第21話 DVD-ROMの中身を見て
今回はこの回でしかない、セキとセツナ兄弟のやり取りがありますね★
ミスエファジーナ城でククラス女王陛下との謁見を終えた俺達は、ルーティーさんの家に戻る。辺りはすっかり暗くなっていた。
「あら、皆おかえり~♪」
ルーティーさんが出迎えてくれた。
「あれ?ルーティー、お店は?」
「やぁねぇ、今日はお店の定休日なの!」
「ん…?でも、昼間”店の準備があるから帰る”って言っていませんでしたか??」
女王陛下と謁見した時を思い出した俺は、彼女(彼)に問う。
「もー、あなた達すっかり忘れているようね!DVD-ROMを再生する機械の事!!」
「あ…!!」
ルーティーさんの言葉を聞いて、やっと思い出す。
「…ということは、ROMの中身を見れたってことですか?」
ミヤがルーティーさんに質問すると、彼女は少し気まずそうに目をそらす。
「あー…。それがねぇ~…。見れたには見れたんだけど…」
俺達は彼女が作ってくれた「プレイヤー」にDVD-ROMを入れて再生した。すると…
「”パスワードを入力してください”…?」
ランサーが画面に映った文字を読む。
「あー、なるほど。パスワードわからなきゃ見れない…ってことね」
「パスワードって何なの?」
口を濁している理由を理解したソエル。
しかし、それがわからないシフトは彼女に問う。
「この中身を見るのに必要な文字のこと。…要は家の扉を開ける鍵みたいなものね!」
シフトの問いに対してソエルが答えた。
「私は機械を作るのと使うのは得意だけど…残念ながらこのパスワードの見つけ方みたいな分析っぽい事はできないのよ…。ごめんなさいね」
と、ルーティーさんが言った後、考え込みながらソエルがボソッと言う。
「あいつならそれができるかも…」
「あいつ?」
俺がソエルの言葉に反応を示す。
「私の幼馴染でグライドって奴がいるのよ…。あいつなら、パスワードの解析ができるかもしれない!」
「本当か!?」
俺やシフトが口をそろえて言う。
「そいつは私の住んでいる村にいるはずだから…そこに寄り道してもいいかしら?」
「そりゃあ、構わねぇが…お前の住んでいる村ってどの辺にあるんだ?」
ランサーの質問に対し、ソエルはセツナ兄さんの方をチラッと見てから言う。
「…後で話すわ」
そう言って部屋の方へ行ってしまった。
やっぱり、まだ俺達コ族への事、よく思っていないだろうな…
俺はものずごい複雑な気持ちだった。そんな俺の様子を見かねたルーティーさんが口を開く。
「あのさー…言い忘れたんだけど、さっきの見れないやつは置いといて、パスワードなしで見ることができた画像…写真があるんだけど、見る?」
「見ます!!!」
その台詞に、俺は真っ先に食いついた。
※
コ族やカルマ族の事はよくわからねぇけど、ソエルにとってはまだ許せない連中なんだな…
セキやあいつの兄貴の表情を見て俺は思った。その後、ルーティー姐さんがあのDVD-ROMに入っている写真を見れるようにしてくれた。10枚程あった写真は、研究所みたいな場所を映している。
「薬品がいくつかあるけれど…魔術研究ではなさそうだ…」
「…どうして違うってわかるんだ?」
「魔術研究じゃない」と言いきった俺に対してセキが問う。
「ああ、魔術研究で使用されるビーカーや試験管は魔法省で決められた規格のモノを使う決まりになっているんだ。…俺が知る限り、この規格のは魔法省にはないし、形から考えると相当古い時代のものになる…」
「研究所の風景…研究者とかは映っていないの?」
写真を見る事ができないミヤが、俺達に問う。
「人間はー…映っていたとしても、腕だけとかだな」
「おそらく、これは研究の途中過程を残していたものだろう」
セキと俺が口々に話す。
「研究の途中過程…一体何の研究をしていたのかしら…?」
「…マカボルン…」
すぐ後ろからシフトの声が聞こえた。
「シフト…どうした?」
俺はシフトに尋ねると、奴は深刻そうな表情をして話し出した。
「その写真が映しているものは…マカボルンの研究経過をカメラで撮ったものだよ」
「!!?」
俺とミヤ、そしてセキが驚いた。
「シフト…お前、何か思い出したのか?」
俺が、恐る恐る彼に訊く。
「うん…フラッシュバックだっけ?それみたいに、ほんの一瞬だけだったけど…」
俺たちが見守る中、シフトは話を続けた。
「インナショドナル塔にいた時…頭がぼんやりしていて、思い出したのに話せなかった事が一つだけあったんだ」
「”話せなかった事”…?」
ミヤが不思議そうな表情をする。
「僕が何かの研究者かもしれない…って思わせる場面が記憶の断片にあった事。…紅い石や、これに映っているビーカーや試験管が見えたし、さっきのフラッシュバックから思うに、マカボルンの研究に間違いないはず…」
「マジかよ…」
シフトの話を聞いた俺達は言葉を失っていた。
「あんたたち、明日出発なんでしょ?…だったら、体力回復のためにも早く寝なさい!!」
そこへ、ちょうどいいタイミングでルーティー姐さんが現れ、俺達に布団一式をと置いたのであった。
あれから2・3時間は経過しただろうか?シフトが鼾かきながら寝ている中、寝付けなかった俺は布団から起き上がった。周りを見ると、セキの奴がいない。
…あいつもまだ起きているのかな?
そう考えながら下の階へ降りていく。すると、お店になっている場所から人の声がした。何か飲み物でももらおうかと思い立った俺は、その戸を開けようとすると―――――
「さっきはごめんなさいね」
ルーティー姐さんの声が聞こえたとたん、手が止まった。
「いえ。ルーティーさん達カルマ族が俺達コ族を良く思わないのは、もう慣れていますから…」
この声は、セキの兄貴の声だ。
「それに、セキ君。あなたも、あの子と旅をしているみたいだから色々と苦労をかけさせちゃっているかもしれないわね…」
「いえ…最初は戸惑いましたが、彼女は俺にも皆にも平等に接してくれているから、今は全然大丈夫です!」
セキの声もする。
もしかして、俺はこの中に入らない方がいいかんじかも…?
そんな予感がした俺は、中に入らず、扉の前で突ったっていた。
「ルーティーさんも…俺らコ族の事を恨んでいますか?」
あいつの兄貴が問う。
一瞬の間が空いたが、姐さんはすぐに答えた。
「私は内乱が起きる前にこのミスエファジーナに移住したから、別に恨んではいないわ。ただ…あの内乱を引き起こさせた前の皇帝はかなり嫌いになったけど…って、あ…!」
姐さんが何かに気がついたように、声を張り上げる。
「いえ、正直に言ってくれてありがとうございます。…俺は内乱が終わってしばらく後に聞いたんですが…前皇帝である祖父のことをあまり良いとは思わなかったのは、俺も同じです」
姐さんの言葉に同意の意を示すセキ。
祖父…!!?
俺は戸の近くで驚いた。
…ということは、セキとあいつの兄貴は…現皇帝の実子!!?
突然の展開で、シフトの時以上に目を丸くした。しかし、すぐに納得できた。
だからあの時、「母親が違う」って言っていたんだな…
あの兄弟は民族としては同じような姿形だけど、血がつながってるというには、少し似ていないなと考えていた。ここからは俺の想像でもあるが、レンフェン王家は「正妃」という本当の妻と「側室」という愛人みたいな女たちがいるって聞いたことがある。だから、皇帝は正妃の他に側室をたくさんはべらせていて…じゃなくて、持っている。そんな環境にいれば皇子や皇女がたくさん産まれるはずだしな…。
それにしても、あいつらは皇帝の実子なのにこんなところでブラブラしていていいのか?
俺は一人で考え込んでいた。
「ソエルちゃんがお前に気を許しているのは、お前が持つ人としての魅力に惹かれたからだと思うが…?」
「兄さんってば、俺のこと買いかぶりすぎだって!」
あの兄弟の声が聞こえたので、耳を澄ましてまた聞き始めた。
「いや、本当のことだと思うぜ。家臣や民にも慕われているし、親父もお前の事は一目置いている。…人の上に立つ資質はしっかり持っているのに、何故あるかわからない物を探す旅なんて始めたんだ…?」
セキの兄貴の問いかけにあいつは一瞬黙る。
「皆が俺の事をどう思ってくれているかはわからないけど・・・それでも俺は、今の自分に満足していない。それに、世間知らずのガキが皇帝になってしまったら、国は終わりだと思っている。・・・だから、伝説の代物を見つけてくれば皆も認めてくれるんじゃないかって思って今は旅をしているんだ、兄さん」
そろそろいいか・・・
会話の内容からそう思った俺は中に入らず、そのまま寝室へ戻った。
俺がいなくなった後も、姐さんとあの兄弟は話を続けていた。
「そういえば、セキ!もう少しで親父の誕生日だから、お前も帰ってこいよ?」
「ああ、また宴をやるんだよね・・・。まぁ、“最果ての地”に向かうから、途中で寄るかぁ~!」
「そういえば、あの子達に自分らの事を話したの?」
姐さんが2人に問う。
「なかなか話せなくて・・・でも、レンフェンに到着する前には話すつもりです」
「だな。そうしておけ!・・・でも、あの茶髪の・・・じゃない、ランサー辺りは気がついていそうな気がする。頭も切れそうだし!」
「うんうん」
セキと姐さんが頷いたのである。
「ハクション!!」
その話のとき、すでに寝室に戻っていた俺はくしゃみをした。
もしや、俺の話でもしているのかなぁ・・・?
くしゃみから自分が噂されているのではと考えながら、布団に入って寝た。
翌朝、セキの兄貴やルーティー姐さんと別れた俺達は、次の目的地へ向かって歩き出した。
「まずはこのフェンジボルーカを出て、北の国境を目指すの。そこからミスエファジーナを出たら村への行き方を話すわ」
「すぐ話してくれればいいのに~・・・!」
ソエルが説明する側でシフトがだだをこねる。
「ごめん・・・。皆を信用していないわけではないんだけど、ミスエファジーナ内では誰が聞いてるかわからないし、“誰にも知られていけない”と言われているから・・・」
「まぁ、言いづらい事は言えるまでは無理する必要はないし…いいんじゃね?」
俺はソエルに言った。
一方で、この台詞はセキに対して言ったモノでもある。
とりあえず、昨日までで「マカボルンは創れる」という興味深い事がわかったので、それだけでも満足している。
もし、「最果ての地」にマカボルンが見つからなかったら、どうにかできるかもしれない・・・
そんな考えを持っていた。まだ仮説の状態だから皆には話さないけど、俺の中では「マカボルンがない可能性」も考えている。
それはアクト・ファジーナが「最果ての地」に到達した年と亡くなった年から疑問視しているからだ。それと、女王が言っていた「生まれたてのミヤを連れて行方不明になったこと」、そしてミヤちゃん自身の事も考えると色々と疑問が生まれている。彼女が「混ざり物」である可能性は高いだろうけど、「混血児だから」という理由で片付けられない事も多い。フィンジボルーカを出た後、街道を歩きながら俺はいろんな事を考えていた。
「どうしたの?」
ソエルが隣で不思議そうな顔をする。
俺は考え事をしていると、逆に何も考えていないように見せたいため、
「いやあ、王女様が美人だったなぁ~なんて♪」
本心を悟られないよう、わざとふざけた。
「全くもう!!」
ソエル姉さんが口をプクリと膨らませた。
いつらと旅をしていると、いろいろ考えてしまうまうな・・・。でもまぁ、旅はやっぱり楽しむのが一番だよな!
そう考えながら皆と共に進んで行く・・・。
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