第19話 戦いの後に残る疑惑
この回は、割と物語の中でも重要な回。
それがわかるのは、だいぶ後の回ですが・・・。
事件の首謀者、アーケード将軍が放った巨大な魔物を倒そうとする俺・ミヤ・セツナ兄さん・シフトの4人。
しかし、この蜘蛛のような形をした魔物がとても硬く、剣で斬りかかってもなかなか斬れない。
「痛い~~~!!せめて足技で細い部分だけでもへし折れるかと思ったのに、硬すぎて全然歯が立たないよ~!!!」
シフトが、足を痛そうに押さえながら叫ぶ。
「身体全体が相当硬い甲羅によって守られているようだな・・・ならば!!」
セツナ兄さんが突如、剣の構えを変えた。
「その構えは・・・!!?」
「よく見ていろよ、セキ!!!」
兄さんが剣を振り回し始める。
すると、そこに火の粉が集まったかのように剣が光りだして行く。
「割れないなら、溶かすまでさ!…食らいな!!!」
炎をまとった剣からの斬撃が飛ぶ。
兄の放った斬撃は魔物に直撃し、巨大な轟音が闘技場内に響き渡る。
「倒した・・・か!?」
煙がたちこめているため、よく見えない。
俺は少しずつ魔物に近づいてみると――――――直撃した部分は焦げた跡すらなかった。
「セキ、危ない!!!!」
「え・・・!?」
シフトの叫び声が聞こえたかと思うと、全身に鈍い痛みが走る。
「セキ!!!」
セツナ兄さんの声が下から聞こえた。
「ふははははは!!愚か者め!!その魔物が持つ甲羅は、どんなに強い衝撃を受けようと破壊はできない!!」
王族の観覧席がある頭上から、アーケード将軍の声が聞こえた。
「マジかよ!!?」
俺は魔物の腕の中で目を丸くして驚く。
「貴様らは1人ずつ、こやつの餌にしてやろう!!」
「ぐっ・・・!!」
魔物が俺を握りしめる力を強めたのか、腹が締め付けられる…!
餌なんて、冗談じゃない。俺はまだ、こんな所で死ぬわけにはいかないのに・・・!!
苦しみながら俺はそう考えていた時だった。
「2人とも伏せてっ!!!!」
突如、ミヤの叫び声が響く。
すると、大爆発したような豪音が響いた。
「おわっ!!」
魔物の腕から逃れた俺は、何とか地面に着地できた。
後ろを振り返ると、斬り落とされた魔物の腕がある。
「シフト、今よ!!」
「うん!!」
ミヤの合図の直後、シフトが勢い良く走り出し、アーケード将軍の元へ飛び上がる。
シフトの蹴りによって、奴が持っていた水晶が地面に落ちて割れた。
「ギャァァァッ!!!!」
魔物が悲鳴をあげ、バラバラに砕けてしまったのである。
「今度こそ・・・倒したな!」
俺はその目で、魔物を倒した事を確認した。
「アーケード将軍。売国行為や諸々の罪で、出る所で裁かれてもらうよ!」
シフトが敵を見下ろして話してる所に、俺とミヤとセツナ兄さんが追いつく。
「くっ…!」
「あなたを操っていた黒幕の存在も白状してもらいます。おとなしくなさい」
ミヤが、アーケード将軍に刀を向ける。
「こんな所で…こんな所で、捕まってたまるかぁ!!!!」
将軍が叫ぶと、目の前が急に明るくなり、眩しくて周りが見えなくなった。
「閃光弾かっ!!」
視界が真っ白い中、兄さんの声が聞こえる。
「逃がさない!!!!」
ミヤがそう言い放ったかと思うと、走っていく足音が聞こえたのである。
数分後―――――――――ようやく周りが見えるようになった俺達は、アーケード将軍を追ったミヤを探す。すると、会場の裏口付近に彼女を発見した。
「ミヤ・・・奴は?」
後ろから俺は声を掛けたが、反応しない。
「ミヤ?」
本人の目の前で呼び掛ける。
「ああ・・・セキ・・・」
いつもは冷静な彼女が、何かを見たかのように呆然としていた。
「ミヤちゃん!もしかして、逃げられちゃった・・・?」
「あ・・・はい」
しかし、茫然としていたのはほんの一時で…ミヤはいつもの状態に戻った。
「”悪人は逃げ足が速い”っていうけど、本当だよね!」
シフトがため息をつきながら呟く。
将軍には逃げられてしまったが、まだやり残していることがある。まずは、それをしなくては・・・。
「とりあえず、残りの魔物を捕らえたり会場をきれいにしたり等、やる事が多そうだ。・・・兄さん、城の兵士を呼んできた方がいいよな?」
「ああ」
セツナ兄さんがうなづいた後、俺は兵士を呼びに城へ向かった。
※
「逃がさない!!」
アーケード将軍が閃光弾を放った時、私は逃げた彼をすぐさま追った。
セキや皆の中で唯一、目くらましが効かない私だからこそできることだった。王族関係者用の座席から下へ階段で下り、どこへ行ったか辺りを見回すと――――――敵は裏口らしき小さな出口へ向かっていた。
「待ちなさい・・・!!!」
追いついた先にはアーケード将軍がいた。
彼は暗黒魔術による移動魔法で逃げようとしている所だった。目の前に人間くらいの大きさをしたブラックホールみたいなものが見えたが――――――――――
「え・・・!!?」
その光景を目の当たりにした瞬間、私は身体が硬直した。
逃げる彼をつれて行こうとブラックホールみたいな魔法の中から顔をのぞかせていたのは――――――フィズだった。
なぜ、フィズがあの将軍を助けているの!!!?
あまりに突然の出来事だったので、身体が思うように対応できなかった。そして、あっけにとられている私を尻目に、移動魔法陣は消えていく。
私は「何故、人間が暗黒魔術を使用しているのか」という疑惑よりも、フィズがあの将軍の味方をしている事に戸惑いを感じた。あれだけの魔物を将軍一人で集められるものではないから、必ずパトロンでもある黒幕がいるはずだ。私にはその可能性となる人物を2人ほど知っていたが、どちらかはまだわからなかった。
あれから会場の復旧や、国民へのフォロー等によって数時間が経過していた。
「お疲れ様です、ルーティー」
私たちが作業している途中、依頼人でもあるトイスト王女が声をかけてくれた。
「いえいえ、トイスト王女様!この度は貴重な情報を提供して戴き、誠にありがとうございました」
やはり、公の場なのでルーティーさんも挨拶がしっかりしている。
「あなたが・・・この間お店で会えなかったギルドの人達ね」
王女が私とセキの前に来た。
「お初にお目にかかります、トイスト王女。わたしはセキ・ハズミと申します」
「ミヤです」
私とセキは自分の名を名乗り、お辞儀をした。
「セキ…。そう、貴方が…」
「…このような場につき、失礼致します」
「構いませんよ。セツナ殿から話は聞いていますので…」
何のことだろう・・・?
私を含め、あの兄弟以外の人は、不思議に感じただろう。また、セキの挨拶する声がとても堂々としていたのが驚きだった。その後、王女が私の目の前に来る。
「ルーティーから聞いた通り、確かに貴女は私にそっくりですね!髪や肌の色はもちろんのこと、顔のパーツも…」
「・・・どうかいたしましたか?トイスト王女・・・」
一瞬黙りこんでしまったので、何となく尋ねてみた。
「…ミヤさん…と申しましたよね?失礼ですが、その右手にはめている手袋を外して戴けますか・・・?」
「え・・・?あ、はい!」
突然、どうしたんだろう?
と、不思議に思いながら私は右手の手袋を外した。
「失礼しますわね」
トイスト王女が私の右手の甲を触る。
なにか、こすっているのかな・・・?
触りながら少し考えたかと思うと、すぐ離した。
「えっと・・・。今夜、皆さんを城へご招待したいと思います!今回の依頼を受けて戴いたお礼もしたいですし、お母様…女王陛下からも御礼の言葉を賜ってくださるとのことなので…」
そうして「お城でお待ちしています」ということになって、現在に至る。女王陛下との謁見は翌日になるらしいので、今夜はミスエファジーナ城で泊まらせてもらう事になった。
「あ~!さすが、お城のベッドよね★布団がフワフワで気持ちいいわ♪」
ベッドでゴロゴロと寝転がりながら、ソエルが言う。
「さっき風呂に入らせてもらったけど、すっげー大きな大浴場だったぜ!」
風呂上りのランサーが牛乳を飲みながら言う。
私も少し前にお風呂へ行ってきたので、部屋のバルコニーでのんびりと涼んでいた。
フィズの事もあるけど…そろそろ、1人旅に戻った方がいいのかもしれない…
そんな風に考えていた。すると、セキが隣にやってくる。
「涼んでいるかい?」
「ええ。セキはお風呂行かないの・・・?」
「んー・・・もう少ししたら行くよ!」
その後、少しの間だけ沈黙が流れる。
「あー!今日は長い一日だったなぁ!!・・・それにしても、なかなか倒せなかった魔物に一撃を食らわせた辺り、やっぱりミヤはすごいね!」
「・・・ありがとう」
すごく複雑な想いでそう答えた。
「今回、“DVD-ROMを再生する機械を作ってもらう”のを目的としてルーティーさんの所を訪れたけど・・・10日くらいかかって、しかもいろんな事がありすぎだったよね!」
「ええ・・・。でも、一歩ずつマカボルンの在り処に近づいている・・・よね?」
気がつくと、少し不安そうな声を私は出していた。
「そうだね・・・。少しずつではあるけど、目標に近づきつつある。…これからも、頑張ろうぜ!!」
「ええ」
その後、セキが皆に覗き見をされているのに気がつくまで二人で会話をし、その日の夜を過ごした。
一方、とあるお城にて――――――――――
「あの魔法大国でのお遊びは結構楽しめると思っていたが…これはどういう事かね?アーケード将軍」
誰かが逃げ帰ってきたアーケード将軍に問う。
「しかも、私が授けたあの魔物…。人間共に倒されたようだな…」
声の主による殺気が室内に充満し、それによって怯える将軍。
「そそそそそれはその…連中の中にいた茶髪で盲目の小娘が…魔物を紙のように斬ってしまい…」
「・・・何?」
その台詞に反応した声の主は、数秒だけ考え込む。
「それは…その娘は、剣を使って斬ったということかね…?」
「は、はあ…そうですが…?」
主が目を見開いて尋ねてきたので、アーケード将軍は不思議に感じた。
「…まあ、よい。報告、ご苦労だったな…」
そう言った声の主は――――――一瞬にして将軍の首を斬り裂く。
血が飛び散る音と共に、首が失くなった肉体は、地面に肉塊と化す。
「…あの魔物を斬ることができる、盲目の娘…か」
「…どうかしましたか?レスタト様」
近くでフィズが問いかける。
「ククク…。あのミスエファジーナを乗っ取ることはできなかったが…思わぬ収穫があったようだな…」
そう言いながら、レスタトはほくそ笑んでいた――――――――
いかがでしたか?
だいぶ意味深な事が多いですが、後々に判明しますので、お楽しみに!
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