第22話 レンフェンの皇子
今回は、セキの人柄がよくわかる回です!
ミスエファジーナを出た俺達は、小国・ネルシアにある港町リオンへ向かった。セキ曰く、その港町は4年程前までレンフェン領土だったため、ネルシアに返還された今でもレンフェンの役所が存在しているらしい。
「そこに行けば…」と途中言いかけたが、「詳しくはその役所で話す」と、奴は言っていた。おそらく、そこに到着したらセキ自身の事を話してくれるのだろう。
「それにしても、ネルシアの町なのにレンフェンの役所があるのもおかしなかんじだよな…」
「リオンにレンフェンの役所があるのは、小国であるネルシアが他国に侵略されないよう、彼らを守るために置かれているものだよ」
俺の呟きに対し、セキが答えた。
成程…そういう解釈もできるか…
内心で、俺はそう思った。やはり、自国の事だから、セキもあまり悪くは言えないのだろう。
実はミスエファジーナより北の国に来るのは初めてだったのである。グリフェニックキーランから旅立った時、そこから南の国からあいつを探してみようと思って動き始めたからだ。
「レンフェンの役所…あれかしら」
ミヤちゃんが指を指す。
そこにはレンフェンの国旗が立っており、明らかに役所とわかりそうなあの国らしい建造物が見えた。
レンフェンの役所である以上、治外法権の関係で中に入る際は入国と同じ手続き(旅人の場合は身分証明書を見せるだけ)が必要になる。セキを除く全員が先に入り、最後に入ったあいつが、見張りの兵士と何か話しこんでいた。兵士が驚いた表情をした所を見ると、内容は大体想像がつく。
そして、俺たちは応接室のような場所に案内される。俺としてはレンフェン特有の床・“たたみ”の部屋かと思ったが、そこは誰もが見たことあるような洋間だった。
「皆に話しておきたいことがあるんだ」
「セキ、どうしたの?なんだか改まっちゃって…」
あいつが真面目そうな表情をして話し出したので、シフトが不思議そうにしていた。
すると、つばを飲んであいつは口を開く。
「実は…信じられないかもしれないけど、俺……レンフェンの皇子なんだ」
「えっ!!!?」
ミヤちゃんとソエル姉さん、そしてシフトの奴が目を見開いて驚く。
「おおおおお皇子?…セキが!!?」
シフトがかなりパニックになっていた。
「確かに、聞いただけでは信じられない話…。でも、そう考えるといろいろと納得がいくかも…」
いつもは冷静なミヤちゃんですら気がついていなかったらしく、相当驚いていた。
「あれ?でも、ソエルとランサーはあまり驚いていないみたいだね!…もしかして、気がついていた??」
シフトが首をかしげながら言う。
すると、ソエル姉さんが気まずそうな表情をしながら答えた。
「私は…昔、この子の父親を見たことがあったから何となく予想はできていたわね」
そう言った後、姉さんは考え事をし始めたのか、黙り込んでしまった。
その後、役所の所長らしきおっさんが入ってきてセキに深々と臣下の礼を取った後、本国への入国手続きやら諸々を進めてくれた。そして俺たちは、レンフェンの本国があるサカキ大陸へ行く船に乗っていた。港町リオンはウォルガーネ大陸の中でもかなりレンフェン寄りの場所にあるため、船に乗っても1時間半くらいで到着できるらしい。
しかし、短時間にも関わらず、船に弱いシフトは船酔いをして寝込んでいた。シフトと女性陣は「船室でおとなしくしている」ということで、俺とセキは二人でテラスみたいな場所に出た。
「なーんでこの俺が、野郎と二人で外にいなきゃいけないんだか…!」
「俺だって、別に好きで一緒にいるわけじゃないし!」
出るや否や、俺たちは互いに嫌味を言い合う。
俺とセキは、年齢が近い割には意外と合わないのかもしれない。
まぁ、温室育ちのお坊ちゃまと、天涯孤独で一般人な俺じゃあ似ている方がおかしいかもな…
海を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
「でも…俺とお前の二人で一緒にいるのって、何気に初めてじゃないか?」
「そう…かもな」
「…ランサーが俺達の旅に加わって…”友達”ってこんなモノなんだなぁ~って初めて知れたんだ」
「…どうしたんだよ、急に…?」
笑っているのか、泣きたがっているのかわからないような表情をセキがしていた。
「頭のいいお前ならわかるかもしれないが、俺…みたいな皇子や皇女は、この国だとたくさんいる。故に、父である皇帝陛下に好かれようとして、それが勢力争いを生む…。そのおかげで俺の周りは命を狙っている奴や、自分に対して媚を売ろうとする欲深い連中ばっかりだったんだ…」
「…そんな環境じゃあ、友達もできないよな…」
俺は思った。裕福な奴が必ずしも幸せな人生を送っているとは限らないと…。俺は赤子の時に両親に捨てられて施設で育ったが、メスカル校長先生が俺を拾って、グリフェニックキーランに通わせてくれた。そして、そこでたくさんの同級生と仲良くなれたのである。
「俺は天涯孤独の身だから何一つ恵まれていなかったが、友達はいた。…なんだか、皮肉なものだな…」
俺がボソッと独り言を言うと、あいつはフッと一瞬笑った。
俺も一息をついて話し出す。
「…辛気臭い話はここで終わりにしようぜ!!それより、ミヤちゃんを助けた後、“レンフェンに早く到着したい”と言ったのはどうしてだったんだ?」
「ああ」
セキも我に返ったようで、すぐさま話し出した。
「実は、明日が父の誕生日で…俺を含めて皇族関係者は全員、登城しなきゃいけないんだ」
「登城?」
「皇帝陛下の下に赴くって事だよ!…で、悪いんだけど、俺がやらなきゃいけないこともあるんで、今日を含めて7日間は滞在したいんだけど…いいかな?」
「別に構わないが…滞在可能期間は大丈夫なのか?」
「ああ、その辺は問題ない。俺の口利きで、本来の滞在可能期間である7日より長くいることが可能になったからな!」
成程…国籍を捨てて旅人になったとはいえ、れっきとした皇族。その辺の融通は効くんだな…
「今のうちに言っておく!…当然、俺も気にしておくが…町や城に到着したら、皇族や兵士達をソエル姉さんに近づかないように配慮しとけよ!!」
俺は思い出したかのような口調で、セキに忠告する。
ソエル姉さんはおそらく、今でもコ族を嫌っているだろう。あいつから連中に危害を加えることは絶対にないだろうけど、逆に連中からカルマ族の事について、何か言われる可能性は高い。
「わかった。気をつけておくよ…」
あいつは真剣な眼差しでそう言った後、船室へ戻っていった。
船がレンフェン本国の港町チョウブに到着後、俺達の元に迎えの馬車と、変わった格好をした女が一人いた。
「セキ様…お久しぶりでございます」
見た感じ俺と同い年ぐらいのその子は、セキに対して臣下の礼を取っていた。
「あれ、誰かしらね?」
ミヤちゃんがこっそりと俺に話しかけていた。
「文献で読んだ程度でしか知らねぇが…レンフェンにはミスエファジーナやケステル共和国みたいな“ギルド”がない代わりに、“忍”という特殊な集団組織がいるらしい。そいつらは、独特の装束を身につけ、ギルドに所属する奴らのような仕事を秘密裏に行う集団らしいが…あの娘が、それに当たるかもな…」
馬車で首都のレンタオへ向かう途中、セキがさっきの子は俺の考えていたハルカという「忍」で、また、あいつの兄貴の侍女でもある…と、話してくれた。また、城に到着したら、あいつの父親――――つまり、シガラミ皇帝に謁見しなくてはいけないので、俺達にも参上してほしい…と、言ってきた。
俺・ミヤちゃん・シフトはすぐに了承したが、ソエル姉さんが黙り込んだままだった。しかし、「あいつの立場もわかってやれ」と俺が説得し、何とか了承してくれたのだった。
馬車は首都のレンタオにあるレンフェン城へ到着する。これが「レンフェン風」というのか、門には金のしゃちほこがあり、言葉では言い表せられないくらい荘厳で木造の城が聳え立っていた。城の周りは堀がある。ここだけ別世界のようだった。
「ちょっと着替えてくるから…ここで10分くらい待っていてくれ!」
そう言ったセキは全速力で走りながら、城の奥へ入っていった。
「ここがレンフェン城の内部かぁ~!なんか、きらびやかですごいなぁ~!!」
シフトが目をキラキラさせながら周りを見ていた。
「おーーーい!!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お!セツナじゃねぇか!!」
「久しぶりだな!…といっても、数日ぶりって所か…」
俺達に声をかけてきたのは、ミスエファジーナで会ったセキの兄貴・セツナだった。
しかし、あの時見た服装ではなく、レンフェン独特の衣装・“着物”を着ていた。
「セツナさん!フェンジボルーカでは、いろいろとお世話になりました!本当にありがとうございます!」
ミヤちゃんが笑顔で挨拶していた。
「いえいえ、どういたしまして!」
「そういえば、ここまで案内してくれたハルカって女の子、いつの間にかいなくなったね!…お礼もできなかったなぁー」
辺りを見回しながら、シフトは少し残念そうに言った。
「ああ…あいつは可愛い顔している割にシャイな奴だから、勘弁してやって!」
「セツナさんとハルカさんって…仲よさそうですね♪」
「んー…まぁ、ガキの頃からのつきあいだし、俺にとっては妹みたいなものだしな…」
いつもはポーカーフェイスな奴の顔が少し緩んだ気がした。
絶対こいつら、何かありそうだな…
そう考えながら俺はニマニマしていた。
「こーんな所にどうして、庶民がいるんだぁ~?」
また後ろから声が聞こえた。
振り返ると、上等そうな着物を身にまとい、ブサイクな面をした男が2人いた。
…格好がセツナと少し似ている…か。きっと、この国の皇子達だな…
「彼らは、セキの大事な客人だよ」
セツナがいつものポーカーフェイスでそいつらに言った。
「ふ~ん…あの野郎のねぇ…」
そう言いながら皇子の一人がこっちに近づいてくる。
「って…!なんで、カルマ族の女がいるんだよ!!」
そう言いながら、煙たがっているような動きをした。
それを見たソエルの表情が少し強張る。
「…ご無礼は承知ですが、1つ言わせて戴きます。あなた方の言動、彼女にものすごく失礼ではないですか?」
ミヤちゃんがその皇子の目の前に立ちはだかって言う。
ミヤちゃん…勇気あるなぁ…
俺は物怖じせず言った彼女に感心していた。
「何だと、この女!!!」
「まぁまぁ…」
今にもブチ切れそうな皇子に対して、もう一人の皇子が宥めた。
「それよりも…お前、なかなか美人だな。…この俺の側室にしてやってもいいぜ?」
指でミヤちゃんの顎を持ち上げながら、その男は言う。
人を見下したような瞳…気にいらねぇ…!
俺もかなりブチ切れ寸前になっていた。しかし、相手は一国の皇子。下手に手を出したら国際問題になりかねない。
「お久しぶりです、兄上方」
気がつくと、奴らの後ろにセキが立っていた。
レンフェン独特の着物を身にまとい、普段はルーズになっている黒い髪もしっかりまとめていた。
「セキか…。お前、久しぶりに帰ってきたと思いきや、女子供と旅しているようだな!余裕があってうらやましいねぇ~!」
皇子の一人がすごっく嫌みったらしい口調でセキに近づく。
「…調子こいてんじゃねぇぞ」
あいつの耳元で、もう一人の皇子が囁いた。
普段のセキなら、こいつらに言い返すだろうと思っていたが――――― 一瞬黙ったかと思うと、すぐに口を開いた。
「兄上方。ご正妃がたが、お2人を探していましたよ」
「!!」
ブサイク皇子共の表情が一変する。
「お2人のご正妃方がこの状態を見たら、どんな顔をしますかね?自分以外の女性を口説いているのを知ったら…」
「ちっ…!」
「おい、部屋へ戻るぞ!!」
2人の皇子はそそくさといなくなった。
「上出来じゃねぇか、セキ!…どうやら、俺の出番は必要なかったみたいだな!」
その場を見守っていたセキの兄貴が、拍手をしながら俺たちに近づいてくる。
「もぉ~!!ハッタリかますの、あまり得意じゃねぇんだよなぁ~!」
吐き出すように言ったかと思うと、元のセキに戻ったのである。
それを見た俺たちは、呆気にとられていた。
「すごいじゃない、セキ!あんた、見直したわ!!」
ずっと黙っていたソエル姉さんが、嬉しそうな表情をしながら、セキを褒める。
「まぁ…ずっとお城育ちの世間知らずが、いろんな国を旅してきて、多くの経験を積んでいる俺とセキに喧嘩売るなんて1億年早いがな!」
俺達の側でセツナが笑いながら言う。
「でも、俺もまだまだだよ…。兄さん達がミヤにちょっかい出しているのを遠くで見つけた時、殴り飛ばしてやろうかと思っちゃったし…」
そうセキが言うと、顔を赤らめたまま地面に座り込んだ。
なんか、セキがちっこいガキみたいで笑えるな!
「セキ…ありがとう」
ミヤちゃんがすごい可愛い笑顔をしながら、あいつの目の前でしゃがみこんだ。
その笑顔をみたセキは――――最初よりも顔を赤らめていた。もちろん、その事に彼女は気がついていない。
「う~ん、熱々だねぇ~♪」
ニタニタしながら言うシフトの台詞に、セキが我に返って言う。
「ゴホン!!あ…改めて、自己紹介をさせてほしい。えっと、俺…いや、わたしはシガラミ皇帝の第16子、セキ・レンフェン。どうぞ、お見知りおきください…なんてな!」
真剣な眼差しで自己紹介をすると、すぐに元のあいつへと戻った。
「あれ…?じゃあ、“ハズミ”っていう苗字は…?」
不思議に思ったミヤちゃんがセキに問う。
「ああ…それは、亡くなった母上の旧姓なんだ。“レンフェンの皇子”とバレないようにするには、実名は伏せなければならなかったから…」
「そうだったのね…」
「ミヤ…それに皆も!事情はどうであれ、騙していたようで…本当にすまなかった…!!」
そう言いながら頭を下げるセキ。
俺はため息まじりの声で話し出す。
「俺が…俺たちが、お前が皇子だとわかって軽蔑するとでも思ったのか?」
「むしろ、あんたみたいな奴が人の上に立つ人間で良かったわ…!」
俺とソエル姉さんが口々に言う。
「皆…ありがとう!!」
野郎に対して、こういう言い方するのも変だが、セキの顔がすごいハニカんでいた。
でも、すごい安心したのかもしれないな…
「それよりも、このお城ってセキの家でもあるんだよね?…だから、セキの部屋に入ってみたいな♪」
「おお…じゃあ、俺の部屋でいろいろ話そうぜ!!」
そんなことを話しながら、俺達はあいつの部屋に入らせてもらおうと向かった。しかし、そこでする話は、楽しい事ばかりでないことを俺はまだ知らなかったのである。
いかがでしたか。
やっとセキ君の本領発揮というところでしょうか?
この章では主に、セキの生まれ故郷レンフェンで話が展開するので、この後の展開もお楽しみに★
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