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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第八章 過去を垣間見る彼らの瞳に映るのは
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第27話 廃村した村で起こる幻

話の舞台はまだレンフェンですが、ここから新章です。

この章は最初の執筆時にはなく、後から書き下ろした作品となっております。


2016年10月8日 皆麻 

 街並みが不思議なかんじ…だな

僕は、眼下に見える景色を眺めながら考え事をしていた。

今、僕達はレンフェン城内にあるセキの部屋にいる。彼の父であるシガラミ皇帝の誕生日の宴が終わったのでもう旅立ってもいい頃合いだが、数日間だけ滞在を延長したのである。

その理由は僕とミヤが先日の宴で負傷し、療養する事も含めた期間延長である。

「にしても、女性陣が静かだよな…」

「ランサー…」

頬けていると、小さな声でランサーが僕の耳元で囁く。

というのも、セキの部屋…と一言で言っても、アパートの一室並の広さがあるため、皆が個々でくつろいでいるのだ。やはり、レンフェンの皇子一人にあてがわれる部屋は、一般人のそれとは違うのだろう。

因みに、僕は窓の外から見える城下町を眺め、ソエルは銃の手入れ。ランサーはレンフェンの書物を読み、ミヤは部屋の一室にある茶室で正座をして瞑想をしているといった具合だ。

どうやらランサーは、書物を一通り読み終えて退屈しているのだろう。

 読むのが速くて、飲み込みも早い…って事なのかな?伊達に、魔法学校(グリフェニックキーラン)を主席卒業していないんだな…

普通に話しかけてくる魔術師に対し、僕はそんな事を考えていた。

また、この場にいないセキは一人で外出している。僕らはそんな彼を頻繁に見ているからあまり考えた事なかったが、どうやらレンフェンの皇族は本来、市井に行く事はほとんどないらしい。行くとしても家来を連れて行ったり、乗り物を使用するため、現在シガラミ皇帝下にいる皇子・皇女で市井に赴くのは、セキと彼の兄・セツナのみだろう。

「お…。どうやら、セキの奴が戻ってきたみたいだぞ…!」

「あ…本当?」

考え事をしている側で、ランサーは声量を普段の大きさに戻して話す。

耳を澄ましてみると、少し離れた場所から足音が聞こえてきたのだ。彼はおそらく、その音で判断したのだろう。また、ランサーの一言で手入れをしていたソエルが反応を示す。

「僕、迎えにいってくるねー!」

「って、おい。シフト!!お前、まだ安静にしてなきゃいけねぇんじゃねぇの??」

僕が率先して迎えに行こうとするが、ランサーに止められてしまう。

「少し歩くぐらい、どうって事ないよ!ランサーは心配しすぎ!!」

甲斐甲斐しいと思った僕は、そんな彼をつい振り払って入口の方へと足を進める。

おそらく、元々僕はおとなしく籠っているのが性に合わないのかもしれない。失った記憶が全部戻った訳ではないけど、直感的にそんな考えがよぎったのであった。


「…廃村した村での幻…?」

セキが戻ってきた後、彼が持ってきてくれたレンフェンのお菓子を頬張りながら、僕が問いかける。

その際には当然、ミヤを含む全員がその場に集まっていた。

「…ああ。今日、立ち寄った店の店主から聞いた話だ」

「廃村…ね。この国は昔から災害が多かったみたいだし、大方理由は“それ”か村民が税金を払えなくなったから…とかでしょうね」

セキが市井で聞いた話をするさ中、ソエルが少し辛辣な口調で言う。

 やっぱり、自分達を追い出した国だから…まだ思うところはあるんだろうなぁ…

僕は()を細めながら、そんな事を考えていた。

「ソエルの言う通り、土砂崩れと地震によって廃村となり、残っていた住民は父上…皇帝

の命で移住した。それでも、生き生きとした村人の姿を目撃されている」

ソエルの発言に胸を痛めつつも、真剣な表情でセキは語る。

「セキ…その話ってもしかして、トウケウの現象と似ている…?」

すると、黙っていたミヤはが彼に問う。

彼女の仮説が正しかったようで、セキは黙ったまま首を縦に頷いた。

「マカボルンのかけらの仕業…だと思うんだ」

「まぁ、確かに…。レンフェンの場合、“妖石”という独特の名前で歴史書に残っているし、先住民のツクヨリが賢者の石製造に携わったらしいという説もあるらしいから、あり得ると言えば、ありえるだろうな」

セキの仮説に対し、ランサーも同調する。

ランサーはセキとミヤのように“亡失都市・トウケウ”には行ったことないが、口調から察するに、そこで起きている現象の事は知っているようだった。

「それで、皆に少し頼みたいことがあるんだが…」

そう述べるセキは、少し言いづらそうな表情(かお)をしている。

 もしかして…

彼の表情を見た途端、僕はちょっとした予感がしていた。それは先日、城の警備を頼まれた時も似たような表情(かお)をしていたからだ。

「シガラミ皇帝の命っていうなら、僕は全然構わないよ!」

僕が切り出すと、セキの表情が少し和らぐ。

「私も大丈夫よ…!ただ、ミヤとシフトはお留守番だからね?」

「えぇーー!!!」

状況を察したソエルも同意するが、僕やミヤに対して釘をさす。

僕はものすごく不服そうな表情をしていた。

「…仕方ないわよ、シフト。私も本当なら一緒に行きたいけど…足手まといになるのだけは嫌だしね」

すると、ミヤが苦笑いをしながら僕を諭してきたのだ。

「ミヤちゃんの言う通り!!お前ら二人は、行きたいならもう少し体力を回復させてからでないと駄目だぜ?」

「ちぇっ…」

ランサーにも言われてしまったため、僕はしぶしぶ承諾をする。

 ただ、ミヤも僕と同じ事考えていたんだな…

“足手まといにはなりたくない”というのは普段から考えていた事のため、ミヤに親近感を覚えた瞬間だった。


そしてセキ・ソエル・ランサーの3人が出発した後、1時間程は僕とミヤは各々でくつろいでいた。すると、部屋の外の方から聞き覚えがある声が響いてくる。

「おーい!誰かいるかー??俺…セツナだけどーーー!!」

「あ…はーい!!」

その声の主がセツナだと気が付いた僕は、彼を出迎えに入口へ向かう。襖を開けると、そこにはレンフェン独特の着物を身に着けたセツナが立っていた。

「よっ、少年!!さっきセキ達とすれ違った所を見ると、お留守番かな~?」

少し意地悪そうな口調で、セツナが僕を見下ろす。

「…お察しの通り、僕とミヤは留守番組ですよーだ」

その言い方に対し少し苛立ちを覚えた僕は、頬を膨らませたままセツナを部屋の中に通す。

セツナが入って来た事に気が付いたミヤが、刀を握りしめたまますぐにその場から立ち上がる。その時僕は見ていなかったが、セツナはその瞬間をはっきりと目撃したのだろう。視線がミヤ本人ではなく、刀の方に目がいっていたからだ。

「…ところで、セツナさん。…私達に何か…?」

ミヤもセツナが何か手に持っているのに気が付いたようで、不意に問いかける。

後でセキから聞く事になるが、彼が持っていたのは“フロシキ”というこの国独自の布らしく、財布や本などをその中に入れて出かけるのに使用するらしい。僕が住んでいたケステル共和国でいうところの、バッグみたいなものだろう。

「…ああ!二人が退屈にしているんじゃないかと思ってさ…!」

「へ…??」

得意げな表情で語るセツナだったが、僕とミヤは彼が何をするために部屋(ここ)へ来たのかが、まるで見当がつかなかったのである。



セツナ兄さんがミヤ達と会っていた頃――――俺・ソエル・ランサーの3人は、数年前に廃村したカンウェイ村付近まで馬車で向かっていた。近くまでたどり着いた後は、足場が悪かったりもするため、徒歩で向かう事となる。

小さな村なので、数分歩いたくらいですぐに到達する事ができた。

視界に入ってきたのは、建物は所々汚れているが、道を行き交う村人の姿だ。

「本当だ…。普通に村人が動いている…!」

「廃村した土地なんて、嘘のようだな…」

その光景を目の当たりにしたソエルとランサーが、各々で感じた事を口にする。

 この空気に感覚…

俺は村人の表情を観察しながら、足を一歩二歩と動かす。

「…やはり、これは幻だと思う。見かける人々の外見は全然違うけど、俺があの都市で感じた空気と、似た一面もある」

「お前とミヤちゃんが訪れたっていう“亡失都市トウケウ”…か。だとすれば、どこかに賢者の石が…!」

俺は瞳を細めながら述べる一方、ランサーは少し楽しんでいるような口調で周囲を見渡していた。

「ツクヨリの中に、あたしの一族も…いる…」

「ソエル…?」

不意に、ソエルが一言呟く。

しかし、声が小さくて聞き取ることができなかった。

「…っ…!!!」

不意に視線をずらすと、思わぬものを目撃した俺は目を丸くして驚く。

「これってさ…。もしかして、ツクヨリの誰かの想いを、マカボルンが具現化させているんじゃないかな…?」

「…どうして、そう言い切れるんだ?ソエル姐さん!」

ソエルがまた言葉を紡ぎだすと、少し真剣な表情をしながらランサーが問いかける。

「んー…。マカボルンって元々、“願い事を叶えられる”っていう言い伝えなんでしょ?だから、古代種ククルの末裔である2種族がいるんだと…」

「成程…」

ソエルの見解を聞いたランサーは、腕を組みながらそれに同調していた。

「ソエルの…いう通りなんだろうな、きっと…」

「セキ…?」

俺の台詞(ことば)に反応したソエルがこちらに振り向くが、当の俺は二人に背を向けたまま、一点を見つめていた。

 あの女性(ひと)が…生きて…しかも、目の前にいる…!!

俺は瞳を潤ませながら、幻で映し出される黒髪の女性を見つめていた。

まだ仲間に告げられるほど落ち着いてはいないが…俺には過去、自分の不甲斐なさで死なせてしまった女性(ひと)がいる。それが、ある意味“初恋”でもあった訳だが、思うところがあった俺は、足をゆっくりと女性の方へ進めようとしていた。しかし、この“幻”はそう長くは続かなかったのである。

「…蛇…!!?」

村人達の姿が段々と薄くなり、その姿は木でできた蛇へと変貌する。

俺とミヤが以前訪れたトウケウで見かけた住民の正体は、死した魂が具現化した魔物だった。今回、このカンウェイ村で起きている現象がトウケウと同じならば、蛇に姿を変えるのも道理だ。

「何これ!?気持悪い!!!」

蛇に気が付いたソエルは、少し強張った表情(かお)をしながら、ホルスターにしまった銃を取り出す。

「木でできた蛇…か。なら…!!」

そう言うや否や、ランサーは魔法の詠唱を始める。

短時間で終えた詠唱後に現れたのは、一筋の炎だ。

「ギーーーーーーー!!!!」

彼の唱えた魔術による炎が一匹の蛇に当たり、悲鳴をあげる。

「すごい…!!」

俺が感激している一方、炎は周囲にいた木の蛇へと一気に燃え移り、あっという間に魔物をせん滅したのであった。

蛇がいなくなり、炎を打ち消したランサーは少しだけ息切れをしていた。

 この短時間で魔物を倒す威力がある魔術…か。並の魔術師が使える類のものではないんだろうな、きっと…

俺は魔術には詳しくないが、そんなランサーを見ながら思ったのである。

「さて…黒幕は、あちらにおいでのようだな」

ランサーはそう呟いた後、左奥の方に視線を向ける。

その少し離れた場所には、小さな家屋が見えていたのと同時に、邪気みたいなものを俺は感じ取っていた。

 この“木”でできた蛇が末端ならば…“親玉”がきっと、あそこにいる…!

そう思った俺は、冷や汗をかきながら、剣を取り出して周囲を警戒し始めるのであった。


いかがでしたか。

この章でサブキャラがまた登場しますが、人物紹介②の方に載せているので、是非ご一読ください。

ご意見・ご感想あれば、宜しくお願いいたします。

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