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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第六章 魔法大国・ミスエファジーナに忍び寄る闇
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第20話 王族の者だけが知る秘密

この回では、ヒロインであるミヤのことが少しわかる回となってます。


ミスエファジーナ城で一泊させてもらった俺達はその翌日、ククラス女王陛下に謁見をする事になっていた。

「ククラス女王様ってどんな人なんだろうね?」

「見た目は普通の女王様だけど、やはり魔法大国ミスエファジーナの王族なだけあって、変わった魔力を感じたぜ」

「そっかー。ランサーとソエルは武具大会当日、女王様に会っているもんね~・・・」

謁見の間への移動中、シフトやランサーが話していた。

セツナ兄さん曰く、俺ら兄弟が幼い頃に1度だけ女王陛下にお会いしたことがあるらしい。全然覚えてないよ・・・会えば思い出すかな?

そんな事を考えながら陛下が来るのを待っていた。

「女王陛下がいらっしゃいました!」

兵士の一人が言う。

玉座の近くにあった扉から入ってきた。ミスエファジーナ原始の民であるバルデン族に多い白い肌と赤みがかった茶髪を結っていて、純白なドレスを身にまとっている50歳くらいの女性だった。ゆっくりと歩いてきた女王は、玉座に座る。

「お母様、彼らが今回の件でよく働いてくれた旅人達です」

母親の側でトイスト王女が、告げる。

その後、俺から順番に名を名乗って挨拶をした。ルーティーさんも女王陛下に会うのは初めてだったらしいので、しっかりと挨拶をしていた。

(わたくし)はミスエファジーナ第18代目女王、ククラス・ハイナ・ファジーナです。この度は・・・わが国の問題ではありましたが、お力を貸して戴きありがとうございました。一国を統べる者…そして、この国の民として御礼を言わせていただきます」

そう言って玉座に座った状態で頭を下げた。

「へ、陛下!お顔を上げてください!!」

その行動をみた俺は、思わず口から出てしまった。

一国の女王が、平民の前で頭を下げるなんて・・・!

その行動に驚きを隠せなかったのと同時に、感激していた。

「女王陛下、今日は他にも用件があるとトイスト王女様より伺っていたのですが、何用でございましょうか・・・?」

ずっとそれを気にしていたのか、ソエルが直接尋ねる。

・・・ある意味すごいな、ソエルは。

「そうですね・・・それでは、本題に入りましょうか」

そう言いながら、女王陛下は立ち上がりこちらの方に向かってくる。

その視線は―――――――――ミヤの方に向いていた。

「ミヤさん・・・でしたわね。突然ですが、あなたにご両親はいらっしゃいますか?」

突然質問されたミヤはきょとんとしていたが、すぐに我に返って話し出した。

「母は亡くなりました。父とは・・・別々に暮らしています」

流石に「父親が行方不明」とは言えなかったみたいなので、オブラートに包んだ返しを彼女はする。

「そうですか・・・。少し、失礼するわね」

陛下の顔が真剣な眼差しに変わる。

何をするのかと思いきや、昨日…王女が彼女にさせたように、右手の手袋を外した。

「陛下・・・?」

ミヤが不思議そうに陛下を見ている。

彼女の右手を自分の左手で持ったククラス女王は、魔法を唱え始めた。全員が見守る中、詠唱する声だけが響いていた。

「何かが・・・浮かび上がってくる!?」

兄さんが驚きながら、ミヤの右手を見つめる。

浮き上がってきた刺青みたいなものは、何かの紋章みたいな形をしていた。

「お母様・・・。これはまさか・・・!!?」

王女が母親の方を向く。

当の女王は、その藍色の瞳から一筋の涙を流していた。

「女王陛下・・・!!?」

俺を含め、その場の全員に動揺が走る。

「・・・ごめんなさい。ついに、この日が来たのかと思うと・・・」

「”この日”・・・?」

ミヤが不思議そうな表情(かお)をしていた。

目が見えていない事もあり、状況が把握できていないのだろう。

すると、王女がその側で真剣な表情をしながら言う。

「皆さんに来て戴きたい場所があります」


          ※


 何がどうなっているのかさっぱりわからないが――――――――私達は今、ミスエファジーナ城の地下へ続く階段を降りている。つい今さっき、セキが「女王が涙を流していた」と、こっそり教えてくれた。

何故、ククラス女王は私の手の甲を見て泣いていたのだろう・・・?

私は不思議でたまらなかった。そして、王女も含むこの親子からは、何か懐かしい気を感じる。その辺も気にしながら、私は階段を下りていた。

「わっ・・・!」

ソエルがこけそうになった所を、セツナさんが受け止めることで助けた。

「ソエルちゃん、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫!ありがとうね、セツナ♪」

「全く、女の子のエスコートは男の役目だってのに…。わかっているのか?ランサー!」

セツナさんがランサーの方を向いて注意する。

「な、なんで俺が・・・!」

ランサーがそう言ったかと思うと、そっぽ向いてしまった。

「なんだか最近、ソエルとランサーがいいかんじになっているような気がしない?」

セキが私の耳元で囁く。

「確かに・・・」

私は、同意の意味で首を縦に頷いた。

「皆さん、到着いたしました」

ククラス女王が扉らしきモノの前で話し出した。

私を含めて、皆やセツナさんが追いつく。ちなみに、ルーティーさんは「店の準備をするから」という事で、私達より一足早くミスエファジーナ城を後にしていた。

「この場所は・・・皆さんもご存知であろう、わが国第8代目女王のアクト・ファジーナが生前、利用していた部屋です」

アクト・ファジーナ――――――人類史上初めて「最果ての地」に到達し、マカボルンを見つけたらしいと言われている女王だ。

・・・でも、なんでその話を・・・?

「アクト様には・・・御子が一人いらっしゃいました。しかし・・・その子供が産まれてからわずか3日後に、母子共に行方不明となられた。数日後、あの方だけ動かぬ身体で帰ってきましたが・・・」

「それと私に、何の関係が・・・?」

私の問いかけに一瞬言葉を詰まらせたが、女王陛下は話し続ける。

「あの方が生まれたての赤子につけた名前は・・・“ミヤ”・・・」

「え・・・」

私を含む、皆の表情が凍りつく。

「共存・・・」

そんな中、ランサーが独りポツリと呟いた。

「ランサー、どうしたの?」

そんな彼に対し、ソエルが問う。

「…そう。古代ミスエ語で“ミヤ”は”共存”っていう意味を指すの。・・・ランサー殿は博識のようですね・・・」

彼の台詞(ことば)に、トイスト王女が補足をした。

「・・・でも、アクト・ファジーナ様が亡くなられた年は・・・今から100年前。どういう事なんだ・・・!?」

セキが頭を抱えながら考え込む。

でも、不思議に思ったのは私も同じである。

“混ざり物”である私は普通の人間よりも寿命が長い。また、普通の人は1年で1つ分歳をとるが、私のような者は、身体の時間の進み方も異なる。それは「混ざり物」の親がどのような魔物かによって異なる。私の場合だと、人間の5年間という月日で1つ分の歳をとるといった具合だ。

女王陛下の仮説が正しいとすると、私は今から100年前には産まれていたという事になる。しかし、人間年齢では18歳の私が実際生きている歳月は90年。そのため、計算が合わない。

そういえば、父様と離れ離れになる前後の記憶だけないんだよな・・・。その間、一体何があったんだろう・・・?

年数の計算が合わないと思った瞬間、私はそんな事を考えていた。

「仮説がより確実なものとなったのは、貴女の右手の甲にある痣・・・」

「この痣が証拠・・・?」

私の右手を見ながらシフトが言う。

痣・・・そんなものがあったんだ・・・

「この痣は我ら王族の者のみが持つもの・・・。この痣が、国家の紋章の元となり得たのです」

「また、アクト様は左手、その御子は右手の甲にある・・・と、先祖代々から伝えられてきました」

女王の側で王女が補足する。

 その後、ククラス女王陛下は扉の前で呪文を唱え始めた。先程とは違い、詠唱時間が長めのようだ。

「古代ミスエ語の呪文か・・・。やっぱり、ミスエファジーナの王族が使う魔術は奥が深い・・・」

皆が詠唱している陛下を見ている中、ランサーがつぶやいた。

そして詠唱が続く内に、地響きと共に目の前の扉が開く。すると、その先には、先程より一回り小さい扉があり、近くへ来ると煙が汽車から出るような音と共に開いた。

「まずはミヤさん、あなたに入って戴きます。あなたは当時幼かったので、お母上の事は覚えていないでしょうが・・・この中に入って戴ければ、何か思い出すかもしれませんね」

「それでは、私がご案内するわ」

王女が私の手を取ってエスコートしてくれた。

中に入ると――――そこは女王の一人部屋のようだった。壁際にある棚の上には何かいろんなモノが飾ってあるのが見える。

・・・もし可能ならば、後で皆にも見せてみよう・・・

ふとそんな考えが頭の中をよぎる。

「ミヤさん、これを持ってみて!」

王女が私に写真たてらしきモノを渡す。

不思議に思った私は、言われるがまま、それに触れてみた。

「これは・・・!!?」

触れた途端、私はものすごく驚いた。

私の頭の中に、赤子を抱いた女性のイメージが舞い込んできた。

この女の人・・・この前、夢に出てきた・・・!!!

「それは・・・当時発明されたばかりの、”目をつぶっても写真が見られる写真たて”です。だから、障害者用でもあるの」

後にランサーが「今は機能が良くなり、動画を見ることもできる」と、教えてくれた。

「お母様!そういえば、あれはどこにしまってありましたっけ?」

王女が母親を呼んできた。

「ええ。・・・でも、ここだと皆さんもいるし・・・」

「見せるなら、まだ彼らをここに入れていない今がチャンスなのでは・・・?」

「・・・それもそうね・・・」

そう言った女王陛下は、部屋の中にあるタンスから何かを取ろうと探し始めた。

やはり、一国を統べる女王であっても、娘の前では一人の母親なんだな・・・

この二人のやり取りを見ながら、私はそのような事を考えていた。

「これです」

「・・・この紙切れは?」

「これは、アクト様がわが子・・・貴女様に向けて書かれた手紙です。・・・中身は私がお読みしますね」

「はい・・・お願いいたします」

おそらく、この二人は私が盲目だということに気がついているのだろう。

そう考えた私は、手紙を読んでもらうことにした。

「…”ミヤへ あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はすでにこの世を去った後でしょう。その頃には、今はとても小さなあなたがトビキリの美人になっているかもしれないわね♪ちなみに、貴方の肌や髪の色は私似で、瞳の色はあの人似って所かしら! しかし一方で、私とあの人との間に産まれた子供として、これからつらい事がたくさん起こるのではないかと危惧しております。でも、私はあの人に出会ったことで「自分はどのように生きていけばいいのか」。そして、「異なる存在だって共に歩む事ができる」事を学びました。周囲から見れば明らかに普通の夫婦ではないけれど、あの人と私の子供であるあなたを産んだ事に対して、全く後悔はしていません。また、あなたに付けた「ミヤ」という名前は「共存」という意味を持っています。これは、人間と魔物が同じ世界で、同じ時間を共に歩んでいけたら・・・という想いを込めてつけました。あなたには、この名前に恥じない大らかな心と思いやりを持ち、自由に生きていって欲しいと願っています。そして、私とあの人のように運命の男性と出会い、その人と一緒に幸せに暮らしてくださいね。  アクト・ファジーナ”・・・」

手紙を読み終えた女王は、私を見てひと呼吸してから口を開く。

「この手紙・・・お持ちになりますか・・・?」

「・・・はい・・・」

私は陛下の側で涙を流していた。

自分には母親がいた・・・しかも、私自身の事をこんなにも想ってくれていたなんて・・・!

空白の10年に何があったかはわからないが、今はそんな事どうでもいい。

「私…90年近く生きてきましたが・・・。こんなに・・・こんなに”嬉しい”と感じたのは・・・初めて…です・・・!」

嬉し涙がとめどなく流れ、無意識の内に床へ座り込んでいた。

すると、女王陛下が私を抱きしめてくれたのである。

(わたくし)も、自分の事のように嬉しいです。・・・私の両親を含め、一族や先祖全てが、貴女の帰還を願っていたのだから・・・!」

私は相手が女王陛下だという事をすっかり忘れ、その胸の中で泣き続けた。

 

数分後、涙を拭いていつもの状態に戻す。

「ククラス女王陛下!無礼は承知なのですが、あの・・・仲間達にもこの部屋を見せてあげてもよろしいでしょうか・・・?」

「もちろん、かまわないわ」

そして、少し気まずそうな声で尋ねてみた。

「この手紙の存在を知っていたということは・・・陛下も王女殿下も、私の父の事をご存知だってことですか?」

私の問いかけに対し、王女が一旦考えてから答えた。

「・・・ええ。私は、母上から聞きました。でも、大丈夫!例えあなた達の仲間であろうと、他言は致しませんわ♪」

「ええ。・・・それに、この事実は我らファジーナ王家だけの秘密・・・。ですから、心配はご無用ですよ・・・」

「ありがとう…ございます」

その台詞(ことば)を聞いて、私は安堵する。


          ※


「すげぇ・・・文献でしか見かけた事のないものがたくさんあるぜ・・・!!」

ミヤが女王様に頼んでくれたのか、私を含む全員がアクト・ファジーナの部屋に入ることを許された。

「すごい、神秘的なかんじがする・・・。当時のモノがこのように残っているのって・・・やはり魔術のおかげなんだろうか・・・?」

セキが目を輝かせながら、辺りを見回す。

一方、私は部屋の隅っこにある機械を見つけた。

「これは・・・!」

「ソエル、どうしたの?」

それに気がついたシフトが、私に問いかけてきた。

「これ・・・今よりだいぶ昔・・・VHSを再生していた機械だわ・・・!」

「VHS??」

セキとシフトがものすごく不思議そうな顔をした。

「DVD-ROMを再生する機械より、もっと古いモノのこと・・・って女王陛下がおっしゃっていたわ」

ミヤが、私達の近くに来て言う。

・・・本人が話そうとしないので、何も訊いてないけど・・・私達が扉の外で待っていた間、中で何があったんだろう・・・?

その辺が気になっていた。ミヤも何だか、雰囲気が微妙に変わった気がする。「人間らしい」――――――と言えば、正しいのだろうか。

 ミヤは最初に出会った時、表情があまりないのだなと考えたことがある。しかし、今私の目の前にいるのは、どこにでもいそうな18歳の女の子。

これまで以上に仲良くなれるかも?

そう思うと、嬉しかった。

それにしても、理屈では考えられない話だ。要は100年前の先祖がタイムスリップして現れたみたいなといっても過言ではない。

「・・・やはり、直接の先祖に当たるわけだから、ククラス女王も嬉しいのかしら・・・?」

「きっと、そうなんだろうな・・・」

ランサーが、私のつぶやきに応えてくれた。

当のミヤはセキと一緒に、部屋に置かれているモノを眺めていたのである。



いかがでしたか?

次回はマカボルンにまつわるサブエピソードが入るかんじになります!

今回はミヤに焦点を当てていましたが、この後はセキやソエルに重点を置いた話も掲載しますので、お楽しみ★

引き続き、ご意見やご感想をお待ちしております(^^

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