じ特徴を持つ事で、少女がレンフェンの先住民・ツクヨリであることを確信する。

「君は…?」

セキが恐る恐る声をかけると、ベッドに座った少女の()に生気が宿る。

「貴方は…コ族…?」

セキに視線を向けた少女は、彼に問いかける。

ただし、レンフェン語で話しているため、通じていないランサーだけが首を傾げる。

 同時通訳…は厳しいから、後でまとめて教えてあげるか…

私はランサーを横目で見ながらそんな事を考えていた。

「俺は、セキ・ハズミ。旅の剣士だけど…。君は何故、こんな事になっているんだい?」

「私は…ミイル。もしかして、彼女は…」

一方、話を進めるセキと少女だったが、不意のその子の視線が私に向く。

それは、懐かしいものを久しぶりに見たような好奇の視線ともいえるくらいで、私はつばを飲み込んでから、恐る恐る口を開く。

「…あたしは、ソエル・カーブジケル。お察シノ通り、カルマ族だヨ」

私は片言だが、数十年ぶりにレンフェン語で自分の名を名乗る。

「“歌姫の一族”…。コ族は嫌だけど、貴女になら話せそう…」

それを聞いたミイルは少し驚いていたが、すぐに納得したようだ。

私の側では、警戒されている事に気付いたセキが、気まずそうな表情を浮かべながら腕を組んで考え事をしていた。

「何があったか…話してもらってもいいか?」

意味はわからなくても自己紹介をしあっていたのだろうと察したランサーが、そこに助け舟を入れてくれた。

 微妙な空気になりそうだから、助かったな…

話を聞きたいのはもちろんだが、ランサーの一言に少し救われた思いだったのである。

一方、彼が木の蛇を焼き尽くしたためか、ミイルは目を見開いて驚いていた。しかし、すぐに我に返って話し出す。


「ここは、普通の村だったの。私は、唯一の家族である兄と住んでいたんだけど…災害によって村が崩壊し、私達も他の村へ移住する事になったの。そこで…」

ミイルは、当時の事を思い出しながら語る。

村を出て別の土地へ移住する際、彼女は名残惜しくて泣きじゃくっていた。そこで背後から“声”が聞こえて振り向いた彼女は、その聞こえた方角へと足を運ぶ。

そんな彼女の視界には、叢の中に堕ちていた紅い石のかけらだった。

兄は妹が来ないと心配していると、当の本人は地面にしゃがみこんでそれを見下ろす。恐る恐る手を伸ばした後に、紅い光が周囲に広がっていく―――――――そんな話であった。

「紅い石のかけらって…もしや…?」

話を聞いた後、セキが真剣な表情をしながら呟く。

「…ああ。賢者の石のかけら…って所だな」

「…でも、何かおかしくない?」

そこでランサーが述べ、違和感を覚えていた私は二人に向かって言葉を紡ぐ。

そうすると、男二人は首を傾げていた。しかし、再度ミイルの方を見たランサーは、その言葉の真意を理解してくれたようだった。

「確かに、おかしいな…。賢者の石が体内にあるっていうなら…普通の人間だったら、石の魔力に負けて錯乱したりするはず…。だが、この嬢ちゃんから感じる魔力は…普通のツクヨリとさして変わらねぇ。どういう事だ…?」

よけいに話がややこしくなり、頭脳明晰なランサーですらわからない状態だった。

「ミイル…。貴女、体はそんなだけど、特に苦痛とか嫌な感覚はしなイノ…?」

「…ええ。ここ数日で“色んな人達”と対話したけど…特に何もない。それに、彼らは私の事を嫌ではないみたい」

「…っ…!!」

ミイルと私が話していると、自分の側でランサーが珍しく戸惑っているように目を丸くしていた。

彼は頭が良い分、滅多に動揺を顔に出さない方なので、滅多に見ない光景だ。

「私の事は…いいの。それよりも、兄さんが…」

「…この村にはいないみたいだけど…。何か気がかりな事でもあるの…?」

自分ではなく兄の事を会話に持ち出すミイルに対し、私は周囲を見渡しながらそう口にする。

「実は…」

話を切り出そうとするミイルの表情(かお)は、今にも泣きそうな状態なのであった。



 ソエル達がカンウェイ村にいた頃、私とシフトはセキの兄・セツナさんに連れられて、城下町へと繰り出していた。

「これが、レンフェンの伝統的な菓子“あんみつ”なのね…。初めて食べたな!」

「僕もー♪」

私とシフトは、美味しく味わいながら、そのお菓子を堪能していた。

セツナさんご連れてきてくれたのは、街の一角にある茶屋。また、レンフェンの民族でない段階で目立ってしまうため、少しでも目立たないようにとレンフェンの着物を私とシフトも羽織っていた。

「はは、気に入ってもらえて何よりだよ!…それにしても、シフトはともかく、ミヤちゃんにも食べた事がない物ってあったんだな!」

ミヤ「…そうですね。一人旅していた頃にレンフェンは来たことありますが、滞在期間が短かったから、食事とかあまりできなかったからですかね」

あんみつを食べている私達をセツナさんは見守っていたが、どこか探りを入れているような口調で話していた。

それを何となく察していた私は、ありのままの事実を口にしつつも、さらりと流していたのである。表情が見えないので本当の所はわからないが、シフトだけが何も気が付かないまま茶を飲み干していた。

「それより、セツナさん」

「何だい…?」

あんみつを半分以上食べ終えた辺りで、私は話を切り出す。

「ご存知だと思いますが、私達が捜し求めているマカボルン…。この国では“妖石”と呼ばれる代物…何か言い伝えとかあるんですか…?」

「妖石の…ねぇ…」

私の問いを聞いたセツナさんは、頬を手に当てて考え込む。

楽しそうに食べていたシフトも、真剣なまなざしで話に耳を傾けていた。

「俺も…授業の一環で聞いたくらいしか知らねぇが…。確か、この国の先住民ツクヨリが、実際に石を創り出した男に協力していたとか何とか…」

「…それは初耳だね!ランサーが通っていた魔術学校の図書館にも、そんな記述のある資料は見たことないかも…!」

何とか答えた内容であっても、私達はあまり知らなかった話のため、シフトが私の気持ちを代弁してくれたかのように応えていた。

「…あぁ、グリフェニックキーランか!確かに、あそこの蔵書量は“古代図書館”に負けず劣らずだが…。まぁ、文献にも書いていない事が、当事者達の間では受け継がれているって訳だな!俺らコ族やツクヨリ。そして、ソエルちゃんの所も…」

「カルマ族も…?それって一体、どういう意…」

セツナさんの口からカルマ族を思わせる言葉が出てくるとは思わなかったため、私は不意に問いかけようとしたが、言葉が最後まで出てくる事はなかった。

それは、セツナさんの指が自分の唇に触れていたからだ。突然の出来事で驚いたが、その理由をすぐに理解した私は、唇を噛む。

 ここは、レンフェン…。内乱からそれなりに時は過ぎたけど、その発端となったカルマ族の事を皇帝のおひざ元で軽々しく口にするものではないよな…

私は唇を噛みしめんがら、怪我をしている背中なうずいているような感覚をがしたのである。

「まぁ、そんな訳で…。俺も、あの石に関してはあまり多くの事は知らない。お役に立てなくて、ごめんな?」

「いえ…!ありがとうございます」

セツナさんが少し申し訳なさそうな口調で話しているのに気が付き、私はすかさず礼を述べた。

「あ…!セツナ、もしかして君のおごり?」

シフトの台詞(ことば)で我に返るが、同時に恥ずかしい気持ちになる。

 食べるのに夢中で、会計を済ましせていたのに気が付かなかった…

自分の表情は無論わからないが、頬が熱かったため、赤くなっていたのかもしれない。

「無論さ。俺が勝手に連れ出したんだし…何より、お前ら2人ともこの国の金は持っていないだろ?」

「やったー!!セツナ、ご馳走様です!!」

それを聞いたシフトは、満面の笑みを浮かべながら喜んでいた。

こうして、あんみつを完食した私達は、お店を出ようと椅子から立ち上がる。

「…っ…!!?」

私が机の端に立てかけていた刀を握り始めた途端、雷で撃たれたかのようにその場で固まる。

「ミヤちゃん…どうした?」

「ミヤ…?」

私の状態に気が付いた二人が、私の名を呼ぶ。

しかしこの時、私は感じた気配が何かを必死に探っていた。

 このかんじ…今まで見た事のない魔力の……波動?

私は、気配を探ろうにも得体の知れないものとしか断定できない。

「何だか…。妙に変なかんじがする…。得体の知れない何かが近づいているような…!」

「えっ!!?」

何とか言葉を絞り出した訳だが、それを聞いた二人は目を見開いて驚いていたのである。



ミヤちゃんが得体の知れない“何か”を感じ取っていた頃、俺・セキ・ソエル姐さんの3人はミイルの家を一旦出て、近くの林の中で話し込んでいた。そこでは彼女から聞いた話に出て着た人物の名前があがっていたのである。

「彼女の兄・シカリ…か」

「あの流れだと、妹を助けるための“苗床”を探しているみたいだな。そんで、それを効率よく探すならば、ここからだと首都のレンタオが近い…か」

セキや俺が口々に話す。

因みに“苗床”は、俺が考えた比喩であり、ミイルちゃん自身は使っていない。彼女が賢者の石を体内に取り込んでいて無事な理由は、ツクヨリであるからだろう。彼女に対して石が気に入るか何かがあり、異変を起こさずその能力(ちから)を活かしている事からつけたものだ。

「その“苗床”になりえる人間が誰かは想像しづらいけど…レンタオに向かっているとなれば、ミヤやシフトに被害が及ぶ事も…」

「この間の一件もあって、ツクヨリは結構やるときゃやる連中なのはよくわかったし…難しいな」

ソエルや俺が口々に呟く。

本当は皇子たるセキの前でツクヨリの話はあまりすべきではないのだが、仲間にも関わってくる事でもあるため、そこまで気にしている余裕がなかった。

「ひとまず、レンタオに戻らなくてはいけないけど、彼女の事もあるし…」

セキが腕を組みながら考え事をする。

少しの間だけ、俺達の間で沈黙が続く。

 そういえば、あの嬢ちゃん。ソエルの事を“歌姫の一族”って言っていたな…

この時、俺は先程ミイルちゃんが口にしていた台詞(ことば)を思い出す。おれは以前、メスカル校から古代種の末裔・カルマ族の先祖には、有名が歌姫がいるため、一部の先住民にはそう呼ばれているというのを聞いた事がある。シフトを捜査対象として見ていた際に、話の一環として教えてもらった話だった。何故かはわからないが、ソエル姐さんには“歌姫”の才があると直感していた俺は、姐さんの方に視線を向けて口を開く。

「…ソエル。お前に、ミイルちゃんの監視を頼みたい。いずれにせよ、セキをこの場に残すのが一番まずいからな。それに…」

ソエル「それに…?」

続きを口にしようとすると、彼女は首を傾げながら問いかけてくる。

「何かあった時は、“姐さんにしかできない方法”で対処してほしいからだ」

「…っ…!!」

俺は、少し意味深な言い方で彼女に提案した。

どうやら自分の仮説はあたりだというのを、動揺したソエル姐さんの表情(かお)から見て確信が持てたのである。一方、台詞(ことば)の真意を理解していないセキだけが置いてきぼり状態となっていた。

「…わかったわ」

真剣な表情を浮かべながら、彼女は承諾した。

「…うし!そうとなれば、俺とセキで一旦レンタオに戻ろうぜ!レンフェンの警備を疑っている訳じゃねぇが、相手は術師の能力が高いツクヨリだ。気を付けなくてはな…!!」

「あぁ…!!」

俺の台詞(ことば)を聞いたセキは我に返り、首を縦に頷く。

こうして俺とセキは一旦村から離れ、ソエル姐さんをそこに残してレンタオへ向かうのであった。


俺とセキが村を出た後、家の前まで歩いて移動したソエルは、窓から中を覗き込む。

ミイルは瞳を閉じているが、寝言のように唇だけ動かしている。

「お姉…ちゃん…」

不意にミイルは何かを呟くが、かなりの小声だったため、窓から覗き込んでいるソエル姐さんには聞こえなかったのである。



いかがでしたか。

結構視点転換が激しい回だったかもな…

さて、次の展開は如何に…?


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